一緒にザファを見ながら🏀部の7歳娘が描いた絵
「あなたがいつも一生懸命練習しているのは、りへんすではなくディフェンスだよ」と教えてあげたら「エッ…!?」ってしばらく固まってた😂
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三リョ♡成人済 日常ポストも多め
一緒にザファを見ながら🏀部の7歳娘が描いた絵
「あなたがいつも一生懸命練習しているのは、りへんすではなくディフェンスだよ」と教えてあげたら「エッ…!?」ってしばらく固まってた😂
地元帰ったら三リョのWebオンリー申し込もうっと
13.01.2025 01:54 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0前ジャンルの2人はたとえ生まれ変わって出会い直してもどっちかが違う性別だったらなって言いながら最後は別れるし
三リョは生まれ変わって出会い直してもお互い執着しあって離れられないんだろうなって思う
ちなみに乙棘は何回生まれ変わっても友達になれるよ
そんな自カプたち
最高の時間はあっても永遠はないってつくづく思うけどそういうのはもうおなかいっぱいなので、三リョでは確実に未来のある創作をしていきたいですね
13.01.2025 01:46 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0前ジャンル(※呪ではないです)受けから攻めへの特大の愛を見せつけられ大泣きして目がパンパンに腫れている
しかしどんなに愛が大きくても完全に別れていてもうどうにもならない事実は覆しようがなく当時の同カプの友達ももうおらず創作に落とし込んだところで公開する場もなく私はただ一人べそべそし続ける亡霊になる
支部掲載本文+書きおろしで1/12発行の同人誌になります。
書き下ろしのみR18、十年拗らせ童貞×童貞(もちろん処女)によるようやくやってきた初夜のお話です。
8話目以降はこちらから
www.pixiv.net/novel/show.p...
「――なんで、三井サンに話しちゃったんだろう」
「そのためにまた会ったんだろ」
別れた後お互い十年引き摺り続けていた三リョと、リョが育てている血の繋がらない小さな女の子。
寄せ集めの三人でつくる疑似家族。
十年ぶりに再会し、共有することになる墓まで持っていく秘密についてのお話です。
【実業団リタイア組会社員三井×プロ現役リョータ】
※モブ含め他カプ要素は一切ありません。
墓まで持っていく話(三リョ) | 松岡ぐみ子 #pixiv www.pixiv.net/novel/show.p...
表紙デザイン:kinueDesign様
同じ日に2話載せてすみません。
ここから別の試合がはじまるぞ…✊
「よし! つうわけで願掛けでもするか」 「がんかけ?」 ボール貸せ、と転がっているボールを拾い上げて歩く。無理をして走ったせいで、軋む左膝は引き摺るしかなかった。情けねーよな、と笑うことすらできない。でももう、逃げたくないと思った。 ストバスまで移動し、「ここに線があるだろ」とスリーポイントラインを指す。 「こっからボールを投げて入れば三点、通り越して花丸満点だ。こっからの人生、いーことばっかり起こる」 「いーこと?」 「そうだ。ちなみにオレは、退団してから一度もボールに触ってねえ」 「ちょ……三井サン、やめときなよ」 「入るぜ」 見とけよ、と両手でボールを構える。 正直なところ、自信なんかひとつもなかった。緊張して全身が冷える。腹も痛くなってきたし、指先は震える。純度百二十パーセントの虚勢だ。それでも、逃げるわけにはいかないと、ただその一心でゴールだけを見据えた。ここで入れねーでどうするんだよと思う。 ――オレからスリーポイントをとったらもう何も残らねえんだろうが。 膝が痛んで踏ん張りがきかない。体が思うように動かない。放ったボールは、現役時代では考えられないような酷い軌道を通り、大きな音を立ててゴールリングにぶつかった。 跳ね、もう一度ぶつかり、くるりとリングを一周する。 それからゆっくり情けをかけるように、すうっとネットをくぐりぬけた。
「あっっっぶねー……」 とん、とボールが床に落ちるのと同時に尻餅をついて溜息を吐く。心臓が異様な速さでバクバクと音を立てていた。子供は飛び跳ね、「すごい!」とさっきまで泣いていたのが嘘みたいに喜んでいる。「入った! みっちゃん、入ったよ」 確かに入ったけどよ、と仰向けに寝転びながら苦笑いだ。全然かっこよくねえ、本当なら外側に弾かれていてもおかしくないような軌道だった。わざわざ上から顔を覗き込んでくる宮城が、呆れた表情で「ギリっすね」と口角を上げる。 「入らなかったらどーする気だったんだか」 「うるせ、結果オーライだろ」 帰ろうぜ、と上体を起こしオレは言う。宮城は「そうっすね」と同意をした。子供は上機嫌で跳ねながら、「入った、入った」と歌うように繰り返している。騒動の原因が暢気なこって、ともう溜息も出ない。 無理がたたり歩けなくなったオレを運ぶために結局安田が召喚され、二人に引き摺られながら宮城のアパートへと戻る。「色々言いたいことや聞きたいことはあるんですけど」と安田は眉を顰めたが「今度にします、今日は疲れてると思うんで」とオレ達を送り届けた後すぐに帰って行った。宮城に対し、「無理はしないようにね」と声を掛けることを忘れないあたり、本当によくできたやつだなと感心する。同時に、今の宮城に頼れるやつが他にもいることに素直に安堵した。 ちいさな冒険に精神的にも体力的にも疲れたのか、子供はオレが買ってきたいつもよりでかいプリンをペロッと平らげると、早々に眠りについてしまった。「歯磨きしてないんだけど」と気にする宮城はやはり、普通の父親にしか見えない。その宮城もまた、子供の寝顔を眺めているうちにうつらうつらとし始める。
ほとんど眠りの世界に飛び立っている状態の宮城が、頭をぐらぐら揺らしながら「オレが初めて会ったときは、まだ一歳でね」と携帯の中に入っている画像を表示させながら話し始める。今まで言えなかった分、誰かに聞いて欲しいのかもしれないな、と黙ってオレは「おう」と短い相槌を打った。 「まだ歩くのもよちよちで。可愛かったな……大きくなったな」 ぺたぺたと下手くそな歩き方で、上半身をぐらぐらを揺らしながら歩く子供の動画が再生される。ほとんど赤子にしか見えないような姿だが、その顔には今とかわらないどんぐりみたいなでけー目がついていて、ああサヤだな、とわかる。 一つ、二つと動画と画像を交互にオレに見せた後、急に喋らなくなったかと思えば枕に顔を突っ伏して眠っている宮城の手から、携帯電話を取る。動画は未だ再生中で、きゃあきゃあと笑う子供の姿がそこにあった。ちらちらと映っている女が、子供の母親だろうか。どこか消え入りそうな、穏やかな声を出す線の細い女だった。 その女が、愛しそうに子供を見つめ『そーちゃん』と呼ぶ。 「そーちゃん……?」 聞き覚えのある響きに、目を瞠った。 確かそれは、宮城が子供の頃に亡くなったという兄貴の愛称ではなかったか。 どういうことだ、と画面を凝視していると、いつの間にか意識を取り戻していたらしい宮城がハッとした表情で奪うように携帯電話を取り返す。その表情にはあからさまな焦燥があった。 動画からは変わらず、『そーちゃん』と繰り返す女の声がする。「なあ」とオレは宮城に問うた。 「サヤの本当の名前って何だ」 宮城は答えない。答えなかったが、代わりに動画の中の宮城が『違うよ』と女に訂正をする。
『サヤちゃんだよ。そういうことにしようって、ちゃんと決めたでしょ』 宮城はこの女とどこで知り合ったと言ったか。 沖縄、昔の知り合い、少し年上だと言う女、兄と同じ名前の子供。 わけがわからず固まるオレを前に、「墓までもってくって、ちゃんと決めてたんだよ」とどこか虚ろな目で、宮城は言った。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ7話目(3/3)
20.12.2024 22:31 — 👍 1 🔁 0 💬 1 📌 0連れ子だよ。結婚した人が、連れてた子供。血縁的には他人でしかないのだと、宮城は言う。 「本物の、自分の子供として育てようって思ってたんだけど」 なんでうまくできねんだろ、と吐き捨てる。オレは返す言葉が見つからず、掴んでいた腕を感情のままに引き寄せた。腕の中にすっぽりとおさまった宮城が、嗚咽を漏らす。「何かあったらどうしよう」と繰り返すその姿こそ、子供みたいだと思いながらその背を擦った。 「正直言うけどよ」と宮城の髪に鼻先を埋めて言う。 「全然気付いてなかったぜ」 「……へ?」 「血繋がってると思ってたわ、普通に。――だってお前ら、すげー似てんだもんよ」 警戒心が強くなかなか懐かないところ。懐いてくると、すげー可愛いところ。訝しげに人を見る時の眉の歪ませ方に、どこか気まずそうに目を逸らして言う「ありがと」の言い方。ツボに入った時の笑い方。改めて思い出しても、そっくりなところばかりだ。 ああ親子だなあと、似ている部分に気付く度に傷ついていたオレの身にもなってみろよと思う。 覗き込んだ宮城の目から、ぼろ、と涙が零れ落ちる。「アンタってさあ」と震える声を振り絞る。 「ん?」 「……んでもねえよ、節穴っすねマジで」 「いーや見る目はあると思うぜ」 何せ、お前のことを好きになったくらいだからな。独り言のように呟くが、ぐずぐずと鼻を鳴らす音にかき消される。別に聞こえていなくてもいいと思った。それよりも、早くこの涙を止めてやんねえと、と思う。 あと、他に探していないところといえば。 「ストバスの方の公園は」 駅付近にある公園は、宮城の住むアパートからそ
う遠くはないが少し入り組んだ道を通る。三歳児には難しいだろうと、後回しになっていた。遊具が多く揃っている近所の公園は確認したが、駅の方にはまだ向かっていない。 「毎日、行ってたんだったよな」 道が難しいといったって、すっかり陽が落ち暗くなっていたって、毎日通る道なら覚えているもんじゃねえのか。 「でも街灯もないのに」と宮城は言う。けれどオレは、ほとんど確信を持って、ストバスのある公園にいるだろうと思った。だってあいつは、血がどうこうは関係なく、宮城の娘だからだ。バスケットゴールがそこにあるなら、コートがそこにあるなら、向かうだろう。間違いなく。 ほとんど全速力で、駅の方へと走る。故障した左膝が軋むように痛んだが、構っている暇はなかった。息を切らせながら、到着したストバスをぐるりと見渡す。人の気配はない。背後の宮城が、がっくりと肩を落としている空気が伝わる。ちくしょう、と天を仰いだ。 まだそれほど遅くない時刻だというのに、すっかり陽が落ち真っ暗になった空にはしっかりと星まで浮かんでやがる。奥には満月だ。 そして視界の隅に見慣れたシルエットが見え、「サヤ!」と声を張り上げた。 子供はストバスに併設された公園のジャングルジムのてっぺんで空を見上げていた。ジャングルジムの下には、いつものバスケットボールが転がっている。 「ぱぱ、みっちゃん」 キョトンとした顔で、こちらを見下ろす。すぐに駆け寄ろうとする宮城の腕を掴み、「おう、何やってんだ」となるべく穏やかな口調になるよう努めて声を掛けた。宮城のひどい形相を見て怒られると思ったのだろう、キョロキョロと視線を逸らし、「あの」ともごもご口籠もる。「えっとね」
