麻

やたらとレティシア・ナサレノという名前が目についた。心の嘆きをこんなふうに、牛の小便のように書き残すほど不幸な人間がいったい何者であったのか、まったく見当がつかなかったが、しかし彼自身の文字であることは間違いなかった。

『族長の秋』

……ほんとは叫ばなくたって泣かなくたって
たすけがきたらいいっておもう
……だけど
ー世界はそんな風にできていない
敵も味方もごちゃまぜの中の人でー……これが欲しいって叫ぶしかないんだ

『魔法使いの嫁18』

桜梅桃李
読み方 おうばいとうり
意味 桜（さくら）、梅（うめ）、桃（もも）、李（すもも）がそれぞれ独自の花を咲かせるように、人もまた、自分らしさや個性を大切にし、それぞれの特性を活かして生きるべきであるという考え。

結局、どんなに私小説から遠い作品を書いても、どんなに身の回りの「自分の事だけ」書いても、「他者がない」と言われても私にはこの病がちの肉体があった。どう出るか判らない他者としての持病。そんな中で想像の世界にも現実にも似た、私的虚構を書いた

これからも「他者がない」と誤解される小説を平気で書いていく。身体性は私の社会性だから。

『未闘病記　膠原病、「混合性結合組織病の』

「では次は麻にゃん先生でブリンバンバンボンです。どうぞ！
なんで歌ってくれないの。壊れちゃったのかなあ」

彼の体は、まだ世界のどこかにあるだろうか、どうだろうか。わたしの時代のあの日々は、どこかに残っているだろうか。なぜ今も、わたしは思いだすのだろう。彼と交わっていたあの日々に、あのときわたしに満ちていたすべての死にたさよりも、生き残った何かがあったということだろうか。
「花瓶」

仰向けになったあなたは電話をつかんで目の前にかざし、他人の彩りあふれる生活の写真や、読むことのできる言葉のつらなりを、際限なく目に入れてゆく。ぜんぶがおなじでぜんぶが違い、ぜんぶが光ってぜんぶが苦しい。全体としての白痴、全体としての盲目、全体としての同意、全体としての加担。あなたが見つめる画面には、知りたいものも、知るべきことも読むべきものも本当はありはしないのに、あなたはどこからも目を逸らすことができないでいる。瞬きするごとに虚しさが滴り落ちていく。

川上未映子『春のこわいもの』「淋しくなったら電話をかけて」

「先パイといるとなんでかさびしくなる時があったりしてさ
そうすると先パイが俺のもとめてることを探し始めるんだ
早く自分を安定させてそういうのなくしたいんだよね
大切な人をコントロールするような素ぶりはしたくないからね」

池辺葵『ブランチライン07』

どんな身体でどんな時代に生まれても
魂は揺らがないと思います。

さのさくら「ただの飯フレですが」

白露は消なば消ななむ消えずとて玉に抜くべき人もあらじを

白露よ消えるなら消えてしまえ
消えずにいても誰もあなたを白玉として糸でつなげてくれないだろうよ

「空っぽの人間だね！しかし、間違いなく天国に行くだろう。あの女はすべてをゆるしている、だから彼女自身すべてゆるされるのだ」侯爵夫人にはこんな噂もあった。彼女が街から去ったあとには必ず債務者が残る、しかし、彼女から恩恵を施された人たちも同じくらい残るのだ、と。やわらかな心というのは、いずれの方向にたわむも思いのままなのだろう。
『19世紀ロシア奇譚集』　「クララ・ミーチリ　－死後」

一度私を発見したからには、もう私を見つけることは簡単だ、今後の難問は私を失うこととなるだろう。

入院、その後のインフルでマイナス×マイナスはプラスやん！って一瞬思ったけど、よく考えたら失恋に禁煙にと実際はマイナスの何乗なんだい？

「でもベッドの上で何もできない時にやってたことが恋愛なら上出来じゃない？」

ハムレットは一貫した心理としてではなく、一個の生きた人間として、舞台の上で、自由に、その場その場に即して「演戯」をしているのである。だから、そこには一見して矛盾もある。が、それは作品上の矛盾というより、生きた人間の矛盾なのである。

二度ともどって　来ぬかいな？
二度ともどって　来ぬかいな？
なんでもどろか　亡き人の
帰らぬ旅路　待つよりは
いっそわが身を　捨てやんせ
雪のおひげも　いまはなく
麻の白髪も　いまはなく
かいなき涙　ぬぐいつつ
どうぞあの世で　しあわせに！
それから、みなさんも、どうぞおしあわせに。さようなら。

『ハムレット』

遍在する麻にゃん。

他者から一方的に課される「自己」を、なんの理由も無く、誰の力も借りずに受容すると決め、今度は別人の「自己」」の受容を、その存在を深く尊重することによって促す。ここに「一切の他者の利益をはかる行い」の本領がある。そしてそれこそが、互酬関係としての世俗規範（たとえば「情けは人のためならず」）を起動させる原動力となる。

自分は女に、餓えている。この餓えを自分は、ある美しい娘が十二分に癒してくれるものと、信じて疑わない。実はいまだに口をきいたことすらなく、この一年近くは姿を目にしてもいない、いや、だからこそますます理想の女に近づいてゆく、あの娘が……。あまりに熱烈で一方的な片恋。その当然すぎるまでの破局を、豊かな「失恋能力」の持ち主・武者小路実篤が、底抜けの率直さで描く。

あなたが信じている「正しい」世界だって、この世界へのグラデーションの「途中」だったんだと叫びたくなる。
　私たちはいつだって途中なのだ。どの世界に自分が洗脳されていようと、その洗脳で誰かを裁く権利などない。
（消滅世界）

牛乳の紙パックは、息をふきこまれて、ぱんぱんにふくらんでいる。
若槻ナオトと逃亡したように、彼女の手をとって教師や警察から逃げればよかったのだろうか？
彼女は、学校にも、自宅にも、もどってこなかった。
取り調べを終えたあと、警察署のトイレに行き、そこから出てこなかったのだ。
目の前の紙パックに、彼女のはきだした息が今も充満している。

（山羊座の友人）

お菓子とか美味しいものが出てくる作品が好きだとおっしゃるあなたが好きで。

だが、穴からは明るい光がもれ、大きな蝶がゆっくりと舞い出てきた。蝶は薄暗い電灯の下で、まごついたようにはばたいた。
星新一　壁の穴『ちぐはぐな部品』
凡庸な青年がふいに手に入れた惨めな一人遊びに我慢ができなくなった挙げ句、遊び道具がまたふいに消え去るまでの、すげー色鮮やかで美しい描写。

どうして愛しているかというと、ハンサムだからじゃなくてね、ネリー、あの子がわたし以上にわたしだからよ。人間の魂がなにで出来ていようと、ヒースクリフとわたしの魂はおなじもの。

嵐が丘

「おねがい。
結婚するならミアとして」
7人の眠り姫6

正しいおこないを為さんがために困難に直面することを避けるのであれば、われらはその名に値しない」

月やあらむ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして

月も　春も　なにもかもすべて
わたくし以外はかわりはててしまった
わたくしだけがここに

3姉妹を形成していた二人と離れてしまってから、今仲良くしている3人関係もそう遠くないうちになくなってしまうんだろうなという考えを拭えない。

「二人はわたしにとってのわたしたちだったんだ」

「あのかわいい子は今日休みなの？」と、てらいなくかわいい子をかわいいと言えるそのままのあなたであってほしい。