 
                                            目を閉じる
聞こえてくるのは故郷の御伽話
豊かな自然の中で
風変わりな妖精たちが織りなす物語
カタロンの構成員としてCBに潜入できたのは運が良かった。まさか、兄さんがガンダムマイスターだったとは思ってもいなかったが。
せっかくのチャンスだ。なにかひとつでも多く情報を集めようとした俺は失敗をした。
「寝ろ」
教官役のティエリアが俺を睨みつける。俺より背が低いせいで、上目遣いになっているのが微笑ましい。
「君に割り当てた睡眠時間はとっくにすぎている。寝ろ」
情報収集の途中でティエリアに見つかった。どうして、こいつはここにいる……と、思い出したのはマイスターのスケジュール。
「あんたも睡眠時間だろ」
問い詰めても、相手は全く動じない。
「僕は仕事がある」
随分と人が少ない組織だとは思っちゃいたが、こいつはとんでもない。10代の半ばらしきクルーがオーバーワークかよ。
「あんたこそ寝ろよ」
「君が寝ろ」
「あんたの方が……って、キリがねえな」
「そうだな……」
一時休戦。
先に口を開いたのはティエリアだった。
                                                         
                                            「君が眠りたくなる話をしよう」
「なんだそりゃ……」
生真面目な教官殿のことだ、お堅い勉学の話でもするのかと思った。それは俺も望むところだ。カレッジで幾度となく眠たくなる講義を乗り越えてきた経験がここで活かされるとはな。
だが、聞こえてきたのは懐かしい御伽話だった。
なんでそれをあんたが? なんて聞いてやらない。ティエリアの外見から同郷ということはなさそうだ。
あんたなんだろう、兄さん?
兄さんがこの組織にいた頃、ティエリアは10代になったばかりか。エイミーと似た年頃の子どもに思うところでもあったのか。
にしても、おかしい。
ティエリアが語るのは妖精のことばかり。
確かに、エイミーは妖精が好きだった。
「ケルトの勇者の話はないのかい?」
勇ましい英雄の話だって有名だ。俺と兄さんが夢中になって聞いていた。何度も何度も、父さんや母さんにねだって。
「……なんのことだ? 聞いたことがない」
ティエリアが首を横に傾げる。本当に知らないらしい。
じゃあ、今度は俺が教官殿を寝かしつける番だと懐かしい話を聞かせてやる。
                                                         
                                            そして気がついた。
勇者は戦いに征く者だ。
その先には争いがある。
ゾワっと背筋が冷たくなる。
兄さんは、ティエリアに戦いのないきれいな世界だけを見せていたのか。
                                                
    
    
    
    
            読書の日に寄せてと思ったけど本を読むシーンはない
ニルティエ前提のライルとティエリアのSS 3/3
               
            
            
                27.10.2025 13:31 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            冷たい目で睨まれるのもいい
頬を叩かれてもいい
「万死に値する」なんて罵ってくれたら最高
いつものティエリア・アーデに戻ってくれるなら
それでも、戻らないのなら……
右目を負傷した俺をティエリアが気にかけてくれるようになった。
傷が痛んでいないかだとか、手伝えることはないかだとか。挙げ句の果てにはこれだ。
「なんでも言ってくれ。私はあなたのためならなんでもする」
それはダメだ。
刹那と同じくらいか、それよかもっと幼い。
そして、かわいい。外見も、中身も。
それがこの有様じゃあ、こんなことを言ってくる輩がいるだろう。
「そんじゃ、キスのひとつでもくれよ」
もっと下品な言い方もあったができなかった。大きくてもまだ子どもなんだ。
気づいてくれ。今のお前がどれだけ無防備か。ヴァーチェを脱いだナドレよりも脆い、ただの人間。そんな隙だらけだとどうなるのか。
人間は綺麗なばかりじゃねえ。奪われた俺が一番よくわかっている。
だが、返ってきたのはこれだ。
「わかった」
目を閉じることも知らねえ無垢な顔が近づいてきて、俺は腕でストップをかけた。
                                                         
                                            「ちょっ……、ティエリア! お前なにしてんだ!」
「キスが欲しいのでは。あなたが言ったことだ」
確かに俺はそう言ったが、そうじゃねえ。
「言われればなんでもするのかよ。嫌なら断れ」
「嫌ではない」
俺とキスするのが嫌じゃないとティエリアは言う。照れそうになるが、落ち着け俺。顔、赤くなってないよな? いつもの通り、大人なロックオン・ストラトスを演じろ。
「そうやってると、悪い人間につけ込まれるぞ」
「あなたは悪い人間なのか?」
「ああ、そうだ。俺が良いやつに見えるか?」
散々、人を殺してきた俺が良い人間なわけがない。世界中の誰もが俺を悪と断じるだろう。たったひとりの家族だってきっと。
「あなたは私を守ってくれた……。全てを失った私に、あなたたちと同じになっただけだと言ってくれた……」
だからと、ティエリア続ける。汚れのない唇で囁く。
「あなたは私の全てを再構築した。あなたにまで否定されたら私はどうしたらいい?」
こいつはヴェーダに依存していた頃と変わっちゃいねえんだ。ヴェーダが俺に置き換わっただけ。
あんだけ尊大な態度をとっていたくせに、親のような存在に全てを拒否されたティエリアは自分が大切にされていいことを知らない。
「ロックオン……」
ギュッと服を掴まれる。まるで幼子のようだ。
                                                         
                                            俺だって親が欲しいのに、こいつを放置できない。俺以外の人間に搾取されるところは見たくない。
「俺が守ってやる」
生きている間だけは、という言葉を飲み込んで唇を重ねる。
永遠には誓えない。俺が見る世界では俺のものでいてくれ。
                                                
    
    
    
    
            自分たちを大切にしないニルティエのSS 3/3
               
            
            