「おー、どうした」 「あのね、ままに」 子供の言葉を聞き、ほんのついさっき「やっぱりお母さんがいいんだよ」と言ったばかりの宮城の肩がぴくりと揺れる。表情の確認はしていないが、きっとその眉はひどくつらそうに歪んでいるのだろう。 けれど続く言葉は、宮城やオレが想像していたものとは少しだけ違っていた。 「ままに、帰ってきてもらおうと思ったの。ぱぱがよく、お空にいるよって言ってたでしょ。お空にしゃべったらきこえるよって言ってたでしょ。だから、帰ってきてって」 ぐず、と鼻を鳴らしながら続ける。 「だって、ままがいないから、さやのせいでぱぱはバスケができないし、みっちゃんともけんかして、ぱぱがないちゃうんでしょ」 えーん、とついには声を上げ泣き出してしまった子供に、はあ、と溜息が溢れる。どこまでもオレのせいだな、と額を覆った。 水曜の夜の寝室でのやりとりを、おそらくこの子供は聞いていたに違いない。 「サヤ、ちげーぞ」 こちらもつられて泣き出してしまいそうなところをぐっと堪え、ジャングルジムのてっぺんにいる子供に声を掛ける。隣の宮城は蹲り、もう声も出せない状態になっていた。 「パパのこと泣かしたのはオレだ」 「みっちゃ……?」 「そう。パパのこといじめてごめんな」 お前がいないとどうにもならないから、パパのとこきてやってくれよ。そう言うと、ぐじぐじと腕で雑に顔を拭いた後でゆっくりと足を掛け、地上まで降りてくる。ちいさな頭で精一杯、宮城のために何ができるかを考えたのだろう。 「サヤちゃん」
宮城は子供に手を伸ばし、ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめる。子供はどこかくすぐったそうに涙声のまま笑い、「くるしーよお」と言った。 二人が落ち着くのを少し離れたところで待ち、宮城の携帯から安田に電話をかけ無事に見つかったことの報告をする。ホッとした声を出す安田は、「寒くなってきたから、部屋あったかくして待ってます」と優しい声を出した。 お互い謝り合って、もう一人で勝手に出ていかないことを約束して、随分と落ち着いた二人の姿を確認し、ゆっくりと近付いていく。「サヤ」と声をかけると子供はいつものようにどんぐりみたいな丸い目でこちらを見上げ、微かに首を傾げた。 ふっと笑い、「今からけっこうひでーこと言うけど泣くなよ」と前置きをする。 「お前のかーちゃんはな、空にはいねーんだ」 「ちょっ……何言うのアンタ」 「こいつに子供だましは通用しねーだろ。お前の子だぞ。おいサヤ、聞いてるか」 「いないの?」 「いねえ。死んだやつはどこにもいねーし、呼んでも帰ってこねえ」 ひとつ、深呼吸をする。 「死んだやつは生き返らねえし、死んだ膝も戻らねえ」 どうしようもないこともあるのだと伝える。三歳にはきっとまだ早いだろう。酷だろう。もっと夢を見させておくべきだというのもわかる。 それでもないものに縋るより、あるものに目を向けていくしかないのだ。それが生きていくということだから。 「どうしようもねーことばっかだよ」 それでも宮城にはお前が必要だし、お前もそうだろ。 そう続けると、幼いながらになんとなく理解をしたのか、うん、と子供は頷いた。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ7話目(2/3)
20.12.2024 22:31 — 👍 1 🔁 0 💬 1 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 7」、「@anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 あからさまに狼狽している宮城を半ば強制的に部屋の中へ押し込み、「一旦戻れ」と言う。 「でも、サヤちゃんが」と震える声で言う宮城に「いいから、落ち着け」となるべくゆっくりとした口調になるよう意識をしながら繰り返した。人に落ち着けと言っていたって、正直なところオレだってわけがわからないし落ち着けていない。けれど、それを悟られるわけにはいかなかった。 取り繕うのも、平気なふりも、本当のところオレはちっとも得意なんかじゃない。そういうのはお前の専売特許だろうが。どんなに緊張する試合の前でも、緊迫した戦況でも、宮城の顔色はいつもどんな時も変わらなかった。プレッシャーなんかひとつも感じていないという顔で、飄々と地に足を付けて立っている。アメリカに経つ時でさえ、少しも弱音を吐かず笑っていた。弱みを一切見せようとしないその姿を、何度腹立たしく思ったことか。 その宮城が、今にも泣きそうな表情で「離して」と言う。「探しに行かないと」声を振り絞る。震えながらドアノブに伸ばそうとする手をオレはギュッと握りしめ、「わかってる」となるべく聞き取りやすい声で言った。 「探しにいく。でもその前に状況整理しねえと、見つかるもんも見つかんねーぞ」 「状況……整理……」 「いなくなったのいつだ。いつ気付いた」 「わかんない。今、オレ寝ちゃってて、どうしよう、起きたらいなくて」 「昼寝してたのか。起きたの今か」 「どうしよ、オレ、どうしたら」 「起きたの今なんだな」 寝たのは何時頃だと聞いてもきっと正確な時間なんか覚えちゃいないだろう。普段の宮城の傾向を考える。一番眠れていない時の宮城が、うつらうつらとし始めるのはいつだったか。昼の食後を乗り越えていたとすれば、気の緩み始める十六時頃か。宮城
が眠ってしまったということは、同時に子供も眠っていた可能性が高い。それほど早く目覚めていないと仮定して、十八時前の今は多く見積もっても家から出て一時間ほどではないだろうか。もっと短い可能性もある。 「どこかで事故とか、事件とか」 「少なくとも駅からここまでの間で起きてた交通事故はねえよ。たった今、歩いてきたんだから間違いねえ。近くにでけー川も海もねえな」 「海……」 「落ち着け、ここからなら電車に乗らねえと海には出られねえだろが」 顔面蒼白の宮城の肩を揺さぶる。目の下に濃いクマが見えるあたり、もしかしたら昨晩は眠れていないのかもしれない。ちくしょう、と心底自分が嫌になる。ようやく、落ち着いて眠れるようになってたんだろうが。少しずつそう仕向けたオレが、途中で放棄してどうする。 最近は順調に睡眠時間がとれていたから、再び眠れなかった昨晩の疲労は以前の比ではなかっただろう。それまでは精神力でどうにか起きていたところに綻びがでた。人間、そう無理はできないようにできている。ある程度のラインを越えたら強制的にシャットダウンしてしまうのは仕方のないことだ。少しずつ人並みにまで戻ってきていたラインが、最悪のタイミングで裏目に出た。おそらく、オレが昨晩もここに来ていたらこんなことにはなっていないのだろう。 パン、と自分の頬を片手で打つ。後悔するのは、今じゃないだろうが。 オレ以上にとても冷静になれそうにない宮城を前に、ふう、と息を吐く。息を吸う。こういう時、試合中の宮城はどうしていただろうか。 そう、一度立ち止まって、体勢を直すのだ。口角を上げ、大丈夫だと仲間に伝える。平気なふりが苦手なオレは、結局どこまでもかっこいいこいつの姿をトレースすることしかできなかった。それでも、
なりふり構ってはいられない。 三歳児が一人で外に出たとして、そう遠くまでいけるはずはない。子供ながらの少しの冒険を経て、外に飛び出した内猫のように戻ってくる可能性のほうが高いように思えた。 オレが探してくるから、お前は部屋で待ってろ。本当はそう言いたいところだった。けれど、今の宮城にじっと待てというのは酷でしかないだろう。じっとできるわけがない。けれど、単純に役割を逆転させるのはもっと無謀だと思った。今の宮城が冷静に捜索など絶対にできないだろうし、万が一何かがあったときの第一発見者にするわけにもいかなかった。 どうする、と考える。戦況を変えたいときはどうするか。こんな時に限って、頭に過るのは恩師の顔だった。いつだったか、視野を広く、と言われたことを思い出す。周りには誰がいますか。 ――選手交代だ。 「おい、お前とサヤのことを知ってるやつは他に誰かいるか」 「知ってるやつ……?」 「家に呼んだことあって、馴染みがあって信頼できるやつ。ママ友でもパパ友でもチームメイトでもなんでもいい、誰かいねえのか」 少しの間をおいて、宮城が「ヤス」と旧友の名を出す。「ヤスなら、知ってる」 「ここに呼んだことは?」 「ある」 「よし、今すぐ安田呼べ」 言われたとおり宮城は震える指で携帯電話を操作する。電話帳が表示されたのを確認してからひょいっと取り上げ、通話ボタンを押した。数回のコールの後に出た安田は電話先のオレに随分と驚いていたが、簡潔に要件を告げると「すぐに行きます」と快諾してくれた。
幸い、職場が近いという安田はタクシーに乗れば十五分で着くという。この状況で防犯がどうこう言っていられないので部屋の鍵は開けておくと伝え、着いた後の留守を頼んだ。これで、子供が戻ってきても対応できるやつができた。警戒心の強い子供だが、おそらく安田なら問題ないだろう。高校の頃しか知らないが、どうしてだかそう思わせる不思議な空気を安田は持っていた。 「よし」と携帯電話を返しながら隣の宮城に向き直る。「探しにいくぞ」 そのまま手を引き、エレベーターを待つ余裕もなくアパートの階段を駆け下りる。 子供と行ったことのある場所を、ひとつひとつ思い出させた。近所のコンビニ、普段食材を買い込むのに使うスーパー、日用品を揃えるドラッグストア、いつかクレーンゲームでピンポン玉をとってやったゲームセンターに、一番近い場所にある遊具の多い公園。近い順に回っていくが、そのどこにも見慣れたちんちくりんの姿はない。崩れ落ちそうになる宮城の腕を引っ張り、「しっかりしろ!」と叱咤した。高校の頃は逆だったのになと思う。体力がなく、すぐにヘバって注意力散漫になる度に、宮城からは何度も鼓舞する声が飛んできた。罵詈雑言も多分に含んでいたが、必死さゆえのことだと知っていたから腹は立っても嫌いにはなれなかった。それどころか、いつの間にか執着を覚えるほどに好きになっていた。バカだよな、と自分でも呆れる。 「もうダメ、やっぱりお母さんがいいんだよ」 「お前は父親だろうが」 「ちがう」 ぎゅう、と眉間に皺を寄せた宮城が首を振る。「ほんとの父親なんかじゃない」 「は……?」 「三井サンもほんとは気付いてたでしょ、年齢的におかしいよね。いつ出来た子なんだよって……血、繋がってないだろって」
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ7話目(1/3)
失踪した子供と奔走する三リョ。
本物ではない親子に全力で首をつっこみ大正解をたたき出す三サンの回です。
「お前の娯楽じゃねんだよ」 「バスケするの週末だっけ? 膝気をつけてね」 まあ最悪体に響いたときのための土曜なんで、ということは、声には出さないで「はい」と返事をした。日曜を挟めば週明けにはどうとでもなるだろう。この考えは、もちろん宮城にも伝えない。一緒にやるかと誘ったのは自分だが、退団してから今もまだ、バスケットには触れていないままだった。 ◇ 「お前さ、今期はもうチームに戻らねえの」 眠りに入る間際、宮城は瞑りかけていた目を開いて「は?」と返事をする。睡魔に襲われながら出すそれではない、はっきりとした声だった。 発表されているのは、無期限の欠場だけだった。契約終了だとか、退団だとか、そういう話は出ていない。けれどそれは、今のところ、という話だ。配偶者の死によりチームより配慮があるのは間違いないだろう。けれど、このまま戻らなければ来期の契約継続はない可能性もある。オレと違い、宮城はまだ現役で続けていける実力があるのだ。フィジカルも、テクニックも申し分ない。ここで引退を考えるのは、あまりにも早すぎる。 母親を亡くしたばかりの子供を優先するという宮城の決断が、間違っているとは思えない。それでも、本当に両立できる道はねえのか。宮城は口を噤み、しばらくの沈黙をつくったあとで、「何度も考えたんですよ」と観念したように答えた。 「シーズン中だけでもどこかに預けようかなとか。……でも、無理でしょ」 「実家は頼れねーのか? 妹もいただろ」 「結婚してからあんまり会ってなくて……」 高校時代にオレが見た限りでは、宮城の家族と宮城の関係は、悪いものではなかった。冬の選抜の予選会場で、応援席にいる姿も見た事がある。特別疎まれていたわけではないのなら、子供の母親と宮城の実家の折り合いが悪かったのかもしれない。一度
