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鳥の神話を伝えます / 鳥と奇想 / 胎界主 /短編集『見習い鳥卜』/ 🏳️🌈 🏳️⚧️ https://yo-fujii.parallel.jp/
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一 タチヨタカ(Nyctibius griseus)は、メキシコ南部からパラグアイにかけての中南米に生息する鳥類である。枝に垂直に立って止まることからタチヨタカと呼ばれている。夜行性で昼には目を閉じて身体を引き絞り、枝に擬態する。がま口のような扁平な嘴を持ち、その大きな口を開けたまま滑空し、飛び込んでくる昆虫を掬い上げるように捕食する。大きな黄色い目玉には小さな黒目がついており、ぎょろりとしたその眼力に、地域住民の間では奇異な見た目を持つ怪鳥として定期的に話題となっている。 二 ある日タチヨタカが虫を採餌していると、一人のホモ・サピエンス(Homo sapiens)がやってきて、その様子をスケッチし始めた。タチヨタカはその後も虫を獲り続けたが、とうとう我慢ならなくなってホモ・サピエンスに尋ねた。 「一体そんなに熱心に私の何を描いているのか」 ホモ・サピエンスはこう答えた。 「いやあ、あまりにも興味深い外見なものでついスケッチが捗ってしまった。私はアニメーターになるのが夢なものでね」 タチヨタカは、そのようなことを言われたことは初めてだったので、それが一体どういう意味を持つ言葉なのか分からなかった。 「それなら気が済むまで見ていればいいさ」 そうして、タチヨタカが行く先々にそのホモ・サピエンスは現れるようになった。あるときは、闇夜に紛れてギョロリと目玉をかっぴらく様子を、またあるときは木立に紛れて枝と化す様子を、そのホモ・サピエンスは飽きることなくスケッチした。 「ちょっと見てご覧」 ホモ・サピエンスが呼ぶのでタチヨタカは近くまで降りていった。ホモ・サピエンスはスケッチの片隅をぱらぱらとめくり、タチヨタカが滑空して虫を捕まえる様子をコマ送りにして再生した。 「ここにも仲間がいたのか」 タチヨタカはあまりの完成度の高さに、この白く不思議な画面、その先にも自分の同胞がいるに違いないと考え驚いた。 三 ある日を境に、そのホモ・サピエンスは来なくなった。タチヨタカはあの白い森の…
【見習い鳥卜作品紹介6】
◆がまぐちぎょろめのグラム・スピナー 冒頭公開
- 助けてグラム・スピナー!
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#angel_of_extinction No.3
12.11.2025 09:05 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0【告知】
12月に2冊目の訳書が出ます!
ケイトリン・R・キアナン『溺れる少女』(河出書房新社)は、ブラム・ストーカー賞&ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞(現アザーワイズ賞)受賞のサイコロジカル・クィア・ホラーです。
これはやっぱり精神科医兼翻訳者というケッタイな肩書きのぼくが訳すしかないだろう……!と思わされた一冊です。
現実と狂気と幻想が入り混じるなか、立ち現れる美しいヴィジョンと不可思議な曼荼羅に唖然とさせられること間違いなし。ぜひお読みくださいませ。
装丁は名久井直子さん、装画は雪下まゆさん。
www.kawade.co.jp/np/isbn/9784...
