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サトウ

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妄想/感想呟き用垢 20↑ 根っこは雑食の☿兄弟好き 同棲してる兄弟妄想垂れ流し中

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「ラウダって集中すると口が尖るよな」
 そう言って、僕の真似をするように唇をつき出した兄さん。愉快に山なりになった眼へ、僕は口端を引き締めてしまう。
「注意なら、言葉だけで十分だよ」
 リビングで課題なんてするんじゃなかった。
 自分でも幼稚な癖だとわかっている分、揶揄われた恥ずかしさがある。兄さんも、わざわざ言わなくっていいのに。僕が気にしていることを知っているくせに、悪い人だ。
 僕は課題を中断して、行儀悪く頬杖をついた兄さんへ何か言ってやろうと向き直った。
 けれど、未だに口をすぼめている兄さんは、怒りのポーズをとる僕にも笑ってばかり。
「注意じゃないからな」
 柔らかな衝突と共に香る香水。それが僕の贈ったものだと気付いてしまえば、一瞬で心が晴れ渡る。
「課題、頑張れよ」
 そして、不意を突かれて固まった僕の頭を数度掻き撫でた兄さんは、満足そうに去っていった。
 気紛れな猫に構われた気分。僕は兄さんの鼻歌を聞きながら、その背中で揺れる尻尾が見える気がしていた。

「ラウダって集中すると口が尖るよな」  そう言って、僕の真似をするように唇をつき出した兄さん。愉快に山なりになった眼へ、僕は口端を引き締めてしまう。 「注意なら、言葉だけで十分だよ」  リビングで課題なんてするんじゃなかった。  自分でも幼稚な癖だとわかっている分、揶揄われた恥ずかしさがある。兄さんも、わざわざ言わなくっていいのに。僕が気にしていることを知っているくせに、悪い人だ。  僕は課題を中断して、行儀悪く頬杖をついた兄さんへ何か言ってやろうと向き直った。  けれど、未だに口をすぼめている兄さんは、怒りのポーズをとる僕にも笑ってばかり。 「注意じゃないからな」  柔らかな衝突と共に香る香水。それが僕の贈ったものだと気付いてしまえば、一瞬で心が晴れ渡る。 「課題、頑張れよ」  そして、不意を突かれて固まった僕の頭を数度掻き撫でた兄さんは、満足そうに去っていった。  気紛れな猫に構われた気分。僕は兄さんの鼻歌を聞きながら、その背中で揺れる尻尾が見える気がしていた。

同棲ラウグエ

04.04.2025 14:36 — 👍 7    🔁 0    💬 0    📌 0

【通販】
此方のラウグエ本の在庫が復活致しました❣️よろしくお願いいたします🙇🏻‍♀️‪‪

31.03.2025 16:15 — 👍 3    🔁 3    💬 0    📌 0
 玄関扉を開けたとき、明かりがついていることがうれしい。知らず強張った身体が静かに解けて、朗らかな声が喉からまろび出る。
 手癖で作った名もなき料理に微笑んでくれることがうれしい。くたくたに煮込んだ野菜と肉を、気持ち多めに器へ盛ってしまう。
 同じ香りに包まれることがうれしい。どこの名湯なのかは忘れてしまったけれど、薄く色の付いた湯に浸れば僕の疲れも吹き飛んでしまう。
 あたたかなリビングへ行けば、そこへ兄さんもいることがうれしい。二人用のソファで寛ぐ兄さんに、言葉にできない大きなよろこびを感じてしまう。
 新しいソファカバーを買うと言った兄さんは「何がいい」と僕へタブレットを見せた。「兄さんの選ぶものならなんでも」と答えそうになるけれど、それじゃあ駄目だと何度も言われたから、僕の好みで二つ三つと指差した。
 二人で決めることが大切なんだと、兄さんはいつも言っている。兄弟になったときから、そして、恋人になってからも。
 だから、家も、家具も、使う食器だって、僕らが相談しながら決めてきた。いま座っているソファだって同棲を始めた時に二人で買ったもの。深みを増したウォールナットの木枠には、過ごした日々でついた細やかな傷が残っている。僕らが選び決めてきた結果たちが、僕らの生活を囲んでいるのだ。
 僕はひじ掛け部分にある滑らかな木肌を撫でながら、二人で決めた関係が今も続いている奇跡に感動する。兄さんが僕を受け入れてくれたことへの驚きは未だに残っているし、「どうして」という思いも消えはしない。

 玄関扉を開けたとき、明かりがついていることがうれしい。知らず強張った身体が静かに解けて、朗らかな声が喉からまろび出る。  手癖で作った名もなき料理に微笑んでくれることがうれしい。くたくたに煮込んだ野菜と肉を、気持ち多めに器へ盛ってしまう。  同じ香りに包まれることがうれしい。どこの名湯なのかは忘れてしまったけれど、薄く色の付いた湯に浸れば僕の疲れも吹き飛んでしまう。  あたたかなリビングへ行けば、そこへ兄さんもいることがうれしい。二人用のソファで寛ぐ兄さんに、言葉にできない大きなよろこびを感じてしまう。  新しいソファカバーを買うと言った兄さんは「何がいい」と僕へタブレットを見せた。「兄さんの選ぶものならなんでも」と答えそうになるけれど、それじゃあ駄目だと何度も言われたから、僕の好みで二つ三つと指差した。  二人で決めることが大切なんだと、兄さんはいつも言っている。兄弟になったときから、そして、恋人になってからも。  だから、家も、家具も、使う食器だって、僕らが相談しながら決めてきた。いま座っているソファだって同棲を始めた時に二人で買ったもの。深みを増したウォールナットの木枠には、過ごした日々でついた細やかな傷が残っている。僕らが選び決めてきた結果たちが、僕らの生活を囲んでいるのだ。  僕はひじ掛け部分にある滑らかな木肌を撫でながら、二人で決めた関係が今も続いている奇跡に感動する。兄さんが僕を受け入れてくれたことへの驚きは未だに残っているし、「どうして」という思いも消えはしない。

兄さんの愛情を信じられないからじゃない。ただ、兄さんの恋人に僕は相応しいのかと、自分自身で疑ってしまうからだ。
 僕は兄さんへ毎日のように喜びを与えられているわけではないし、恋人らしいサプライズだって苦手だ。デートをしたときにも、なんだかんだと兄さんのスマートさに救われることがいくつもあった。隣に並ぶとわかってしまう兄さんの完璧さ。僕が彼の恋人なのだとアピールしなければ、つまらない僕より優れた誰かに振り向いてしまうかもしれないと、ありもしない恐れを抱くことだってあった。
 社会に出てからは学生のような自由時間が減ってしまって、余計にその差を感じてしまう。僕がこの幸せに浸かって噛み締めている間にも、兄さんを退屈させているんじゃないかと、時折考えてしまうのだ。
 ルーティンで過ごす毎日にスパイスのような刺激を。
 もしかしたら、ソファカバーを買うことだってそうなのかもしれない。
 遅れて気付いた僕は、自分から言い出せなかった愚鈍さに猛省する。そして、与えられてばかりでは駄目だと、奮起してお伺いの声を上げる。
「兄さん、今度の休みは一緒に出掛けない?」
「ソファカバーを買わないといけないし、いいぞ」
「それもだけど……」
「だけど? 他に行きたい場所があるんだな」
 柔らかに撓う眦。優しい表情で見つめられると、自然と顔が熱くなってくる。その眼差しだけで伝わる愛へ僕は溺れてしまいそうだ。
「例えば、ディナークルーズとか、さ。兄さん、海に行きたいって言ってただろ」