疎遠になってしまえば、亡くなったからといって都合よく頼ることはできないのもわからなくはないが。 「でもよお、サヤも随分落ち着いたしどうにかなるんじゃねえのか」 「遠征中ずっとシッターか施設に預けるわけ? 現実的じゃないって」 「せっかくのキャリア無駄にするこたねえだろ」 四の五の言わないで、実家に連絡を入れればいいだろうと思うのだ。シングル家庭で、祖父母の協力を得ているやつなんか職業関係なくごまんといる。シッターや施設が現実的ではなくとも、実家に頼るのは普通に現実的な選択だ。だけど宮城は首を振り「できない」と言う。 「無理だよ」 「無理ってお前な……契約切られたらどーすんだ」 「その時はその時、また一からとってくれるとこ探してみるからいい」 べつに二軍のリーグに行ったっていいんだし、と続ける。一軍でも上位の実力を持っておきながら、何を言ってるんだこいつはと少し腹が立った。世界大会の、日本代表の候補にも挙がっていたんだろうが。二軍のチームに落ちてしまえば、そういう未来もそれこそ現実的ではなくなってしまう。 宮城もまた、どこかイライラとしたようすで「あのさあ」と声を荒らげる。 「自分がバスケ出来なくなったからって、オレに理想押しつけんのやめてもらえますか」 言われて、ハッとした。言い訳ができないくらいには、核心を突いていたからだ。さすがに宮城もすぐ失言に気付いたのか、慌てたようすで息を飲む。「いや、いい」とオレはとくに責める気持ちにはなれずに首を振った。 オレは宮城のバスケを応援することで、続けられなかった自分の鬱憤を晴らし溜飲を下げていたのではないだろうか。そこに、未練と嫉妬がひとつも混じっていなかったと言いきれるか。オレはまた、高校時代にやらかした最低な過ちを繰り返そうとしていたのかもしれない。あれだけ後悔したというのに、
根っからのクソっぷりが染みついていて嫌になる。 「ごめん」 「……お前は悪くねーだろ」 お前が謝ることはねえんだよ、と思った。けれどそれ以上はあまり会話を続ける気にはなれず、どうでもいいことを話し続けるいつもとは違い、オレのほうから「おやすみ」と切り上げる。うん、と消え入るような返事をした宮城が何を考えているのかはわからなかった。 ◇ 次の日は珍しく、宮城の家には行かなかった。週半ばを過ぎた木曜で、さらに珍しく残業もあり、ひどく疲れていたのだ。子供と約束をしているのは土曜で、それなら金曜の夜に向かえば問題ないだろうと思っていた。一日くらい飛ばしても、連絡さえ入れておけば心配をかけることもない。ほとんど毎日足を運んでいたとはいえ、これまでも何度か向かえない日はあった。――付き合っているわけでも、一緒に家庭を築いているわけでもないし。考えるのは、自虐的なことばかりだ。 だけどオレは、過去の後悔から、やさぐれるのが一番よくないことだと知っていた。落ち込んだところで、最悪は更新される一方なのだ。たぶん向いてないんだろうなと思う。 そうしてオレは金曜の定時退社後、水曜夜の自分の態度を十分に反省し、以前宮城が美味いと言っていたケーキ屋でイチゴのショートケーキを買った。食べ物で釣るのかよと笑われる気はしたが、引き摺りたくなかったのだ。拗ねる子供の顔を想像し、コンビニでプリンを買うことも忘れない。三連で売られているものと同じ種類だが、コンビニで買うとサイズが大きく特別感があるだろう。ケーキの箱とコンビニの買い物袋を引っ提げて、いつものように宮城達の住むアパートへと向かう。
扉の前で一呼吸をし、チャイムを押そうとしたその時だった。こちらが呼ぶより先に勢いよく扉が開き、「うおっ」と一歩下がる。飛び出してきたのは、スウェット姿の宮城だった。 一見してわかるほどに顔面蒼白で、どうしたお前、と驚く。 「サヤちゃんがいなくなっちゃった」 どうしよう、と呟く。ドアの縁を握りしめるその手は尋常じゃなく震えている。 どうすればいいのだろうか、最適解がわからずに、オレはただその場に立ち尽くした。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ6話目(3/3)
20.12.2024 06:14 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0飄々としながらも鋭い視線でバスケに向き合うこいつの姿しかオレは知らない。気まぐれでもうっかりでもかまわないから教えて欲しかった、他の姿も全部。どうすればお前は、オレのこと必要としてくれんの。 答えが返るはずもなく、宮城が眠っているのをいいことにその手を取って握りながらオレもまた目を瞑る。オレの腕が重いのか、間の子供がうーんと唸り身じろぎをした。 ◇ 起きた子供に「今度の土曜、オレともストバス行くか」と声を掛けると、目をキラキラとさせ前のめりに「いく!」と答えた。朝飯のパンを取り出しながら、「アンタ大丈夫なの?」と宮城が眉を顰める。宮城はオレが伝える前から少し前まで実業団にいたことと膝の故障で現役を退いたことを知っていた。バスケ雑誌にちいさく載った実業団リーグ優勝の記事を見つけ、その後も気にかけてくれていたらしい。 いくらリハビリに励んだところで元に戻ることはないとわかっている膝だ。酷使してもいいものか、案じているのだろう。これだけバスケにかかわっていれば、無理をしすぎたせいで悪化し晩年日常生活すらままならなくなるプレイヤーがざらにいることを当たり前に知っている。 本格的に走り回るわけではなく軽くやる程度だから問題ねーよとオレは答える。宮城はモゴモゴと「それならいいけど」と言い、どこか腑に落ちないという表情をした。 「みっちゃも、バスケできるの?」 「おー、昔はお前のパパと同じチームだったんだぜ」 「同じ!」 どんぐりみたいなでけー目をさらに丸くしたあと、目を細めて子供は笑う。「いっしょにできるのうれしーねえ」と室内用にしてあるらしいボールを取り出して抱きしめた。 「お前も一緒にやろーぜ」
教えてやるよ、と笑う。宮城が何度言っても自分で触るより宮城にバスケをさせようとするという子供はキョトンとして、「さやもするの」と驚いた。 「お前は、パパがバスケしてるとこ見るのが好きなんだよな」 「うん」 「一緒にできると、もっと楽しーぞ」 こいつにとってのバスケはおそらく、観戦席から見るものだ。だけどオレにとってバスケはやっぱり、自分でやるほうが楽しいものだ。どちらの良さもあるが、世界は少しでも広いほうがいいに決まっていた。選択できるなら尚更だ。 「ぱぱもそのほうがうれしい?」 もじもじとしながら子供が聞く。宮城は目を丸くして驚いて「一緒に出来たら嬉しいけど、嫌ならやらなくていいよ」と言った。子供は大きくかぶりを振って、「いやじゃない」と答える。 「さやもぱぱみたいになれるのかなあ」 少しだけ間を置いて、宮城は「なれるよ」と言った。「いっぱい練習すればね」 「お前の言う「いっぱい練習」は、子供には向かねーと思うぞ」かつての鬼キャプテンを思い出し茶々をいれると、「マジでアンタ黙ってて」と本気のトーンで威嚇するように顔を顰められてしまった。寧ろその姿に当時の片鱗が見え、そういうとこだぞ、とオレは思う。 ◇ 「めちゃくちゃいい感じじゃねーか!」 「休日にテーマパーク行って、次はバスケ教えてあげるのかあ」 ほとんど親だろ! と同期が言う。会社のデスクでの最近の話題は専ら、十年ぶりに動き出したオレの恋愛話だった。展開に興味があるのか、頻繁に「どんな感じよ」と根掘り葉掘りと質問攻めに遭う。テレビドラマや映画なんかの娯楽と勘違いしてんじゃねーかと思うが、単純に応援されるのは悪い気
がしなかった。性別や細部をぼかしながら話すのが、そろそろ面倒になってきているが。 「相手の子供にも愛情は抱けそうなの?」 女性社員がコーヒーを啜りながら問う。「血が繋がってないと、我が子のようには思えないって男の人も結構いるって聞くからさ」というのは、子持ちならではの視点なのかもしれない。愛情か、と考える。愛着はある。可愛いなとも思う。けれどその感情につける名前が果たして愛情かどうか。とくに熟考することなく違和感を覚え「そういうのではないっすね」と素直に答えると、「おお、取り繕わないね」とその明け透けさに女性社員は軽く仰け反った。 「でも」とオレは続ける。 「あいつが大事にしてるもんなら、一緒に大事にしてやりてーなとは思います」 それが、一番しっくりとくる感情だった。 子供に対し、親の目線になることはできない。これから先も、きっとないのだろうと思う。けれど、宮城が大切なバスケと天秤にかけてまで守ろうとしているのなら、それをどうにか支えてやりたいと思うのだ。宮城にとっての大事なものを、どうでもいいと思うことはできない。 「じゃあ大丈夫かな」 両手でマグカップを握りしめた女性社員が目を細めて笑う。「一緒に大切にしてもらえるのは、単純に心強いと思うよ」と優しい声で言った。 「いーやでも問題は、お前が全然意識されてねえってとこだろ」 ほっこりしかけたところで冷や水ぶっかけんじゃねえ、と同期を睨む。全く気にするようすのない同期は、「そんだけ通い詰めて、寝室で一緒に寝て?何もねえって逆にどういうことだよ」と目を逸らし続けていることをずばりと指摘した。「仮にも元彼だろ」 何もしてねーから記憶から消されてんのか? と考えたくなかったところまで言及され、しっかりと
撃沈した。そうだよ、わかってんだよ。たぶん宮城は、高校時代の数ヶ月間、オレと付き合っていたことをさっぱり忘れている。プライベートな問題にまでずけずけと顔を突っ込んでくるやたら距離の近い高校時代の先輩、くらいの立ち位置なのは十分理解していた。迷惑がっていないことは諸々の反応で確認済みだ。感謝してもらえていることも知っている。けれどそこに恋愛要素は絡まない。ことあるごとに好きだと実感しているのは、いつだってこちらばかりだ。 「でもほらさ、育児に必死だと恋愛感情って枯れるもんだし」 「子育て手伝ってくれる人の立ち位置だよな」 「大事だよ! 子育て落ち着いたら改めて恋が芽生えるかもしれないし……」 一番身近にいる異性ってことには変わりないんだからさ! とフォローのつもりで続けられた言葉が追い打ちになっていることに、女性社員は気付いていない。同性なんすよ、とは今更言い出せなかった。だから、恋愛感情をもたれていなくても何らおかしくはないんすよ。心の中で答えながら、胸が痛む。どうにかなんねえもんかな、と大きく息を吐いた。 「そうなってくると、子育てってやつが落ち着くまで待つしかないわけか」 「まあそんな……落ち着くもんでもないけどね、子育て」 一つ問題を越えたら、フェーズが変わって次の問題へ。それが十年単位で続いていくという果てしなく気の遠くなる話だった。さらに十年以上かよ、と唖然とするが、宮城と別れてからこれまでの十年を思えば、それほど非現実的な数字というわけではなかった。「お前その歳で達観しすぎだろ」と同期が呆れている。言いたきゃ好きに言え、とほとんど開き直るような気持ちだった。こちとらもう、宮城以外に恋愛感情をもてる気がしないんだよ。それがひどい執着だと言ってしまえば、それまでだった。 「まあがんばれよ」と同期が言う。「続報楽しみにしてるぜ」
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ6話目(2/3)