                23.10.2025 15:12 — 👍 1    🔁 1    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            いつものように髪を束ねようとして、できなかった。大切な髪飾りが壊れてしまった。
この世に一点しかない宝物。ついにこの時が来たのかなという気持ち、まだまだ一緒にいてくれるよねという気持ち。両方に押しつぶされそうになる。
「ごめんなさいです。ミレイナには直せなかったです」
技術者でもある後輩に頼んでみたけど、直らなかったみたい。パーツが欠けているとか。
「グレイスさんの宝物でしたよね」
「うん。ミレイナにも話したことあったかな」
私の先輩オペレーター──クリスティナ・シエラ。彼女からプレゼントしてもらった髪飾り。既製品だとはわかっているけど、クリスが選んでくれた私にとってはもう二度と手に入らない世界にひとつの宝物。
「パパに頼みますか?」
「ううん、いいの」
イアンさんならなんとかしてくれるかもしれない。でも、私はミレイナの提案を断ることにした。
「クリス、ここまで見守ってくれてありがとう。私はもう大丈夫」
クリスが願ってくれたように、おしゃれできてるかな?
私にも後輩ができたんだよ。ミレイナっていって、イアンさんの娘さんなんだ。
恋だってしているよ。その相手にクリスは驚くかもしれないね。
                                                         
                                            それから、私は伸ばしていた髪を切ることにした。
「本当に切っていいのね?」
ハサミを持つリンダさんに、私ははいと頷いた。
シャキシャシャキ……周りに髪の毛が落ちていく。ピンクの毛は、クリスがいなくなってからの時間のように重なっていく。
「はい、完成よ。どうかしら?」
鏡を見ると、そこには新しい私がいた。
クリスをなぞっていた頃とは違う私。
少しだけ変わった私。
もうひとりで大丈夫だよと、クリスに届きますように。
                                                
    
    
    
    
            2期と劇場版の合間のフェルトのSS 2/2
               
            
            
                20.10.2025 13:52 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            「ロックオンもマイスターの中ではもう先輩ね」
ブリーフィングルームで、戦術予報士が俺に告げた。
この言葉は事実だ。第3世代と呼ばれるマイスターのうち、兄さんは早々と亡くなった。刹那とティエリアは外宇宙へと旅に出て、残っているのはアレルヤだけ。俺は第4世代。グラハムとレティシアは第5世代ってところか。
先輩という言葉は、褒めているのか、その裏になにか隠されているのか。例えば、頼み事とか。
「先輩として、あなたに頼みがあるの」
ほらきた! こんな時に予想が当たるなよ!
嫌だ嫌だ、どうせ面倒ごとに違いない。
「先輩なら、アレルヤがいるだろ? なんでまた俺に?」
マイスターの中で、アレルヤは一番の先輩、俺はその次。なら、アレルヤに頼むのが妥当だろ。
「アレルヤにはグラハムを任せたわ。だから、あなたにはレティシアの面倒を見てあげてほしいのよ」
アレルヤなんか大変なことになってんな……いや、それよりもだ。
「俺がレティシアの面倒!? 冗談じゃないぜ。なんてったって、あいつはあのティエリアの記憶を持ってるって話じゃねえか」
ティエリアは俺の教官だった。他のマイスターがいなかった時期を支えたという、CBを最もよく知るあいつの記憶がありゃ、困ることなんてないだろう。むしろ、俺よりやりやすいくらいだ。
「だからこそ、あなたの力が必要なのよ、ロックオン」
「俺の力ねえ……」
                                                         
                                            「納得いかないっていう顔をしてるわね」
「そりゃまあな」
「理由はすぐにわかるわ。だから、レティシアのこと、頼んだわね」
へいへいと、適当な返事をしてブリーフィングルームを出る。はたしてこれは、戦術予報士としての命令だったのか、ひとりの人間としての頼みだったのか、俺の適当な態度に叱責はなかった。
その時はすぐにきた。
燃料補給のため、基地へと寄港したときのことだ。
CBの中でティエリアは顔が広かったらしい。そりゃそうか。CBの再建のためにどれだけ身を粉にしたことか。
基地の連中はレティシアの顔を見ると、ワッと集まってきた。
「ティエリアさん、お久しぶりです」
「亡くなったと聞きましたが、誤報だったんですね」
「いや、私は信じていましたよ」
「またお会いできて嬉しいです」
どうして、戦術予報士が俺にレティシアを任せたか嫌でもわかった。
同じ顔、同じ声、同じ記憶は流石に持ってはいないが……、俺にしかレティシアの気持ちはわからない。
出来のいい兄、人類を守った同タイプ……ああ、嫌になる。
「レティシア!」
                                                         
                                            わざと大きな声で名を呼んでやった。連中に聞こえるように。
「悪いな、こいつはティエリアじゃなくて、レティシアなんだ」
はじめて出たトレミーの外、レティシアはたくさんの人間に囲まれて困惑していた。そんなやつの腕を掴み、人混みから連れ出す。
「すまない、助かった」
小さく、レティシアが俺につぶやいた。
「気にすんなって」
床を蹴る。ふわふわと2人で宙を飛ぶ。誰でもない俺たちが世界を変えていく。
                                                
    
    
    
    
            ライルとレティシアのSS 3/3
               
            
            
                18.10.2025 11:56 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            ELSとの戦いの後も、CBの活動は続く。
時には、ヴェーダからの情報を必要とする場面もある。そこで、僕──レティシア・アーデだ。
直接リンクが許された僕が、ヴェーダから情報を引き出すのだ。
そして今日も僕は──
『アクセスが拒否されました』
ヴェーダからアクセスを拒否された。
しかし、慌てることはない。僕にとってはいつものことだ。諦めずに、何度もトライをかける。
『アクセスが拒否されました』
無視。
トライ。
『アクセスが拒否されました』
トライ。
『アクセスが拒否されました……君もしつこいな』
999回目で返事がきた。
「リジェネ」
ヴェーダの中にいる存在へ声をかける。
『君にその名を呼ぶことを許した覚えはないよ』
「CBはデータを必要としている。アクセスの許可を」
『嫌だと言ったら?』
「君だって、わかっているだろう? CBの介入なしに、この局面は乗り越えられない」
『わかっているさ』
「……君は、そんなに僕のことが嫌いなのか? ティエリアが守った人類を滅亡させたいほどに」
『ああ、大嫌いだ』
                                                         
