印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「とりかえっこ。」、「粒餡さくら」と記載されています。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Photo by Jeremy Thomas on Unsplash / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 蜂蜜色の美しい姉姫の気まぐれは、いつものことだった。 「ねえソフィア」 「なあに? アンバー」 「ドレスを取り替えっこしない?」 エンチャンシア城の薔薇庭園――蕾が開き、花開いたばかりの色とりどりの薔薇を愛でながら、姫君達が初夏のアフタヌーンティーを楽しんでいた。 突然そんな事をアンバーが言い出すものだから、控えていたメイドが慌てて手に持っていた紅茶ポッドを床に落としてしまった。 「もう、アンバーったら。いきなり何を言い出すのかと思ったよ」 「だって今日は特に予定もないし退屈なのよ。そうだ、どうせなら鬘もメイクもきちんとしましょう。私はソフィアになるの。あなたはアンバーに。どう? 楽しそうでしょう」 アンバーは言い出したらきかないのを知っている。ソフィアは諦めて、それは楽しそうだねと返事をした。 お茶会の後、二人は城内のドレッサールームで互いのドレスを交換した。 「背丈が同じくらいのだからぴったりね」 「う、うん」 ソフィアはアンバーのドレッサーから、いつも着ているパステルグリーンの絹のドレスを身に纏い、明るい蜂蜜色のプラチナの鬘をメイドにかぶせてもらっていた。メイクも施してもらって小一時間。姿見の鏡を覗いて二人は驚愕の声をあげた。
「凄い! わたし、ソフィアになってる! 貴女も私そのものよ! そうだわ、声を変える魔法のアイテムも使いましょう? ねえ、みんなは気がつくかしら?」 ライラック色のドレスの裾を掴み上げて、くるっとアンバーは一周して満足げに微笑んだ。胸元にはいつ用意したのか、イミテーションのアバローのペンダントが赤く光っている。 「すぐわかっちゃうと思うよ、アンバー。まずどこに行くの?」 「ぷっ! ソフィアと取り替えっこしたんだ、良く化けたね~。い、痛いって!! アンバー!」 ジェームズには、ものの五分で見破られた。アンバーは悔しそうにジェームズの足を思い切り踏んづけた。 「まあね。貴方にはわかるとは、思っていたけど? この分じゃセドリックにも見破られちゃうわね。何だかつまんない」 だって、ソフィアとセドリックは恋人同士なんだから。と本当につまんなそうにアンバーは言うと、パパとママのいる部屋へと歩き出した。 城に使える宮廷魔術師のセドリックと、そういった仲になって何年が過ぎたのだろうか。 自分と年の離れた魔法使いは、時には優しく。時には厳しく慈しむように。ソフィアを見守り包み込むように愛してくれているのをいつも感じている。 (そうだよね。ジェームズにも分かったんだし、セドリックさんには直ぐ分かっちゃうよね)
「そうだ、アンバー待って。これも付けて」 ソフィアは耳につけていた貝殻のイヤリングを彼女の耳にくくりつけた。それは、魔法使いとデートの折に揃いで買った大切な物であった。 「ん、なんだねソフィア姫。少し今手が離せないので早急の用事でなければ後にして欲しいのだが」 夕刻を過ぎて陽が落ちる頃。二人は最後に魔法使いの住まう部屋を訪れた。 ミランダもローランドもベィリーウィックも、直ぐに二人の悪ふざけに気がついたというのに。彼の部屋の扉の前に立ったアンバーに、セドリックは面倒くさそうに眉間に皺を寄せながらそう言ったのだ。 (あ、あれ? あれれ?) アンバーの背後にいたソフィアは、軽く眉を下げて顔をしかめた。 「ごめんなさい、セドリック――さん。貴方にどうしても会いたくなって。ダメだった?」 アンバーは可愛らしくおねだりをする様な仕草でセドリックに詰め寄る。 「いや、全く問題ない。私も君に会いたいと思っていたからな。おや、アンバー姫もご一緒でしたか?」 セドリックは私の顔を見るや否や、すっと頭を軽く下げた。 ―――どうして?
ご、ごめんなさい。わ、私…少し気分が悪いみたい」 「あら大丈夫?! ソ……アンバー」 私はそのよそよそしい視線から逃れる様に、背を向けてその場を離れたくて塔の階段を駆け下りた。走り出してつまづきながら、庭の茂みに隠れて膝を抱いて座り込んだ。 (もちろん騙しっこしているわたしが悪いんだけど…それにしても…何で) みんな気がついたのに。 貴方だけが気がつかない。 何でこんなに寂しくて苦しいの? 「さあて〝アンバー姫〟ナンセンスな悪ふざけは、ここらでやめて頂こうか」 ソフィアが逃げ出した後、セドリックは深く息を吐いて目の前の貴婦人に杖先を差し出して、頭から足元までを魔法で元の姿に戻してしまった。 「あら。つまんない人」 「悪趣味だ」 「最初からやっぱり解っていたのね? イミテーションのアバローのペンダント気に入っていたのに」 「とりあえず――その耳飾りは私がソフィア姫にあげたものだ。返してもらおうか」 不愉快そうに手を差し出した男の手のひらに、アンバーが仕方ないわねと耳につけていたオパールの小さな耳飾りを二つ揃えて置いた。
#cedfiaweek2025
いれかわり。
昔ちょっと書いたお話をいじった既出になります💦少し匂わせ表現あるので苦手な方はすみません。