20.12.2024 06:14 — 👍 1 🔁 0 💬 1 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 6」、「anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 赤いリボンをつけた猫のぬいぐるみを右手に、プリンを模した黄色い犬のぬいぐるみを左手に抱えて子供は眠る。ひどい夜驚症の頻度は、週に数回ほどに減っていた。 安心できるものに囲まれて眠ると落ち着くことを無意識に覚えたのだろう。いい傾向だった。今となっては問題があるのは寧ろ宮城のほうで、睡眠時間が確保できる余地は十分できはじめたというのにうまく眠ることができない。こちらとしてはシンプルに寝りゃいいだろうが、と思うが、「でも爆睡してる時にサヤちゃんが泣いて起きたら心細いでしょ」などと言う。それでも一緒に夕飯を食ったあとソファーに座っているだけでうつらうつらとし始めることが頻繁にあるあたり、体力的には限界がきているのだろう。 お前それ普段も日中意識飛んだりしてんじゃねーか、と指摘をすると、大人が一人の時は気を張っているからあまり眠くならないのだと宮城は言った。子供の昼寝を含め、隙を見て小刻みに寝ているから特別問題はないと頑なに言い張る。じゃあなんでそんなに眠そうにしてんだよとこちらとしては不思議でしかなかったが、よくよく観察してみれば宮城の言うとおりだった。オレがいる時は大人が一人ではないから、気が緩んでいるのだ。案の定、試しに「まだオレ起きてるから寝てくれば」と寝室に行くよう促すと、軽く鼾をかきながら気絶するように眠っていた。声をかけるまで起きることはなく、ああ安心しているのかと胸が詰まる。 そうしていつの間にか、週の半分ほどを宮城の家で寝泊まりするようになっていた。 最近はオレが同じタイミングで寝たところで宮城の眠りが過剰に浅くなることはなく、それは単純に何かあったとき気付けるセンサーが二つに増えている数の心強さが理由だろう。実際、子供の夜泣きにオレのほうが先に気付いて対応することも少なくなかった。オレがあやしたところで結局は泣き止まないので最終的には宮城が起きてくることになるのだ
が、宮城が覚醒するまでの少しの時間を稼いでやれるだけでもいる意味はあるだろうと解釈し、勝手に居座り続けている。今のところ迷惑だから早く帰れと言われたことはない。「暇なの?」は度々聞かれるが。 今日も、子供を挟んで川の字で寝室に横たわる。両手にぬいぐるみを抱えた子供は、布団に入ってしばらくはぴーちくぱーちくと整合性のない話をうるさく喋り続けていたが、次第にトーンダウンしフェードアウトするように眠りの世界に入っていった。 「よく喋るやつだぜ」 「三歳の女の子ってみんなこんな感じなのかな」 うつ伏せの姿勢で子供の寝顔を眺めながら、宮城は小声で喋る。その声もまた、眠気が混じり始めているのか少し舌足らずだ。実のところ、こういう時の宮城のほうが、自分のことを素直によく話してくれる。普段なら聞いてもそっけなくはぐらかすようなことを、ぽつりぽつりと教えてくれるのはいつも眠る間際の宮城だった。 夜驚症を発症した子供についての「お母さんにきてほしいんだろうな」という当たり前の心情も、普段なら絶対に吐露してくれない。言ったところで弱音にすらならない事実だろうに、口を噤んでしまうのだ。 「前シーズンの時も、不安定ではあったんすよ」 眠る間際の宮城が、ぽつりと独り言のようなトーンで言う。「子供の母親か」と問うと、うん、と頷いた。子供の母親ということは宮城の配偶者でもあるわけだが、どうしてもその表現はしたくなくて子供ベースの言い方になる。宮城はとくに気にならないのか「サヤちゃんと二人にしておけないから、遠征は一緒についてきてもらって」と続ける。どうにか、不安定な家庭の維持とバスケの両立を試みていたのだと宮城は話す。だけど母親がいなくなってしまった今では、子供だけを連れ回すことはできない。
警戒心の強い子供だから、シッターや保育所に預ける選択肢はあまり現実的ではないのだろう。 「なるほどな」 「……何がなるほど?」 「ついてまわってずっと見てたからか、こいつがお前のバスケ好きなの」 遠征先にまで帯同し、おそらく試合会場にも何度も足を運んだに違いない。わかるぜ、とふっと笑った。一度試合を見れば、みんな宮城のプレイが好きになる。敵からすると厄介な存在だから、ブーイングも飛ぶだろうけどな。物心ついてからずっと見ている父親の一番格好いい姿を、子供はちゃんと覚えているのだ。 「そうかな……」と言ったきり喋らなくなってしまった宮城に、寝ただろうかと思いながら「そういやよお」と勝手に話しかける。寝る前の宮城との会話は、別に返事がなくても構わないのスタンスで続けるようにしていた。どうしてだかそのほうが、気付けば眠っているということが多いのだ。眠気に勝てている時は返事があるし、勝てない時はオレの声を勝手に子守歌にして眠る。今日はまだ寝ていなかったらしく「あに?」と返事があった。それでもギリギリといったふうで、ほとんど呂律が回っていない。 「サヤが三歳っつうと、最初は母親のほうもアメリカにいたのか?」 宮城の帰国後出会ったとなると、単純計算でもう一、二歳は幼くなるはずだった。あっちで知り合った日本人で、産後病状が悪化しての帰国だろうかと想像してみる。お前はどんな時に、どんな風にその女のことを好きになったんだよ。聞きたくないけれど、知りたかった。オレの知らない十年を、宮城がどう過ごしてきたのか。プレイヤーとしての側面しか知ることができなかったこれまでと、今は違うのだ。 宮城は少しだけ何かを言い淀んだあと、「向こうで知り合った人ではなくて」とぽつりと答えた。普
段なら絶対にはぐらかしていただろうから、やはり眠くて判断力が落ちているのだ。「昔の、地元の、知り合いで」と続ける。 「昔? たしか沖縄か」 「……ん、子供の頃に」 「幼馴染みってやつか。同級生か?」 「向こうのほうが、ちょっと年上……」 ふうん、と相槌を打つ。確かに年下の女と言われるよりは、年上のほうが納得できるなと思った。しっかりした姉御タイプのほうが、こいつの好みだろう。こいつがかつて入れ込んでいた彩子は同級生だが、同じ年のやつらと比べると随分と大人びていたように思う。好きなタイプは変わらないということか。顔の系統は違うが、娘にも受け継がれている大きく丸い目は確かにルーツが沖縄だと言われればなるほどと思う。 一時帰国のタイミングで偶然再会し、付き合うようになったのだろうか。そこから結婚までいくとなると随分な熱量だが、子供ができたことが理由ならなんとなく納得できる。再会自体は随分前で、長く遠距離恋愛をしていたのかもしれない。帰国のタイミングは、家族で暮らすためだろうか。 ぽつりと、「なあ、そいつのこと好きだったか」と当たり前すぎることを聞く。結婚までした相手が好きじゃないわけがないだろうと、本当はわかっている。どれだけ好きだったか、今も変わらず好きか、宮城に語られたら傷つくのは自分のくせに。 宮城は何も答えない。意図的に黙っているのか、眠ってしまっただけなのかはわからなかった。 沈黙が続き、ほどなくして寝息が聞こえ始めた。ふう、とひとつ溜息をこぼし、オレは宮城が腰までしかかけていなかった布団を引っ張って直してやる。分厚い布団から顔だけを出した状態をつくりあげると、ふわふわと額を隠すように下りている癖っ毛をくしゃりと撫でた。かきわけて流すと、年齢より随分と幼い寝顔がそこにある。迷子の子供みてーだな、と思う。この前髪を整髪料でバチバチに決め、時に
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ6話目(1/3)
少しずつ眠れるようになるリョと、三サンの未練についての回。この2人はずっと両片想いです。(ネタバレ)
想像以上に楽しげな二人を少しでも残しておこうと、携帯電話を取り出して、ことある事に写真を撮った。動画機能も使った。宮城が珍しいものを見るような顔で「アンタそれ誰かに言われてきたの?」と問う。 「親子の写真は撮ってあげましょうとかそういう」 「あ? 知らね。撮りたいから撮ってるだけだろ」 こんなに可愛いんだから後からも見返したいだろうが、と続ける。可愛いの対象には宮城も大部分含まれていて、寧ろオレにとってはそちらがメインですらあったが、宮城ははしゃぎ続ける子供をまっすぐに見て「わかる」と目を細めた。 キャラクターが潜む凝った装飾はいたるところにあり、歩くだけでも十分特別感があるところに次々と開催されるイベントやショー、ガイドブックを読んだときはこんなに乗り物が少ないなら半日もたねー可能性もあるななんて思っていたが、これもまた全くの杞憂だった。怒濤のように押し寄せてくる可愛いの強襲に大の大人ですら翻弄される。すげーな、最近のテーマパークって。乗り物まで辿り着かないうちに時間は過ぎていき、ひとまず休憩するかと昼飯を食いに入った場所ですら次々と着ぐるみのキャラクターが現れ全力でファンサービスをして去って行く。まるで休憩にならない。落ち着く暇もねーのな、とさすがに苦笑したが、娘と一緒に着ぐるみに抱きつきに行く宮城を見ていると、また連れてきてやりてーなと心底思った。違うテーマパークもありか。日本で一番有名な、ネズミのところもきっと楽しいだろう。その時はちょっと奮発して、パーク前のホテルを予約してもいい。 ようやく乗ることができた遊園地らしい乗り物は、車に乗せられ一周するやつと、船に乗せられ一周するやつの二種類だ。午後にもなると子連れで長時間並ぶほどの体力は残っておらず、ぐずり始める可能性を考えると課金で短縮できるのは素直に助かった。ジェットコースターのように上下左右の激しい移動
があるわけではないゆっくりと進む乗り物はなんとなく子供だましのイメージがあったが、演出に合わせところどころ跳ねたり進む速度が変わったり、くるりと向きが変わることもあってなかなか楽しい。音楽も世界観に併せ凝っている。いつの間に撮られていたのか乗っている最中の写真が出口で売られているのにはさすがに商売が上手くて笑ったが、隣の宮城が迷うことなく財布を取り出していたのでこうして買うやつも多いのだろう。 「いい表情してるよね」と出来上がった写真を宮城がこちらにも見せてくれる。そこに映っている三人は本当に楽しそうにしていて、まるで本物の家族みたいで、うまく言葉が出なかった。本当は、母親が座っているはずの場所に自分がいる。「そーだな」とどうにか返した声が、震えていたのに宮城が気付いていないといいなと思う。 結局朝から夕方の閉園間際まで居座って、土産を買って帰路につく。パークから出た瞬間にうつらうつらとし始めた子供は、駅に着く頃には宮城の腕の中ですっかり熟睡していた。半開きの口から涎を垂らす間抜け面に宮城と顔を見合わせ苦笑して、その髪を撫でる優しい手つきに心臓がぎゅっとなる。 オレは、ボールに触れる宮城の手しか知らない。あまり大きくはないが、節のしっかりとしたバスケットマンの手だ。お前、守りたいもんのことはこんな風に触るんだな。その宮城ごとどうにか守ってやれねーかな、と心底思う。 お前関係ねーだろと言われてしまえばそれまでの、傲慢な考えの自覚はあった。それでも、できねーことはないんじゃねえか。半分以上は、願望かもしれないが。 「楽しんでくれてよかったよね。三井サンほんとありがと」 「いーえ。どーでもいいけど猫が好きだったんじゃねーのかこいつは」 「ファンサにすっかりやられちゃって」
子供の髪に鼻先を埋め宮城が笑う。子供はすっかり、昼飯を食った時にフレンドリーさ全開で触れ合ってくれたプリンのキャラクターに嵌まりきっていた。土産屋で買わされた髪留めとポシェットとアクセサリーで、靴下まで履き替えたせいか上から下までプリン一色である。オレのやった猫のぬいぐるみはしっかりとカバンにしまわれ、ミーハーなやつだぜ、とこぼした。「子供ってそういうとこあるよね」と宮城は眠ったままの子供の頬を人差し指でふにふにとつつく。 最初はぽつりぽつりと会話があったが、夜泣き対応で昨日もあまり眠れていない宮城もまた、電車の座席に座れた瞬間うつらうつらとし始める。必死に起きようとしているが、頭は電車の振動に合わせぐらぐらと揺れた。どうにも抗いきれないらしい。 オレはすぐ「サヤこっちによこせよ」と膝上の子供を半ば強制的に自分のほうに移動させると、「お前は寝てろ」と宮城の頭を引き寄せた。しばらくは乗り継ぎがなく、奇跡的に座れているのだから眠れるなら眠っておいたほうがいい。 オレの肩に頭をあずける形になり、宮城は一瞬戸惑ったようだが眠気には勝てなかったのか「ありあと……」と言うと寝息を立て始める。それを見届けて、ふう、と息を吐いた。膝上の子供がずり落ちないよう、ぎゅっと抱きしめ直す。けれどオレが本当に抱きしめたいのは、隣の宮城だった。 どうすればこのままずっと隣にいられるだろうかと、ガタゴトとやけに揺れる電車の中、ただそればかりを考える。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ5話目(2/2)
