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からん

@karanhako.bsky.social

好きなものを好きに愛でる文字書き。 成人済。主に物語シリーズアカウント。詐欺師中心(貝ひた♣✂、オカ研)に諸々。HLBLGL雑食。ジャンルも雑食。好きに貪欲。🎁https://wavebox.me/wave/5on3h3c6kt64s2gl/

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こちらにもひたぎさんを載せる。好きなので。推しなので。浮かれてるので、私が。

24.05.2025 13:39 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0

ついったくんが使えなくなると他SNSに散らばって生存確認してるの、繰り返す歴史そのものって感じ。

24.05.2025 13:12 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

戦場ヶ原先輩は風だ。
バスケ部の私をスカウトしに来た時は、とんでもない人物だと思って色々とやらかしてしまったが、しかし戦場ヶ原先輩はあながちとんでもない人物であることは間違いなかった。自分の魅せ方を理解して、自分に求められていることを把握して、戦場ヶ原ひたぎという人物を構築することがとても上手いのだ。その中でも陸上部は、戦場ヶ原先輩の短距離走は、あまりにも最高の舞台でしかなかった。
どれだけ横に並ぶ人物がいようとも、疾走る戦場ヶ原先輩にはかなわない。勝ち目がない。疾さだけではない存在感と、見る者を釘付けにするフォームの美しさが、誰もが戦場ヶ原先輩に見惚れてしまう。
スタンドから初めて見つめたときに、確信した。とんでもない人物の、とんでもない努力だ。あれを天賦の才だとか、生まれ持った才能で片づけるのは、やっかみでしかない。
走ることにかけて常人ではいられなかった私だからわかること。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 戦場ヶ原先輩は風だ。 バスケ部の私をスカウトしに来た時は、とんでもない人物だと思って色々とやらかしてしまったが、しかし戦場ヶ原先輩はあながちとんでもない人物であることは間違いなかった。自分の魅せ方を理解して、自分に求められていることを把握して、戦場ヶ原ひたぎという人物を構築することがとても上手いのだ。その中でも陸上部は、戦場ヶ原先輩の短距離走は、あまりにも最高の舞台でしかなかった。 どれだけ横に並ぶ人物がいようとも、疾走る戦場ヶ原先輩にはかなわない。勝ち目がない。疾さだけではない存在感と、見る者を釘付けにするフォームの美しさが、誰もが戦場ヶ原先輩に見惚れてしまう。 スタンドから初めて見つめたときに、確信した。とんでもない人物の、とんでもない努力だ。あれを天賦の才だとか、生まれ持った才能で片づけるのは、やっかみでしかない。 走ることにかけて常人ではいられなかった私だからわかること。

戦場ヶ原先輩は、きっと誰にも見られないようにして、血の滲む努力を積み上げられた。それを悟られないほどに、才能と言わしめるほどに美しさのみを残して走るのだ。だからこそ、その走りに魅了される。
「走るのが速いだけで人気者になれるのは、小学生時代までじゃなくて?」
「戦場ヶ原先輩の速さに惚れない人間など、私が認めないぞ!」
「あらあら、大袈裟な子ですわね」
独特のお嬢様喋りも、その奥で細められる瞳が私を品定めしているのも、それら全てが戦場ヶ原先輩の良さであり、魅力だ。それを理解できない人間は勿体ないと思うが、邪魔者が減るのは有り難い。

戦場ヶ原先輩は、きっと誰にも見られないようにして、血の滲む努力を積み上げられた。それを悟られないほどに、才能と言わしめるほどに美しさのみを残して走るのだ。だからこそ、その走りに魅了される。 「走るのが速いだけで人気者になれるのは、小学生時代までじゃなくて?」 「戦場ヶ原先輩の速さに惚れない人間など、私が認めないぞ!」 「あらあら、大袈裟な子ですわね」 独特のお嬢様喋りも、その奥で細められる瞳が私を品定めしているのも、それら全てが戦場ヶ原先輩の良さであり、魅力だ。それを理解できない人間は勿体ないと思うが、邪魔者が減るのは有り難い。

ひたぎランニング(戦場ヶ原ひたぎと神原駿河)
見る者が変わると、見えることが変わるから。

10.03.2025 14:35 — 👍 3    🔁 2    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「ひどいや撫公」
「い、いらっしゃい斧乃木ちゃん」
「今日はミントの日だそうだよ、つまりは僕、斧乃木余接の日といっても過言じゃないだろう。なのにお前ときたら、まるで僕のことをちやほやする素振りも見せやしない。これがあの阿良々木月火の日だとしたら、泣きながら祝うに決まってるのに」
「言いたいことが山ほどあるけれど、まずは斧乃木ちゃん。斧乃木ちゃんなんだよね」
「なんてこった、とうとう僕のことを疑うなんて」
「部屋に這入ってきた途端に、私の顔は完全にまな板、じゃなくて可愛い胸に埋められちゃってるから、果たして斧乃木ちゃんじゃない可能性がゼロじゃないことが不安だよ」
「お前の顔をむんずと切り取る真似をしない、僕なりの愛情表現だぜ。お姉ちゃんなら首を取る」
「影縫さんなら有り得そうと思っちゃうよ。ところで、冷凍庫にはチョコミントがあるよ、うわっ」
「全く、それを早く言ってほしいよ」
「うーん、私は斧乃木ちゃんに愛されてるというより、良い召使いみたいな気がしてきたな」
「何言ってるんだ、僕はお前のためなら何でもするよ。世界が欲しいと言ってごらん」
「世界はいらない、斧乃木ちゃんがいるなら」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「ひどいや撫公」 「い、いらっしゃい斧乃木ちゃん」 「今日はミントの日だそうだよ、つまりは僕、斧乃木余接の日といっても過言じゃないだろう。なのにお前ときたら、まるで僕のことをちやほやする素振りも見せやしない。これがあの阿良々木月火の日だとしたら、泣きながら祝うに決まってるのに」 「言いたいことが山ほどあるけれど、まずは斧乃木ちゃん。斧乃木ちゃんなんだよね」 「なんてこった、とうとう僕のことを疑うなんて」 「部屋に這入ってきた途端に、私の顔は完全にまな板、じゃなくて可愛い胸に埋められちゃってるから、果たして斧乃木ちゃんじゃない可能性がゼロじゃないことが不安だよ」 「お前の顔をむんずと切り取る真似をしない、僕なりの愛情表現だぜ。お姉ちゃんなら首を取る」 「影縫さんなら有り得そうと思っちゃうよ。ところで、冷凍庫にはチョコミントがあるよ、うわっ」 「全く、それを早く言ってほしいよ」 「うーん、私は斧乃木ちゃんに愛されてるというより、良い召使いみたいな気がしてきたな」 「何言ってるんだ、僕はお前のためなら何でもするよ。世界が欲しいと言ってごらん」 「世界はいらない、斧乃木ちゃんがいるなら」

よつぎミント(千石撫子と斧乃木余接)
「はー、これだから魔性の女は」
「穏やかに過ごしたいだけだよ」

10.03.2025 14:27 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「!」
「ひょんなことからのご対面ですね、撫子ちゃんじゃなくてごめんなさい。でも、何でも知ってるお母さんなら、この展開もわかっていたのかな」
「う、うろうろ」
「それは右往左往してしまいそうな呼び方ですね、お母さん」
「今のは、呼んだわけじゃない」
「そうですか、では改めてどうぞ」
「う……」
「……」
「雨露湖」
「はい、お母さん」
「雨露湖、雨露湖、雨露湖」
「はいはい、何度呼ばれても増えません。あ、もしかしたら増えることも出来るのかな、そうなったらお母さんが卒倒してしまいそうですが」
「雨露湖」
「もうわかりましたって」
「雨露湖、おかえり」
「……うん、ただいま、ママ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「!」 「ひょんなことからのご対面ですね、撫子ちゃんじゃなくてごめんなさい。でも、何でも知ってるお母さんなら、この展開もわかっていたのかな」 「う、うろうろ」 「それは右往左往してしまいそうな呼び方ですね、お母さん」 「今のは、呼んだわけじゃない」 「そうですか、では改めてどうぞ」 「う……」 「……」 「雨露湖」 「はい、お母さん」 「雨露湖、雨露湖、雨露湖」 「はいはい、何度呼ばれても増えません。あ、もしかしたら増えることも出来るのかな、そうなったらお母さんが卒倒してしまいそうですが」 「雨露湖」 「もうわかりましたって」 「雨露湖、おかえり」 「……うん、ただいま、ママ」