そうだったのですね!手描きに近い線に見えたのでつい
便利だなと思ったので購入してみました
ありがとうございます
私も一日に一体ずつ絶滅の天使描いていくのやりたいなと思って、一日一線を見ていたけど、これもしかして枠もご自身で描かれているのか
こんなノートあるの便利ね〜と思っていたが、多分そうだよね?すごい
lines, No.667|2025/11/11|折れ曲がった帯のような線
2025/11/11 #一日一線
11.11.2025 08:35 — 👍 1 🔁 1 💬 0 📌 0#文学フリマ東京 の【夜空舎】さんブース(南3・4ホール、か-73〜73)にて、藤井が参加しているアンソロジーが刊行されます
『鏡/分身 月編』に「ピカ」という短編小説を寄せています
済州島が舞台で、カササギが登場します
トップバッターです、どきどき
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「お客さまお見えになりました」 わたしが案内すると先生は「はい、準備万端です」と返事した。雨上がりの中華街はまだ煙っていて、隣の店からはふわりとお香の匂いが漂ってくる。ごみごみとした路地の突き当たり、この占い処に在籍するのは先生一人だけで、中華街の他の占い処とは雰囲気が異なっている。先生は派手な呼び込みもしないし、千円で手相を見てくれるわけでもない。競争の激しい中華街にあって、この店は少々特殊な立ち位置を占めていた。ネット上には簡素な予約フォームがあるだけなのだが、静かにクチコミが広まって客が途切れることがない。ちょうどやってきたこの客もどこかから噂を聞きつけたと見えて、緊張した面持ちで、軒先に吊るされた羽毛付きのてるてる坊主をじっと眺めていた。先生の「奥へどうぞ」という声と一緒に、店の奥からチュリンと鳴き声がして客の顔がほころぶ。わたしは二人の邪魔にならないようにカウンターの方へ移動して、ぼんやりと二人のやりとりを聞いていた。 「鳥占いと神鳥護符でご予約いただきましたね」 「転職するかどうかですか」 「それではふくたろ先生にお願いしましょうか」 鳥かごの扉が開かれ、パササと軽い羽音が聞こえてくる。鮮やかなイエローのセキセイインコがよちよちと先生の指に乗ってきて、客が「わあ」と呟いた。ふくたろは先生の飼い鳥で、占いもできる特別なインコだった。 「はい、じゃあまずはお客さんにお辞儀してくださいね」 という先生の声で、ふくたろが頭をちょこりと下げた。アイスブレイクが終わったところでいよいよ本題へ入る。先生がタロットカードを並べると、ふくたろはタタタ……とすかさず一枚を選び取った。 「これね、いま皇帝が出ましたね。もしかしていまの会社で上司とあまり上手くいってないのでしょうか」 このあたりで客はいつも「どうしてわかったんですか」とか「え、そうです、そうなんです」とか、目の色が変わる。先生とふくたろの占いが外れるのをわたしは見たことがない。黄色い小鳥がちょろちょろと動き回り、自分の身丈ほどもあるカードを引いていく。先生は時折ふくたろにご褒美のシードをあげながら、ふくたろに次々とお願いをする。「それでは転職だけじゃなくて部署移動も検討できそうですね」とか「星のカードが出ていますから、希望はすんなり通るでしょう」とか、会話から次の未来を導いていく。客はすっかり前のめりだ。カウンターからでは表情が伺い知れないが、きっと晴れ晴れとした顔をしていることだろうと思う。
【見習い鳥卜作品紹介5】
◆鳥を握る 冒頭公開
- 占い師の「先生」と同居する「わたし」は、先生が類感呪術によってニワトリを生け贄に人々の病を治す「副業」をしていることを知る。
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#angel_of_extinction No.2
11.11.2025 08:46 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0どうしても、地元の話、地元の言葉に警戒してしまうけど、これはよかったです
10.11.2025 23:45 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0よかった
10.11.2025 23:40 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0おつかれさまでした
トリと木の実を生み出してくださりありがとうございました