18.12.2024 07:23 — 👍 3 🔁 0 💬 0 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 5」、「anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 宮城が「笑わないでほしーんだけどさ」を枕詞に話し始めたので何ごとかと思ったら、「実は、人生で一度も遊園地とよばれる場所に行ったことないんだよね」と深刻な表情で打ち明けるものだからつい噴き出してしまう。 「笑うなっつったじゃん!」 「わりーわりー」 笑わないでいようと気を引き締めるほど、込み上げてくるおかしさでくつくつと肩が揺れる。宮城は真っ赤な顔で、「話が違う」と憤った。笑ってしまったのは申し訳ないが、だって、恥ずかしがるようなことじゃないのにかわいすぎるだろう。本気で謝っていないのはしっかりバレているようで、宮城はじとりとこちらを睨めつけながら「言うんじゃなかった」と吐き捨てた後で舌打ちをする。 「べつにいいだろ、初めてでも」 「笑ったくせに」 「初めてっつう部分に笑ったわけじゃねーよ」 寧ろ、どうでもいい部分で深刻になるからおかしいのだと教えてやる。ふうん、と鼻で返事をした宮城は「そういうもんすか」と腑に落ちない表情で呟いた。 子供の頃は関東住まいではなく田舎にいたから、簡単に連れて行って貰える場所にテーマパークの類いがなかったのだという。そして父親と兄貴が立て続けに亡くなってからは、揃って出かけたり旅行に行ったりするような家族ではなくなっていた。大人になってからは、バスケばかりでそれどころじゃない。修学旅行は、と問うと「寺とか神社とか、昔ながらの観光スポットとか」と答えた。湘北も年によって旅行先が変わると聞くが、どちらにしろそういった施設が一番多いのが関東だから旅行先には選ばれにくいだろう。オレはそもそも参加してねーけどな。 「ぱぱもはじめてなの?」 「そう。いっしょだね」
見つめ合って笑い合う、親子の姿があまりにも絵になるので取り出した携帯電話で写真を撮ってやる。最近の機種は写真の画質もよくなりそれなりの秒数の動画も撮影できるので、便利になったもんだなと思う。ちょっとした遠出のためにカメラやビデオカメラを用意しておく必要がない。 突然写真を撮られ、「なに」と振り返る訝しげな表情は、相も変わらず親子で揃っている。とくに眉の歪ませ方が一緒なんだよな、とおかしくてふっと笑った。 宮城は本当に遊園地自体が初めてなのか、「チケットって事前に予約とかいらないの」と首を傾げている。盆暮れなど余程人が集まる時期なら人数制限対策でそういうものが必要なこともあるだろうが、通常は入口にチケットカウンターがあるのでそこで入場チケットを買えばいい。そう教えてやると、宮城はキョトンとした表情で「へえ」と目を丸くした。「そんなもんなんすね」 「でも、アレだ、今から行くとこは普通の遊園地っつうにはちょっとメルヘン過ぎるかもな」 「そーなの?」 「ジェットコースターみたいな絶叫系のやつはねーから」 今から行く場所はオレも初めてだが、ガイドブックをざっと読んだ限り遊園地と呼ぶには乗り物があまりに少なすぎる。その分ショーなんかは充実しているようだが、初めて行くならもっとオーソドックスな遊園地のほうがよかったのだろうか。 けれど、そこで「サヤちゃんが楽しめるならそれでいーよ」とすぐに言える宮城は感覚がすっかり親目線になっているのだろう。確かに三歳で乗り物の多い遊園地に連れて行かれたところで、身長制限と年齢制限で八割はじかれるのがオチだ。ショーとグリーティングがメインで乗り物もゆっくり回るものしかない屋内につくられたメルヘンなテーマパークの方が、間違いなく三歳女児には合っている。
「ま、絶叫系が多いとこはサヤがでかくなったら連れてってやるよ」 小学生くらいか? 富士急とかいいよな、と絶叫系を全力で楽しんでいた頃の自分の年齢を思い出しながら言うと、何故か宮城が驚いた顔をした。隣で手を繋ぐ子供は「連れてってやる」の部分だけ拾ったのか「お出かけうれしーねえ」と電車の座席で足をバタつかせ、にこにこ声を弾ませている。 道中が順調とはいえ、どこか警戒心が強く変なところで神経質な親子だ。とくに子供のほうは実際テーマパークを前にしたらガチガチに緊張しうまく楽しめないこともあるんじゃないか、なんて危惧していたが、実際は全くの杞憂だった。最寄り駅についた瞬間からはしゃぎっぱなしで、キョロキョロと周りを見渡す度に目を輝かせ、我先にとずんずんと歩く。「こら、落ち着けって」と子供に手を引かれている立場の宮城ですら、あからさまに顔が緩んでいた。最寄り駅から現地に着くまでの間もあらゆるところに装飾があり、歩いているだけで楽しいのだろう。跳ねたり走ったり、随分と忙しないことだ。 到着すると、事前にガイドブックで予習していたオレですら現実離れしたメルヘンな世界観に圧倒されるところだった。土曜だからそれなりに人は入っているが、不快なほどではない。これなら上手く回れそうだなと安堵し、パンフレットを片手に「どこから行くよ」と声をかける。 が、子供の耳にオレの声はまるで届いていなかった。天井の高い一階フロアでスカートを膨らませながらくるくると回り続ける子供に唖然とし「何やってんだあいつ」と呟くと「嬉しさをどう表現していいかわかんないんだよ」とひどく優しい声で宮城は言う。それから動き続ける子供に近づき、両手を広げてふわりと抱き留めた。ああこいつも嬉しいんだな、とその表情だけでわかって、腹のあたりがむずむずとする。こういうのって伝染するもんだな、と初めての感覚に自分の口角がゆるむのがわかった。
パーク内につくられたちいさなシアターで知名度的にはマイナーなウサギによる歌を交えた寸劇を見て、大きな会場に移動して次は有名なキャラクター大集合の歌舞伎もどきを見る。このちいさな世界にも成り上がりシステムがあることに社会の厳しさを感じつつ、子供向けだが大人でも楽しめるようになっている随分と凝った演出には素直に感心した。歌舞伎もどきでメインをはる猫の性別は女のはずだが、アリなんだろうか。なんでもアリか。面白けりゃいいんだろうな、と深く考えることをやめ、目の前の演目を出されたまま楽しむことにする。何せここは独立したメルヘンの世界で、現実とは分断された場所にあるのだ。下手な茶々はいれないほうが、宮城も子供も、より楽しめるだろう。 演出のひとつに「わはは!」と声を上げ笑っていたら、子供を挟み反対側に座る宮城が「アンタ声でけーって」とひそひそ声で眉をひそめた。が、そういう宮城もまた口角は上がりっぱなしで、まるで訓告にならない。「おもしれーよな」と返事をすると、「人の話聞けよ」と即座につっこまれるが、それすら笑い混じりだった。また腹のあたりがむずがゆくなり、誤魔化すように間に座る子供の手をぎゅっと握る。普段なら「なあに?」と見上げてきそうなどんぐり目は、今は目の前の演劇に夢中で手を握られたことにすら気付かない。 正直なところ、少しでも子供が笑えば宮城も安心できるかもしれないと、かなり安直な考えでどこかに連れていこうと思いついた。場所の選択だって真剣に熟考したわけではなく、猫のキャラクターがそんなに好きならそいつがいるところにいけばいいか、くらいのものだ。今更になって、結構ファインプレイだったんじゃないかと気付く。子供は終始嬉しそうにしているし、宮城は初めての場所に戸惑いながらも楽しさを隠しきれないようすで、ひたすら可愛さと愛おしさを更新し続けている。天井知らずかよ、と天を仰いだ。マジでいい仕事したぜオレ。自分で褒めたくもなる。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ5話目(1/2)
ピュー□ランド仲良し回。三サン視点はあと1話でおわりです。
親指と人差し指を曲げ、OKの形で数字の3を示す。親指と小指を曲げる3が、まだできないらしい。「スリーポイントの3だな」と言うと、にんまりと目を細めて笑う。こいつもまた、宮城のバスケが好きなのだ。 バスケットの選手としては随分と小柄ながら、ずば抜けたスピードとクイックネス。に加え、今は精度の高いスリーポイントもまた、プロの現場で戦う宮城の大事な武器だった。自分よりはるかにでかいディフェンスを素早くかいくぐり遠くから放たれるシュートは、見ているだけで気持ちがよく、平伏したくなるほどに格好いい。そんな宮城の姿を、この子供は何度も会場で目にしているのだ。 オレがぬいぐるみをやる前までは、家の中でも外でも、常にバスケットボールを抱えていたという。だからこそ宮城も、自分の娘がぬいぐるみを欲しがるかもしれないという発想に至らなかったのだ。 聞けば、日中はそれなりに長い時間をストバスのコートで過ごしているらしい。それも、自分がやろうとするわけではなく、宮城にドリブルやシュートを見せてもらいたがる。最初に会った時にコートにいたのも、寝る前になって突然シュートを見せろと言い出して聞かなくなってしまったからのようだ。 年相応に可愛いものが好き、でもそれ以上に、バスケをしている宮城が好き。 なかなか見る目があるんじゃねーか、とその審美眼をオレは密かに買っている。が、当の宮城はきっと納得しないのだろう。自分のせいでバスケ一色になってしまい、本当に欲しいものが言えなかったのではないかと気に病んでいる。端から見れば全く的外れでしかないが、宮城を安心させるためにはやはりこの子供を笑わせるほかないのだろう。 「三歳から子供料金だからチケット買わねーとな」 「チケット?」 「明日土曜だろ。遊園地連れてってやるよ」 その猫が住んでる家があるらしいぜ、とぬいぐるみを指差す。「遊園地って」と戸惑いを見せる宮城
の隣で子供は目をキラキラと輝かせ「いいの?」とオレではなく宮城に聞いた。あそこまで期待に満ちた表情で見上げられてしまったら、ダメだとは言い出せないだろうな、と気の毒に思う。案の定、「ダメではないけど……」と曖昧な返事をする宮城は困惑の表情だ。こちらの作戦勝ちだった。 「こっからだと一時間以上はかかるからな、早起きしろよ」 「うん!」 「早起きって……」 「今日はオレも泊まるつもりで着替え持ってきたぜ」と言うと、「アンタほんとそういうとこさあ」と宮城は眉を顰めた。けれど、迷惑さよりとにかく困惑が勝っているのだろう、「客用の布団なんかないよ」とぼそぼそと付け足すので、そういうところがつけ込みやすいんだよなあと呆れた。 「ソファーでいいぜ」 「風邪ひくでしょ。……もういいよ、寝室で一緒に寝よ」 「えっ」 これにはオレのほうが動揺した。まるで意識されていないのは悲しいが、一緒と言われると舞い上がってしまう。それでも、さすがに緊張した。こちとらまだ、現役で好きなのだ。宮城はパーソナルスペースが広く自分のテリトリーに他人を入れたがらないほうだから、てっきりこちらから言い出さずとも「ソファーで寝ろよ!」と一蹴されると予想していた。それがしおらしく「うるさくても怒んないでよ」なんて言ってくるとは。 それぞれが入浴を済ませ、寝相対策で部屋いっぱいに敷き詰められた布団の上に三人で転がり川の字になる。夜驚症の夜泣きもあり子供の存在が大きすぎてやらしい雰囲気にはまるでならなかったが(そもそもが意識されていない)、同じ空間で宮城と家族のように眠るのは、なかなか、けっこう、悪くなかった。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ4話目(2/2)