うろこマザー(臥煙伊豆湖と臥煙雨露湖)
いつかその時が来るのならば、その腕に抱いて。

10.03.2025 14:26 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

この世は地獄だ。
あの人はこんなことを望んでいない。
そんなことは、とっくに知っている。
あの人に望まれたかったのに、私はそうはなれなかった。そもそも、あの人にとっての私は、私なんて存在は過去にしかないのだ。
たまたま、中学時代に出会っただけ。
たまたま、バスケ部の私と陸上部のあの人が出会っただけ。
あの人にとって、足が速いと噂されていたのなら、私以外の誰でもよかったのだ。バレー部でも、テニス部でも、何なら美術部ですらよかった。
あの人にとっての私は、唯一じゃなかった。
知っていたつもりで、知らなかった。
知っていたつもりで、自惚れていた。
私だからこそ、あの人に近付けたのだと思い上がっていた。
だから、再会を果たしたあの人の、蔑む眼差しも、傷をつけようとする言動も、丸腰に受け止めてしまったのだ。
あの人は、変わられてしまった。
そんな噂を聞いていたのに。そんな噂があろうとも、私にだけは変わらないのだと盲信していた。盲目していた。
なんと浅ましく、哀れで、愚かなのだろう。私は自らの羞恥心に身を燃やし、それ以上にあの人の、もう二度とあの人の邪魔にはなるまいと誓った。
誓ったというのに、このザマだ。
「は、ははっ、はははっ、はははははっ」
悍ましい左腕。
毛むくじゃらな左腕。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 この世は地獄だ。 あの人はこんなことを望んでいない。 そんなことは、とっくに知っている。 あの人に望まれたかったのに、私はそうはなれなかった。そもそも、あの人にとっての私は、私なんて存在は過去にしかないのだ。 たまたま、中学時代に出会っただけ。 たまたま、バスケ部の私と陸上部のあの人が出会っただけ。 あの人にとって、足が速いと噂されていたのなら、私以外の誰でもよかったのだ。バレー部でも、テニス部でも、何なら美術部ですらよかった。 あの人にとっての私は、唯一じゃなかった。 知っていたつもりで、知らなかった。 知っていたつもりで、自惚れていた。 私だからこそ、あの人に近付けたのだと思い上がっていた。 だから、再会を果たしたあの人の、蔑む眼差しも、傷をつけようとする言動も、丸腰に受け止めてしまったのだ。 あの人は、変わられてしまった。 そんな噂を聞いていたのに。そんな噂があろうとも、私にだけは変わらないのだと盲信していた。盲目していた。 なんと浅ましく、哀れで、愚かなのだろう。私は自らの羞恥心に身を燃やし、それ以上にあの人の、もう二度とあの人の邪魔にはなるまいと誓った。 誓ったというのに、このザマだ。 「は、ははっ、はははっ、はははははっ」 悍ましい左腕。 毛むくじゃらな左腕。

阿良々木先輩への嫉妬で呪った左腕。
利き腕を差し出して、猿に呪われた。
私にとって、この高校における活躍なんて、その程度だったのだろうか。進学校ながらに全国へ導いた、快進撃のバスケ部は何だったのだろうか。
この左腕の代償だけでは、あまりに、あまりに温い。
「どうせなら、私ごと化物にしてくれ」
しかし、そんな願いをする私はもう、とっくに化物なのだろうな。

「──神原」
「っ!な、なんだ戦場ヶ原先輩」
「なんだも何も、この私が何度も呼んでいるのに心あらずだったのはあなたよ。どうしたの、腕が痛むの?」
「いやいや、そんなことはないぞ!今はえっと、えー、テストの点数が芳しくなくてどうしたものかと」
「あなたの点数が悪いのは、今に始まったことじゃないでしょうに」
「う、何気にグサリと突き刺さるな……!」
私はふと、本当に不意に、これは現実なのかと疑う。
何しろ私は、どうしたってあの人の隣に並べる筈がなかったのだ。
どう考えても退治されるべきだったのに、私はこうして、戦場ヶ原先輩の隣を歩いている。
夕焼けのこの町は、あまりに現実味が遠い。
「あなたは昔から、問題文を飛ばし飛ばしに読むクセがあったわよ」
「んん、昔から?」

阿良々木先輩への嫉妬で呪った左腕。 利き腕を差し出して、猿に呪われた。 私にとって、この高校における活躍なんて、その程度だったのだろうか。進学校ながらに全国へ導いた、快進撃のバスケ部は何だったのだろうか。 この左腕の代償だけでは、あまりに、あまりに温い。 「どうせなら、私ごと化物にしてくれ」 しかし、そんな願いをする私はもう、とっくに化物なのだろうな。 「──神原」 「っ!な、なんだ戦場ヶ原先輩」 「なんだも何も、この私が何度も呼んでいるのに心あらずだったのはあなたよ。どうしたの、腕が痛むの?」 「いやいや、そんなことはないぞ!今はえっと、えー、テストの点数が芳しくなくてどうしたものかと」 「あなたの点数が悪いのは、今に始まったことじゃないでしょうに」 「う、何気にグサリと突き刺さるな……!」 私はふと、本当に不意に、これは現実なのかと疑う。 何しろ私は、どうしたってあの人の隣に並べる筈がなかったのだ。 どう考えても退治されるべきだったのに、私はこうして、戦場ヶ原先輩の隣を歩いている。 夕焼けのこの町は、あまりに現実味が遠い。 「あなたは昔から、問題文を飛ばし飛ばしに読むクセがあったわよ」 「んん、昔から?」

「ええ、あれはまだ中学の頃だし、それでもどうにかなっていたけれど、テストの度に頭を抱えていたでしょう。私が解き方を教えたのも忘れたんじゃ……あらあら、今度は今にも泣きそうね」
「っ……」
私にとって、あなたはいつだって唯一だ。
私だけが覚えている過去を、記憶を、あなたもまた忘れずにいてくれたなら。
それがどれだけの幸せか、幸福か、あなたにわかるだろうか。
泣きそうになるところを堪えて鼻を啜る私は、ひょいと鼻を抓む戦場ヶ原先輩を間近で見つめる。
「あなたとは離れていた時間もあるから、たくさん話して埋めなきゃね」
「!」
「私にとって、大事な後輩は、神原だけだもの」
この世は地獄だ。
私の想いが報われる日は、きっと来ない。
それでも、そんな地獄を共に歩いてくれるあなたがいるから、私はこの地獄を愛せるのだ。

「ええ、あれはまだ中学の頃だし、それでもどうにかなっていたけれど、テストの度に頭を抱えていたでしょう。私が解き方を教えたのも忘れたんじゃ……あらあら、今度は今にも泣きそうね」 「っ……」 私にとって、あなたはいつだって唯一だ。 私だけが覚えている過去を、記憶を、あなたもまた忘れずにいてくれたなら。 それがどれだけの幸せか、幸福か、あなたにわかるだろうか。 泣きそうになるところを堪えて鼻を啜る私は、ひょいと鼻を抓む戦場ヶ原先輩を間近で見つめる。 「あなたとは離れていた時間もあるから、たくさん話して埋めなきゃね」 「!」 「私にとって、大事な後輩は、神原だけだもの」 この世は地獄だ。 私の想いが報われる日は、きっと来ない。 それでも、そんな地獄を共に歩いてくれるあなたがいるから、私はこの地獄を愛せるのだ。

するがヒストリー
戦場ヶ原先輩がいるから、私は。
#物語シリーズ

05.03.2025 15:56 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「阿良々木くん、あそこにほら」
「わかってる、わかってるって」
「阿良々木くん、今のはよくないよ」
「だ、だよな、今のは謝ってくるよ」
「阿良々木くん、そうじゃない。そこはちゃんと感謝を受け取ってあげなきゃ」
「でもさ、羽川。僕は感謝されたくてやったんじゃなくて」
「阿良々木くん?きみのそういうところ、ヒーローにはならないのにヒーロー然としちゃうところ、気をつけなきゃだめだよ」
「……うん、そうだな」
「阿良々木くん」
「…………なあ、羽川」
「……」
「羽川」
「……」
「…………羽川って、こういうとき、どうしただろう」
「──私はもういないのに、私のことばかり考えて、本当にずるいよ、阿良々木くん」
「なんて、お前なら言うのかな」

僕はまだ、あの青春の影(羽川翼)を追いかけている。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「阿良々木くん、あそこにほら」 「わかってる、わかってるって」 「阿良々木くん、今のはよくないよ」 「だ、だよな、今のは謝ってくるよ」 「阿良々木くん、そうじゃない。そこはちゃんと感謝を受け取ってあげなきゃ」 「でもさ、羽川。僕は感謝されたくてやったんじゃなくて」 「阿良々木くん?きみのそういうところ、ヒーローにはならないのにヒーロー然としちゃうところ、気をつけなきゃだめだよ」 「……うん、そうだな」 「阿良々木くん」 「…………なあ、羽川」 「……」 「羽川」 「……」 「…………羽川って、こういうとき、どうしただろう」 「──私はもういないのに、私のことばかり考えて、本当にずるいよ、阿良々木くん」 「なんて、お前なら言うのかな」 僕はまだ、あの青春の影(羽川翼)を追いかけている。

こよみエンドレス(阿良々木暦と羽川翼)
きみは器用で不器用だから。
#物語シリーズ

04.03.2025 12:29 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
「んにゃー」
「……」
猫に小判ということわざはあるけれども、額に小判を貼り付けた猫は見たことがなかった。というか、どう考えても比率が可笑しい。悪い人間に遊ばれたのかもしれないが、悪い人間は額に小判など付けるものだろうか。いや、疑うよりも目の前の猫だ。どうやら俺の手にしたハンバーガーが気になるらしい。猫にハンバーガー、絶対に駄目だろう。
「にゃー」
「お前の食える食べ物じゃない。他を当たれ」
「んにゃにゃ」
「なんだその、やれやれみたいなポーズは」
四足歩行の猫が、すくりと二足歩行となる。
「ニャーはグルメにゃ猫だから大丈夫ニャー」
「………………」
小判が額に付くと、二足で立ち話せるのかよ。

