花芽り火

火葬車を降りておうちへ帰ろうよちいさいちいさいちいさい手のひら

去る人の背中は似ている「この人は去るのだ」という心で見るから

線香の香絶え絶えに、いや違う、あの子の香りは木陰の草の、

人は言う 星、虹、風に君はなったと　僕だけが見た頭骨の彎

君のごはん代を稼ぐために働いてきた。今日からはお花代になったけど、本質は変わらない。

しろたへのガーゼやわらか春昼のひかりのなかで愛鼠指噛む

遠くから君を迎えにくる朝に月下美人の咲く不寝番

超小型水槽(いつの日か闘魚水槽になる)をやりたい

命の残量がきれいなビーズならいいのにと思う。普段は糸で数珠繋ぎにしておく人や、お菓子の空き缶に仕舞っておく人もいる。ときどき、じゃらっと並べて眺めるほか、誰かにあげたり、貰ったり、売買したりする。私は一番気に入った一粒だけネックレスにして、一粒はねずみのお布団に入れてやり、残りは海にでも流して捨てたい。どんな色のビーズを残そうか考えている。

生きるのは子どものころのほうが辛かったから、「昔に戻りたい」と思うことはない。でももし戻るなら、あの子がくしゃみを何度もして、歯をもごもごとし始めたあの頃に戻りたい。そのもうすこし前でもいい。みんなでいっしょにごはん食べたい。

いまひとたびのみゆきまたなむ

N優位の私にはSの知覚がかなり理解しづらいけど、ティーダ(ESFP)は掴みやすく良いサンプルになっている。
「なんだかよく分からないな(分からないことに推察も憶測も必要ない)」
「どうでもいいよ(本質じゃないことを議論するのはやめよう)」
「ウダウダ考えるの、やめた！(本当に考えるのをやめている)」
こういう思考の仕方てN型は苦手だし、Sの魅力は潔さだ。

夕闇のパレードきらきら電飾の最後のひとつは君の眼の中
2023.05.21

得て、失くし、3月となる。定食屋、角に座って、ほぐす鰆身。

「書斎の猫」

「なくすのがこわい未明」と「なくしても余りある朝」のオリジナルブレンド

己が為 花を贖う習慣の長くなりまたチューリップ咲く

身の程を知れ馬鹿者と遠くから確かに聞こえて起きた、あけぼの

名前のないきもちを土葬する際は菫のリボンを巻くのがマナー

アウトロの後は静寂─「それでもいい、それでもいい」で始まった曲

不達でも厭わぬ手紙を書くための君の背中は縦罫便箋

駅々で余寒の会話を思い出す 霞ヶ関ではあんなジョークを

朽船で仰ぎ見ていた北極星 誰そ流れ着く自我のフィヨルド

「どうしたい？」と尋ねた上司は18と14の子どもの父の声色

泥色のコーヒーばかり飲み下し如何でか涙透き通っている

昨日まで鋏を当てていた花芽に半信半疑で水やりをする