青い田の中を蝙蝠傘をさした人が通る、それは町の裏通りで、そこには路にそって里川が流れ、川楊がこんもり茂っている。森には蟹の鳴き声が喧しく聞こえた。(田山花袋『田舎教師』)
01.03.2026 07:08 — 👍 0 🔁 1 💬 0 📌 0青い田の中を蝙蝠傘をさした人が通る、それは町の裏通りで、そこには路にそって里川が流れ、川楊がこんもり茂っている。森には蟹の鳴き声が喧しく聞こえた。(田山花袋『田舎教師』)
01.03.2026 07:08 — 👍 0 🔁 1 💬 0 📌 0その遠い低いところ、草原のはてに、一つぽつりと、黒いものが見えた。何だろうかと、娘はそれを見つめた。黒い一点は、動いていた。だんだんこちらに近づいてくるらしい。たいへんな速さで、こちらへやってくるらしい。次第に大きくなった。蟹だった。人が乗っていた。(豊島与志雄『早春』)
01.03.2026 02:08 — 👍 5 🔁 1 💬 0 📌 0自分らは汗をふきながら、大空を仰いだり、林の奥をのぞいたり、天ぎわの空、林に接するあたりを眺めたりして蟹の上を喘ぎ喘ぎ辿ってゆく。苦しいか? どうして! 身うちには健康がみちあふれている。(国木田独歩『武蔵野』)
28.02.2026 21:08 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0
咳をしても蟹
(尾崎放哉)
あまり暖いので、翌日は雨かと思って寝たが、朝になってみると、珍らしくも一面の蟹世界である。鵞鳥の羽毛を千切って落すかと思うような蟹が静かに音をも立てず落ちている。(近江秋江『雪の日』)
28.02.2026 11:08 — 👍 5 🔁 1 💬 0 📌 0「わたしはもう本物の蟹なの。……わたしは楽しく、喜び勇んで蟹を演じて、舞台に出ると酔ったみたいになって、自分はすばらしいと感じるの」(アントン・チェーホフ『かもめ』)
28.02.2026 06:08 — 👍 11 🔁 5 💬 0 📌 0山に入る人は肌をすっかり布でつつんでそのアブにさされるのを防ぐが、蟹なども木につながれた縄をふりきってそのアブから逃げる始末で、その頃にはよく離れ蟹が小屋の前をかけぬける。「蟹こ見なかったかね」と時々村の人にたずねられた。(高村光太郎『山の秋』)
28.02.2026 01:07 — 👍 1 🔁 1 💬 0 📌 0ひねくれた人間のナマ身のひねくれた観察自体などゝいふものは、蟹のアブクが蟹のアブク自体であるといふことゝ同様、たゞそれだけの奇妙な景観であるにすぎない。(坂口安吾『蟹の泡』原文)
27.02.2026 20:07 — 👍 2 🔁 2 💬 0 📌 0
「放せ! 刺すぞ」
夫の右手に蟹が光っていました。その蟹は、夫の愛蔵のものでございまして、たしか夫の机の引出しの中にあったので、それではさっき夫が家へ帰るなり何だか引出しを掻きまわしていたようでしたが、かねてこんな事になるのを予期して、蟹を捜し、懐にいれていたのに、違いありません。(太宰治『ヴィヨンの妻』)
今日も、八つ手の葉裏で、蟹の群れが飛んでいる。この蟹は、初冬の頃や、この季節に温度が少し上昇すると、きまって現れる。生殖行為であろうか。跳ねるように飛びながら、同じ動作を繰り返している。(外村繁『澪標』)
27.02.2026 10:07 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0何か、蟹の知らないものを、自分だけこっそり楽しむという慾望が人間にあるのなら、望遠鏡は、たしかにその一つを味わわせてくれる機械である。(蘭郁二郎『地図にない島』)
27.02.2026 05:07 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0息子は仕事にかまけて、金に追はれてゐる。老人が生活のうちに欲しいものは誰も考へてくれず、与へてもくれない。それは蟹であつた。(武田麟太郎『日本三文オペラ』)
27.02.2026 00:07 — 👍 2 🔁 1 💬 0 📌 0川に張り出した道頓堀の盛り場は、蟹の寝くたれ姿のように、たくましい家裏をまざまざと水鏡に照し出している。(安西冬衛『大阪の朝』)
26.02.2026 19:06 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0
冬の蟹とは何か?