「んにゃー」 「……」 猫に小判ということわざはあるけれども、額に小判を貼り付けた猫は見たことがなかった。というか、どう考えても比率が可笑しい。悪い人間に遊ばれたのかもしれないが、悪い人間は額に小判など付けるものだろうか。いや、疑うよりも目の前の猫だ。どうやら俺の手にしたハンバーガーが気になるらしい。猫にハンバーガー、絶対に駄目だろう。 「にゃー」 「お前の食える食べ物じゃない。他を当たれ」 「んにゃにゃ」 「なんだその、やれやれみたいなポーズは」 四足歩行の猫が、すくりと二足歩行となる。 「ニャーはグルメにゃ猫だから大丈夫ニャー」 「………………」 小判が額に付くと、二足で立ち話せるのかよ。

さすがに目を疑い、耳も疑う俺の手から、ハンバーガーが強奪された。「スキありニャー!」の声と共に、むしゃむしゃ食べている。
「ごちそうさまニャー、おいしかったニャー」
「待て猫」
「んにゃにゃー!?頭をつかむニャー!」
「俺の昼食を強奪したのだから、相応の対価を払え」
「にゃんてひどい人間ニャー!!」
「ひどい猫がお前だろう」
後日談、ならぬその後の話。
立って喋る猫なら一儲けも容易いかもしれないと算盤を弾く俺は、その猫を迎えに来たという悪の組織の人間を適当に言い含めて金をせしめることになる。
なーんてにゃ。

さすがに目を疑い、耳も疑う俺の手から、ハンバーガーが強奪された。「スキありニャー!」の声と共に、むしゃむしゃ食べている。 「ごちそうさまニャー、おいしかったニャー」 「待て猫」 「んにゃにゃー!?頭をつかむニャー!」 「俺の昼食を強奪したのだから、相応の対価を払え」 「にゃんてひどい人間ニャー!!」 「ひどい猫がお前だろう」 後日談、ならぬその後の話。 立って喋る猫なら一儲けも容易いかもしれないと算盤を弾く俺は、その猫を迎えに来たという悪の組織の人間を適当に言い含めて金をせしめることになる。 なーんてにゃ。

かいきニャーニャー(貝木泥舟)
なかのひとに大感謝の猫の日。

22.02.2025 04:45 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「育お姉ちゃん!」
「あら、撫子ちゃん。また会ったわね。撫子ちゃんもこのスーパーの良さに気付いたのかしら。他のスーパーよりも野菜が新鮮でお手頃価格なのよね」
「スーパーの良さに気付いたかどうかはわからないけれど、此処に来ればまた育お姉ちゃんに会えると思っていたよ」
「まあ、私に何か用事?それならいつでも連絡してくれたらいいのに」
「用事というほどのことでもないから、こうして出会えるかを賭けていたんだよね。買い物のついでなら迷惑にもならないし。じゃーん!」
「……んん、これは、私?」
「そう、育お姉ちゃんです。私が、自分で引き当てました。撫子の推しです!」
「そ、そうなんだ。それをどうしてドヤ顔するのかは今ひとつわからないけれども、推しもよくわからないけれども、撫子ちゃんが喜んでくれるなら私も嬉しいわよ」
「えへへへ。自引きした喜びは何物にも代え難いからね、そのご報告をしたかったんだ。それじゃ、」
「撫子ちゃん、カゴの中にインスタントはいっぱいあるけれど、お野菜が見当たらないわよ?」
「あ、あー、えっと……もやしを買います!」
「ふふ、偉いわ撫子ちゃん。私も撫子ちゃん推しね」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「育お姉ちゃん!」 「あら、撫子ちゃん。また会ったわね。撫子ちゃんもこのスーパーの良さに気付いたのかしら。他のスーパーよりも野菜が新鮮でお手頃価格なのよね」 「スーパーの良さに気付いたかどうかはわからないけれど、此処に来ればまた育お姉ちゃんに会えると思っていたよ」 「まあ、私に何か用事?それならいつでも連絡してくれたらいいのに」 「用事というほどのことでもないから、こうして出会えるかを賭けていたんだよね。買い物のついでなら迷惑にもならないし。じゃーん!」 「……んん、これは、私?」 「そう、育お姉ちゃんです。私が、自分で引き当てました。撫子の推しです!」 「そ、そうなんだ。それをどうしてドヤ顔するのかは今ひとつわからないけれども、推しもよくわからないけれども、撫子ちゃんが喜んでくれるなら私も嬉しいわよ」 「えへへへ。自引きした喜びは何物にも代え難いからね、そのご報告をしたかったんだ。それじゃ、」 「撫子ちゃん、カゴの中にインスタントはいっぱいあるけれど、お野菜が見当たらないわよ?」 「あ、あー、えっと……もやしを買います!」 「ふふ、偉いわ撫子ちゃん。私も撫子ちゃん推しね」

なでこピックアップ(千石撫子と老倉育)
なでち、かなりハマった気がします。

21.02.2025 10:34 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「阿良々木せんぱーい」
「お、おうっ!元気か!僕は元気だ!」
「はあ、なんですかその反応、初めて覚えた英会話だってもう少し流暢ですよ」
「いや、あの、ごめん扇くん。僕にはほら、同性の友人がいないじゃないか?」
「聞いてるこっちが悲しくなりますが、全くもってその通りですね」
「ぐっ……だ、だからね、今ひとつきみとのやりとりがわからないというか、難しいというか、なんていうか」
「ふむ、それは僕が、忍野扇が、女の子だったらよかったなーという文句ですか?きーずつーくなー」
「いやいや、だからそうじゃないんだって。扇くんは扇くんなんだから、それはちゃんと理解し、……ち、近くないか?」
「阿良々木先輩ならこの顔の至近距離くらい、ただの友達の女の子に余裕でしょう?可愛い後輩とも平気になってくださいよ」
「お、男同士でこの距離は、ナシじゃないか?」
「男女でも圧倒的にナシです、この愚か者」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「阿良々木せんぱーい」 「お、おうっ!元気か!僕は元気だ!」 「はあ、なんですかその反応、初めて覚えた英会話だってもう少し流暢ですよ」 「いや、あの、ごめん扇くん。僕にはほら、同性の友人がいないじゃないか?」 「聞いてるこっちが悲しくなりますが、全くもってその通りですね」 「ぐっ……だ、だからね、今ひとつきみとのやりとりがわからないというか、難しいというか、なんていうか」 「ふむ、それは僕が、忍野扇が、女の子だったらよかったなーという文句ですか?きーずつーくなー」 「いやいや、だからそうじゃないんだって。扇くんは扇くんなんだから、それはちゃんと理解し、……ち、近くないか?」 「阿良々木先輩ならこの顔の至近距離くらい、ただの友達の女の子に余裕でしょう?可愛い後輩とも平気になってくださいよ」 「お、男同士でこの距離は、ナシじゃないか?」 「男女でも圧倒的にナシです、この愚か者」

こよみライン(阿良々木暦と忍野扇)
急に見たくなったのでBL(ボーダーライン)です。

16.02.2025 14:22 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

私は出来損ないだ。
生まれながらに、その烙印を押された。本来持つべき力を持たない、本妻の子供だというのに出来損ないである。生まれたての赤子だろうとも、血と能力を尊ぶ一族であるために、その先は決められた。せめてその血を、より良い子孫へと生み繋ぐこと。辛うじてマシであったのは近親相姦を禁止していたことと、そして近い時期に能力高い男児が生まれたこと。似た家柄の臥煙家では、どうなっていたかわからない。それでも、赤子時代に定められた許婚である。
私よりも秀でているのは、妾腹の妹であった。本来の私が宿すべき、正しい陰陽師の能力を持ち合わせていた。妹は正しく、私は正しくない。ただ、年の離れた妹であること、そして私は異端としても武に才を見出したことで随分と開き直りを覚えていた。むしろ、一刻も早くこの家から出たかった自分にとって、正しい妹は都合が良かったのかもしれない。
いつかこの家を継ぐのは、紛れもなく妹なのだ。
「余弦ねえさま!」
「……私に近付くのは禁じられているよ」
「いけずなこと言わんといてや!うちは余弦ねえさまを尊敬してるんやで」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 私は出来損ないだ。 生まれながらに、その烙印を押された。本来持つべき力を持たない、本妻の子供だというのに出来損ないである。生まれたての赤子だろうとも、血と能力を尊ぶ一族であるために、その先は決められた。せめてその血を、より良い子孫へと生み繋ぐこと。辛うじてマシであったのは近親相姦を禁止していたことと、そして近い時期に能力高い男児が生まれたこと。似た家柄の臥煙家では、どうなっていたかわからない。それでも、赤子時代に定められた許婚である。 私よりも秀でているのは、妾腹の妹であった。本来の私が宿すべき、正しい陰陽師の能力を持ち合わせていた。妹は正しく、私は正しくない。ただ、年の離れた妹であること、そして私は異端としても武に才を見出したことで随分と開き直りを覚えていた。むしろ、一刻も早くこの家から出たかった自分にとって、正しい妹は都合が良かったのかもしれない。 いつかこの家を継ぐのは、紛れもなく妹なのだ。 「余弦ねえさま!」 「……私に近付くのは禁じられているよ」 「いけずなこと言わんといてや!うちは余弦ねえさまを尊敬してるんやで」