兄さんの愛情を信じられないからじゃない。ただ、兄さんの恋人に僕は相応しいのかと、自分自身で疑ってしまうからだ。  僕は兄さんへ毎日のように喜びを与えられているわけではないし、恋人らしいサプライズだって苦手だ。デートをしたときにも、なんだかんだと兄さんのスマートさに救われることがいくつもあった。隣に並ぶとわかってしまう兄さんの完璧さ。僕が彼の恋人なのだとアピールしなければ、つまらない僕より優れた誰かに振り向いてしまうかもしれないと、ありもしない恐れを抱くことだってあった。  社会に出てからは学生のような自由時間が減ってしまって、余計にその差を感じてしまう。僕がこの幸せに浸かって噛み締めている間にも、兄さんを退屈させているんじゃないかと、時折考えてしまうのだ。  ルーティンで過ごす毎日にスパイスのような刺激を。  もしかしたら、ソファカバーを買うことだってそうなのかもしれない。  遅れて気付いた僕は、自分から言い出せなかった愚鈍さに猛省する。そして、与えられてばかりでは駄目だと、奮起してお伺いの声を上げる。 「兄さん、今度の休みは一緒に出掛けない?」 「ソファカバーを買わないといけないし、いいぞ」 「それもだけど……」 「だけど? 他に行きたい場所があるんだな」  柔らかに撓う眦。優しい表情で見つめられると、自然と顔が熱くなってくる。その眼差しだけで伝わる愛へ僕は溺れてしまいそうだ。 「例えば、ディナークルーズとか、さ。兄さん、海に行きたいって言ってただろ」

 [社会人 デート]で調べた知識を引っ張り出して口にしたが、ソファカバーを買いに行った足でクルーズ船へ乗るのは自然だろうかと考えてしまう。海へ泳ぎに行くことはあってもクルージングは初めてだ。荷物の持ち込みに制限はあるのだろうか。ソファカバーは嵩張るだろうし、もし無理そうなら近場のロッカーへ預けるしかないだろう。それに、ドレスコードも確認しないと。いっそ夕方に一度帰宅して、出直した方が都合もいいだろうか。
 そんな風に僕がデートのプランを立てていると、数度瞬きをした兄さんが口を開いた。
「なんだ。プロポーズの誘いだったのか」
「プロポーズ⁉︎ まだ指輪だって準備してないのにっ」
 思いもしない言葉を聞いて咄嗟に否定する。恋人として己の不甲斐なさを叩きつけられている僕が、兄さんにプロポーズだなんて。せめて、兄さんの隣に並んでも恥ずかしくない恋人になってからじゃないと、見合わないだろ。
 けれど、兄さんは「違うのか」と残念そうで、僕は余計に慌ててしまう。
「プ、プロポーズなら指輪を用意してからじゃないと。その日から付けていてほしいし……」
「それなら俺も。プロポーズの場所は家がいいな。告白だってここだっただろ」
 言いながら繋ぎ合わされる手。水かきへと引っ掛けられた兄さんの薬指に意識が向いてしまう。まだ裸のそこへ僕と同じ指輪がはまる未来。それを想像してしまえば一も二もなく心が勇んでしまう。

 [社会人 デート]で調べた知識を引っ張り出して口にしたが、ソファカバーを買いに行った足でクルーズ船へ乗るのは自然だろうかと考えてしまう。海へ泳ぎに行くことはあってもクルージングは初めてだ。荷物の持ち込みに制限はあるのだろうか。ソファカバーは嵩張るだろうし、もし無理そうなら近場のロッカーへ預けるしかないだろう。それに、ドレスコードも確認しないと。いっそ夕方に一度帰宅して、出直した方が都合もいいだろうか。  そんな風に僕がデートのプランを立てていると、数度瞬きをした兄さんが口を開いた。 「なんだ。プロポーズの誘いだったのか」 「プロポーズ⁉︎ まだ指輪だって準備してないのにっ」  思いもしない言葉を聞いて咄嗟に否定する。恋人として己の不甲斐なさを叩きつけられている僕が、兄さんにプロポーズだなんて。せめて、兄さんの隣に並んでも恥ずかしくない恋人になってからじゃないと、見合わないだろ。  けれど、兄さんは「違うのか」と残念そうで、僕は余計に慌ててしまう。 「プ、プロポーズなら指輪を用意してからじゃないと。その日から付けていてほしいし……」 「それなら俺も。プロポーズの場所は家がいいな。告白だってここだっただろ」  言いながら繋ぎ合わされる手。水かきへと引っ掛けられた兄さんの薬指に意識が向いてしまう。まだ裸のそこへ僕と同じ指輪がはまる未来。それを想像してしまえば一も二もなく心が勇んでしまう。

「今度の休み、指輪を見に行こう」
 先程まで叫んでいた理性の葛藤が嘘みたい。今すぐにでも跪いてしまいたい身体を抑えた僕は、するりと我欲に塗れた言葉を紡いだ。いくらなんでも性急すぎやしないか。でも、このタイミングしかないだろう。
「そうしよう。楽しみだな、ラウダ」
 喜びに強まる力。兄さんから手を揉まれるたび、風船のように僕の気分も浮ついていった。
「幸せ過ぎておかしくなりそう」
 僕らは見つめ合いながら、染み付いた動きで口を合わせた。もう数えきれないほどしているのに、触れ合う一瞬にはまだ緊張してしまう。
 数秒のふれあいの後、僕から離れていく顔はほのかに火照って酔っているみたい。今にも落涙しそうなほど瞳を潤ませた兄さんは、戯れのように鼻先を擦り合わせてきた。
「俺も、いつもそう思っているよ」
 その一言で、僕はバターのように溶けてしまった。

「今度の休み、指輪を見に行こう」  先程まで叫んでいた理性の葛藤が嘘みたい。今すぐにでも跪いてしまいたい身体を抑えた僕は、するりと我欲に塗れた言葉を紡いだ。いくらなんでも性急すぎやしないか。でも、このタイミングしかないだろう。 「そうしよう。楽しみだな、ラウダ」  喜びに強まる力。兄さんから手を揉まれるたび、風船のように僕の気分も浮ついていった。 「幸せ過ぎておかしくなりそう」  僕らは見つめ合いながら、染み付いた動きで口を合わせた。もう数えきれないほどしているのに、触れ合う一瞬にはまだ緊張してしまう。  数秒のふれあいの後、僕から離れていく顔はほのかに火照って酔っているみたい。今にも落涙しそうなほど瞳を潤ませた兄さんは、戯れのように鼻先を擦り合わせてきた。 「俺も、いつもそう思っているよ」  その一言で、僕はバターのように溶けてしまった。

同棲ラウグエ

09.03.2025 00:50 — 👍 7    🔁 0    💬 0    📌 0

弟の色だといって段ボール一杯の蜜柑を沢山買ってきた兄さんに「兄さんが食べたかっただけでしょ」と言いつつ兄さんの分まで皮をむく弟

19.02.2025 12:29 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
「愛してる」
 真剣な顔で見つめても、隣のラウダは眉ひとつ動かさない。
 おかしいな、学生の頃はこれで一発だったはずだ。
 思惑とは違う結果に、グエルの頭が斜めに傾いていく。部屋に流れる沈黙。すると、今度はラウダが口を開いた。
「グエル、僕の最愛」
 そう言って、ラウダはクッションへ落ちたグエルの手を優しく握って持ち上げた。
 彼の放った歯の浮くような台詞は、それだけなら笑って返せるものだ。それなのに、グエルは足から這い上がる良くない予感を感じとっていた。彼は負けじと口元を引き締めラウダを見た。
 あくまで無抵抗の姿勢を崩さないグエル。力を抜いて緩やかに開いた彼の手のひらへ、ラウダの頬が寄せられる。
「僕はグエルのことを、この世の誰よりも愛しているよ」
 しかし、ここでトドメとばかりに母指球の膨らみへ触れたラウダの唇。
 数秒前のまろやかな声に鼓膜を震わせたグエルは、湿った熱の広がる感触で後ろへ跳ねた。
「キスは反則だろ」
 右手を引き抜いたグエルは、顔を赤らめながらも己の勝利だと抗議の声をあげる。けれど、そんなグエルを眺めるラウダは、グエルの間違いを一つ訂正する。
「キスの前から照れてたよ」
 勝利者にのみ許される、からかいを含んだ余裕の笑みはラウダの顔に飾られていた。