                                            チクチク、トゲトゲ、痛い。
ヴェーダから、いや、リジェネからの悪意だ。
『僕は君の顔も、名前も、声も、喋り方も、抱えた記憶も、全てが嫌いだ。僕とティエリアこそが対だったのに。どうして、ティエリアは君を作った? どうして、ティエリアは君にアーデの名と記憶を与えた? 固執していたCBを任せた?』
「それは……」
わからない。僕はティエリアの記憶を持っている。だというのに、どうして彼が僕を作ったのかわからない。
『一番知りたいことがわからないなんて、君って、本当に役立たず』
「……」
『だんまりかい? 事実だから仕方がないか』
クスクスとリジェネの笑い声が脳に響く。
ティエリアの記憶はある。けれど、ティエリアがなにを考えていたのかはわからない。戦いの中でも、人間たちの中でも、わからないことばかりだ。
「……アクセスの許可を」
声を絞り出す。
『またそれ?』
あきれた、馬鹿の一つ覚え、というワードが聞こえてくる。
「僕は、ティエリアではない」
『知ってるさ、僕が一番』
「僕は、ティエリアのように人類を守ったこともない、君のようにヴェーダを任されることもない」
口に出してみてわかった。リジェネが僕に抱く感情は、僕自身の中にもあった。
「ティエリアが大切にしていたヴェーダを託された君を、リジェネ・レジェッタを僕は羨ましいと思う」
                                                         
                                            ヴェーダから動揺が伝わる。この言葉は予想外だったのか。
「僕にはまだ、なにもなしていない。それでも、人類を守りたい。自分の意思で」
返事はなかった。
ただ、アクセスは許可された。
「……ありがとう」
もう誰もいない空間につぶやいた。
僕たちが完全にわかり合える時は来るのだろうか。もしかしたら、ティエリアが帰って来る未来でも、僕たちがわかり合えることはないのかもしれない。
それでも、今日は少し歩み寄れたと信じたい。
                                                
    
    
    
    
            レティシアとリジェネのSS 3/3
               
            
            
                14.10.2025 15:13 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            ティエリアが見ている。
展望室の宇宙で、ティエリアが俺を見ている。
ティエリアはある意味で素直なやつだ。感情を隠すということを知らない。思いをストレートにぶつけてくる。
怪我の一件を気にしているんだろう。
「そんなに見つめるなよ」
茶化したつもりだった。これまでのティエリアなら綺麗な顔で怒ってくれただろう。今は違う。
「嫌でしたか?」
つり上がってばかりだった眉が下がっている。ウインクのひとつでも飛ばしていれば、ジョークだとわかってくれただろうか。とはいえ、片目はもうないんだが。
「そうじゃない……ただ、」
「ただ?」
照れる。ものすごく照れる。
近づくのも一苦労だった相手が、至近距離から見つめてくる。手を伸ばせば捕まえられる距離にいる。離れてほしいわけじゃない。
「好きなだけ見ていりゃいいさ」
そう答えたのが間違いだった。
「……」
「……」
見ている。
ティエリアがずっと俺を見ている。
飽きもせず。
さすがにもうやめろと言うべきか。
だが、伝えれば傷つくだろう。
こいつを傷つけたくない。だから、俺は行動したんだ。
                                                         
                                            どう出るかあぐねていると、先にティエリアが口を開いた。
「綺麗だな……」
無意識に出た言葉だったのかもしれない。よせばいいのに、俺はそれを捕まえてしまった。
「なにが?」
すると、ティエリアがやっと俺から目を逸らした。
「あなたの瞳……、人類の2%しか持たない色だという……、そのひとつを奪ってしまったことを僕は……」
後悔、罪悪感、悲しみ……そんなもんは覚えなくていい。俯くな、俺見ろ。顎を持ち上あげてやっても、赤と緑はかち合わない。
「珍しいこともあるもんだ。お前が俺を褒めるなんてな」
「そういうわけでは……」
きれい、キラキラ、エメラルド、宝石。
家族から受け継いだ色は、ガキの頃から星の数ほど褒められて羨ましがられてきた。
けど、こう揶揄ってくるやつもいたっけ。
「──グリーンアイ」
歴史に纏わる紛争や社会情勢は叩き込まれていても、文学は詳しくないのか。ティエリアはピンときていないらしい。だからどうしたという顔をされた。
そんじゃ、教えてやりますか。
「緑の瞳のやつは、嫉妬深いって知ってるか?」
綺麗と言ってくれた緑を静かに近づける。
赤しか見えない。お前は今、どんな表情をしてる?
                                                         
                                            「あなたが僕に嫉妬を? なぜ?」
違う、そうじゃない!
文学に疎いティエリアは、人の感情も学び始めたばかりか。
そっと離れると、無垢な瞳がまた俺を見ていた。
                                                
    
    
    
    
            緑の瞳のニルティエのSS 3/3
               
            
            
                08.10.2025 11:06 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            「今近くにいる君がティエリアを助けてやってくれ」
「はい」
そのためにはどうしたらいいのか、ストラトスさんの言葉を待ちますが、それ以上はなにもくれません。
「さあ、早く現実に戻るんだ。ティエリアが帰ってくる前に」
ストラトスさんに言われるままにミレイナはシミュレーターを出て行きました。
現実の世界ではまだアーデさんが眠っていました。その目から涙が流れているのを見て、ミレイナは決意したのです。
「それが、ミレイナがシミュレーターのシナリオライターを志したきっかけなのです」
つい長々と話してしまいました。
聞いてくださった二代目ストラトスさんがなにやら机に突っ伏しています。
「なんだよ……、あの変な刑事物のシナリオは兄さんのせいだったのかよ……」
「変とはなんですか! アーデさんもこのシナリオには笑顔になってくれたのです!」
「失笑とか苦笑だろそれ……」
あれから、ミレイナは考えました。アーデさんがどうしたら泣かなくなるのか。
そこで現実はもちろん、仮想世界でも笑っていただけるよう、ミレイナはシナリオライターになったのです。
「でも、不思議なのです……」
                                                         