16.12.2024 07:47 — 👍 4 🔁 0 💬 0 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 4」、「anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 「いや、まあ、来ていいとは言ったけどさ」 言葉を探しながら額に手を当て、うーんと唸る。なんだよ、と思ったのでそのままストレートに「なんだよ」と問うと、「何って、アンタさあ」と、怒ればいいのか呆れればいいのかわからないといった顔で宮城はこちらを見た。 「毎日来ていいとは言ってなくない?」 「迷惑だったか?」 「迷惑とかじゃなくて……」 「じゃあいいじゃねーか。な、サヤ」 「ん!」 チッと舌打ちをした宮城が、「子供味方につけやがって……」とぶつくさ文句を言う。お、そのちょっとむくれてんのもかわいーな、と思うが、そちらは口にしなかった。これでもギリギリ拒否されない塩梅を上手く計算し攻めているのだ。宮城は、フン、と鼻息荒くソファーに座りながら、「アンタ暇なの?」と問うた。「彼女とかつくりゃいいのに」 「そーいうのはいんだよ」 「へー。まあそうか、フラれてベロベロに酔っ払ってたくらいだもんね」 「引き摺るタイプでわりーな」 「……すぐ次にいくよりゃ誠実でしょ」 慰めているつもりなのか気の毒に思ったのか、少しトーンダウンする宮城はその優しさにつけ込まれていることにまるで気付かない。一般論として切り替えが早い男よりはひとつひとつの関係を大切にする男の方が好意的に映ると言いたいのだろうが、引き摺っている期間が十年で、その対象が自分だと知ればきっと反応も変わってくるのだろう。 それにしても、と思う。自宅より数駅前で下車し、駅隣のスーパーに寄り手土産代わりに夕飯用の惣菜を購入し、ここへくる。それは今や、定時退勤後のルーティーンになりつつあった。 一週目は驚きに目を丸くし、二週目は何かを言い淀み口をぱくぱくとさせ、宮城が戸惑っていること
には気付いていた。けれど何も言われなかったのでまあいいだろうと流していたら、三週目の今になってようやくの指摘だ。結構かかったな、と新鮮に感心する。それまでの二週間で一緒に夕飯を食うのが当たり前になるところまできているのだから、言う機会なんかいくらでもあっただろうに。今更「毎日来ていいとは言ってない」とか言われてもな。正直なところ、「今言うのかよ」以外の感想がない。土日なんか当たり前に朝から居座ってただろうが。 「おし、できたぞ」 膝上に乗せていた子供をよいしょと下ろし、「鏡見てきていーぜ」と言うと嬉しそうに洗面所に向かう。宮城はその後ろ姿を目で追いかけ「また上手くなってない?」とぎっちりと編み込まれた上でくるんと輪っかがつくられた子供の髪を凝視した。 子供の頃から、手先は器用なほうだった。バスケを始めた時から他よりシュートが得意だったのも、指先の微かな動きをコントロールする能力に長けていたからだ。子供の髪の編み込みくらい、一度仕組みを覚えてしまえば造作もないことだった。 宮城はどちらかというと、不器用なほうだ。高校の頃から重点的に練習を重ねていたドリブルの技術はずば抜けていたが、シュートのコントロール精度は低く、わかりやすく弱点だった。鍛錬の賜物か今や見違えるほど洗練されたフォームで当たり前に得点を重ねるようになっているが、それは努力の結晶であって元々の不器用さが改善されたわけではないらしい。髪の編み方も実践として何度がやって見せたが一朝一夕で習得はできず、最後は子供の方が気を遣い「パパいつものでいいよ」と言い出して見事に撃沈していた。 手鏡を握りしめ戻ってくる姿を切なげに見つめながら「あんなお姫様みたいな髪型したかったんだなあ……」とぼんやり呟いている。 「ダメだね、男親だとそーいうの気付いてやれねーもん」
「母親がいたときはしてたんじゃねーのか」 「いや、ほんと病気がちだったから……」 話を聞く限り死ぬまでは母親が子供の面倒を見ていたようだったが、凝った髪型にしてやるほどの余裕はなかったということか。飾られている写真で見たところかなりの美人だったが、確かに線は細く病弱そうに見えた。宮城があまりその死を嘆いているようすがなくどこか諦念すら感じるのは、ある程度最悪の事態が予測できる病状だったということか。 口をむにむにと結び、どこかくすぐったそうに笑みを浮かべながら鏡に映った自分の姿を確認する子供は、単純に可愛らしいなと思う。こうして素直に可愛いと思えるようになったのは、毎日当たり前に訪問しているうちにバチバチの警戒心が解かれたことも大きいのだろう。その膝には、オレが渡した猫のぬいぐるみが乗っかっている。それもまた、悪い気はしなかった。 「サヤ、そのぬいぐるみ気に入ってんな」 「きちちゃんすきー」 「ぬいぐるみで喜ぶのも知んなかったな……ごめんね、今まで買ってなくて」 「んーん。ぱぱのほうがだいすき」 子供はぬいぐるみを抱きしめた状態で手鏡だけを放り出し、さらに宮城を抱きしめに行く。宮城の顔からはへにゃりとあからさまに力が抜け、今にも泣き出してしまいそうだった。 おーおーゆるみきってら、とにやにや眺めていると、すぐに気付いてこちらを睨み「なに」と舌打ち付きで返される。その生意気さは昔から変わっていなくて、逆効果なんだよな、と苦笑する。「いーや?」と返事をすると、ぶすくれて視線をそらされてしまった。 「あ、そういやサヤって何歳なんだ?」 「えっ今あ? 言ってなかったっけ、三歳だよ」 「みっつー」
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ4話目(1/2)
復縁狙いの距離詰め三サン、じわじわとリョの生活に侵食の回。
これでも現役時代は作戦を立てるのが上手いほうだったのだ。センスと知性の三井ってな。本格的に押す前に外堀から埋めていくのもまた、戦略のひとつだろう。 少なくとも、ゲロの人という不名誉な称号だけは書き換えたかった。最悪すぎる第一印象を、どう覆していくか。 「お前、サヤっつったか。これやるよ」 そうしてオレのとった行動は、件のぬいぐるみを取り出すことだった。知性の男が聞いて呆れる、完全物頼りの戦術である。子供をプレゼントで釣るって、一番格好悪く頭の悪いやり方じゃないだろうか。嫌になるほど自覚済みだが、他に出せる有効そうなカードは持ち合わせていなかった。 赤いリボンの、そこそこ国民的な猫のキャラクター。それも自分で選んだわけではない、貰い物の粗品の横流し。 ――が、思いのほか食いつきがよかった。一瞬で違いがわかるほど目をきらきらとさせた子供は、ぬいぐるみを見て、それから宮城の顔を見上げて、もう一度ぬいぐるみを見た。「ほら」とビニールから取り出し手渡すと、おずおずと受け取りまじまじとぬいぐるみの顔を見て、ぎゅうっと胸に抱く。その一連の様子に「あら」と声が漏れた。なんだ、かわいーじゃねえか。 「え、ありがと三井サン。いいの?」 「あー、取引先からもらったやつだからよ」 「いろんなとことコラボしてますもんね」 よかったねサヤちゃん、と目尻を下げて子供の顔を覗き込む、お前が一番可愛いけどな、とオレは密かに思う。「ほらサヤちゃん何て言うの?」と続けて宮城が声を掛けると、子供は右に左にと視線を泳がせた後気まずそうに俯き、宮城の服を握りしめたまま「ありあと」と蚊の鳴くような声で言った。それが高校の頃「言い過ぎてごめん」と珍しくしおらしい態度を見せた宮城に重なって、心臓がぎゅっと
なる。顔は似ていないのに仕草や態度がところどころ同じで、ああ親子なのだと思い知らされるばかりだ。 わかってたことだろうが、と首を振る。 「オレは三井寿な。み・つ・い・ひ・さ・し。もうゲロの人って言うなよ」 「ゲロの人であってるじゃんね」 うるせ、とフンと鼻を鳴らすと、何がおかしいのか宮城がケタケタと笑う。だからその顔かわいーからやめろっつの。 子供は神妙な顔で「みち……?」と素直な復唱を試みている。まだ、舌足らずにしか喋ることができないらしい。 「みっちーとかみっちゃんでいいぜ」 「……みっちゃ」 「おう、サヤ。またここ来ていーか」 再びキョロキョロと視線を彷徨わせ、ぬいぐるみを抱きしめてこくりと頷く。欲しい答えを導き出せたことに、よし、と内心ガッツポーズをして、誰より驚き目を丸くしている宮城の顔をにんまりと見た。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ3話目(3/3)
14.12.2024 06:09 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0「いや嘘でしょ」 そりゃ嘘だが。 付け焼き刃の営業ノウハウが全く通用しない宮城は苦笑混じりに、「まあいいや、入る?」と中にオレを招き入れた。「はい」と返事をしたオレに、ちいさな溜息が返される。 前回やってきた時に座ったダイニングテーブルではなく、今度はソファーの置かれたリビング側に案内された。けれど座る場所はソファーではなく、ソファー下の床を選ぶ。それから、ぴし、と背筋を伸ばし、粛々と頭を下げた。渾身の土下座だ。 「先日は、ご迷惑をおかけしました」 まずは謝罪から入らないと、先に進める気がしなかった。迷うことなく床に頭を付けるが、子供用の緩衝材が敷き詰められやけているせいで付けた部分がぐにゃりと沈み込み、なんとも情けない図になる。こういうのは硬く冷たい床でやるのがセオリーなのに、どうにも決まらない。頭上からは、宮城の「ええ……」という困惑した声が降ってくる。 「顔上げなよ」と苦笑する宮城が「アンタそんな律儀な人だっけ」とからかい混じりに言う。バスケに戻る時もちゃんと頭下げただろうがと思うが、確かにこいつに対してはちゃんとした謝罪なんかしたことはなかった。かつての幼さを顧みて、そういうところがダメだったのだろうかと考える。恋愛対象になれなかったのはそれ以前の問題か。今更聞いたって答えは返らないだろう。 ひとまず今はできることを、と「こちらお詫びの品ですが」とケーキ屋の箱を差し出す。それが何故か、宮城にはウケた。手を叩いて笑い、「営業の人じゃん!」と笑いすぎて滲み出た目尻の涙を拭う。そーだよ営業の人だよ。ちなみに中身はケーキではなくプリンだった。そのほうがケーキよりはまだ日持ちするし、子供も食いやすいだろうと思ったのだ。 プリンと聞いて、宮城の後ろにしがみつきずっと隠れていた子供がひょっこりと顔を出す。宮城が
「デザートに食べる?」と問うと、きらきらと目を輝かせた。 しかし結果的に言うと、オレの手土産は完全に失敗だった。出されたプリンを前に子供の目はみるみるうちに陰り、しょんぼりと肩を落としてしまったのだ。なんでだよ、と驚くオレの一方で宮城は手慣れたようすでハイハイとキッチンに引っ込み、今度は冷蔵庫から取り出した三連で売っているタイプの市販プリン一個と白い皿を子供の前に置く。蓋を開け皿の上にひっくり返し、底のつまみをポキッと折ると落ちてくるぷるぷるとしたそれに、子供は再び目を輝かせ、スプーンを握りしめた。 「子供的にはプリンってこっちらしいよ」 ケーキ屋のプリンのほうが美味いのにね、と笑いながら、オレが持ってきたほうのプリンとスプーンを差し出される。「あ、甘いの大丈夫だっけ?」と問う宮城は既に、ひとくちめを口に運んでいるところだった。味わうようにゆっくりと飲み込み「とろけるやつ久しぶりかも」と目を細める。宮城は結構、甘い物が好きなのだ。高校の時もイチゴのなんかとか、わけわからねー新商品をコンビニでよく買っていたような気がする。子供が食わねーなら、イチゴとホイップが乗ったゴテゴテと派手なやつにするべきだったか。もしくは高二のクリスマス、こいつがやけに美味そうに食っていたショートケーキとか。そのほうが、たぶん喜ばれただろう。 「こういうのが美味いとこ、知ってるんすね。仕事の手土産用?」 「いや仕事ではもうちょい日持ちして社員に配りやすいもん選ぶけど」 「ふうん、じゃあ女の子に教えてもらったんだ」 「あ? まあ……」 確かに教えてくれたのは女で間違いない。ただ、女は女でも隣のデスクの女性社員だった。あそこのクッキーとか美味しいから手土産にいいよと言われたのを、勝手に生菓子に変更したのはこちらだが。