「愛してる」  真剣な顔で見つめても、隣のラウダは眉ひとつ動かさない。  おかしいな、学生の頃はこれで一発だったはずだ。  思惑とは違う結果に、グエルの頭が斜めに傾いていく。部屋に流れる沈黙。すると、今度はラウダが口を開いた。 「グエル、僕の最愛」  そう言って、ラウダはクッションへ落ちたグエルの手を優しく握って持ち上げた。  彼の放った歯の浮くような台詞は、それだけなら笑って返せるものだ。それなのに、グエルは足から這い上がる良くない予感を感じとっていた。彼は負けじと口元を引き締めラウダを見た。  あくまで無抵抗の姿勢を崩さないグエル。力を抜いて緩やかに開いた彼の手のひらへ、ラウダの頬が寄せられる。 「僕はグエルのことを、この世の誰よりも愛しているよ」  しかし、ここでトドメとばかりに母指球の膨らみへ触れたラウダの唇。  数秒前のまろやかな声に鼓膜を震わせたグエルは、湿った熱の広がる感触で後ろへ跳ねた。 「キスは反則だろ」  右手を引き抜いたグエルは、顔を赤らめながらも己の勝利だと抗議の声をあげる。けれど、そんなグエルを眺めるラウダは、グエルの間違いを一つ訂正する。 「キスの前から照れてたよ」  勝利者にのみ許される、からかいを含んだ余裕の笑みはラウダの顔に飾られていた。

ラウグエ
愛してる🎮
付き合った後は弟の方が勝ちそう

04.02.2025 14:35 — 👍 9    🔁 2    💬 0    📌 0

お手間おかけいたしましてすみません、お気遣いありがとうございます🙏
これに今年一年分の災難が凝縮されているはずなので、これからきっと良いことばっかり起こりますよ☺️✨
たくさん休んで英気を養われてください𐙚˚˖𓍢ִ໋🧸✧˚.🎀༘⋆

05.01.2025 02:53 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0

それはお辛い……
左脳さんのお早い回復をお祈りしております🍀
どうぞお大事になさってください☕️🧣🛌🧸
(こちらご返信のお気遣いなく)

03.01.2025 06:31 — 👍 1    🔁 0    💬 1    📌 0

朝寒を理由にセーターを着た兄へ抱き着く弟と、暖かな恰好をすれば弟が傍に寄って来るので冬場はもこもこと着こむ兄が冬の風物詩

14.12.2024 00:18 — 👍 3    🔁 0    💬 0    📌 0
 もう隠せそうにない。
 音がしそうなほど長い弟の睫毛が震えるのを見ながら、俺は隠し事を白状した。

 湿気で少しうねった弟の髪に白銀の艶が横断する。産毛も見える至近距離、水溜りのように潤んだ眼と僅かに上気した眦の朱色は俺だけの特別だ。
 横髪という顔を隠すものを失った弟は、俺が褒めちぎるままに照れていた。
 兄さんの前だけなら。と、譲歩した弟の言葉に俺がどれだけ喜んでいるのかも知らない彼は、止まない言葉の雨をいつまでも受け止めていた。

 もう隠せそうにない。  音がしそうなほど長い弟の睫毛が震えるのを見ながら、俺は隠し事を白状した。  湿気で少しうねった弟の髪に白銀の艶が横断する。産毛も見える至近距離、水溜りのように潤んだ眼と僅かに上気した眦の朱色は俺だけの特別だ。  横髪という顔を隠すものを失った弟は、俺が褒めちぎるままに照れていた。  兄さんの前だけなら。と、譲歩した弟の言葉に俺がどれだけ喜んでいるのかも知らない彼は、止まない言葉の雨をいつまでも受け止めていた。

10.12.2024 14:22 — 👍 3    🔁 1    💬 0    📌 0
 左側だけ長い弟の髪は、俯いたときに藤の花のようにしな垂れて彼の目元から顎まで隠してしまう。緩やかなウェーブがかった髪が流れていく様はたしかに優美であるのだけれど、弟の髪が頬を滑るときには決まって部屋のカーテンを閉められたような寂しさがあった。だから、弟の髪が垂れているのを見てしまうと、俺はその髪を耳にかけてしまいたい衝動に駆られた。
 
 なんでもない日の月曜日。窓へ打ちつける激しい雨音を聞きながら、俺はズボンのポケットへ片手を入れていた。予約していたバスケットボールの野外コートを使えるわけもなく、休日らしく非常に倦怠な午後だった。
 そして、俺と同じく予定の潰れた弟は俺より頭ひとつ分小さな身体で大人用のリビングチェアに座っている。子供らしい彼のふくよかな手足がラフな部屋着からのぞいていた。
 俺の指先に触れるのは人肌でぬるくなった箱の側面。アクセサリーショップで衝動的に買ってしまったプレゼントだ。
 小箱を十字に仕切る真っ赤なリボンは窮屈そうに蝶の羽を平たくしている。

 左側だけ長い弟の髪は、俯いたときに藤の花のようにしな垂れて彼の目元から顎まで隠してしまう。緩やかなウェーブがかった髪が流れていく様はたしかに優美であるのだけれど、弟の髪が頬を滑るときには決まって部屋のカーテンを閉められたような寂しさがあった。だから、弟の髪が垂れているのを見てしまうと、俺はその髪を耳にかけてしまいたい衝動に駆られた。    なんでもない日の月曜日。窓へ打ちつける激しい雨音を聞きながら、俺はズボンのポケットへ片手を入れていた。予約していたバスケットボールの野外コートを使えるわけもなく、休日らしく非常に倦怠な午後だった。  そして、俺と同じく予定の潰れた弟は俺より頭ひとつ分小さな身体で大人用のリビングチェアに座っている。子供らしい彼のふくよかな手足がラフな部屋着からのぞいていた。  俺の指先に触れるのは人肌でぬるくなった箱の側面。アクセサリーショップで衝動的に買ってしまったプレゼントだ。  小箱を十字に仕切る真っ赤なリボンは窮屈そうに蝶の羽を平たくしている。

 あの日の勇気の残りを吸い取るように、俺は指の腹でリボンの凹凸をなぞっていた。
 ショーウィンドー越しにそれと目が合ったとき、俺の身体に稲妻が落ちた。サテンの艶めく布へ飾られたヘアピンは、施された宝石の花の美しさもさることながら、その花々の土壌となっている細いシルバーの煌めきも、弟の髪を纏めるために存在しているのだと俺に確信させたから。
 一目で運命を感じた俺はすぐさま店へと入っていき、他には目もくれずにそのヘアピンを購入した。しかし、綺麗に包装された箱を手にして家路を辿っていると、次第にその高揚も冷めていった。意気揚々と弟に渡すつもりだったプレゼントは未だ、俺の手の中にある。
 問題は、これが売られていたのが少女向けのショップであること。
 もちろん、装飾品の似合う似合わないにそのブランドのメインターゲットは関係ない。だが、弟は最近、自身の容姿を気にしているようだった。
 この頃、弟と一緒に入浴すると、彼はチラチラと俺の体を見てくる。そして、浴槽の隅で体を縮めて小さくなってしまうのだ。

 あの日の勇気の残りを吸い取るように、俺は指の腹でリボンの凹凸をなぞっていた。  ショーウィンドー越しにそれと目が合ったとき、俺の身体に稲妻が落ちた。サテンの艶めく布へ飾られたヘアピンは、施された宝石の花の美しさもさることながら、その花々の土壌となっている細いシルバーの煌めきも、弟の髪を纏めるために存在しているのだと俺に確信させたから。  一目で運命を感じた俺はすぐさま店へと入っていき、他には目もくれずにそのヘアピンを購入した。しかし、綺麗に包装された箱を手にして家路を辿っていると、次第にその高揚も冷めていった。意気揚々と弟に渡すつもりだったプレゼントは未だ、俺の手の中にある。  問題は、これが売られていたのが少女向けのショップであること。  もちろん、装飾品の似合う似合わないにそのブランドのメインターゲットは関係ない。だが、弟は最近、自身の容姿を気にしているようだった。  この頃、弟と一緒に入浴すると、彼はチラチラと俺の体を見てくる。そして、浴槽の隅で体を縮めて小さくなってしまうのだ。

 俺が一足先に成長期に入ってしまったから、その体躯の差に弟は劣等感を感じているのかもしれない。
 少し前までは大した違いもなかったのに。これも神様の気紛れなのか。
 俺は未だに子供らしさの残る弟が甲羅に籠った亀のように手足を丸めてしまうことが可哀想で、その度に固まった彼の身体を解してやるのだ。
 細っこく柔らかな身体を揉んで告げている「お前もいつか大きくなれる」という慰めの言葉に、どれ程の効果があるのか。でも、父さんだって大きいのだから弟も今にそうなるはずなのだ。だから、そこまで気にするようなことでもない。それに、身長はまだでも毛は生えてきてるし。俺と成長しはじめる場所が違うだけのような気もしているのだ。
 だが、そういう感じで体格差だったりを何かと気にしていそうな弟へ、こんなに可憐なデザインのピンを渡してしまうのは彼のプライドを傷付けてしまうんじゃないかと悩んでしまう。比較対象の俺から貰ったところで、弟は何も嬉しくないんじゃないかと。
 弟の目がこちらを見ていないのをいいことに、俺は口を尖らせる。