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畠山市立動物園をご存知ですか。畠山市の少し奥まった場所にある、広々とした動物園です。動物たちとの距離が近い動物園として大変人気で、平日休日問わず人の波が絶えることはありません。なかでも、ハシビロコウを見ることができる動物園は全国でも八箇所しかありませんので、そういった意味では貴重な動物園でもあります。 そう、そのハシビロコウです。一年前まで、畠山市立動物園のハシビロコウは一羽しかいませんでした。ハシビロコウのかりん(♀)です。園のアイドル的な存在で、公式SNSでもかりんの投稿は常に好反応を記録しています。のっそりのっそりと細長い脚を優雅に差し出しながら、胸はピンと張って気品高く、毎朝「ハシビロ園」へ登園するかりんの姿は特に目を引きました。かりんが「出勤」するのを、ファンは今か今かと待ちわびて、かりんのクチバシほどの大きさもある巨大なカメラを構え、じっと「ハシビロ園」を囲むのです。ハシビロコウは、日本でも十数羽ほどしか飼育がされていませんので、それぞれに固定ファンがつきやすいようです。かりんは日本全国のハシビロコウの中でも比較的有名なハシビロコウだったのではないかと思います。かりんを長年担当してきたベテラン飼育員がいたのですが、彼女がかりんに餌を与えながら、ハシビロコウにまつわるトリビアを語るトークショーは園の名物でした。 ところが一年前のある日です。ある朝、飼育員がケージを開けるとハシビロコウがもう一羽増えていたのです。かりんの隣に、全く見たこともないハシビロコウが我が物顔でしっとり佇んでいるのです。誰にも全く心当たりがありませんでした。慌てた職員たちは、はじめはその事実を隠そうとしたようです。しかしそう上手く事は運びませんでした。あるとき、その新しいハシビロコウは飼育員の目を盗み、かりんを追って「ハシビロ園」へ登園してしまったのです。かりんを待ち構えていたファンたち全員がそれを目撃しました。そして、突然の「新たなハシビロコウ解禁」に、全国の愛好家たちの間で激震が走りました。その衝撃はネットニュースへ、地上波のニュースへとぐいぐい波及していき、大勢の人々の知るところとなりました。なぜ事前に告知をしなかったのか? この新しいハシビロコウは一体どこからやってきたのか? 結局、園はその騒ぎを収めることができませんでした。さすがに「ある朝突然増えていました」とは言えず、「来園時から体調不良が続いていたため数年単位で秘密裏に隔離のうえ飼育されていたハシビロコウ」であるとぼかした説明がなされました。 実は、そのハシビロコウは私の姉なのです。馬鹿げた話だと思われるでしょうが、私はあのハシビロコウが姉であると確信しています。 話は二十年前へ遡ります。姉は、畠山市立動物園の飼育員として勤務していました。…
【見習い鳥卜作品紹介5】
◆平熱の君 冒頭公開
- 畠山市立動物園にはハシビロコウが一羽いた。ところがある日、飼育員がケージを開けるとハシビロコウが二羽に増えていた。語り手は「実はそのハシビロコウは私の姉なのだ」と主張する。
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拡散の鐘、鳴ってます https://x.com/torinoshinwa/st...
10.11.2025 20:30 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0文学フリマ東京41おしながき 南3・4「け-27〜28」 【新刊】藤井佯初の短編集 見習い鳥卜 鳥の神話を伝えます。藤井佯初の短編集。鳥という「人間以外」の存在を核に、型の定まらなかった人たちのための小説を書いています。第2回カモガワ奇想短編グランプリ優秀賞受賞作や、第3回星々短編小説コンテスト佳作受賞作も含めた全13編収録。表題作は書き下ろしです。 著者:藤井佯 装画:熊谷隼人 仕様:文庫本サイズ(A6判)・324ページ 価格:1500円 おまけ:もれなく24ページのコピ本「見習い鳥卜 佯々短編集」がついてきます。
文学フリマ東京41おしながき 南3・4「け-27〜28」 てのひらのとり 鳥の神話掌編集 著者:藤井佯 仕様:文庫本サイズ・40ページ 価格:500円 300字以内の「鳥の神話」を全31編収録した小さな本です。 挿絵も少しだけ収録。『見習い鳥卜』とセットでご購入いただくと、合わせて2000円のところ300円引きの1700円にてご購入可能です。 【登場する鳥】 タチヨタカ/オニオオハシ/カカポ/アマツバメ/ハト/ニワトリアカショウビン/カモメ/オウム/カワセミ/ハシビロコウ/アオアシカツオドリ/アホウドリ/カケス/コマドリ/オオバン/エミュー/セキセイインコ/アヒル/ウズラ/ヨウム/フラミンゴ/カラス/メンフクロウ/コガタペンギン/ブッポウソウ/アカゲラハチドリ/イスカ/ドードー/トキ 沈んだ名 故郷喪失アンソロジー 編集:藤井佯 仕様:文庫本サイズ・258ページ 価格:1500円 「故郷喪失」をテーマに書かれた全13編の小説・エッセイと、それらをふまえて書き下ろされた論考1編を収録したアンソロジーです。