ただの同僚だから変な誤解すんなよ、と弁解したくなって、どう考えても弁解が必要な間柄ではなく口を噤む。こいつまさか、オレが今まで女を取っ替え引っ替えしながら十年過ごしてきたとか思ってねーだろうな。もしもそうなら実際とはかけ離れすぎているそれを、どうにか訂正したかった。十年前の清すぎる付き合いを未だ引き摺り続けている事実の方が圧倒的にキモいのはわかりきっているので、何も言うことはできないが。 取り繕い何度否定をしようとしても、正直なところ実際は未だ、こっからどうにかならねーかな、と思っている。だってこいつ、今はシングルなんだろ。結局オレは根っから自分本位な人間で、今更善良になどなれるわけがなかった。すぐには無理だとしても、なんか、どうにか。ここから入れる保険はありませんか。 「あっこら! 服についてるよサヤちゃん!」 「……あ!? サヤちゃんだあ⁉」 「えっ三井サン何」 「おまっ……自分の娘に、昔好きだったやつの名前もじってつけんのはナシだろ‼」 宮城は一瞬何を言われたのかわからないとばかりにキョトンとした後で、「はああ⁉」と眉を顰めて立ち上がる。 「ちっげーよ! アヤちゃんの名前は彩子でしょ、サヤちゃんはサヤコじゃねーから‼」 「そうなのか?」 「そーなの‼ 子供の前で変なこと言わないでくれる⁉」 たまたま似ただけだと宮城は言う。それにしたってあまりに発音が同じじゃねーかと思うが、そういうことではないらしい。 憤慨する宮城もまた久しぶりに見た。懐かしい、と変わってねーな、がない交ぜになる。付き合う前も、付き合ってからも、部活中はこうして衝突してばかりだった。口が上手く妙に頭の回転が速いこい
つにオレは言い負かされてばかりいたが、部活の後に「言い過ぎてごめん」と気まずそうに言いに来た時は、どうにかしてやりたい衝動を抑えるのに随分苦労した。抑えすぎて結局、ひとつも触れられないまま別れることになってしまったが。本来はめちゃくちゃ男らしくかっこいいタチのこいつの一挙一動がオレの目には可愛く映るくらい、気付けばズブズブに嵌っていたし、とにかく好きだった。 今も変わらないってどういうことだよ、と頭を抱える。ふー、と息を吐くオレを見て何を思ったのか、「ほんと違うからね⁉」と焦ったように念を押した。こちらとしては、実際がどうだろうとあまり変わらない。オレが女に負け続けているという事実だけがそこに残っている。たとえばあの時付き合っていたのが彩子だったとしたら、お前は絶対に別れようなんて言い出さなかったろ。だけど別にオレは女になりたいわけじゃないから、そんなたらればは虚しさしか生まない。 口元を汚しながら市販のプリンを平らげた子供は、未だ警戒心を解かないままどんぐりみたいなでかい目でこちらを観察する。落ち着かないのか子供用の食卓椅子からわざわざ降りて宮城の膝によじのぼり、ぎゅっと服を掴んだ。 正直な感想を言えば、かわいくねー子供だ。子供ってもっと愛嬌ある感じじゃないのかよ。普段幼児とかかわることがほとんどないせいで、どう扱えばいいかまるでわからなかった。けれど、これからの宮城とかかわっていくつもりなら、絶対に避けては通れない道だった。万が一にも嫌われるようなことがあれば、宮城に会うことすらままならなくなってしまうだろう。それも、子持ちの女性社員に言われてきたことだった。 「子供蔑ろにする男は一番ナシだからね」と散々念を押されたが、オレだってもちろんそのくらいの良識はある。そもそも、恋愛にかまけて子供を後回しにする宮城は解釈違いだ。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ3話目(2/3)
14.12.2024 06:08 — 👍 2 🔁 0 💬 1 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 3」、「anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 夜驚症。睡眠中に突然、恐怖、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまう状態。医学用語では、睡眠時驚愕症という。 「なるほどなー」 カチ、とマウスをクリックして出てきたサイトをスクロールする。検索をかけヒッとしたページにはいずれも、同じような説明が書かれてあった。デスクに用意したマグカップを手に取り、ずず、と啜り、昼用に買っていたパンを囓る。正確な原因は分かっていないが、環境、身体、心理面、遺伝の要因が発症の引き金と考えられているらしい。その中の一つが、ストレスと不安。落ち着かせるためには、メンタルを安定させる必要があるということか。そう考えると、一旦バスケより子供を優先した宮城の選択は、理に適っている。 「三井くん何調べてんの? ……夜驚症? うちの子もあったなー」 モニターを覗いてきたのは、隣のデスクの女性社員だった。確か三十代半ばの彼女は一応先輩にはあたるが、上司ではない。家庭を優先させながら時短勤務で働いていて、そういえば小学生くらいの子供がいたんだったなと思い出す。 「誰でもなるもんなんすか」 「誰でもかは知らないけど。うちは保育園変えた時になってたよ」 やっぱりストレスか、と納得をする。それにしたって一、二時間に一回あの状態になるのが毎晩となると、いくら自分の子とはいえ宮城の負担は計り知れないだろう。当たり前のように早朝に起きていたのも、ほとんど寝ていないだけじゃないだろうか。よくよく見た宮城の顔は、十年経っていても特別老いは感じなかったが疲れは滲み出ていた。元々はクマが目立ちにくいタイプの顔だろうに、それでも目視ですぐにわかってしまうくらい染みついていたのは、長期にわたって同じ状態が続いているからと考えるのが妥当だ。
「それ、どうやって治ったんすか?」 「どうだろ……なんか自然となくなっていった感じかな」 「なんかきっかけとか」 「え、すごいグイグイくるじゃん。何? 取引先との雑談で出た?」 子供がいないことがわかっている独身男性から子供について詳しく聞かれたら、そりゃあ不審に思うのも無理はない。いっそこのまま話に乗って、今後取り入る予定の取引先との話題ということにしてしまおうか。けれど、こちらが口を開くより先に、さらに向こう側のデスクから「三井が取引先との会話下調べするわけないっしょ」と同期が口を挟んで否定をしてしまう。 余計なことすんなよと思うが、確かにその通りだった。女性社員も笑って、「三井くん素で行ったほうが可愛がられるタイプだもんねえ」と同意をする。褒められているのか、からかわれているのか。 「そう熱心に調べるっていうとアレだろ、女だ女。子持ちの女か」 「えっ三井くん、昔の彼女ふっきれたの⁉」 「いや、ふっきれたっつうか……」 なんでここの部署はオレの情けない恋愛遍歴が筒抜けなんだよ、と思う。取り繕うのが面倒で聞かれると素直に答えてしまう自分と、何かとネタにして会話に挟んでくる同期が主な原因ではあるが、それにしたってもう少し配慮があってもいいんじゃねえか。ネタで長年引き摺ってるわけじゃねーんだよこっちは。 「え、もしかして例の彼女?」 それから、妙に核心を突いてくるのもやめてほしい。 「は⁉ 元カノ子持ちになってたのか⁉」 「うるせー! 十年会ってなかったから知らなかったんだよ!」 「わー……ご愁傷様……」 「お前いくら十年好きだろうと子持ち略奪はダメだろ」
「不倫はよくないよ」 「いや、なんか相手が半年前に亡くなったらしくて一人で子供を」 「未亡人‼」 「お前さっきからうるっせえな!」 「死別シングルかあ……でもさすがにまだ、次にいく気持ちにはなれないんじゃない?」 ぐ、と言葉に詰まる。女性社員の言うとおりで、今のアイツに取り入る隙はないだろうというのは、なんとなくわかっていた。 いや違う、そんな下心があって再び近付こうとしているわけではない。ただ、アイツが大変そうなら少しでも何かやれることがあるんじゃねーかと思って。偶然とはいえ、状況を知ってしまったわけだし。 それに、オレはアイツのことが好きなままだけれど、それを差し置いてもアイツのバスケが好きで、アイツだって間違いなくバスケのことは好きなはずで、安心してチームに戻れるようにしてやりたいだけだ。もちろん、自分の子供をないがしろにしてほしいわけではない。それでも、子供が安定さえすれば、話が変わってくるだろうと思うのだ。 というところまで、同僚たちに説明できる気はしなかった。そもそも昔付き合ってたやつと濁したせいで勝手に元カノということにされてしまっているが正確には元彼だし、死別のシングルマザーではなくファーザーのほうである。「子供には父親もいたほうがいいとは言うけどねえ」というフォローは、全くの的外れでしかなかった。父親なら既にいる。新しく必要になる属性がいるとしてそれは母親のほうだけれど、その事実からは全力で目を逸らしていたかった。 口を噤んで喋らなくなったオレを気の毒に思ったのか、女性社員が「これ、取引先に貰ったんだけどいる?」とビニールに入ったぬいぐるみを取り出す。赤いリボンが耳にくっついた猫のキャラクターは、キャラものに弱いオレでも知っていた。企業とのコラボ商品らしい。
「いいんすか」 「うちの子もうこういうので喜ばなくなっちゃったから」 相手の子、いくつなの? という問いに、そういえばいくつだったのだろうと内心首を捻る。おそらくぬいぐるみを嫌がる年代ではないはずだ。女だったし。ひとまずできたきっかけに感謝して「今度なんか奢ります」と頭を下げた。女性社員は目を丸くして「ガチなんだねえ」と驚いている。 ◇ そうだよ、ガチなんだよ。筋金入りだこっちは。 ――と、半ば開き直りながらやってきたつもりだった。インターホンを押し、開かれたドアの向こう側にいたそいつと実際に対峙し、急に尻込みしたくなる。考えなしにきてしまったが、早まったか。訝しげに眉を歪ませこちらを見上げる、どんぐりみたいなでっかい目。髪は二つに結ばれ、小さいリボンがついている。今ここで逃げるのは、どう考えても不可能だった。オレはいつも後悔が遅い。 「こ……んにちは、お父さんいるかな」と発言する自分の不審者ぶりよ。 数秒の沈黙の後、子供は後ろを振り返り、部屋の中に向かって大声を出す。 「ぱぱー! げーの人来たー!」 オレの第一印象どうなってんだよと思うが、ほぼほぼ間違いはなかった。ゲロの人。 「こら! 勝手に開けたら危ないって何度も……えっ三井サン?」 何しに来たの? と訝しげに問う、その眉の歪ませ方が二人そっくりで泣きそうになる。何しに来たんだろうな、とオレでも思うが、さっきよりもさらに引き下がれない状況に半ばやけっぱちで口角を上げ、「よお」と右手を挙げた。日頃の営業で培ったノウハウさまさま。適当にその場を切り抜けるのは得意な方だ。 「近くに用事があったから顔見に来たぜ」
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ3話目(1/3)
実子ではない子を実子として育てる墓まで持っていく話です。ここから入れる保険を探す諦めの悪い男の3話。
のが見知らぬ酔っ払いとなると、さらに事態は深刻なんじゃないだろうか。迷惑どころの騒ぎじゃない。 「そういやお前、嫁って――」 まさか夜のうちに出て行かれてねーだろうな、と続けようとしたところで、突然の「あー!」という金切り声が言葉を遮る。耳をつんざくような大声は、子供の泣き声だった。ほとんど叫ぶようなそれに驚いていると、宮城は慣れたようすで「ちょっとごめん」と立ち上がり、奥の部屋へと向かう。 じっと待っていられるたちではないので、不躾だとわかっていながら部屋のようすを後ろから覗き見た。寝室にしている部屋なのか、ベッドではなく敷き布団が床いっぱいに敷かれている。その上でジタバタと暴れては泣き叫ぶ二歳か三歳ほどの子供を、宮城が抱き上げ宥めていた。 「だいじょーぶ、だいじょーぶ」という落ち着いた声で背中をトントンと叩いているが、子供は腕の中でも暴れ続けている。あれほどまで全力で泣き叫んでいて、宮城の声はちゃんと耳に届いているのだろうか。 それ、大丈夫か。救急車とかいるんじゃねーか。なりふり構わず暴れ泣く子供を前に動揺するオレの一方で、手慣れた様子の宮城は冷静だった。「三井サンもごめん、大丈夫だから」と落ち着いた声でこちらへの配慮も忘れず、「よーしよーし」と赤子をあやすように子供に向き合っている。泣き叫んでいる時間はおそらく五分にも満たなかったが、オレにとっては永遠にも感じるような時間だった。次第にトーンダウンし、しゃくりあげながら宮城の腕の中で再び眠りにつく姿を見ていると気が抜けて、へなへなとその場にしゃがみ込む。 「なんでアンタがそんなになってんの」 子供を再び布団の中にしまいこみ寝かせた宮城が、苦笑交じりにこちらへ手を差し伸べる。「驚かせてごめんね」と言う宮城のようすに動揺はない。 その手をとって立ち上がりながら「今の」とオレは問う。宮城は苦笑いの表情はそのままに、「いつものことだから」と言った。――いつもなのか? 「最近、ああなんだよね。一時間か二時間ごとに起きちゃう」