                                            「なんだよ、君が作った仮想世界以上の不思議はないだろ?」
「そういう話ではないのです。ミレイナはたくさんの仮想世界を作ってきましたが、あの時のストラトスさんのお兄さんのように意思を持ったAIは存在しないのです」
「それってまさか……」
あのシナリオを何度か起動したことがあります。セーラー服のアーデさん、喧嘩番長のハプディズムさん、チョリッスのセイエイさん、そしてストラトスさんのお兄さん……みなさんには確かにいつでも会うことができました。でも、ストラトスさんのお兄さんだけがなんだか違うのです。
まるで、あの時だけ……、いいえ! そんなことは科学的にあり得ないのです! まだまだミレナのシナリオライターとしての腕が足りないだけです。これからキャラクターに魂が宿るような力作を書いていくのです!
「もうやめてくれよ……」
そんなストラトスさんの言葉はスルーします。
                                                
    
    
    
    
            ニルティエミレとシミュレーターのSS 6/6
               
            
            
                05.10.2025 10:44 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            ミレイナが基地の見回りをしていた時のことです。シミュレーターが置いてある部屋がまだ消灯されていなかったので覗いてみました。
そこでは、アーデさんがシミュレーションをしていました。
アーデさんはとても勤勉です。ついさっきも、働きすぎだから早く寝るようにとパパから怒られていたばかりです。
きっと、ミッションのシミュレートでもしているのでしょう。CBの再建に熱心なのはありがたいことです。でも、みなさんアーデさんが体を壊さないか心配しています。
仕方ないです。ここはミレイナがパパに代わってビシッと言ってやるです!
そう思って、ミレイナもシミュレーターの中へダイブしました。
シミュレーターが構築した世界は、動画サイトでよく見かける地上のお部屋にそっくりでした。
ミレイナにはよくわからないですが、きっと、平和でごく普通の世界なのです。戦闘シミュレーションだと身構えていたミレイナはちょっとだけ拍子抜けして、またすぐにピリッとしました。
この世界には銃声は聞こえません。ですが、隣の部屋から言い争う声が聞こえます。
「どうして、もうここへは来ては行けないのですか!」
ひとつはアーデさんです。
                                                         
                                            いつも冷静なアーデさんが、こんなに大きな声を出しているのははじめてで、ミレイナは出ていくタイミングを見失ってしまいました。
「お前もわかるだろ?」
もうひとつは、知らない人です。
アーデさんより低くて大人の声です。
知らない人は落ち着いて語りかけていますが、アーデさんは大きな声でそれを打ち消します。
2人は何度もやり合いますが、
「あなたなんて知らない! あなたは彼ではない!」
そう叫んで、アーデさんは外へ出て行ってしまいました。
残された知らない人がアーデさんが出て行ったドアにつぶやきます。
「わかってるじゃねえか……」
アーデさんはミレイナよりずっと大人です。そして、この知らない人はもっと大人です。ミレイナだって、もう立派な大人のつもりですが、2人の話ていたことはとても難しいです。
でも、ひとつだけわかっていることがあります。アーデさんは泣いていたのです。強くてかっこいいアーデさんを泣かせるなんて、許せません!
「コラー! アーデさんをいじめないでください!」
ミレイナは突然ドアを飛び出して大声で威嚇したつもりでした。でも、知らない人は全く動じませんでした。
「あら、さっきから気配を感じると思えば……君は?」
なんなんですか、この掴みどころのない感じは?
                                                         
                                            ミレイナを見る瞳はメロン味がしそうなほど甘いです。茶色の髪の毛は動画で観たワンちゃんのようにやわらかそうです。
いいえ、かっこいいけど騙されてはいけません!
この人はアーデさんを泣かせたのです!
「ミレイナ・ヴァスティです!」
ミレイナが名乗りを上げると、知らないかっこいい人は目を見開きました。そんなことしなくても、瞳のキラキラはわかってます。眩しいです。
「ヴァスティ……、おやっさんの……」
どうやら、パパは有名人みたいです。でも、こんなイケメンさんをパパはミレイナに紹介してくれたことありません。ますます怪しいです。
「そちらこそ名乗るです!」
イケメンさんは少し何か考えるようにした後、こう答えました。
「えーと、俺は……ガンダムマイスター、ロックオン・ストラトス──を模倣したただのデータだ」
「ガンダムマイスター──アーデさんの他にいらしたのですか?」
「おやっさんから聞いてないか?」
「はじめて知ったです」
ミレイナはとても良いことを聞いたと思ったのですが、ストラトスさんはなにか苦いものを食べたかのように顔をしかめました。なにか悪いことを言ってしまったのでしょうか。
「ストラトスさん?」
近寄って覗き込むと、ストラトスさんはため息をひとつついてから、ミレイナに困ったように笑いかけました。
「君は、ティエリアを追いかけてきたのか?」
                                                         