「故郷喪失」とは一体何なのか、なぜいま「故郷喪失」を語るのかという問いに真摯に取り組んだ選りすぐりの作品が揃っています。制作にあたってクラウドファンディングを活用し、支援総額358,800円(目標達成率119%)を達成し、101名から支援を受けた話題作です。 【執筆者】 いとー/城輪アズサ/闇雲ねね/オザワシナコ/江古田煩人/ 伊島糸雨/万庭苔子/藤井佯/湊乃はと/灰都とおり/神木書房/ 犬山昇/玄川透
文学フリマ東京41おしながき 南3・4「け-27〜28」 【委託】カモガワ編集室さんより カモガワGブックス Vol.5 特集:奇想とは何か? 「奇想」とは何か? あまねくジャンルの中に見出だされるストレンジな発想の源にあるのは、いったい何なのか? その実態に、文学(SF、ホラー、ミステリ、ラテンアメリカ文学)や漫画、ゲームなど各種のメディアでの奇想作品のレビューや創作、翻訳や論考など、さまざまな角度から迫る一冊。 「第2回カモガワ奇想短編グランプリ」受賞作も掲載。 編集:カモガワ編集室 装画:つばな 装丁:南々蛸 仕様:A5判・188ページ 価格:1500円
文学フリマ東京41おしながき 南3・4「け-27〜28」 佯々体験会 価格:100円で3回生成 「佯々」はLocal-Novel-LLM-Project Ninjaモデルをベースに藤井佯の小説17万字を学習させてファインチューニングした、いわば「藤井佯の文体を学習したAI」です。 文学フリマ東京41【鳥の神話】ブースにて、佯々に実際に小説を生成させることができる体験会を開催します。 当日現地にて生成された小説は後日、藤井佯ブログ「鳥の神話」にて公開予定です。100円で3回掌編小説を生成させることができます。 ※藤井私用PCにて動かすため、予告なく終了する可能性があります。 ※藤井佯がブースに在席している時間帯のみ可能です。 俳句連作「浮揚の練習」ポストカード 価格:100円 【文学フリマ東京41参加情報】 今回、【鳥の神話】ブース以外で藤井佯の寄稿作を収録した本が買えるブースは以下となります。 ・夜空舎(か-73〜74) 『鏡/分身 月編』にて「ピカ」 ・反-重力連盟(け-25〜26) 『圏外通信 2025亜』にて「光条延べて月を読むこと」
11月23日(日)開催の #文学フリマ東京 に出店します
おしながきです
新刊の短編集『見習い鳥卜』がイチオシです
また、カモガワ編集室さんの『カモガワGブックス Vol.5 奇想とは何か?』を委託販売します
その他、佯々に小説を生成させる体験会など、盛り沢山でお待ちしております
▼webカタログはこちら
c.bunfree.net/c/tokyo41/4F...
#文学フリマ東京41
気になり蟹
10.11.2025 10:46 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0"アラスカ生まれの白人の男の子の、狩猟生活と都会の間で引き裂かれる葛藤を、変容するエスキモー社会とともに描く傑作長篇。ジャック・ロンドンや星野道夫の系譜に連なるネイチャーフィクション"
セス・キャントナー/ 池澤綾羽 訳 『ふつうのオオカミたち』
www.kawade.co.jp/np/isbn/9784...
"この街では恋も殺しもドラッグも、熱風に吹かれてやってくる。「フィナンシャルタイムズ」「スペクテイター」年間ベストブック選出。リオのスラム街〈ファベーラ〉発の鮮烈デビュー作"
ジョヴァーニ・マルチンス/ 福嶋伸洋 訳 『太陽に撃ち抜かれて』
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時間が足りないよ〜やりたいことが多すぎる
09.11.2025 22:40 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0新刊で、継国巌勝をシスジェンダーのヘテロセクシュアルと想定したこと、加えて第6章・第14章では操作的診断名で言うところのC-PTSDの症状を参考にしていること。これらの解釈に要請される倫理的手続きにかんして、いわゆるクィアリーディングの手法やパトグラフィーの歴史などは軽くなぞっていますが、わたしの能力不足により、十全に極めているとは言い難いと思われる。ここを徹底できていないからこそ、二次創作パートとの抱き合わせという邪道の手法が必要でした。
x.com/torinoshinwa...