「大丈夫かよ。なんかビョーキじゃねえのか」 言ってから発言の無神経さに気付くが、宮城が不快感を見せることはなかった。ただ、「原因わかってるから」と困ったように笑う。 「お母さんがいなくなって不安定なんだよ」 「いなくなって、って」 「……半年くらい前に、亡くなって。そっから夜驚症みたいになっちゃって」 やきょうしょう。今みたいに、子供が泣き叫ぶやつのことだろうか。何も言えなくなったオレを気遣ってか、宮城は「病気だったのは母親のほうで」と付け足した。病死らしい。そして子供はメンタルが不安定になっているだけで、病気ではない。 発表された宮城の試合欠場、怪我でもスキャンダルでもない私的な事情。こういうことか、と腑に落ちる。嫁を亡くし、不安定な子供を一人で抱えた状態で、シーズンを迎えたチームに帯同することができなかったのだろう。 「大人になるといろいろあるよね」 そう呟く宮城の笑い方は、高校の頃と似ているようで、やっぱりどこか、大人びていた。
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ2話目(2/2)
11.12.2024 16:34 — 👍 2 🔁 0 💬 0 📌 0印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「墓まで持っていく話 2」、「anko2mochii2」と記載されています。 以下は本文の内容です。 最悪な夜を越え、さらに最悪な朝がやってくることもあるのだと二十八年生きてきて初めて知った。ズキズキと痛む頭を抱えて蹲り、見知らぬ天井ならぬ見知らぬ床に這いつくばる。夢だよな、と一縷の望みを掛けた現実逃避はほどなくして上から降ってきた「アンタさあ」という呆れ声に打ち崩され、これ以上ないはずの最悪はさらに更新された。こんなことってあるかよ。 自分から会いに行くことはできないが、それでも再会することがあれば少しでも大人になった自分を見せたいと思っていた。たとえバスケをやめていても、社会人としてはそれなりに真っ当に生きているのだとせめて恥ずかしくない姿で。久々に会った宮城がそういえばこの男と付き合っていたこともあったなと思い出した時、ほんの一ミリも後悔されたくなかったのだ。若気の至りと笑うのはいい。ただ、消したい過去にだけはなりたくなかった。 ――現実は、これだ。完全に記憶抹消コース待ったなし。ゾンビ以下のどう見繕っても落ちぶれた醜態を晒しながら、もういっそ殺してくれとさえ思う。 大きな溜息の後、何か言いたげな数秒を経て「とりあえず、なんか飲む?」と宮城が問う。その申し出をスマートに断る余裕すらなく、「頼む……」とガサガサの地鳴りのような声で返事をした。「おっけ」と返される声は、軽快だが苦笑交じりだ。 ヨロヨロと案内されたダイニングテーブルにつき、用意された湯飲みに手を伸ばす。中に入っていたのは熱い茶で、飲むと少しだけ気分の悪さが落ち着いた。 「……ジャスミン?」 「さんぴん茶。二日酔いにもいいらしいよ。ウコンほどじゃないだろーけど」 「わりい……」 「ほんとにね」ふ、と鼻で笑い宮城は続ける。「十年ぶりで最初にやんのが介抱って、どんな再会なのマジで」 その声には変わらずわずかの呆れが含まれているが、本気で怒っているようすはなかった。一瞬安心しかけて、いや十分キレられていいレベルの迷惑行為だったろ、と昨晩を思い出し言葉に詰まる。それすら「わはは、落ち込んでんの」と茶化してくれる宮城は、十年の間に随分
と優しくなったのかもしれない。その事実により落ち込む。ちくしょう、大人になった姿を見せんのはこっちのはずだったんだよ。今のところ、思い通りになっていることは一つもない。 最悪の始まりとなった昨晩の記憶を遡る。 宮城に子供がいるという事実に打ちひしがれ、もともと回っていた酔いがさらに回り、フェンスにもたれ掛かりながらずるずると崩れ落ちたオレは、そのまま意識を飛ばした。とはいえ気絶したのは一瞬で、アスファルトの上に倒れ込んだ衝撃でかろうじて意識は戻った。ただ、朦朧としていて起き上がることができなくなってしまったのだ。どうにか上体だけでも起こせないかと試み、けれどそれは、酔いがピークに達している時にとる行動としては完全に悪手だった。腹に力を入れたことでさらに一周胃の中がぐるりとまわり、よりにもよってそのまま寝ゲロ。穴があったら埋めて欲しいとあんなにも強く思ったのは初めての経験だった。 宮城の介抱は手早かった。フェンス越しに状況を即座に把握し、傍らの子供に動かないよう言い聞かせオレの元へ駆け寄ると、まず気道確保の姿勢をとらせることから始めた。あれはどちらかというと、介抱ではなく救護だったなと朧気な記憶を辿りながら思う。このまま埋めて殺してくれというオレの願いなど知る由もなく、オレの呼吸と意識の確認をしっかりと済ませた宮城は「急性のアルコール中毒かも、救急車呼びますか」と問うた。それから、弱々しく首を振るオレの意図を組んで「じゃあ、とりえず移動しますよ」とゲロにまみれたオレをかまうことなく背中におぶって立ち上がり、フェンスの中でおとなしく待っていた子供に優しく声をかけると、公園からほど近いアパートへとオレを連れ帰ったのだった。 ゲロまみれで背負われている状況、どう見たって大人になりきれていないぐずぐずの自分と、行動も判断も早い親になった宮城。すべてが絶望的で、背負われ運ばれていく道中オレは何度も「ころしてくれ……」と唸った。 「下ろしてくれ」と聞き間違えたのか、宮城は呆れたようすで「アンタここで下ろしたらまた道路に転がるでしょ」と言った。「道路で寝てて、轢かれて死ぬ人もいるんだから」と少しの怒気を含ませながら続けられたのを、ぼんやりと記憶している。
いっそ、そのほうがマシだったんじゃねーか、と一晩経った今は思う。部屋についた後、蒸しタオルでゲロにまみれた顔周りを軽く拭ってくれたのは宮城だ。さすがに着替えは自分でしたが、部屋着を用意してくれたのも、汚れた服を洗濯してくれたのも宮城。簡易的に布団を敷き、「とりあえず休んでったら」と寝床を用意してくれたのも当然宮城である。 どうすんだよこの状況、と頭を抱える。どこまでも打ちひしがれるしかないが、ただの二日酔いとしか認識していないらしい宮城は「頭痛薬いる?」とトンチンカンなことを言う。「いらねえ……」と返した声が、少しずつ普段通りに戻っていることだけが唯一の救いだった。 「三井サンさあ、いつもこんな飲んでんの?」 「いや、久しぶりにこんなに飲んだ」 「ふうん。それならいいけど」 宮城は少し考えたあとで、「失恋でもした?」と問うた。茶化すような声だが、なかなか核心を突いていて笑ってしまう。「そーだよ」と不貞腐れつつも開き直りながら、オレは頷く。まさか肯定すると思っていなかったらしい宮城は、目を丸くして「ごめん」と言った。 こいつは、オレをヤケ酒に走らせたのが十年前の失恋で、自分が当事者だと聞いたらどんな顔をするだろうか。そんな情けない白状をするつもりはないが、その可能性を露程も考えていなさそうな宮城を前に経過した時間の長さを実感し、心臓の奥がちくりと痛む。 「……相手の子も、勿体ないことするね」 お前が言うか、とさすがに呆れた。どの口が、と恨み言を言わずに済んだのもまた、十年という時間のおかげかもしれない。置いて行かれてばかりだが、こちらもそれなりに大人になっている。困らせるだけの会話は不毛でしかなく、自分をさらに虚しくさせるだけだということくらい、ちゃんとわかっていた。 「酔い潰れて寝ゲロ吐くやつはダメだろ」 「だはは、それはそーかも」 テーブルに頬杖を突いて笑う。その笑い方は、高校の頃とほぼ同じだった。記憶って美化されるんじゃねーのかよ、と喉のつかえを誤魔化すように湯飲みに残った茶を一気に流し込む。ここでまた、好きだという気持ちを更新させてどうする。それこそ不毛だ。
「気持ち悪かったらシャワー浴びてっていーよ」 まだ早朝だし、と宮城が親指で差す時計に表示された時刻は五時台だった。「土曜って仕事あるんだっけ? 間に合うよね」と問う宮城があまりに普通の態度でいるから、なんとなくもっと遅い時刻のような気がしていたが、よくよく見てみると窓の外はまだ夜と違わず明かりがない。人によるが、五時台というとまだ寝ている人が大半ではないだろうか。早朝起床、アスリートってこんなもんだったっけ。自分も実業団時代はそれなりに規則正しい生活を送っていたが、プロとなるとさらに過酷というわけか。確かに大学時代は朝練のためにこのくらいの時刻には起きていたなと納得しかけたところで、いやこいつは今期は無期限の試合欠場を発表したところだろうが、と違和感に眉を顰める。怪我でもねーのに、試合に出ないだけで練習にはフルで参加しているというのは、ちょっと考えがたい。早く起きていたいつもの癖が、抜けていないだけだろうか。 「土曜は会社ねーけど。でも迷惑だろ、さすがに」 「えっ迷惑とかわかるようになったんだ」 「おめーの中でオレはどんなやつなんだよ」 「んー……久しぶりの再会で寝ゲロ吐くやつ?」 「まじで悪かった」 ぐうの音も出ないストレートな評価を持ってこられてしまうと、こちらとしては頭を下げるしかない。少しも気にしていないというふうに、だはは、と再び笑った宮城は「失恋はしょうがないすよ」と、ぽつりと呟くようなトーンで付け足した。 その優しい声に、鼻の奥がつんと痛む。これはまずいな、と自分でもわかった。このままここにいたら、そのうち必死に纏っている大人のメッキが剥がれ、泣きわめいて更なる醜態を晒してしまいそうだ。現実を思い出せ、と自分に言い聞かせる。目の前の宮城はオレと付き合っていたことなんかすっかり忘れ、今は所帯を持っているんだろうが。既に恋愛だとか失恋だとかを通り越したところで、生活を送っている。 ――つーか、ゲロまみれの男を連れ帰ってくる夫って普通に喧嘩案件じゃねーか? 今更ながらに気付く。宮城の嫁の顔はまだ見ていないが、酔っ払って帰宅しただけで離婚問題にまで発展した会社の先輩の話を以前聞いたことがあった。連れ帰った
別れた後十年引き摺り続けていた三と、知らぬ間に子持ちシングルになっていたリョが再会して始まる三リョ2話目(1/2)
実子ではない子を実子として育てる墓まで持っていく話です。再会、寝ゲロ、お持ち帰りの2話。
最高最高最高!!!!!!!読みながら大はしゃぎしてしまった 大好きです
06.12.2024 05:15 — 👍 1 🔁 0 💬 0 📌 0R18⚠️三リョ
ほぼどうてい(自称)の三がリョへの長年の執着を隠してセフレになる話
絡まってほどけない | 吐 #pixiv www.pixiv.net/novel/show.p...
必死になってたら洗濯機まわすの忘れてたので待機時間で今から原稿やります
05.12.2024 15:51 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0お誕生日~~!!!!既製品貼るだけなのに1時間以上かかった😂
配置のセンスはご愛嬌🥳
指先にのせるボール回しを両手でやる三。2周年だからボール2個まわし!リョが小さく「来年は3個回すのかな…」と思いながら見ている
🪩
03.12.2024 07:50 — 👍 49 🔁 11 💬 0 📌 0ゆるくピースするリョ。2024.12.3 TFSD 2nd anniv.
🎉
03.12.2024 07:26 — 👍 63 🔁 12 💬 1 📌 0