この歪んだ家庭で、よくもまあ歪まずに育った妹である。やけに耳に残る関西訛りは、母親譲りだろうか。本家の人間に疎まれようとも、実力主義の父が溺愛しているのは周知の事実だった。そしてどうしてだか、私は妹から好かれている。極力近付かず、接することも稀であるのに、見かけてはこうして近付いてくる。
「余弦ねえさま、屋根と屋根を跳んではるやろ?あれが格好ええなあって!」
「妙なところを……」
「うちも、ぴょーんて跳んでみたいなあ」
「熱がないときに、鍛えてみればいい」
「かかっ、ねえさまったら真顔で冗談やんな」
妹は正しく、能力も高いが、病弱であった。
だからいつも血の気が引いており、日に焼けていないだけじゃない顔の白さだった。まるで死体か人形だと悪口が流れるほどだが、その中身はとてもじゃないが病弱ではない。ざんぎりの前髪を揺らして、瞳を輝かせる。身体の強さは私にあり、能力の高さは妹にある。無い物ねだりなのだろうなと思いつつ、私は妹へと髪飾りを贈った。それが最初で、最後の誕生日祝いとなった。
「余弦」

この歪んだ家庭で、よくもまあ歪まずに育った妹である。やけに耳に残る関西訛りは、母親譲りだろうか。本家の人間に疎まれようとも、実力主義の父が溺愛しているのは周知の事実だった。そしてどうしてだか、私は妹から好かれている。極力近付かず、接することも稀であるのに、見かけてはこうして近付いてくる。 「余弦ねえさま、屋根と屋根を跳んではるやろ?あれが格好ええなあって!」 「妙なところを……」 「うちも、ぴょーんて跳んでみたいなあ」 「熱がないときに、鍛えてみればいい」 「かかっ、ねえさまったら真顔で冗談やんな」 妹は正しく、能力も高いが、病弱であった。 だからいつも血の気が引いており、日に焼けていないだけじゃない顔の白さだった。まるで死体か人形だと悪口が流れるほどだが、その中身はとてもじゃないが病弱ではない。ざんぎりの前髪を揺らして、瞳を輝かせる。身体の強さは私にあり、能力の高さは妹にある。無い物ねだりなのだろうなと思いつつ、私は妹へと髪飾りを贈った。それが最初で、最後の誕生日祝いとなった。 「余弦」

「なんや正弦」
私が出来損ないだから、妹を喪った。
そんなことはないのだと許婚の正弦は言い聞かせようとしたが、それでは何故妹が死に、私が生きているのか説明がつかない。出来損ないを守ろうとした妹は、最期にどんな顔をしていただろうか。私は出来損ないで、だからこそ、もう正しくないことは許されない。正しかった妹を真似て、その振る舞いを真似て、生き方を正した。
「それではお前が、壊れてしまう」
「かかっ、うちはそれでええよ」
私は、正しい。

「なんや正弦」 私が出来損ないだから、妹を喪った。 そんなことはないのだと許婚の正弦は言い聞かせようとしたが、それでは何故妹が死に、私が生きているのか説明がつかない。出来損ないを守ろうとした妹は、最期にどんな顔をしていただろうか。私は出来損ないで、だからこそ、もう正しくないことは許されない。正しかった妹を真似て、その振る舞いを真似て、生き方を正した。 「それではお前が、壊れてしまう」 「かかっ、うちはそれでええよ」 私は、正しい。

よづるチェンジャー(影縫余弦)
ド捏造、何もかも妄想。
こんなことはないと思いつつ、ゼロではないので。
いつか影縫妹のことも明かされるのでしょうか。

15.02.2025 08:49 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「肉の日よ貝木」
「そうなのか、そりゃあ知らなかったぜ」
「フン、白々しい嘘ね。嘘吐きの風上にも置けないわ」
「風下だろうが置かれたくないものだがな、戦場ヶ原」
「何よ、私はカルビよりハラミ派よ」
「奢らねえぞ?」
「ちょっと何言ってるかわからないわね」
「何言ってるかわからなくても構わんが、お前に奢る焼肉はないし、そもそもお前とは焼肉にも行かない。当たり前の事を確認したなら、とっとと帰るんだな」
「──お待たせした戦場ヶ原先輩!あなたの呼び出しなら世界の裏側だろうとも馳せ参じる神原駿河だ!」
「ありがとう神原、さすがは可愛い私の後輩。あなたが来たらもう問題ないわ、焼肉オジサンに奢ってもらいましょうね」
「お前はいいように使われている、縁を切れ駿河」
「戦場ヶ原先輩に使われる人生なんて最高しかないじゃないか!」
「戦場ヶ原、覚えてろよ」
「まあなんて悪役のセリフ、愉快だから忘れないわ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「肉の日よ貝木」 「そうなのか、そりゃあ知らなかったぜ」 「フン、白々しい嘘ね。嘘吐きの風上にも置けないわ」 「風下だろうが置かれたくないものだがな、戦場ヶ原」 「何よ、私はカルビよりハラミ派よ」 「奢らねえぞ?」 「ちょっと何言ってるかわからないわね」 「何言ってるかわからなくても構わんが、お前に奢る焼肉はないし、そもそもお前とは焼肉にも行かない。当たり前の事を確認したなら、とっとと帰るんだな」 「──お待たせした戦場ヶ原先輩!あなたの呼び出しなら世界の裏側だろうとも馳せ参じる神原駿河だ!」 「ありがとう神原、さすがは可愛い私の後輩。あなたが来たらもう問題ないわ、焼肉オジサンに奢ってもらいましょうね」 「お前はいいように使われている、縁を切れ駿河」 「戦場ヶ原先輩に使われる人生なんて最高しかないじゃないか!」 「戦場ヶ原、覚えてろよ」 「まあなんて悪役のセリフ、愉快だから忘れないわ」

きょうも肉の日(戦場ヶ原ひたぎと貝木泥舟と、)
多分おそらく、仲良しなのでは?
#物語シリーズ

09.02.2025 14:38 — 👍 3    🔁 2    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「はい、余弦」
「は、なんやそれ」
「何かと問われたら、これはチョコレートだね。ほら、お前が同じ学部の同性の友人と楽しげに話していた中で話題に上がった生チョコだよ。気になっていたのだろう、抹茶味」
「せやね。気になったんはおどれがいなかった場面での話を、どうやって聞いていたんかっちゅーところなんやけど」
「風の噂かな?」
「無風やろ。はー、おどれ気色悪いで」
「安心してくれ、お前以外には使わない」
「それの何処に安心できるんや。ほんま陰陽師の風上にも置けん能力の無駄遣い……む、なかなか……」
「よかった、気に入ったようだ、むごごご」
「言っとくけど、おどれのチョコやから気に入ったんとちゃうよ。生チョコに罪は無い、それだけや。美味いやんな」
「っふう……ああ、息が詰まるほどの美味しさだね」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「はい、余弦」 「は、なんやそれ」 「何かと問われたら、これはチョコレートだね。ほら、お前が同じ学部の同性の友人と楽しげに話していた中で話題に上がった生チョコだよ。気になっていたのだろう、抹茶味」 「せやね。気になったんはおどれがいなかった場面での話を、どうやって聞いていたんかっちゅーところなんやけど」 「風の噂かな?」 「無風やろ。はー、おどれ気色悪いで」 「安心してくれ、お前以外には使わない」 「それの何処に安心できるんや。ほんま陰陽師の風上にも置けん能力の無駄遣い……む、なかなか……」 「よかった、気に入ったようだ、むごごご」 「言っとくけど、おどれのチョコやから気に入ったんとちゃうよ。生チョコに罪は無い、それだけや。美味いやんな」 「っふう……ああ、息が詰まるほどの美味しさだね」