私も表面化する困りごとはASD由来のものが多く、しかし同時にこの属性に助けられてもいて、ジェンダーアイデンティティについてはマジョリティでもマイノリティでもあれてしまう微妙な立ち位置におり、要するにジェンダーの問題で困っていないので取り立てて主張する必要が、なくなっている(たまに思い出す)
09.11.2025 13:31 — 👍 1 🔁 0 💬 0 📌 0真空ジェシカとママタルトとカナメストーンが出演するライブで朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』待ち時間に読んどる女性おって、出来過ぎてたなあ
09.11.2025 22:10 — 👍 2 🔁 1 💬 0 📌 0#文学フリマ東京41 で初売りの短編集『見習い鳥卜』はBOOTHにて予約ができます!
文フリ前にいただいたご注文に関しては11/23〜25あたりを目処にお送りします
ぜひ予約も検討してみてくださいね𓅰
booth.pm/ja/items/739...
BOOTHの注文管理画面 未発送の注文が10件ある 全て短編集『見習い鳥卜』のご注文
ありがたい、ありがたい……😭
(見習い鳥卜の予約が10件になりました)
引き続きどうぞよろしくお願いします🦜
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黒い大地が一本の線を成して空の遠さを繋ぎ止めている。見渡す限り人の影はなく、私たちは途方に暮れる。いや、天を仰いでいるのは私だけか。現地で雇ったドライバーは、年代物のウォークマンから流れる陽気な音楽に身を浸し、遠くを見つめながら小刻みに揺れている。ちらりと様子を伺うと、彼は片手を挙げてにこやかに応じた。とても現状に危機感を覚えているとは思えない笑顔だ。開けっ放しのコーラ瓶から甘ったるい匂いが漏れてきて、私はため息を吐く。現在の状況。車がガス欠を起こしたので、砂漠のど真ん中に放り出された。反省と対策。この土地の人々は、ガソリンを満タンにするという考えを持たないらしい。そもそもこの国では何もかもが高騰しているから、ドライバーは十分な量のガソリンを買えなかったのだろう。あれだけ念を押したのに。問題ない問題ない、と何度も言うものだから、信じた私が愚かだった。そもそも、私が出発時にガソリン代を上乗せして報酬を支払わなければならなかったのだ。後悔先に立たず。一時間に一台通るかどうかの自動車を待ちながら、ガソリンを分けてもらい先に進むしかない。少しずつでも、辛抱強く。先ほど出会った親切な夫婦によると、ここから三十分ほど進むことができれば私たちの目指す街に出るらしい。たかが三十分、されど三十分である。分けてもらったガソリンでは、十分も走れば再びへろへろと立ち止まってしまう。日は傾いてきて、急激に温度が下がってきた。覚悟はしていたものの、砂漠の気温変化の激しさが身に堪える。多めに積んだはずの水も尽きてきて、精神的な余裕はどんどん削られていった。 それにしても、美しい土地だ。何もない。ここには、人の営みがない。黒い砂がどこまでも広がって、空には薄ぼんやりと半月が出ている。静寂が支配する。清々しく無風の大地。しばらくして、私はエンジンの音を認める。後方からだ。大きく手を振る。緑色のトラックが私たちの車の脇で停車して、中から中年の女性が出てきた。これから私たちの目指す街へ向かうところらしい。ガソリンを分けてくれないかと懇願すると、快く応じてくれた。女性は、この先の街のホテルに勤めているようだ。家族の急病で帰省していたが、休暇が終わるので街へ戻る途中だという。ホテルの名前を聞いて驚く、そこが私の旅の目的地であったからだ。女性は目を横に伸ばしてにかりと笑い、「これも何かの縁ね」と多めにガソリンを注いでくれた。 トラックと並走して街を目指す。ぎりぎりであったが無事に市街地へと入ることができた。ガソリンスタンドを見つけ道を折れる前に、手前のトラックに向けてドライバーがクラクションを二、三度鳴らした。トラックもビーと返事をして、夜の闇に消えていく。死ぬところだったと冷や汗をかきながら、私はドライバーにお礼とチップを渡し、目的のホテルへと急いだ。先ほど出会った女性が言伝まで引き受けてくれ、…
【見習い鳥卜作品紹介4】
◆砂に刻まれるものたちへ 冒頭公開
- とある砂漠には、マパピスクと呼ばれる鳥たちが、巨大なマパ(地図)を描くのだという。その研究に生涯を捧げた研究者と、彼女を訪ね地球の裏側からやってきた日本人女性の交流を描く
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おすすめ欄に晋平太への追悼がたくさん流れてきて辛い
08.11.2025 23:50 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0