                                            「そうなのです。アーデさんがお休みの時間もシミュレーションに夢中なので、ミレイナが注意するのです。アーデさんが働き詰めだとパパもママも、グレイスさんもアイオンさんも、みなさんが心配するのです」
「みなさんが心配……ね。よかったじゃねえか、ティエリア……」
今度は困ったようなではない、やさしい笑顔です。でも、向けられたのはミレイナではなくて、きっと……。
「ミレイナ……、君はいい子だ……」
「えっ!? なんなのです突然!?」
なんだか雰囲気に流されて会話をしてしまいましたが、イケメンスマイルには騙されません! ミレイナはアーデさんをいじめたストラトスさんを怒りに来たのです!
「ミレイナ、聞いてくれ」
「は、はい!?」
はじめて見る真剣な表情でした。ストラトスさんが腰を屈めてミレイナに視線を向けます。これはちゃんとミレイナへの言葉です。
「俺のコピー元のロックオン・ストラトスは遠いところに行った」
「遠いところって、どこですか……?」
「君もいずれわかる。今、ティエリアは本物の俺に会えなくなった心の傷をシミュレーターで癒そうとしている」
「心の傷?」
アーデさんはパパ達の元に帰ってきた時、傷だらけだったといいます。ドクターチームによって、もう元気になったと思っていたのですが、まだ怪我をしていたのですね。
                                                
    
    
    
    
            ニルティエミレとシミュレーターのSS 4/6
               
            
            
                05.10.2025 10:43 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            私はXXX
父と母から生まれ
学校に通い
友と過ごし
報道官となった
ある日、情報がインストールされた
この世界のあちこちに
情報収集タイプの人造人間が存在するらしい
私もそのひとりだという
そんなはずはない
父と母へ連絡する
繋がらない
存在しない
友へと連絡する
繋がらない
存在しない
私は私であるはずだ
全ての記憶は紛い物だというのか
私は
                                                
    
    
    
    
            劇場版のあの人って、顔晒して大丈夫?なSS 1/1
               
            
            
                29.09.2025 11:44 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            死んだ人間はどこへ行くのか
起動してからそれを考えたことはなかった
考えるようになったのは、ロックオン・ストラトス──あなたのせいだ
全てはヴェーダの計画のために存在する
組織も、人間も、なにもかもが
途中で去った人間など計画には関係ない
しかし、あなたが亡くなってから僕はずっと考えている
あなたはどこへ行ったのか
どこへ行けばあなたに会えるのか
参考資料を検索する
宗教など争いを生むだけのもの
検索することのないカテゴリーのはずだった
検索の結果
多くの命を奪ったあなたが行った先は地獄だと結論づける
地獄では死者に永遠の責め苦が与えられるという
あなたが苦しむのは嫌だと思った
なんとか救うことはできないだろうか
審判を下す存在に僕は主張したい
                                                         
                                            彼は僕を救ってくれた!
僕を守ってくれた!
僕にやさしくしてくれた!
そう伝えれば
あの人を地獄から出してもらえないだろうか
罪を軽くしてくれないだろうか
苦しみから解放させられないだろうか
そのために僕も行かなくてはならない
ロックオン・ストラトス──あなたのいる地獄へ
                                                
    
    
    
    
            地獄とニルティエのSS 2/2
               
            
            
                25.09.2025 08:35 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            部屋を出る前に鏡を見る。
眉はつり上がっている、問題ない。
目もつり上がっている、問題ない。
口角は下がっている、問題ない。
視線は上から下に見下ろしている、問題ない。
腕を組んで胸を張る、これでOKだ。
今日も僕は──ティエリア・アーデは不遜な感じです。
部屋を出て、すれ違ったクルーの集団と挨拶を交わす。彼らはこれから就寝らしい。僕は不遜だから、上から目線でこう言ってやる。
「ご苦労だった。ゆっくり休むといい」
ありがとうございますだとか、ティエリアさんはこれから出るのですかだとかいう声に返事をしてやる。
声は低く、抑え気味に。不機嫌そうに。
すると、みんな恐れをなしたのかそれぞれの部屋へと戻って行った。
その先で、フェルトに出会った。
彼女は大きな荷物を抱えている。低重力下とはいえ、ひとりでフラフラよろけて見ていられない!
                                                         
                                            誰か手伝ってやらないのかという苛立ちを露わに声をかける。
「その荷物は僕が運ぼう」
ふん、フェルトの返事も待たず荷物を持ってやった。僕は不遜だからな。
「ありがとう、ティエリア。助かるよ」
なぜかフェルトに礼を言われた。
僕の方が背が高く力も強い。君より不遜な体のなんだ。力仕事くらい当然だ。礼など不要と突き放す。
フェルトに会ったのは予定外だった。イアンとの待ち合わせ時間が近づいてくる。
僕は不遜だ。廊下を急ぐくらいなんだ。僕への注意など許されない。
不遜な長さの脚で、ドックに滑り込む。
「ティエリア、走ってきたのか? まだ10分前だぞ」
僕は不遜だから、重役出勤くらい許される。それでも、今回は間に合ったらしい。息を整えて、今日も新型MSの開発だ。
刹那、アレルヤ……君たちは今どこで何をしている。
全く、僕が君たちの生存を主張しなければ開発はどうなっていたことか!
帰ってきたら小言の一万でも足りないくらいだ!
                                                         
                                            仕事に集中しすぎて、帰りが遅くなってしまった。イアンに誘われ、今日はヴァスティ家で夕飯をいただく。
だが、その前に、ラッセの病室に寄ってやろう。彼は擬似GN粒子に体を蝕まれている。隠れて無理な筋力トレーニングでもしていたらどうしてやろうかとは考えていたが、案の定だった。
バツの悪そうな顔のラッセへ説教をしてやる。腕を組み不遜な態度で。
「無理はするな。身体を大切にしろ」
そう言ってやると、ラッセがそっぽを向いて頭を掻いた。
「いや、なんつーか、ティエリアに心配されるとはな……」
説教の効果が出たようだ。彼は今日は安静にしてくれるらしい。
今日は……か。明日も来てやろう。これは監視だ。
それから、ヴァスティ家に着いた。リンダとミレイナ、先に帰っていたイアンが僕を迎え入れる。あたたかい料理が出てきた。
形のある魚を素知らぬ顔で食べてやる。昔なら食べなかっただろうが、今の僕はそんなことには構っていられない。働いて、小言に説教。不遜な感じの維持には栄養が必要だ。
「ティエリアはいっぱい食べてくれるから、作る方も嬉しいわ」
リンダは笑っているが、僕としたことが手土産を忘れた。代わりにミレイナの勉強に付き合ってやらねば。
                                                         