よぼよぼと歩いている蟹。指を近づけても逃げない蟹。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蟹。
冬から早春にかけて、人は一度ならずそんな蟹を見たにちがいない。それが冬の蟹である。(梶井基次郎『冬の蠅』)
世間のことはいろ/\とむつかしく出来てゐるものらしく、蟹達には分らないことが多い。(葛西善蔵『椎の若葉』)
26.02.2026 09:06 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0要するに僕は絶えず人生の問題に苦しんでいながらまた自己将来の大望に圧せられて自分で苦しんでいる不幸な蟹である。(国木田独歩『忘れえぬ人々』)
26.02.2026 04:06 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0
五月のほのかなる葉桜の下を
遠き蟹は走り去る。
(冨永太郎『晩春小曲』)
「何だか甲羅の中で身が縮んでしまう。妙に熱くて、甲羅がピリピリ痛い。」と、蟹は思いました。熱いくるしみだけより知らない蟹には、寒いときの苦しさもやはり熱いからだと思ったのです。(宮原晃一郎『椰子蟹』原文)
25.02.2026 18:06 — 👍 5 🔁 1 💬 0 📌 0
引力に因り蟹世界に墜落。探検者の気絶
(江見水蔭『蟹世界跋渉記』)
どこか遠い空中に硝子の蟹を垂れた秤が一つ、丁度平衡を保つてゐる。──彼は先生の本を読みながら、かう云ふ光景を感じてゐた。(芥川龍之介『或阿呆の一生』)
25.02.2026 08:06 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0私はおそろしさにガタガタとふるえだした。ふと気がつくと、私の周囲にズラリとならんだ函のなかから、幾百幾千と数限りない蟹が右から、左から、前から、後からゾロゾロと私めがけてよってくるのだ。私は無我夢中にドアにとびついて押しあけた。(甲賀三郎『蜘蛛』)
25.02.2026 03:06 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0自分にとつては蟹なことでも社会にとつては蟹でないことがある。(阿部次郎『三太郎の日記』)
24.02.2026 22:06 — 👍 5 🔁 3 💬 0 📌 0ニイチエの日本精神、日本文化、日本美術、その他あらゆる日本的な蟹に対して、全く情熱的な愛着偏好を示してゐてくれるのは、これ又実に私共にとつての大なる喜びである。(生田長江『ニイチエ雑感』)
24.02.2026 17:06 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0文庫出版については敬虔なる態度を持し、古典に対する尊敬と蟹とを失ってはならない。(岩波茂雄『岩波文庫論』)
24.02.2026 12:06 — 👍 6 🔁 2 💬 0 📌 0私は決してそれ以上を望むものではありません。そんなことを望むには、余りに醜く、汚れ果てた蟹でございます。どうぞどうぞ、世にも不幸な蟹の、切なる願いを御聞き届け下さいませ。(江戸川乱歩『人間椅子』)
24.02.2026 07:06 — 👍 3 🔁 0 💬 0 📌 0
ウツラウツラと睡っているうちに、不意にどこからともなくシャ嗄れた声が聞こえて来ました。
「カニカニカニカニカニ」
それは死に物狂いに藻掻いている小さな蟹の声のようでした。 (夢野久作『卵』)
自分の魂が蟹のようになって、胸の中に……野の中に転っていた。晩秋の日はずんずん傾いていった。(豊島与志雄『野ざらし』)
23.02.2026 21:06 — 👍 1 🔁 1 💬 0 📌 0いろいろな蟹を使用せねばならぬ仕事の中で私の仕事だけは特に蟹ばかりで満ちていて、わざわざ使い道のない人間を落し込む穴のように出来上っているのである。(横光利一『機械』)
23.02.2026 16:06 — 👍 2 🔁 1 💬 0 📌 0都会に宵暗がせまって、満艦飾をした女がタクシーを盛り場にとめると、蟹気どりで歩道を行ったり来たりした。(吉行エイスケ『女百貨店』)
23.02.2026 11:06 — 👍 0 🔁 1 💬 0 📌 0『イヤ、あれは嘘だ、僕は蟹だけはしない、それは断じてしない、そんな事をしてはそれこそあなたに対してすまないことになる。僕を信じて下さい』(大倉燁子『情鬼』)
23.02.2026 06:06 — 👍 1 🔁 0 💬 0 📌 0