 俺が一足先に成長期に入ってしまったから、その体躯の差に弟は劣等感を感じているのかもしれない。  少し前までは大した違いもなかったのに。これも神様の気紛れなのか。  俺は未だに子供らしさの残る弟が甲羅に籠った亀のように手足を丸めてしまうことが可哀想で、その度に固まった彼の身体を解してやるのだ。  細っこく柔らかな身体を揉んで告げている「お前もいつか大きくなれる」という慰めの言葉に、どれ程の効果があるのか。でも、父さんだって大きいのだから弟も今にそうなるはずなのだ。だから、そこまで気にするようなことでもない。それに、身長はまだでも毛は生えてきてるし。俺と成長しはじめる場所が違うだけのような気もしているのだ。  だが、そういう感じで体格差だったりを何かと気にしていそうな弟へ、こんなに可憐なデザインのピンを渡してしまうのは彼のプライドを傷付けてしまうんじゃないかと悩んでしまう。比較対象の俺から貰ったところで、弟は何も嬉しくないんじゃないかと。  弟の目がこちらを見ていないのをいいことに、俺は口を尖らせる。

 弟の意思が第一優先だ。だから、弟が嫌がるようならこのヘアピンは渡せない。だが、これを着けている弟を見たいという欲だって変わらずあった。無理強いはしたくないが、見たいものは見たいのだ。
 
 呼吸に紛れた溜め息が、口から細く吐き出される。
 結局、今日も渡せそうになかった。だって、外は雨だし。どうせ渡すのなら、もっと良いタイミングがある気がしてきたから。
 また明日の俺に決めてもらおう。そう、意気地のない決意をした俺はポケットから手を引き抜いた。だがそのとき、未練を残した指先がリボンへ引っかかってしまった。
 とすん。
 軽い音を立ててプレゼントが床に落ちた。
 慌てて拾い上げようとしたが、弟が視線で捕える方が早かった。
「兄さん、そのプレゼントどうしたの?」
 人形のように大きな瞳が手のひら大の箱から俺へと移る。秘匿した心すら見透かされるような琥珀の中には、気まずそうに肩をすくめる俺がいた。

 弟の意思が第一優先だ。だから、弟が嫌がるようならこのヘアピンは渡せない。だが、これを着けている弟を見たいという欲だって変わらずあった。無理強いはしたくないが、見たいものは見たいのだ。    呼吸に紛れた溜め息が、口から細く吐き出される。  結局、今日も渡せそうになかった。だって、外は雨だし。どうせ渡すのなら、もっと良いタイミングがある気がしてきたから。  また明日の俺に決めてもらおう。そう、意気地のない決意をした俺はポケットから手を引き抜いた。だがそのとき、未練を残した指先がリボンへ引っかかってしまった。  とすん。  軽い音を立ててプレゼントが床に落ちた。  慌てて拾い上げようとしたが、弟が視線で捕える方が早かった。 「兄さん、そのプレゼントどうしたの?」  人形のように大きな瞳が手のひら大の箱から俺へと移る。秘匿した心すら見透かされるような琥珀の中には、気まずそうに肩をすくめる俺がいた。

髪飾り(昔の話)
ラウグエ

10.12.2024 14:21 — 👍 6    🔁 1    💬 1    📌 0
x.com

印刷部数の参考アンケートを行ってますので、ご協力いただけますと幸いです🙏
x.com/ntaa7go/stat...

10.11.2024 23:20 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
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[お知らせ] ワンクッション(15568文字) - サトウのポイピク

12/1 DOZEN ROSE FES2024内『貴方に捧ぐエール DR2024』にて頒布予定の新刊サンプルです。
恋人になったラウグエがデートをしたり初めて捧げあったりします
※サンプルは全年齢ですが、本は成人指定になります。
※絶賛原稿中のため、細部が変更される可能性がございます。

スペース:東5 な33b
サークル名:さとうのやま

poipiku.com/7380856/1100...

10.11.2024 23:18 — 👍 4    🔁 2    💬 1    📌 0
 運動代わりに徒歩で帰路についていると、いつもの街並みの中にオレンジのかぼちゃが生えていた。通りに面した店ではランタンが並んでおり、行き交う人々の中には可愛らしい魔女やお化けの集団がいた。
 今日はハロウィンだったか。と、つい数分前までは気にしなかった日付と行事を結び付ける。大人に見守られながらイベントを楽しむ子どもたちの空気は、遠巻きに触れているだけのこちらの心も愉快にする。
 ふと、聞こえたドアベルの音。上品な洋菓子店の扉が開かれたのにつられて、店先へ置かれたボードの前で立ち止まる。流麗な文字で書かれたメニューを見上げる月のように黄色い瞳。空きスペースへ描かれた黒猫に、家で待っている弟の姿が重なった。
 近頃は何かと会食の機会が増えたのでプライベートではカロリー制限をしていたが、年に一度のイベントのときくらいはハメをはずしてもいいんじゃないか。
 頭へ浮かんだ誘惑は風に乗ったバターの香りで決定付けられる。
 陽気なドアベルに気分を上げて、俺は暖かな光で溢れた店内へと入っていった。
 
 その後、購入した焼き菓子を片手に意気揚々と帰宅すると、自宅キッチンでは先んじて帰宅していた弟が今日の夕飯を作っていた。

 運動代わりに徒歩で帰路についていると、いつもの街並みの中にオレンジのかぼちゃが生えていた。通りに面した店ではランタンが並んでおり、行き交う人々の中には可愛らしい魔女やお化けの集団がいた。  今日はハロウィンだったか。と、つい数分前までは気にしなかった日付と行事を結び付ける。大人に見守られながらイベントを楽しむ子どもたちの空気は、遠巻きに触れているだけのこちらの心も愉快にする。  ふと、聞こえたドアベルの音。上品な洋菓子店の扉が開かれたのにつられて、店先へ置かれたボードの前で立ち止まる。流麗な文字で書かれたメニューを見上げる月のように黄色い瞳。空きスペースへ描かれた黒猫に、家で待っている弟の姿が重なった。  近頃は何かと会食の機会が増えたのでプライベートではカロリー制限をしていたが、年に一度のイベントのときくらいはハメをはずしてもいいんじゃないか。  頭へ浮かんだ誘惑は風に乗ったバターの香りで決定付けられる。  陽気なドアベルに気分を上げて、俺は暖かな光で溢れた店内へと入っていった。    その後、購入した焼き菓子を片手に意気揚々と帰宅すると、自宅キッチンでは先んじて帰宅していた弟が今日の夕飯を作っていた。

「おかえり、兄さん。寒かったでしょ」
 言葉と共に、少し冷えた頬が弟の手で覆われ温められる。
 ぐつぐつと煮えるトマトスープにグリル野菜のサラダ。弟の肩越しに用意された料理たちが見えて、身体より先に胸が熱くなった。
「ただいま、そこまで寒くなかったよ。それよりラウダ、トリックオアトリートだ」
 冗談交じりの俺の言葉一つで、弟の青年らしい優しい眼は丸く開かれていった。睫毛のカールがわかるくらいの距離で弟を見つめていると、彼の正確な年齢を忘れてしまう。きっと、俺の脳が勝手に今の弟と過去の弟を繋いでしまうからだろう。
 俺にとってのハロウィンは小学生の頃に弟と仮装をして商店街を練り歩いた記憶が最古だが、それを昨日のことのように覚えているのだから無理もない。
 籠一杯のお菓子に目を輝かせていたラウダと二人で、キャラメルを舐めながら帰った日。外は真っ暗で、街灯だけが頼りだった。もちろん、門限なんてとっくに過ぎていて、空に浮かんだ満月を家までの目印にしたんだ。迷子にならないように繋いだ手は緊張で少し湿っていたけれど、自分よりも高い体温にひどく安心していた。
 そうやって、俺があの日嗅いだ金木犀の香りのを辿っていると、ラウダの声に引き戻された。