ただつるショコラ(折縫)
自然体に、不自然さもなく。

09.02.2025 03:29 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

仕事を終えて、空を見上げて仰向けに寝転がる。
屋根もない廃墟に寝転ぶことを嫌う人間しかいなかったなあと思い出して笑うほどに、今日の僕は弱っていたらしい。いや、ある意味でとても人間らしい。だらしなく下駄を揺らして、咥え煙草も揺らしてみる。
僕が僕であるためにも、此処が潮時である。これが最初ではなく、これが最後でもない。それを繰り返して、バランスを調節して生きてきた。そしてこれからも僕は、そうやって生きていく。その方法でしか、僕はうまく生きられない。
空は橙から藍色へと染められて、やがて満天の星を魅せる。風が頰を撫でる中で、瞳を細めた。
この空を僕は、どれだけ見てきただろう。
行くなと引き留められたことはない。引き留められたなら、崩れてしまうだろうから、その前に出て行く。いつだって飄々とした男、なんでも見透かしてくる男、軽薄で読めない、そんな男で僕は在りたい。誰の目から見ても、忍野メメは風来坊で、根無し草で、どうしようもない奴と思われるくらいが丁度良いのだ。
それが、僕の、「忍野メメ」だ。
さあ、次の街へ行こう。
きみは、きみたちは、もうひとりじゃないから大丈夫だね。
縁があれば、またすぐに逢えるさ。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 仕事を終えて、空を見上げて仰向けに寝転がる。 屋根もない廃墟に寝転ぶことを嫌う人間しかいなかったなあと思い出して笑うほどに、今日の僕は弱っていたらしい。いや、ある意味でとても人間らしい。だらしなく下駄を揺らして、咥え煙草も揺らしてみる。 僕が僕であるためにも、此処が潮時である。これが最初ではなく、これが最後でもない。それを繰り返して、バランスを調節して生きてきた。そしてこれからも僕は、そうやって生きていく。その方法でしか、僕はうまく生きられない。 空は橙から藍色へと染められて、やがて満天の星を魅せる。風が頰を撫でる中で、瞳を細めた。 この空を僕は、どれだけ見てきただろう。 行くなと引き留められたことはない。引き留められたなら、崩れてしまうだろうから、その前に出て行く。いつだって飄々とした男、なんでも見透かしてくる男、軽薄で読めない、そんな男で僕は在りたい。誰の目から見ても、忍野メメは風来坊で、根無し草で、どうしようもない奴と思われるくらいが丁度良いのだ。 それが、僕の、「忍野メメ」だ。 さあ、次の街へ行こう。 きみは、きみたちは、もうひとりじゃないから大丈夫だね。 縁があれば、またすぐに逢えるさ。

Another Orion(忍野メメ)
お人好しで格好付けの男、なら本望。
#物語シリーズ

07.02.2025 14:06 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「………………」
「ねえ、貝木。いくら私のウエディングドレス姿が美しすぎて感極まっているとはいえ、無言はよくないわよ。むしろ、こういう時にこそあなたの回りすぎる舌で、私を絶賛したらいいのに」
「俺は言葉なんざちっとも信じていない。だからこそ、言葉を尽くさないことがお前への称賛だぞ」
「あらそう、詐欺師も黙りになる美しさかしら」
「…………」
「ねえ、ねえ貝木。それがあなたなりの褒め言葉?いえ、言葉じゃない態度なのかもしれないけれど、だからといってずっと黙ってるつもりなら流石に困るわよ」
「なんだ戦場ヶ原、どうせ俺以外には散々褒め尽くされているだろうに、それでもまだ俺の言葉を求めるのか?」
「そうよ。だって私、いちばん欲しいのはあなたからの言葉だもの」
「強欲は構わんが、だからお前は騙される。全く成長していないじゃないか」
「あなたにだけは言われたくないわね、大人げない人」
「──世界で一番、誰よりもお前が美しい」
「っ……まあ、及第点ね」
「十分だな。それにその顔色じゃ、紫の薔薇よりも、深紅の薔薇のほうがお似合いだぜ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「………………」 「ねえ、貝木。いくら私のウエディングドレス姿が美しすぎて感極まっているとはいえ、無言はよくないわよ。むしろ、こういう時にこそあなたの回りすぎる舌で、私を絶賛したらいいのに」 「俺は言葉なんざちっとも信じていない。だからこそ、言葉を尽くさないことがお前への称賛だぞ」 「あらそう、詐欺師も黙りになる美しさかしら」 「…………」 「ねえ、ねえ貝木。それがあなたなりの褒め言葉?いえ、言葉じゃない態度なのかもしれないけれど、だからといってずっと黙ってるつもりなら流石に困るわよ」 「なんだ戦場ヶ原、どうせ俺以外には散々褒め尽くされているだろうに、それでもまだ俺の言葉を求めるのか?」 「そうよ。だって私、いちばん欲しいのはあなたからの言葉だもの」 「強欲は構わんが、だからお前は騙される。全く成長していないじゃないか」 「あなたにだけは言われたくないわね、大人げない人」 「──世界で一番、誰よりもお前が美しい」 「っ……まあ、及第点ね」 「十分だな。それにその顔色じゃ、紫の薔薇よりも、深紅の薔薇のほうがお似合いだぜ」

ひたぎエレガンス(貝ひた)
高貴で気品があって、誰よりも美しい。

07.02.2025 03:03 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「でね!……ちょっと貝木くん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「え〜、それって聞いてない時の相槌じゃん!私ホントに悩んでるのに!」
「そんなことはない、聞いている。つまりきみは、最近になってやたらと休みの予定が合わなくなった恋人の浮気を疑っているが、かといって疑う自分の心の狭さにも苦しんでいるのだろう。恋人を想うがゆえの苦しみだな」
「そうそう、そうなの!」
「大丈夫だ、そんな時のためのおまじないを俺は知っている。眉唾物だと疑うのも、一度試してみるのもきみの自由だ。それに最初なのだから、とても格安にしておこう」
「うん、うん?えっ、お金が必要なの?」
「無料やタダなおまじないなんざ、唱えても唱えなくても変わらんだろう。それよりは少額でも金を払い、少しでも心の沈みを無くすほうが得策ではないかな?」
「そっかー、確かにそうかも!」
「何より、効果が無かったら教えてくれ。きみの不満と不安を俺がなるべく取り払うと約束しよう」
「あははっ、ありがとう。でもさー、そんな優しい貝木くんに惚れちゃうかもよ?」
「なんだ、冗談がうまいな。きみと恋人が上手くいくことを、俺は心の底から願っているぜ」

「──そう、それくらい甘っちょろい客でなければ、俺の商売上がったりだからなあ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「でね!……ちょっと貝木くん、聞いてる?」 「聞いてる聞いてる」 「え〜、それって聞いてない時の相槌じゃん!私ホントに悩んでるのに!」 「そんなことはない、聞いている。つまりきみは、最近になってやたらと休みの予定が合わなくなった恋人の浮気を疑っているが、かといって疑う自分の心の狭さにも苦しんでいるのだろう。恋人を想うがゆえの苦しみだな」 「そうそう、そうなの!」 「大丈夫だ、そんな時のためのおまじないを俺は知っている。眉唾物だと疑うのも、一度試してみるのもきみの自由だ。それに最初なのだから、とても格安にしておこう」 「うん、うん?えっ、お金が必要なの?」 「無料やタダなおまじないなんざ、唱えても唱えなくても変わらんだろう。それよりは少額でも金を払い、少しでも心の沈みを無くすほうが得策ではないかな?」 「そっかー、確かにそうかも!」 「何より、効果が無かったら教えてくれ。きみの不満と不安を俺がなるべく取り払うと約束しよう」 「あははっ、ありがとう。でもさー、そんな優しい貝木くんに惚れちゃうかもよ?」 「なんだ、冗談がうまいな。きみと恋人が上手くいくことを、俺は心の底から願っているぜ」 「──そう、それくらい甘っちょろい客でなければ、俺の商売上がったりだからなあ」

でいしゅうフレンド(貝木泥舟)
大学時代の貝木くんもそれなりに女の子と話していたので、こんなこともあったんだろうな。
#物語シリーズ

04.02.2025 12:31 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

俺の仕事は終わった。
俺が関わることで問題を肥大化させていたようにも、問題をより悪化させていたような気がしないでもないが、そして実際のところ仕事を終えたのではなく千石撫子が前向きになっただけの話だとも思うが、とにかく終わった。終わったからこそ、俺は満身創痍で気が抜けたのだろう。そうでなければ、たかだか思春期の男子中学生に撲られて避けられない筈もない。俺の不意を狙ったのも、扇とやらの存在が暗躍していたのも、すべてがどうでもいい。今後、臥煙先輩に縁切りされたことの厄介さを考えるほど、どうでもいい。
仕事は終わった。
これは、終わったことを伝えたあとの出来事だ。
「それで堕ちてきたのかい。忍野を真似るなら、元気がいいね」
「真似る理由もないだろう。そしてお前が来たということは、まだ臥煙先輩に絶縁されちゃいなかったのか」
「さあ、それはどうかな。私は余接のために、頑張り屋の余接の働きを無駄にしないために、お前に死なれちゃ困るだけだよ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 俺の仕事は終わった。 俺が関わることで問題を肥大化させていたようにも、問題をより悪化させていたような気がしないでもないが、そして実際のところ仕事を終えたのではなく千石撫子が前向きになっただけの話だとも思うが、とにかく終わった。終わったからこそ、俺は満身創痍で気が抜けたのだろう。そうでなければ、たかだか思春期の男子中学生に撲られて避けられない筈もない。俺の不意を狙ったのも、扇とやらの存在が暗躍していたのも、すべてがどうでもいい。今後、臥煙先輩に縁切りされたことの厄介さを考えるほど、どうでもいい。 仕事は終わった。 これは、終わったことを伝えたあとの出来事だ。 「それで堕ちてきたのかい。忍野を真似るなら、元気がいいね」 「真似る理由もないだろう。そしてお前が来たということは、まだ臥煙先輩に絶縁されちゃいなかったのか」 「さあ、それはどうかな。私は余接のために、頑張り屋の余接の働きを無駄にしないために、お前に死なれちゃ困るだけだよ」