                                            ミレイナはオペレーターになりたいそうだ。
新しいトレミーには人員が不足している。だから、メカニックやプログラマーの知識も叩き込む。もちろん僕の授業は厳しい。
「アーデさんのお勉強、わかりやすいです」
ミレイナはミスをして不遜な僕に叱られるのが怖いのか、飲み込むのが早い。これなら、数年後にはトレミークルーになれるだろう。
就寝時間だ。ヴァスティ家に挨拶をして、自室に戻る。
そして、眠りにつく前にまた鏡を見る。
眉はつり上がっている、問題ない。
目もつり上がっている、問題ない。
口角は下がっている、問題ない。
視線は上から下に見下ろしている、問題ない。
腕を組んで胸を張る、これでOKだ。
ベッドに入り目を閉じると声が聞こえてくる。
──らしくねえなあ。いつものように不遜な感じでいろよ。
ロックオン、今日も僕は──ティエリア・アーデは不遜な感じでした。
                                                
    
    
    
    
            1stと2ndの合間のティエリアのSS 4/4
               
            
            
                21.09.2025 11:22 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
            
    
    
    
    
            劇場版15周年&Re:vision以降どうなるのかな記念のSSでした
               
            
            
                18.09.2025 08:45 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            ハロはデュナメスの、いや、俺のために用意された。それなのに、どうして俺よりティエリアとの距離が近いのか。
「人間?」
ティエリアの顔が歪む、侮蔑が込められた表情だ。
「人間より、彼の方が信用できますから」
両腕でハロを抱きしめるティエリアはヴェーダ信奉者だと、短い付き合いながらもわかっていた。ティエリアはハロを好いているわけじゃない。人間を嫌っているだけだ。
それはなにかが違うと、心の奥から感情が噴き出す。
「俺もハロについて行く」
「なぜ? あなたには用はありません」
「ハロは俺の相棒だ」
「相棒とは? 確かに、ハロはデュナメスの独立支援AIですが?」
ティエリアが首を傾げる。俺の言いたいことがわからないのだろう。
「ロックオン、どうしたんですか?」
さっきまでとハロに対する態度が違う俺に、アレルヤが困ったような表情を向けてくる。
『ハロ、ロックオン、ナカヨシ!』
ティエリアの腕の中でチカチカ目を点滅させるハロだけが、俺の気持ちを理解している。そう確信があった。
                                                         
                                            それから、俺とハロはシミュレーションや訓練だけではなく私生活も共に過ごした。
俺たちはたくさんの話をして、一緒に飲み食いは……できないが、雰囲気はハロも楽しんでくれただろう。
「ハロ、もうすぐ4人目のマイスターが来るらしいぜ。どんなやつだろうな?」
ブリーフィングルームに向かう道すがら、小脇に抱えたハロへと声をかける。いつの間にか、ここがハロの定位置だ。
『ハロ、シッテル』
「情報が早いねえ。どんなやつかこっそり教えてくれよ」
『ヒミツ、マダイエナイ』
「なんだよ、少しくらいいいじゃねえか」
『ダメ、ダメ』
マイスターが揃う。
終わりの始まりが近づいている。
俺の終わりを見届けるのはきっとお前なんだろう、相棒。
                                                
    
    
    
    
            ロックオンとハロの出会いのSS 6/6
               
            
            
                18.09.2025 08:45 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            「紹介したい子がいるの」
ガンダムマイスターに選ばれてしばらく経った頃、戦術予報士は俺にそう告げた。なんでも、そいつはデュナメスの狙撃モードを支援してくれるらしい。
デュナメスのコックピットには俺以外が乗るスペースはない。そうなると、支援は遠隔か。
「紹介したい“子”ねえ……」
戦術予報士の呼び方からすると、相手はかなり幼い。子どもがどうして紛争根絶を掲げるこの組織に入ったのか。自分以上に訳ありだろう。
どうせなら、アレルヤのようにコミュニケーションが取れる相手が助かる。ティエリアが2人に増えるのは勘弁してほしい。
なんて、勝手なことを考えながらブリーフィングルームに入る。お相手の姿は見えない。いるのはミス・スメラギだけだ。まさか、戦術予報士が指揮をしながら、俺の支援をするってことはないだろう。
「来てくれたわね。ロックオン」
「ああ。お相手はまだかい?」
「あら、もう来ているわよ。あなたの足元」
「足元?」
視線を床に下げる。
そこには、オレンジ色の球体……よく見りゃ、小さな目らしきものがふたつ付いている……ロボットが置いてあった。
……いや、ロボット!?
                                                         
                                            俺の動揺を感じ取ったミス・スメラギが苦笑している。だって、ロボットだぜ? 昔エイミーがクリスマスプレゼントに欲しがってたおもちゃにそっくりだ。
「驚いたみたいね。この子がこれからデュナメスのサポートをしてくれるわ。コックピットにも設置スペースがあったから、知っていたと思っていたのだけれど……」
謎のスペースがあるとは思ってはいたが、まさかこいつが搭乗するなんて予想できるかよ。
「仲良くしてあげて」
「仲良くって……」
俺は二十歳をとっくに過ぎている。ガキみたいにおもちゃのロボットと仲良くだなんてと、困惑する俺をよそに、ロボットが目らしきパーツを赤く点滅させて飛び跳ねた。
『ナカヨク、ハロ、ナカヨク』
「うおっ、喋った!」
「そりゃあ、喋るわよ。ちなみに、ハロっていうのはこの子の名前」
「へ、へえ……」
ロボット……いや、ハロと、ミス・スメラギがなにかを期待する眼差しを俺に向ける。
これは、俺にも喋りかけろということか。正直なところ、恥ずかしいがやるしかねえ。
「Hi、ミスターハロ? いや、ミス? ミズか?」
『ハロ、ハロ!』
突然、ハロが名前を連呼した。
会話、通じてんのか?
「ハロと呼んでほしい。そうこの子は言っているわ」
                                                         