「おかえり、兄さん。寒かったでしょ」  言葉と共に、少し冷えた頬が弟の手で覆われ温められる。  ぐつぐつと煮えるトマトスープにグリル野菜のサラダ。弟の肩越しに用意された料理たちが見えて、身体より先に胸が熱くなった。 「ただいま、そこまで寒くなかったよ。それよりラウダ、トリックオアトリートだ」  冗談交じりの俺の言葉一つで、弟の青年らしい優しい眼は丸く開かれていった。睫毛のカールがわかるくらいの距離で弟を見つめていると、彼の正確な年齢を忘れてしまう。きっと、俺の脳が勝手に今の弟と過去の弟を繋いでしまうからだろう。  俺にとってのハロウィンは小学生の頃に弟と仮装をして商店街を練り歩いた記憶が最古だが、それを昨日のことのように覚えているのだから無理もない。  籠一杯のお菓子に目を輝かせていたラウダと二人で、キャラメルを舐めながら帰った日。外は真っ暗で、街灯だけが頼りだった。もちろん、門限なんてとっくに過ぎていて、空に浮かんだ満月を家までの目印にしたんだ。迷子にならないように繋いだ手は緊張で少し湿っていたけれど、自分よりも高い体温にひどく安心していた。  そうやって、俺があの日嗅いだ金木犀の香りのを辿っていると、ラウダの声に引き戻された。

「僕の兄さんが帰ってきたと思ったんだけど、もしかして幽霊だったのかな?」
 笑みと共に、甘く心地よい低音が俺に問いかけた。頬を覆っていたラウダの指が、俺の顔の縁を撫でていく。
「どうだろうな、確かめてみればいいんじゃないか?」
 片手に下げた紙袋のことを忘れたわけではないけれど、細まったラウダの瞳に誘われてしまい、つい煽ってしまう。
 乾燥で少しかさついた唇へラウダのものが重なった。鼻をぶつけないように顔を傾けるのにも慣れたもの。熱を確かめるための触れ合いは、しかし軽く唇同士を合わせるだけで終わってしまった。
「うん、僕は兄さんだと思うな」
 一人得心した弟は、そう言って頬から手を離した。
 日常へ戻ろうとする弟に対し、取り残された俺は前歯の裏で待機していた舌をもごつかせて、離れていった弟を見るしかない。
 まったくの遺憾だ。誘いに応えておいてたったの数秒? こちらはそれだけでは物足りないというのに、何を先に満足しているのか。
 そんな俺の思いが視線に乗ったのか、鍋の火を止めた弟の肩が揺れ出した。

「僕の兄さんが帰ってきたと思ったんだけど、もしかして幽霊だったのかな?」  笑みと共に、甘く心地よい低音が俺に問いかけた。頬を覆っていたラウダの指が、俺の顔の縁を撫でていく。 「どうだろうな、確かめてみればいいんじゃないか?」  片手に下げた紙袋のことを忘れたわけではないけれど、細まったラウダの瞳に誘われてしまい、つい煽ってしまう。  乾燥で少しかさついた唇へラウダのものが重なった。鼻をぶつけないように顔を傾けるのにも慣れたもの。熱を確かめるための触れ合いは、しかし軽く唇同士を合わせるだけで終わってしまった。 「うん、僕は兄さんだと思うな」  一人得心した弟は、そう言って頬から手を離した。  日常へ戻ろうとする弟に対し、取り残された俺は前歯の裏で待機していた舌をもごつかせて、離れていった弟を見るしかない。  まったくの遺憾だ。誘いに応えておいてたったの数秒? こちらはそれだけでは物足りないというのに、何を先に満足しているのか。  そんな俺の思いが視線に乗ったのか、鍋の火を止めた弟の肩が揺れ出した。

「ごめん、だってこれから長いだろ?」
 俺が贈った紺青のエプロンをした弟は、そう言ってまた俺へ口を重ねてきた。唇を食まれる感触に、ゆるりと口を開いていく。焦らす様に挿し込まれた舌を口腔へ出迎えてから熱を持った自身のものへと絡めると、鈍いしびれが背筋に走った。
 お互い激しくするつもりはなくとも、自然と行為は深まっていく。
 いつの間にか俺の両手はラウダの背中に回って、持っていた紙袋はキッチン台に置かれていた。束の間の休息に、視界の端で捕えた甘味。その素朴な紙袋を見て、俺は本来の目的を思い出したはずなのに、次の瞬間には目の前のラウダを求めていた。
 あの日のキャラメルよりも甘い刺激がそこにあった。
 

「ごめん、だってこれから長いだろ?」  俺が贈った紺青のエプロンをした弟は、そう言ってまた俺へ口を重ねてきた。唇を食まれる感触に、ゆるりと口を開いていく。焦らす様に挿し込まれた舌を口腔へ出迎えてから熱を持った自身のものへと絡めると、鈍いしびれが背筋に走った。  お互い激しくするつもりはなくとも、自然と行為は深まっていく。  いつの間にか俺の両手はラウダの背中に回って、持っていた紙袋はキッチン台に置かれていた。束の間の休息に、視界の端で捕えた甘味。その素朴な紙袋を見て、俺は本来の目的を思い出したはずなのに、次の瞬間には目の前のラウダを求めていた。  あの日のキャラメルよりも甘い刺激がそこにあった。  

同棲ラウグエ 🎃

31.10.2024 12:40 — 👍 4    🔁 0    💬 0    📌 0

返信遅くなってすみません🙇
お世話になっております!
ご挨拶ありがとうございます、こちらこそよろしくお願いいたします🙏

27.10.2024 10:22 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0

弟が疲れてそうなときに唐突にハグして混乱させる兄
ハグをするとストレスが緩和されるからだと言っていた
だから兄が疲れてそうなときにお返しに両手を広げてみせたけど、自分が嬉しいだけだと思って途中でやめてしまう弟
そして中途半端な格好で固まった弟を見た兄はそのお返しに気付いて喜んでハグされにいく

23.10.2024 23:13 — 👍 5    🔁 0    💬 0    📌 0
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04.10.2024 04:00 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
きっかけは最近流行っているゲーム。目を開いたまま照れずにどこまで近付けるのかって、一種の度胸試しだ。
 恋人になってしばらく経つラウダとやってみれば、十戦全勝。鼻と鼻をくっつけた辺りでいつもラウダは苺のように赤くなった。俺が三勝したあたりで、待ったをかけたラウダが赤くなった耳を髪で隠し始めたが、すぐ桃色になる目元や頬がそのままなのだから、可愛いだけで意味がない。
 ただ、そうやって照れないように頑張っているラウダを見ていると、俺はなんだか彼を応援したくなってきた。
 だから、ラウダが照れそうになったらそこで止まって、ゆっくり時間をかけて近寄ってみた。そうしたら、俺との距離が縮まるほどラウダの目がどんどん潤んでいった。
 間近で見つめるラウダの瞳は微震していて、砂漠に出来たアリジゴクのように俺の視線を引き付けた。そして、色の深まった虹彩が万華鏡のようにちらちらと銀色の光を放ったから、あと少しだけ近くで見たくなったのだ。
 満月のように真ん丸になったラウダの目。夜空に降った流れ星のような雫が、ラウダの頬を駆け下りた。
 俺は眦へ残った涙の欠片を呑気に見入っていたが、なぜか口がしょっぱくなった。

きっかけは最近流行っているゲーム。目を開いたまま照れずにどこまで近付けるのかって、一種の度胸試しだ。  恋人になってしばらく経つラウダとやってみれば、十戦全勝。鼻と鼻をくっつけた辺りでいつもラウダは苺のように赤くなった。俺が三勝したあたりで、待ったをかけたラウダが赤くなった耳を髪で隠し始めたが、すぐ桃色になる目元や頬がそのままなのだから、可愛いだけで意味がない。  ただ、そうやって照れないように頑張っているラウダを見ていると、俺はなんだか彼を応援したくなってきた。  だから、ラウダが照れそうになったらそこで止まって、ゆっくり時間をかけて近寄ってみた。そうしたら、俺との距離が縮まるほどラウダの目がどんどん潤んでいった。  間近で見つめるラウダの瞳は微震していて、砂漠に出来たアリジゴクのように俺の視線を引き付けた。そして、色の深まった虹彩が万華鏡のようにちらちらと銀色の光を放ったから、あと少しだけ近くで見たくなったのだ。  満月のように真ん丸になったラウダの目。夜空に降った流れ星のような雫が、ラウダの頬を駆け下りた。  俺は眦へ残った涙の欠片を呑気に見入っていたが、なぜか口がしょっぱくなった。