死んだのではなく、死ぬとしてもまだ駄賃が足りないという。地獄でも天国でもない、狭間の空間に現れた手折正弦は、うんざりとした顔を見せる。いや、俺も全くうんざりとしているんだよ。そもそも、人形に成り果てるために命を擲った男に呆れられるものじゃないだろう、俺は。
後日談、ならぬこの数時間後の話。
俺が手に入れた三百万弱の金は、俺の命と引き換えとなった。手折が手に入れるのでもないが、それもまた必要経費となったらしい。
「貝木、一応言っておくけれど、此処はそう何度も来ていい場所じゃないんだよ」
「嫌と言うほど知っている。来たくて来てるわけじゃない」
「私も、臥煙先輩も、万能ではないのだからね」
「それこそ、とっくに知っている」
「子供への格好つけは、程々にしときなさい」
「お前は俺の親か何かなのかよ」
いつか、本当に堕ちて救われないのだから。
現世とオサラバした元同期の言葉に、入れ替える心など持ち合わせていない。

死んだのではなく、死ぬとしてもまだ駄賃が足りないという。地獄でも天国でもない、狭間の空間に現れた手折正弦は、うんざりとした顔を見せる。いや、俺も全くうんざりとしているんだよ。そもそも、人形に成り果てるために命を擲った男に呆れられるものじゃないだろう、俺は。 後日談、ならぬこの数時間後の話。 俺が手に入れた三百万弱の金は、俺の命と引き換えとなった。手折が手に入れるのでもないが、それもまた必要経費となったらしい。 「貝木、一応言っておくけれど、此処はそう何度も来ていい場所じゃないんだよ」 「嫌と言うほど知っている。来たくて来てるわけじゃない」 「私も、臥煙先輩も、万能ではないのだからね」 「それこそ、とっくに知っている」 「子供への格好つけは、程々にしときなさい」 「お前は俺の親か何かなのかよ」 いつか、本当に堕ちて救われないのだから。 現世とオサラバした元同期の言葉に、入れ替える心など持ち合わせていない。

でいしゅうノットエンド(貝木泥舟と手折正弦)
カミサマ騙しその後。詐欺師ぶん撲られ話で、書いていなかった人で。
ありがとう恋物語!!!!!
#物語シリーズ

01.02.2025 11:46 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「はっはー。さてさて、困ったねえ」
困った困ったとしきりに口に出しているのは、本当に困っていることながらに、それほど困ってはいないのだと自分へと自己暗示をかけている。現実問題、困っているのだ。何がどうしてどのようにすれば、下着姿の女子高生の猫娘こと羽川翼と退治しなければならないのか。否、退治であれば悩まない。退治ではなく対峙して、対話に持ち込まなければならないのだ。
片鱗は見せていた。それどころか、見せ過ぎていた。阿良々木暦の吸血鬼問題に、首どころが全身を突っ込んできた娘だ。常人では有り得ない判断をしたのも、常人ならざる賢さの問題ではない。むしろ、その逆だとも言える。愚かしい浅はかな行為だと知っていて、それでも飛び込んだのだ。自分でも名付けられていない、好意に突き動かされた。
その結果として、阿良々木暦の友人として、阿良々木暦に崇拝されるようになってしまった、可哀想な女の子。
そこがキッカケであるのは間違いない。家族問題だけならば、わざわざ扇情的な姿で見せつける必要性もない。ただ、止めて欲しいのだ。受け止めて、受け入れて欲しい。かつて春休みに吸血鬼を受け入れた彼に、猫である自分のことも受け入れてほしい。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「はっはー。さてさて、困ったねえ」 困った困ったとしきりに口に出しているのは、本当に困っていることながらに、それほど困ってはいないのだと自分へと自己暗示をかけている。現実問題、困っているのだ。何がどうしてどのようにすれば、下着姿の女子高生の猫娘こと羽川翼と退治しなければならないのか。否、退治であれば悩まない。退治ではなく対峙して、対話に持ち込まなければならないのだ。 片鱗は見せていた。それどころか、見せ過ぎていた。阿良々木暦の吸血鬼問題に、首どころが全身を突っ込んできた娘だ。常人では有り得ない判断をしたのも、常人ならざる賢さの問題ではない。むしろ、その逆だとも言える。愚かしい浅はかな行為だと知っていて、それでも飛び込んだのだ。自分でも名付けられていない、好意に突き動かされた。 その結果として、阿良々木暦の友人として、阿良々木暦に崇拝されるようになってしまった、可哀想な女の子。 そこがキッカケであるのは間違いない。家族問題だけならば、わざわざ扇情的な姿で見せつける必要性もない。ただ、止めて欲しいのだ。受け止めて、受け入れて欲しい。かつて春休みに吸血鬼を受け入れた彼に、猫である自分のことも受け入れてほしい。

「お前はお呼びじゃにゃいにゃん」
「わかるよ、わかるから困るのさ」
障り猫の力が増幅し、増大する。なんて青臭くて、肌を焼くような切なさだろう。助けてほしいと言えなくて、愛して欲しいとも言えなくて、それでも振り向いてほしい女の子の暴走だ。きっと間違いなくどうにかする阿良々木暦のためにも、お膳立ての場をつくらないとならない。僕が解決するのでは、あまりにバランスが悪いから。
「告白するつもりはないのかい」
「にゃっはははは!馬鹿馬鹿しい!」
それが出来るなら、何も苦労なんてしなかった。
対話を拒んだ高笑いをするブラック羽川を前に、火を灯さない煙草を揺らして困った困ったと頭を掻く。あの時に、この娘はどうかしてると理解しながらも、放置した僕の罪でもあるのだろうか。
怪異と青春が癒着するなんざ、やってられないのだ。

「お前はお呼びじゃにゃいにゃん」 「わかるよ、わかるから困るのさ」 障り猫の力が増幅し、増大する。なんて青臭くて、肌を焼くような切なさだろう。助けてほしいと言えなくて、愛して欲しいとも言えなくて、それでも振り向いてほしい女の子の暴走だ。きっと間違いなくどうにかする阿良々木暦のためにも、お膳立ての場をつくらないとならない。僕が解決するのでは、あまりにバランスが悪いから。 「告白するつもりはないのかい」 「にゃっはははは!馬鹿馬鹿しい!」 それが出来るなら、何も苦労なんてしなかった。 対話を拒んだ高笑いをするブラック羽川を前に、火を灯さない煙草を揺らして困った困ったと頭を掻く。あの時に、この娘はどうかしてると理解しながらも、放置した僕の罪でもあるのだろうか。 怪異と青春が癒着するなんざ、やってられないのだ。

どうにかして(忍野メメと羽川翼)
羽川翼にゾッとする忍野メメが公式なのは味わい深いですよね。
#物語シリーズ

29.01.2025 06:03 — 👍 3    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

私は不幸だけれども、私よりも不幸な人はごまんといて、私が不幸だなんてちゃんちゃら可笑しいと言われるでしょう。上を見れば何処までも天高いけれど、下を見れば何処までも奈落に堕ちる。
人間なんて生き物は、どんなに賢くとも自分の尺度と自分の経験でしか比較出来ないのだ。自分の痛みが何よりも痛いし、自分の喜びが何よりも嬉しい。そこで他人のため、他人の代わりに感じられる人もいるでしょうが、それだって自分という主観があればこそ。
私は不幸ではあるけれど、だからといって他人に憐れまれる謂れはない。可哀想だとか同情をすることで、私の人生を勝手に消費しないで。
この嫌悪感が罪悪感になるのは、かつての私が、戦場ヶ原さんに対して行っていたことだからだ。私よりも可哀想な人を見つけて、私の方がマシなのだと安堵する。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 私は不幸だけれども、私よりも不幸な人はごまんといて、私が不幸だなんてちゃんちゃら可笑しいと言われるでしょう。上を見れば何処までも天高いけれど、下を見れば何処までも奈落に堕ちる。 人間なんて生き物は、どんなに賢くとも自分の尺度と自分の経験でしか比較出来ないのだ。自分の痛みが何よりも痛いし、自分の喜びが何よりも嬉しい。そこで他人のため、他人の代わりに感じられる人もいるでしょうが、それだって自分という主観があればこそ。 私は不幸ではあるけれど、だからといって他人に憐れまれる謂れはない。可哀想だとか同情をすることで、私の人生を勝手に消費しないで。 この嫌悪感が罪悪感になるのは、かつての私が、戦場ヶ原さんに対して行っていたことだからだ。私よりも可哀想な人を見つけて、私の方がマシなのだと安堵する。

それくらいしなきゃ保てなかったとはいえ、我ながら最悪過ぎた。あの時の私は、本当に精一杯だったとはいえ、それを理由にして許されることじゃない。
「だからといって、今更じゃない?」
「今更じゃないのよ、戦場ヶ原さん」
「でもほら、そのあとにキャットファイトしたわよ」
「あれを含めるなら、逆にまだ私は根に持つわね」
「じゃ、それぞれでおあいこにしましょ。あなたの気を楽にするために、私が悲しむのも割に合わないもの」
「…………そうね」
大学デビューと同時に髪を染めて、垢抜けた戦場ヶ原さんは新作のフラペチーノを片手に笑う。ホットコーヒーを啜る私から見たら、恐ろしいカロリーと冷たさと値段だ。大学で次々と友人という人脈を広げながらも、やたらと私に絡んでくる。