                                            見かねたミス・スメラギが助け船を出してくれたが、さっぱりわかんねえ。
「えー、ハロ? 俺はロックオンだ。ロックオン・ストラトス。わかるか?」
『ロックオン、ロックオン』
事前にガンダムマイスターのコードネームはインプットされていたのか、今この場で覚えたのか。とにかく、会話には一応なっているのか?
「今日から俺たちは一心同体なんだ。よろしく頼むぜ、相棒」
『ヨロシク、ロックオン、ヨロシク』
ピョンピョン跳ねるハロを撫でてみた。
こいつに背中を預けて戦うんだ。表面だけでも上手くやっていかねえとな。
「それで、24時間この子と暮らすことになったんですか?」
ハロを小脇に抱えて移動している最中、アレルヤに会った。目ざとくハロを見つけたアレルヤに声をかけられ、事情を説明したら笑われた。
おしゃべりロボットと成人男性のコンビは、おもしろおかしい存在らしい。俺だってそう思う。
「ハロ、ロックオン、ナカヨシ!」
ハロが発した言葉に、アレルヤが吹き出しそうになっている。この野郎。
「そ、そうなんだ……。えーと、ハロはミスターかな、それともミス? ミズの方がいいのかな?」
「アレルヤ、そのくだりはもうやった。呼び名はハロでいいらしい」
「じゃあ、よろしく。ハロ。僕はアレルヤ・ハプディズム」
                                                         
                                            『アレルヤ、ヨロシク、ヨロシク!』
喜びの表現なのか、またピョンピョン飛び跳ねるハロにアレルヤが微笑んでいる。
ガンダムマイスターの中でも穏やかなアレルヤすらハロに困惑していた。これからどうしたらいいんだとモヤモヤ考えているところに、今一番会いたくない相手が登場した。
「失礼します」
この、わざと畏まったお堅い声はティエリアだ。
そいつがギロリとハロを見る。俺とアレルヤに緊張が走った。
ティエリアは生真面目だ。そんなやつが、ハロと戯れる俺たちを見たら、遊んでいるのかと激昂するに違いない。
「おい、ティエリア。俺たちは遊んでいるわけじゃ……」
「なにを言っているのですか? あなたには用はありません。俺が探していたのは……」
スッとティエリアがハロを両手で抱き上げる。そして、信じられないことを言った。
「君だ、ハロ」
君……まるで、当たり前のようにティエリアはハロを呼んだ。
「では、ハロはしばらくお借りします」
そう一方的に告げてハロを持ち去ろうとするティエリアに、俺は思わず声をかけた。
「待て、ティエリア」
「なにか?」
「今、ハロを君と呼んだな」
「それが?」
「……まるで、人間じゃねえか」
なぜだか、胸がキュッと痛んだ。
                                                
    
    
    
    
            ロックオンとハロの出会いのSS 4/6
               
            
            
                18.09.2025 08:43 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            ──これは記憶の再生だ。
誰がデータを無断で再生したのかなんて、わざわざ問いかけない。ヴェーダの中にいるのは僕の他にひとりしかいない。
『怒らないのかい、ティエリア?』
放っておかれて痺れを切らしたのだろう。リジェネから僕に声をかけてきた。
『怒らない』
『君はいつも、僕が勝手に記憶データを再生すると反応をするのに』
『勝手という自覚があったのか……』
呆れてため息をつきたいところだが、ここには肉体も空気もない。仕方なく、ため息をつくモーションを表示させる。
『暇ならば、このデータでも閲覧していたらいい』
ヴェーダの中から、小さくてノイズだらけのデータを取り出して渡すと、リジェネから驚いた感情が伝わってきた。
『ティエリアから僕に記憶データを渡すだなんて、珍しいこともあるものだ。これは、24時間以内に地球に隕石が降り注ぐかもしれない』
                                                         
                                            『勝手に言っていろ。僕は眠る』
リジェネには付き合っていられない。
彼はただ、暇を潰したいだけなのだ。
僕は目を閉じて眠りに落ちた。
──データを再生します。
2つのレンズにフレームがついた物が複数、テーブルに置かれていた。
メガネというのだと、淡い緑髪の彼が教えてくれた。かつては視力の補助に、今はほとんどファッションのために使われているのだという。
創造主の遺産とはいえ、時代遅れのそれには誰もが興味を示さなかった。薄紫も、オレンジも、薄緑も。
それを手に取ったのは僕たちだけだ。
僕たちは向かい合って、それをかけてみた。
ぼんやりとした世界。
                                                         
                                            見なれた同じ顔がいつもと違う。
最初に違和感を覚えたのはどちらだろう。
自分の感情か、相手の感情か、わからない。
僕たちはいつも一緒だった。
同時に笑い出す。
こんなに笑ったのははじめてだ。
僕たちはいつもそれをつけて歩いた。
他の誰もが変だと言ったけれど、僕たちは気にしなかった。
しばらくして、僕は記憶を消されることになった。
どうやら僕は計画のために死なくてはならないらしい。
最後の時を待つばかりの僕に、君はこっそりとそれを持たせてくれた。記憶は持ってはいけないけど、物については何も言われてないからと。
薄緑の彼に逆らうなんてと震える僕に、君はこう言った。
『僕を忘れないで』
──ここからのデータはありません。
                                                
    
    
    
    
            ティエリアとメガネについてのSS 5/5
               
            
            