それで。あ、俺はラウダとキスしているのかって。
 まったく驚きはなかったし、もちろん嫌悪感もなかった。ただ、初めてのキスがこれだなんて、ラウダに悪いことをしたと思ったくらいで。
 俺が離れようか迷っている内に、ラウダの震えた睫毛から涙が落ちる。そして、ラウダが徐々に瞼を閉じていくので、俺も彼に倣って口を開いた。
 自分でやったとはいえ思いがけない機会に、俺はつぎはぎの知識を引っ張り出して舌を触れ合わせてみる。ラウダの唇を食んで一呼吸おいて、汗の滲んだ手を繋いだ。
 歪む視界でラウダと見つめ合う。遅れてやってきた緊張と照れくささで、俺の顔も真っ赤になっていた。
 また自然と近付く俺たちの距離。
 俺にキスをされたときから全身を石のように強張らせているラウダは、舌で雄弁に愛を語っていた。

それで。あ、俺はラウダとキスしているのかって。  まったく驚きはなかったし、もちろん嫌悪感もなかった。ただ、初めてのキスがこれだなんて、ラウダに悪いことをしたと思ったくらいで。  俺が離れようか迷っている内に、ラウダの震えた睫毛から涙が落ちる。そして、ラウダが徐々に瞼を閉じていくので、俺も彼に倣って口を開いた。  自分でやったとはいえ思いがけない機会に、俺はつぎはぎの知識を引っ張り出して舌を触れ合わせてみる。ラウダの唇を食んで一呼吸おいて、汗の滲んだ手を繋いだ。  歪む視界でラウダと見つめ合う。遅れてやってきた緊張と照れくささで、俺の顔も真っ赤になっていた。  また自然と近付く俺たちの距離。  俺にキスをされたときから全身を石のように強張らせているラウダは、舌で雄弁に愛を語っていた。

同棲ラウグエ

26.09.2024 13:30 — 👍 8    🔁 1    💬 0    📌 0
顔は見られたくないので後ろから、ラウダの肩へ顎を乗せた。彼が着用しているのは襟ぐりの広いカットソーだからか、今日は特段隙も多かった。
 反射的に硬直した背中。そこへ両手を当てて、肩甲骨から下を目指して筋肉の流れに指を沿わせる。腰の辺りまでおろした腕を前へ回して抱きつけば、体温で揮発した香水が煮込まれたミルクのような甘さを放った。
 明け透けに言える度胸はないので、何も起こらない一月で焦れた身体をラウダへ押し付けた。そして、ぐずる子供のようにラウダの首の根元へ唇を這わせる。冷房を切った部屋が暑いのか、ほんの少しだけ塩味のある皮膚。唇越しに伝わる振動から俺との共通点を見つけてしまって、ラウダの背中で潰した胸が静かに震えた。
 俺の心は伝わる熱で既に満たされていたが、燻った欲は発散する場所を求めていた。充足と渇望が両立することは、ラウダと過ごし始めてから知ったことだ。
 先程から空で止まっているラウダの両手へ自分のものを重ねて下ろす。
 掴んでいたフェイスタオルは明朝に使うのだから、畳まなくても問題はないだろう。じわりと癒着したように溶け合う肌。遊びの余地はなくなった。
 興奮と快感を溶かし込んだ呼気は、数秒後にラウダの口へと吸い込まれていった。

顔は見られたくないので後ろから、ラウダの肩へ顎を乗せた。彼が着用しているのは襟ぐりの広いカットソーだからか、今日は特段隙も多かった。  反射的に硬直した背中。そこへ両手を当てて、肩甲骨から下を目指して筋肉の流れに指を沿わせる。腰の辺りまでおろした腕を前へ回して抱きつけば、体温で揮発した香水が煮込まれたミルクのような甘さを放った。  明け透けに言える度胸はないので、何も起こらない一月で焦れた身体をラウダへ押し付けた。そして、ぐずる子供のようにラウダの首の根元へ唇を這わせる。冷房を切った部屋が暑いのか、ほんの少しだけ塩味のある皮膚。唇越しに伝わる振動から俺との共通点を見つけてしまって、ラウダの背中で潰した胸が静かに震えた。  俺の心は伝わる熱で既に満たされていたが、燻った欲は発散する場所を求めていた。充足と渇望が両立することは、ラウダと過ごし始めてから知ったことだ。  先程から空で止まっているラウダの両手へ自分のものを重ねて下ろす。  掴んでいたフェイスタオルは明朝に使うのだから、畳まなくても問題はないだろう。じわりと癒着したように溶け合う肌。遊びの余地はなくなった。  興奮と快感を溶かし込んだ呼気は、数秒後にラウダの口へと吸い込まれていった。

誘い方

12.09.2024 13:27 — 👍 9    🔁 1    💬 0    📌 0
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公開範囲:だれでも | @NtAa7goさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー) ネタバレにワンクッション。伏せ字や長文をツイートできるfusetter(ふせったー)

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02.09.2024 13:58 — 👍 5    🔁 0    💬 0    📌 0

弟は、親しくない者を「お前」と呼んで、親しい者を「君」と呼んで、兄さんのことは「兄さん」と呼んでいる。
ただ、プロポーズのときに「貴方」と呼んだから、毎年記念日になると「貴方」と呼ぶよう弟に願う兄さんがいる。

02.09.2024 12:20 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
軽い衝突と共にしなだれた紺青の髪は、星灯を吸って煌々とした光を放つ。落ちた前髪から覗く瞳は妖光を孕んで、星の狭間で揺蕩っていた。
 俺の手で届くその宇宙は、触れたそばから熱をもつ。柔らかな曲線を描く髪を指へ巻いた俺は、同じものを食べ、同じ場所で眠っていようと己と異なるその手触りに、毎回不思議な気持ちになってしまう。
 絹糸のように滑らかな髪を解きほぐし、豊かな緞帳を上げて彼の素顔を露わにする。
 卵殻のような完璧な額から、眼孔の縁を親指の腹で優しくなぞっていく。切れ長の瞼が小さく震えて、雫を纏った睫毛が万華鏡のように色を変えた。
 涙袋の膨らみを辿り、小鼻の際まで指を下ろす。僅かに反応する皮膚がなければ、人肌の彫刻だと勘違いしてしまいそうだった。
 偶然を装った彼の口付けに、どう返そうかと顎をくすぐる。明日は特に予定もない。朝から夕まで穏やかな時を過ごすのも悪くはないのかもしれない。
 そう考えながら、あどけなさを失った頬を揉み込んだ俺はゆるゆると頭を傾けた。

軽い衝突と共にしなだれた紺青の髪は、星灯を吸って煌々とした光を放つ。落ちた前髪から覗く瞳は妖光を孕んで、星の狭間で揺蕩っていた。  俺の手で届くその宇宙は、触れたそばから熱をもつ。柔らかな曲線を描く髪を指へ巻いた俺は、同じものを食べ、同じ場所で眠っていようと己と異なるその手触りに、毎回不思議な気持ちになってしまう。  絹糸のように滑らかな髪を解きほぐし、豊かな緞帳を上げて彼の素顔を露わにする。  卵殻のような完璧な額から、眼孔の縁を親指の腹で優しくなぞっていく。切れ長の瞼が小さく震えて、雫を纏った睫毛が万華鏡のように色を変えた。  涙袋の膨らみを辿り、小鼻の際まで指を下ろす。僅かに反応する皮膚がなければ、人肌の彫刻だと勘違いしてしまいそうだった。  偶然を装った彼の口付けに、どう返そうかと顎をくすぐる。明日は特に予定もない。朝から夕まで穏やかな時を過ごすのも悪くはないのかもしれない。  そう考えながら、あどけなさを失った頬を揉み込んだ俺はゆるゆると頭を傾けた。

付き合いたての頃なんて、閉じた唇を合わせるだけだったのに。いつの間にか当たり前のように薄く開かれた間に、俺も当然のような顔をして自分のそれを重ねていく。
 愛を伝えるのに必死さは不要なのだということは、いつ覚えたのだろうか。泡が弾けるような快感は、燃えた炭のように長く熱を溜め込み続ける。
 生々しいリップ音も触れる呼気も、彼との日常の一つになった。そして、恥ずかし気もなく自然と深まる互いの愛撫に、慎重に行為を進めた過去を思って感慨深くなる。人はこうやって大人になるのだと。
 息継ぎの隙に彼の頸を引っ掻いて、背中からソファへ雪崩れていく。
 燦然と輝く二つの月。ただ俺だけを見つめるその眼だけは、いつの時分も変わらなかった。