それくらいしなきゃ保てなかったとはいえ、我ながら最悪過ぎた。あの時の私は、本当に精一杯だったとはいえ、それを理由にして許されることじゃない。 「だからといって、今更じゃない?」 「今更じゃないのよ、戦場ヶ原さん」 「でもほら、そのあとにキャットファイトしたわよ」 「あれを含めるなら、逆にまだ私は根に持つわね」 「じゃ、それぞれでおあいこにしましょ。あなたの気を楽にするために、私が悲しむのも割に合わないもの」 「…………そうね」 大学デビューと同時に髪を染めて、垢抜けた戦場ヶ原さんは新作のフラペチーノを片手に笑う。ホットコーヒーを啜る私から見たら、恐ろしいカロリーと冷たさと値段だ。大学で次々と友人という人脈を広げながらも、やたらと私に絡んでくる。

「不幸自慢しなきゃやってられなかったのも、お揃いね私たち」
「そこで揃っても嬉しくないわよ……」
戦場ヶ原さんの飄々とした態度に、せめてもの反抗心で溜息を吐いてみせた。
私は不幸でも、だからどうしたって話。

「不幸自慢しなきゃやってられなかったのも、お揃いね私たち」 「そこで揃っても嬉しくないわよ……」 戦場ヶ原さんの飄々とした態度に、せめてもの反抗心で溜息を吐いてみせた。 私は不幸でも、だからどうしたって話。

そだちレベリアス(老倉育と戦場ヶ原ひたぎ)
大学時代。老倉さんに憧れるんですよ、本気で。
#物語シリーズ

28.01.2025 12:01 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

この世は地獄だ。
あの人はそんなことを望んではいない。復讐を止める時になど使われる常套句だが、そんな言葉で止められるならあまりにも軽い。覚悟が軽い。気持ちが軽い。あの人が望む望まないなど、端から関係ないのだ。復讐は、果たしたい人間が果たしたいだけ。虚しさしか残らなくていい。達成感などクソ喰らえだ。大体、生きていた頃からあの人は、私のことを本当に気にかけたことなど無かった筈なのだから。
臥煙遠江が憎い。臥煙遠江が恨めしい。臥煙遠江に、憧れていた。誰よりも、臥煙遠江に認められたかった。幼少の頃の記憶とは厄介なもので、まともに優しくされたことなど数えるほどの筈なのに、やたらと煌びやかな思い出となっている。それでいて、憎しみや恨めしさは薄れず、承認欲求は宙ぶらりんのままに投げ出された。臥煙遠江は、神原遠江となり、亡くなったのだ。私のことを置き去りにして、私とは関係ない場所で、亡くなった。
腹を痛めて生んだのは、到底私が生み出せる筈のない赤子だ。かつて遠江が己の弱さを切り離して生み出した『雨降りの悪魔』のように、私は己の弱さを赤子

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 この世は地獄だ。 あの人はそんなことを望んではいない。復讐を止める時になど使われる常套句だが、そんな言葉で止められるならあまりにも軽い。覚悟が軽い。気持ちが軽い。あの人が望む望まないなど、端から関係ないのだ。復讐は、果たしたい人間が果たしたいだけ。虚しさしか残らなくていい。達成感などクソ喰らえだ。大体、生きていた頃からあの人は、私のことを本当に気にかけたことなど無かった筈なのだから。 臥煙遠江が憎い。臥煙遠江が恨めしい。臥煙遠江に、憧れていた。誰よりも、臥煙遠江に認められたかった。幼少の頃の記憶とは厄介なもので、まともに優しくされたことなど数えるほどの筈なのに、やたらと煌びやかな思い出となっている。それでいて、憎しみや恨めしさは薄れず、承認欲求は宙ぶらりんのままに投げ出された。臥煙遠江は、神原遠江となり、亡くなったのだ。私のことを置き去りにして、私とは関係ない場所で、亡くなった。 腹を痛めて生んだのは、到底私が生み出せる筈のない赤子だ。かつて遠江が己の弱さを切り離して生み出した『雨降りの悪魔』のように、私は己の弱さを赤子

として生み出した。それは悍ましいほど、私に瓜二つだった。赤子を産めば、少しでも遠江に近づけるかと思っていたのに、己の弱さを切り捨てられた筈なのに、私は何一つ救われなかった。
嫌悪して忌避した赤子は、親がなくともよく育った。部下に丸投げした育児を、それでも成長記録として送られてきた写真を、私はほとんど見なかった。赤子とは呼ぶが、それはもう十代前半の娘だ。私がもっとも忌み嫌う年頃で生まれた、私と瓜二つの娘。私の仕事を手伝いたいのだと、呪いに手を出したのは怪異の影響なのか。私が救い、あの娘が呪う。そうすれば私が喜ぶのだと、あの娘は本気で思っていたのだろうか。
欲しかったのは副作用、差し出したのは私の頭。何も知らないことに耐えられず、何でも知れば報われると縋った。その結果、ひとりの式神が生まれた。他の後輩たちにも副作用は現れたが、私は望んだ呪いを浴びた。何でも知ることが出来るようになったのに、何でも出来ることはないのだと知るだけだった。その式神は、どうしてか姉の面影があった。
「臥煙さん」

として生み出した。それは悍ましいほど、私に瓜二つだった。赤子を産めば、少しでも遠江に近づけるかと思っていたのに、己の弱さを切り捨てられた筈なのに、私は何一つ救われなかった。 嫌悪して忌避した赤子は、親がなくともよく育った。部下に丸投げした育児を、それでも成長記録として送られてきた写真を、私はほとんど見なかった。赤子とは呼ぶが、それはもう十代前半の娘だ。私がもっとも忌み嫌う年頃で生まれた、私と瓜二つの娘。私の仕事を手伝いたいのだと、呪いに手を出したのは怪異の影響なのか。私が救い、あの娘が呪う。そうすれば私が喜ぶのだと、あの娘は本気で思っていたのだろうか。 欲しかったのは副作用、差し出したのは私の頭。何も知らないことに耐えられず、何でも知れば報われると縋った。その結果、ひとりの式神が生まれた。他の後輩たちにも副作用は現れたが、私は望んだ呪いを浴びた。何でも知ることが出来るようになったのに、何でも出来ることはないのだと知るだけだった。その式神は、どうしてか姉の面影があった。 「臥煙さん」

「なんだい余接」
「僕は、洗人雨露湖に与えられるためのお人形なの?」
洗人雨露湖こと、臥煙雨露湖にそう言われたのだ。
無機質で無表情だが、無感情ではない余接を私は招いて膝に抱く。背中を預かり、抱き締める。
それは、人形を人形らしく扱うという表向きと、顔を見られない内面があった。
「もしもそうだとしたら、お前は怒るかな」
「僕は人形だから、その可能性もあるだろうし、怒りはしない。ただ、千石撫子や貝木のお兄ちゃんを危険な目に遭わせておきながら、のうのうと暮らすアイツのことは、気に入らないな」
のうのうと暮らす。そうか、そう見えるのか。
私は笑う。苦く苦く、笑うしかなかった。
私も、始末しようとした。
だが、あの子は助けられた。
「あの子のことは、いつか許しておくれ」
私は今日も、地獄を生きている。
私の弱さと、私はいつか向き合わなければならない。
天国にさっさと行ってしまった姉には、追いつけない。

「なんだい余接」 「僕は、洗人雨露湖に与えられるためのお人形なの?」 洗人雨露湖こと、臥煙雨露湖にそう言われたのだ。 無機質で無表情だが、無感情ではない余接を私は招いて膝に抱く。背中を預かり、抱き締める。 それは、人形を人形らしく扱うという表向きと、顔を見られない内面があった。 「もしもそうだとしたら、お前は怒るかな」 「僕は人形だから、その可能性もあるだろうし、怒りはしない。ただ、千石撫子や貝木のお兄ちゃんを危険な目に遭わせておきながら、のうのうと暮らすアイツのことは、気に入らないな」 のうのうと暮らす。そうか、そう見えるのか。 私は笑う。苦く苦く、笑うしかなかった。 私も、始末しようとした。 だが、あの子は助けられた。 「あの子のことは、いつか許しておくれ」 私は今日も、地獄を生きている。 私の弱さと、私はいつか向き合わなければならない。 天国にさっさと行ってしまった姉には、追いつけない。