                16.09.2025 15:04 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            あれは、CBが壊滅してからしばらく経った頃だった。僕が怪我から復帰する日に、フェルトとミレイナが病院まで迎えに来てくれた。
「ティエリア、退院おめでとう」
微笑むフェルトの横で、ミレイナが僕を見て硬直していた。それは、いつも賑やかなミレイナにしては珍しいことだった。
「ほら、ミレイナもティエリアにおめでとうって言おうよ」
フェルトに促され、やっと口を開いたミレイナが発したのは意外な言葉で、あの日の衝撃は今でも忘れない。
「アーデさんがメガネをしているです!!」
次に固まったのは僕とフェルトだった。思わず、2人顔を見合わせた。
「ティエリアはいつもメガネだけど……」
「そういえば、入院中はメガネをしていなかった」
正確には、メガネがなかったのだ。僕のメガネはトレミーと共に失われた。
メガネは退院に合わせて取り寄せたが、ミレイナとは入院中に出会った。だから、彼女はメガネをかけた僕を見たことがなかったのだ。
「ビックリしたですけど、メガネとってもお似合いです」
                                                         
                                            「ティエリアといえば、メガネという感じがして安心するな」
似合っている、僕といえばメガネ……、褒められて悪い気はしなかった。今思えば、僕は嬉しかったのだろう。
「でも、ティエリアは視力が低いってわけじゃないんだよね?」
「ミレイナのパパやママとは違うです?」
そうだな……これは、なぜかけているのだろうか?
改めて問われ、わからなくなった。
フェルトの言う通り、僕は視力が低いわけではない。ならば、余分だ。不要だ。
それなのに、僕はどうしてわざわざ取り寄せてまでメガネにこだわるのだろうか。
「オシャレですか?」
ミレイナが首を傾げた。
ナノマシンが発達した2300年代において、メガネは視力の補助よりもファッションの側面が強い。
だから、きっとそうなのだろうと僕は答えた。
                                                
    
    
    
    
            ティエリアとメガネについてのSS 2/5
               
            
            
                16.09.2025 15:02 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                            「刹那」
トレミーの展望室──呼び止めるティエリアの声に、刹那は懐かしさを覚えた。
4年ぶりに再会したティエリアは、以前のように苛立ちを刹那にぶつけなくなった。
だが、今かけられた声は違う。強くて、棘がある。
「どうした?」
怒らせた心当たりはあったが、ティエリアの意思を引き出すためにあえて刹那は問いかけた。
「どうしたではない。あの男のことだ」
「ロックオンか」
ティエリアが刹那から目を逸らす。そして、こう言い直した。
「ロックオンの弟……」
刹那は気づいていた。トレミーの面々は、新たなロックオン・ストラトスをまだ受け入れられていない。
同じ顔、同じ声……誰もが複雑な想いを抱える中、彼を連れて来た刹那に直接声をかけたのはティエリアがはじめてだ。
視線を刹那に合わせ直し、ティエリアは鋭い声を飛ばす。
                                                         
                                            「あの男をなぜ戦場へ連れて来た」
「必要だからだ」
「戦いに出れば死ぬ。それをロックオンは望んでいない」
「あいつもロックオンだ」
「刹那! そういう話をしているのではない!」
ティエリアは先代のロックオンを慕っていた。身を挺して庇われて以降は特別に。そんなティエリアがロックオンを受け入れるのに時間を要することは、刹那もわかっていた。
「ロックオンは自ら戦場に足を踏み入れていた。カタロンよりも、CBにいた方が命の危険は減る。俺たちがいる」
刹那も先代ロックオンを忘れたわけではない。
彼の家族を大切にしたい。
想いを込めて伝えると、ティエリアが緊張をといた。
「……すまない、刹那。君の言う通りだ。僕は冷静になれていなかった」
「構わない」
「彼を守る。MSの指導は僕が行おう」
                                                         
                                            この4年、開発に携わってきたティエリアはどのMSについても熟知している。ロックオンは一番安全な指導を受けられるだろう。
「了解した。お前に任せる」
「……死なせるわけにはいかない」
ティエリアはまだ先代ロックオンへの恩に報いようとしているだけなのかもしれない。それでも、組織内でも浮いているロックオンへ自ら関わろうとしてくれたことが、刹那は嬉しかった。
それからしばらくして、ロックオンがぼやくようになった。
「あの教官殿、厳しいのなんのって! さっきも、模擬戦でボコボコにされて嫌味まで言われて散々だったぜ!」
刹那はわかっている。ティエリアがロックオンの生き残りに必死なことを。強い言葉の裏の真摯な気持ちを。
「って、なに笑ってんだよ。笑い事じゃないっての!」
その後、ティエリアは役目を果たす。自らの命と引き換えに。
                                                
    
    
    
    
            2期はじめ、ロックオンの話をする刹那とティエリアのSS 3/3
               
            
            
                14.09.2025 13:12 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                         
                                                
    
    
    
    
            グラハムに憧れるレティシアの話 5/5
               
            
            
                10.09.2025 14:51 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
        
            
        
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                
    
    
    
    
            ティエリアとフェルトのSS 1/5
※ニルティエ、ニルフェル前提。名無しモブがいます
               
            
            
                03.09.2025 08:56 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
        
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                
    
    
    
    
            ライルとミレイナのぬい活の SS 1/5
フェル→ニルティエ←ミレ要素あり
               
            
            
                20.08.2025 15:34 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                         
                                                
    
    
    
    
            量子コンピューターに婚約破棄された悪役令嬢ですが人間の王子に溺愛されています 6/6
※ティエリアとリジェネ
               
            
            
                19.08.2025 10:21 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0                      
            
         
            
        
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                
    
    
    
    
            量子コンピューターに婚約破棄された悪役令嬢ですが人間の王子に溺愛されています 1/6
※ニルティエです
               
            
            
                19.08.2025 10:20 — 👍 1    🔁 0    💬 1    📌 0                      
            
         
            
        
            
        
            
            
            
            
                                                 
                                                         
                                                
    
    
    
    
            刹那と沙慈とティエリアとフェルトのお盆の話6/6
ニルティエとニルフェルあり
               
            
            
                13.08.2025 08:35 — 👍 0    🔁 0    💬 0    📌 0