付き合いたての頃なんて、閉じた唇を合わせるだけだったのに。いつの間にか当たり前のように薄く開かれた間に、俺も当然のような顔をして自分のそれを重ねていく。  愛を伝えるのに必死さは不要なのだということは、いつ覚えたのだろうか。泡が弾けるような快感は、燃えた炭のように長く熱を溜め込み続ける。  生々しいリップ音も触れる呼気も、彼との日常の一つになった。そして、恥ずかし気もなく自然と深まる互いの愛撫に、慎重に行為を進めた過去を思って感慨深くなる。人はこうやって大人になるのだと。  息継ぎの隙に彼の頸を引っ掻いて、背中からソファへ雪崩れていく。  燦然と輝く二つの月。ただ俺だけを見つめるその眼だけは、いつの時分も変わらなかった。

同棲ラウグエ
夜の一幕

14.08.2024 13:57 — 👍 8    🔁 1    💬 0    📌 0
買ったアイスもすぐに溶けるような夏日。茹だる外から帰宅した僕はすぐにリビングへ向かった。
「もう外に出られない……」
 エアコンの微風が頭を掠める心地よさに深呼吸をすること数分。僕は自然のサウナによって体の芯まで熱された身体をソファに横たえていた。
 しかし、スイッチが切れたように脱力する僕のシャツを自室から出てきた兄さんが摘む。
「ラウダ、帰ったのなら服を着替えろ」
 家でしか見られないカチューシャスタイルの兄さん。丸出しのおでこは可愛いけれど、汗が引くまではここで涼んでいたい。
「ごめん、後で着替えるよ。今は無理」
 ソファへ倒れたまま僕は答えた。
 既にクッションと接着してしまった体を上げるにはまだ時間が必要だし、あと十分はこうしていたかった。
「でも、汗をかいているだろ。それなら早く着替えてくれ」
 僕の言葉へ反駁するように、摘まれた裾が二度三度と扇がれた。

買ったアイスもすぐに溶けるような夏日。茹だる外から帰宅した僕はすぐにリビングへ向かった。 「もう外に出られない……」  エアコンの微風が頭を掠める心地よさに深呼吸をすること数分。僕は自然のサウナによって体の芯まで熱された身体をソファに横たえていた。  しかし、スイッチが切れたように脱力する僕のシャツを自室から出てきた兄さんが摘む。 「ラウダ、帰ったのなら服を着替えろ」  家でしか見られないカチューシャスタイルの兄さん。丸出しのおでこは可愛いけれど、汗が引くまではここで涼んでいたい。 「ごめん、後で着替えるよ。今は無理」  ソファへ倒れたまま僕は答えた。  既にクッションと接着してしまった体を上げるにはまだ時間が必要だし、あと十分はこうしていたかった。 「でも、汗をかいているだろ。それなら早く着替えてくれ」  僕の言葉へ反駁するように、摘まれた裾が二度三度と扇がれた。

下から入った冷風が、上昇気流となって髪を撫でる。
 出掛ける前に吹き付けたレモンの爽やかな香水は、淹れたての紅茶のようなまろみを帯びていた。僕は自身の汗のにおいに顔を歪める。
「そうだけど……本当に、あと少しだけ」
 ソファに掛けているタオルケットも僕が洗濯するから、そう続けようとした時だ。兄さんが上体を傾け、どんどん僕へと近付けてきた。
 なだらかに垂れた眦をきゅっと締めてありありと不満を表している表情に、僕はなんとなく嫌な予感がして兄さんの進行を両手で止める。
「兄さん」
 肩を押す僕の両手を無視して体重を乗せてくる兄さん。元より体格も兄さんの方が大きいので、僕は全力で抵抗するしかない。
「ぐっ」
 ベンチプレスで自分の限界以上のバーベルを持ち上げているときみたいだ。圧倒的質量で押しつぶされるのを逃れるように腕を伸ばして突っ張るが、筋量だって兄さんの方が上なのだ。それで静止できるわけもなかった。
「兄さん止まって」

下から入った冷風が、上昇気流となって髪を撫でる。  出掛ける前に吹き付けたレモンの爽やかな香水は、淹れたての紅茶のようなまろみを帯びていた。僕は自身の汗のにおいに顔を歪める。 「そうだけど……本当に、あと少しだけ」  ソファに掛けているタオルケットも僕が洗濯するから、そう続けようとした時だ。兄さんが上体を傾け、どんどん僕へと近付けてきた。  なだらかに垂れた眦をきゅっと締めてありありと不満を表している表情に、僕はなんとなく嫌な予感がして兄さんの進行を両手で止める。 「兄さん」  肩を押す僕の両手を無視して体重を乗せてくる兄さん。元より体格も兄さんの方が大きいので、僕は全力で抵抗するしかない。 「ぐっ」  ベンチプレスで自分の限界以上のバーベルを持ち上げているときみたいだ。圧倒的質量で押しつぶされるのを逃れるように腕を伸ばして突っ張るが、筋量だって兄さんの方が上なのだ。それで静止できるわけもなかった。 「兄さん止まって」

「お前が着替えないからだろ」
「タオルケットも洗うって!」
 せっかく乾きかけていた汗がまた噴き出しそうだった。
「それ、今日変えたばかりだぞ」
 顔を真っ赤にして力を振り絞っても、兄さんは涼やかな顔で僕を見つめるばかりだ。
 鼻先が触れ合うような距離。兄さんから香るクローブの渋い芳香に、自身の汗がより際立った。
「わかったって、もう着替えるからっ」
 僕の言葉に喉を震わせた兄さんだが、それはただの悩んでいるポーズでしかない。意地悪く持ち上がった兄さんの口角。照明をさえぎっていても唇から覗いた犬歯が怪しく光る。
「今更遅いな」
 鼻を鳴らして笑った兄さんが頭を沈める。首の根元へ触れた呼気に「にっ」とダミの入った悲鳴をあげる僕。そこから十秒、僕は兄さんに汗の香りをたっぷり嗅がれた。

「そうなるくらいなら、始めから着替えればよかったんだ」

「お前が着替えないからだろ」 「タオルケットも洗うって!」  せっかく乾きかけていた汗がまた噴き出しそうだった。 「それ、今日変えたばかりだぞ」  顔を真っ赤にして力を振り絞っても、兄さんは涼やかな顔で僕を見つめるばかりだ。  鼻先が触れ合うような距離。兄さんから香るクローブの渋い芳香に、自身の汗がより際立った。 「わかったって、もう着替えるからっ」  僕の言葉に喉を震わせた兄さんだが、それはただの悩んでいるポーズでしかない。意地悪く持ち上がった兄さんの口角。照明をさえぎっていても唇から覗いた犬歯が怪しく光る。 「今更遅いな」  鼻を鳴らして笑った兄さんが頭を沈める。首の根元へ触れた呼気に「にっ」とダミの入った悲鳴をあげる僕。そこから十秒、僕は兄さんに汗の香りをたっぷり嗅がれた。 「そうなるくらいなら、始めから着替えればよかったんだ」

兄さんに背中を向けて亀のように手足を折りたたんだ僕へ兄さんの言葉が降り注ぐ。
「酷い、酷い」と呟く僕は、兄さんの実力行使に傷付いていた。だって、あんまりじゃないか。僕は少し休憩をしていただけなのにさ。
 そんな僕の愚痴も無視した兄さんが背中側のシャツの裾を引っ張って、風を通すように扇ぎ始める。
「ほら、早くしないともう一回嗅ぐぞ」
 わざとらしく鳴らされた鼻に、弾かれたように起き上がる。
「シャワー浴びてくる!」
 リビングを飛び出した僕は、急いで脱衣所へ閉じこもった。
 だから、逃げる僕を視線で追いかけた兄さんが「夜と大して変わらないのに、なんで昼間だと嫌がるんだか」と肩を竦めていたことは知らなかった。
 そして、慌てすぎて着替えも用意していなかったことに気が付くのもシャワーで濡れた後だった。

兄さんに背中を向けて亀のように手足を折りたたんだ僕へ兄さんの言葉が降り注ぐ。 「酷い、酷い」と呟く僕は、兄さんの実力行使に傷付いていた。だって、あんまりじゃないか。僕は少し休憩をしていただけなのにさ。  そんな僕の愚痴も無視した兄さんが背中側のシャツの裾を引っ張って、風を通すように扇ぎ始める。 「ほら、早くしないともう一回嗅ぐぞ」  わざとらしく鳴らされた鼻に、弾かれたように起き上がる。 「シャワー浴びてくる!」  リビングを飛び出した僕は、急いで脱衣所へ閉じこもった。  だから、逃げる僕を視線で追いかけた兄さんが「夜と大して変わらないのに、なんで昼間だと嫌がるんだか」と肩を竦めていたことは知らなかった。  そして、慌てすぎて着替えも用意していなかったことに気が付くのもシャワーで濡れた後だった。

同棲していても汗の匂いを嗅がれたくない弟と、それを利用する兄さん
兄さんに対する潔癖な部分と面倒くさがりな性格の合間を生きている弟好きです

28.07.2024 05:20 — 👍 12    🔁 6    💬 0    📌 0

兄の方は何故か誰かしらから何かのチケットを貰ったりする生活をしているので、その度に出掛けました報告も兼ねて弟とのツーショットを相手方へ送っているよ
画面圧がすごいって噂だよ

26.07.2024 03:27 — 👍 6    🔁 0    💬 0    📌 0

兄との生活をSNSへ上げて自慢していた弟の件だけど、ある日兄から「お前のスタイルを否定するわけじゃないが、二人で予約した場所の写真を投稿するのはやめて欲しい」と、二人だけの時間を他に話されることは嫌だと暗に言われたから、誰かと過ごしている時のことは呟かなくなったらしいね

26.07.2024 03:22 — 👍 8    🔁 0    💬 0    📌 0

暑い暑いと言いながら兄の隣に座ることだけは譲らない弟と、自分が暑かったら弟も暑かろうと必ず一人分のスペースを開ける兄
ただし、兄が気を遣って開けたスペースもいつの間にか無くなっているので、離席するたびどんどん端へ寄っていく兄弟

23.07.2024 03:49 — 👍 6    🔁 0    💬 0    📌 0
朝、からりと晴れた空を見たグエルは「遊園地へ行こう」とラウダに言った。そして、寝癖をつけた弟は、兄の用意したトーストで頬を膨らませながら頷いた。
 今日は遊園地デートの日だ。
 弦楽器の陽気な音楽の流れる遊園地は、平日ということもありそこまで混雑はしていなかった。アトラクションから聞こえる悲鳴を遠くに屋台のチュロスを食べていた二人は、道の途中におどろおどろしいお化け屋敷を発見する。
「子どもの頃は幽霊が怖くて泣いてたよな」
「それは兄さんが、でしょ?」
「俺は泣いてなかっただろ」
「泣いてたさ。父さんから慰められていたのを覚えているもの」
 得意げに顎を上げたラウダは、泣きながらアイスを食べる幼いグエルの姿が鮮明に思い浮かんでいた。
「それは俺の記憶と違うな」
 グエルは訝しそうにラウダを見る。彼の頭に浮かんでいるのは少年であったラウダが涙を湛えてグエルにしがみつく様だ。

朝、からりと晴れた空を見たグエルは「遊園地へ行こう」とラウダに言った。そして、寝癖をつけた弟は、兄の用意したトーストで頬を膨らませながら頷いた。  今日は遊園地デートの日だ。  弦楽器の陽気な音楽の流れる遊園地は、平日ということもありそこまで混雑はしていなかった。アトラクションから聞こえる悲鳴を遠くに屋台のチュロスを食べていた二人は、道の途中におどろおどろしいお化け屋敷を発見する。 「子どもの頃は幽霊が怖くて泣いてたよな」 「それは兄さんが、でしょ?」 「俺は泣いてなかっただろ」 「泣いてたさ。父さんから慰められていたのを覚えているもの」  得意げに顎を上げたラウダは、泣きながらアイスを食べる幼いグエルの姿が鮮明に思い浮かんでいた。 「それは俺の記憶と違うな」  グエルは訝しそうにラウダを見る。彼の頭に浮かんでいるのは少年であったラウダが涙を湛えてグエルにしがみつく様だ。

お互い一歩も引かない言い合いに、挑発するようにラウダは返す。
「それなら、今から入ってみる? 同じ経験すれば思い出すかも」
「言ってろ。泣きを見るのはお前の方だからな」
「僕は幽霊なんて怖がらないよ」
 軽口を叩き合いながら意気揚々とお化け屋敷へ向かう二人。お化け屋敷の入口に書かれた『最恐』の文字も、百八十を超える体躯をもつ二人にはなんの影響も及ぼさなかった。
 十数分後、出口から現れたのは肩を寄せ合い仲睦まじく手を繋いだ二人の姿だ。
 どちらも無言で歩いているが、冷えた身体を溶かす日差しに現実へと戻ってこれた歓喜をひしひしと感じていた。
「ま、まぁ……涼しかったな」
「そう、だね……」
 暗闇で晒した醜態をお互い慰め合うように、気を取り直した二人はひとまずここが『最恐』の名に相応しいことだけは実感していた。
 ところで、どちらの過去が正しかったのかという話だが、その答えは二人の実

お互い一歩も引かない言い合いに、挑発するようにラウダは返す。 「それなら、今から入ってみる? 同じ経験すれば思い出すかも」 「言ってろ。泣きを見るのはお前の方だからな」 「僕は幽霊なんて怖がらないよ」  軽口を叩き合いながら意気揚々とお化け屋敷へ向かう二人。お化け屋敷の入口に書かれた『最恐』の文字も、百八十を超える体躯をもつ二人にはなんの影響も及ぼさなかった。  十数分後、出口から現れたのは肩を寄せ合い仲睦まじく手を繋いだ二人の姿だ。  どちらも無言で歩いているが、冷えた身体を溶かす日差しに現実へと戻ってこれた歓喜をひしひしと感じていた。 「ま、まぁ……涼しかったな」 「そう、だね……」  暗闇で晒した醜態をお互い慰め合うように、気を取り直した二人はひとまずここが『最恐』の名に相応しいことだけは実感していた。  ところで、どちらの過去が正しかったのかという話だが、その答えは二人の実

家に保管されているアルバムの中にある。
 遊園地限定のキャップを被った少年たちの写真。はしゃいだ二人の写真の中には、泣いた後のように眦を赤らめながらキャラクター型のアイスとポップコーンを頬張る姿もおさめられていた。
 相手のことはいつまでも覚えていようと、自分のこととなればめっきり忘れる。そんなどこまでも似たもの同士な二人は、夜中にお化け屋敷のことを思い出して写真に写った少年たちのように隙間なく体を合わせて眠りについていた。

家に保管されているアルバムの中にある。  遊園地限定のキャップを被った少年たちの写真。はしゃいだ二人の写真の中には、泣いた後のように眦を赤らめながらキャラクター型のアイスとポップコーンを頬張る姿もおさめられていた。  相手のことはいつまでも覚えていようと、自分のこととなればめっきり忘れる。そんなどこまでも似たもの同士な二人は、夜中にお化け屋敷のことを思い出して写真に写った少年たちのように隙間なく体を合わせて眠りについていた。

お出かけするラウグエ

28.06.2024 03:50 — 👍 8    🔁 3    💬 0    📌 0

夜の事情
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ fse.tw/cJqbIzFj#all

22.06.2024 15:35 — 👍 6    🔁 0    💬 0    📌 0

長い付き合い故に言葉を省略したり言わずとも相手に伝わっていることが多いけれど、朝晩の愛の言葉だけはいつ何時でもきちんと口にするという暗黙のルールがある

22.06.2024 15:19 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0

グがリビングで昼寝をすると起きたときには毛布が掛けられているし、ラが昼寝をしたときには追加でテーブルにお供のディラ(グのハマっている食玩)が置かれているよ

22.06.2024 13:59 — 👍 5    🔁 0    💬 0    📌 0

基本的に夜の誘いは弟からだけれど、弟は稀に長期間に渡って触れ合うだけで幸せ期間に入るのでそのときばかりは自分から弟に乗り上げる兄

22.06.2024 13:52 — 👍 6    🔁 0    💬 0    📌 0

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