私は今日も、地獄を生きている。
私の弱さと、私はいつか向き合わなければならない。
天国にさっさと行ってしまった姉には、追いつけない。

私は今日も、地獄を生きている。 私の弱さと、私はいつか向き合わなければならない。 天国にさっさと行ってしまった姉には、追いつけない。

いずこヒストリー
#1月25日は臥煙伊豆湖の日
2025年も物語シリーズの年になりますように。
#物語シリーズ

24.01.2025 15:01 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

自分の家から匂う、カレーの香り。
一人暮らしの俺様の家には果たしてカレーの材料なんてあっただろうかと首を捻るが、たとえ材料が無くても購入してくる人物はひとりしかいない。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、スーサイドマスター」
ひょんなことから生まれ変わり、前世の記憶を持ちながら再会を果たしたトロピカレスクは、俺様があげたフリフリのフリルがついた白エプロンを付けて出迎える。俺様は未だに高校生で、トロピカレスクは社会人だ。ひとまずはトロピカレスクが通い詰めている。このように、この時代では年齢も逆転しているのだが、そんなことをちっとも気にしていない。気にしなくてもいいのだが、普通に犯罪な気もする。まあいっか。
「本日はカレーです」
「知ってる。外まで匂うもんだからな」
「そうですね。今回は中辛に致しました」
「おー」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 自分の家から匂う、カレーの香り。 一人暮らしの俺様の家には果たしてカレーの材料なんてあっただろうかと首を捻るが、たとえ材料が無くても購入してくる人物はひとりしかいない。 「ただいま」 「おかえりなさいませ、スーサイドマスター」 ひょんなことから生まれ変わり、前世の記憶を持ちながら再会を果たしたトロピカレスクは、俺様があげたフリフリのフリルがついた白エプロンを付けて出迎える。俺様は未だに高校生で、トロピカレスクは社会人だ。ひとまずはトロピカレスクが通い詰めている。このように、この時代では年齢も逆転しているのだが、そんなことをちっとも気にしていない。気にしなくてもいいのだが、普通に犯罪な気もする。まあいっか。 「本日はカレーです」 「知ってる。外まで匂うもんだからな」 「そうですね。今回は中辛に致しました」 「おー」

「これで人参も食べられますね」
「子供扱いするなよ」
皿によそわれたカレーの人参は、見事な星形である。無駄に手間を掛けて作ることに呆れつつも、トロピカレスクが自主的に楽しんで作っているので口出しもしない。大きめなじゃがいも、溶けてしまった玉ねぎ、柔らかくなった牛肉。隠し味に入れたらしいコーヒーやらチョコやらは、わからないなりに旨味が増しているのだろうと噛み締めて飲み込む。
「いかがでしょう」
「うん、うまい。貴様の料理は格別だぜ」
「嗚呼、有り難き幸せ……!おかわりも沢山ありますので、遠慮なくお召し上がりください」
「わかったわかった、それよりもまず貴様も食べろよ」
歓喜に打たれたようなトロピカレスクも、俺様の言葉でやっと食べ始める。前世とはまるで違う食事だが、悪い気はしなかった。

「これで人参も食べられますね」 「子供扱いするなよ」 皿によそわれたカレーの人参は、見事な星形である。無駄に手間を掛けて作ることに呆れつつも、トロピカレスクが自主的に楽しんで作っているので口出しもしない。大きめなじゃがいも、溶けてしまった玉ねぎ、柔らかくなった牛肉。隠し味に入れたらしいコーヒーやらチョコやらは、わからないなりに旨味が増しているのだろうと噛み締めて飲み込む。 「いかがでしょう」 「うん、うまい。貴様の料理は格別だぜ」 「嗚呼、有り難き幸せ……!おかわりも沢山ありますので、遠慮なくお召し上がりください」 「わかったわかった、それよりもまず貴様も食べろよ」 歓喜に打たれたようなトロピカレスクも、俺様の言葉でやっと食べ始める。前世とはまるで違う食事だが、悪い気はしなかった。

ですとぴあカレー(スーサイドマスターとトロピカレスク)
前世持ち転生の現パロ、幸せほのぼの。

22.01.2025 06:47 — 👍 3    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

これはヤバい。ヤバいしマズイ。語彙力が崩壊する程度に焦る中で、どうにか周りを見回してみると、影縫ちゃんが完全にキレていて、貝木くんは何故か高らかに笑っていた。うーん、マジでヤバいなコレは。頼みの綱ではある臥煙先輩もまた、聞き取れない声量で怒涛の恨み節を唱えている。
完全に油断したゆえの失態だ。精神に直接ダメージを与えてくる系統に、僕らはそれぞれが青くて幼かった。なので今の状況は、絶体絶命とやらである。それでも、じゃあゲームオーバーだねと受け入れることじゃない。まずは、此方側に戻さなければ。
「悪く思うなよ、貝木くんっ」
「ははっ、はははっ、ッぐぁ!?」
「戻った?戻ったよね、戻ってくれないとピンチなんだけどっ!」
「てめぇ、忍野、この慰謝料は高くつく、オイ」
「お金は臥煙先輩から頼むし、臥煙先輩を頼むよ。僕はどうにかして影縫ちゃんを止めるからっ」
思い切り背中を蹴飛ばした貝木くんは、僕の言葉にやっと状況を察してくれた。ただ、僕が走り出す前に肩を掴んできた。いつもよりも力強くて痛いのは、こんな状況だからなのか、今の意趣返しか。
「俺が影縫を止める、お前は先輩だ。何事にも相性があるだろう、俺の言葉じゃ先輩には勝てん」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 これはヤバい。ヤバいしマズイ。語彙力が崩壊する程度に焦る中で、どうにか周りを見回してみると、影縫ちゃんが完全にキレていて、貝木くんは何故か高らかに笑っていた。うーん、マジでヤバいなコレは。頼みの綱ではある臥煙先輩もまた、聞き取れない声量で怒涛の恨み節を唱えている。 完全に油断したゆえの失態だ。精神に直接ダメージを与えてくる系統に、僕らはそれぞれが青くて幼かった。なので今の状況は、絶体絶命とやらである。それでも、じゃあゲームオーバーだねと受け入れることじゃない。まずは、此方側に戻さなければ。 「悪く思うなよ、貝木くんっ」 「ははっ、はははっ、ッぐぁ!?」 「戻った?戻ったよね、戻ってくれないとピンチなんだけどっ!」 「てめぇ、忍野、この慰謝料は高くつく、オイ」 「お金は臥煙先輩から頼むし、臥煙先輩を頼むよ。僕はどうにかして影縫ちゃんを止めるからっ」 思い切り背中を蹴飛ばした貝木くんは、僕の言葉にやっと状況を察してくれた。ただ、僕が走り出す前に肩を掴んできた。いつもよりも力強くて痛いのは、こんな状況だからなのか、今の意趣返しか。 「俺が影縫を止める、お前は先輩だ。何事にも相性があるだろう、俺の言葉じゃ先輩には勝てん」

「はっはー、いいねえ。面白くなってきた!」
物理的に暴れる影縫ちゃんか、呪いを携える臥煙先輩か。どちらももれなく、五体満足で居られるか難しい。だからこそ僕は笑い、火を灯さない煙草を口先で揺らした。余裕がないときにこそ、軽口を叩く。いやいやそんな場合じゃないのだが、自分を奮起させるには必要だった。
「──邪魔だよ退きなさい、メメ」
「退きませんし撤退するのは僕らですよ、先輩。それこそ、恨まないでください」
「私はお前が大嫌いだ」
「それは悲しい、あとで撤回してくださいね」
居合いよりも疾く、術式を展開する。陽炎を、斬り捨てた先輩の背後に回り、むんずと抱き上げる。小さくて軽くてよかったというのは、流石に失礼すぎるかな。そのまま固まったことを利用して、ぺたりと札を貼らせてもらう。後遺症は残らないが、やっぱり叱られるかな。
「撤退するよ、貝木くんっ!」
「わかってる!」
影縫ちゃんに勝つことは難しくても、負けない道筋を付けられるのが貝木くんだ。ほとんど時間は経過してないが、頬を腫らしている貝木くんもまた影縫ちゃんを担いで走ってくる。

「はっはー、いいねえ。面白くなってきた!」 物理的に暴れる影縫ちゃんか、呪いを携える臥煙先輩か。どちらももれなく、五体満足で居られるか難しい。だからこそ僕は笑い、火を灯さない煙草を口先で揺らした。余裕がないときにこそ、軽口を叩く。いやいやそんな場合じゃないのだが、自分を奮起させるには必要だった。 「──邪魔だよ退きなさい、メメ」 「退きませんし撤退するのは僕らですよ、先輩。それこそ、恨まないでください」 「私はお前が大嫌いだ」 「それは悲しい、あとで撤回してくださいね」 居合いよりも疾く、術式を展開する。陽炎を、斬り捨てた先輩の背後に回り、むんずと抱き上げる。小さくて軽くてよかったというのは、流石に失礼すぎるかな。そのまま固まったことを利用して、ぺたりと札を貼らせてもらう。後遺症は残らないが、やっぱり叱られるかな。 「撤退するよ、貝木くんっ!」 「わかってる!」 影縫ちゃんに勝つことは難しくても、負けない道筋を付けられるのが貝木くんだ。ほとんど時間は経過してないが、頬を腫らしている貝木くんもまた影縫ちゃんを担いで走ってくる。

兎にも角にも、逃げるが勝ちだ。
僕たちはただひたすらに、逃走に奔走する羽目になった。

兎にも角にも、逃げるが勝ちだ。 僕たちはただひたすらに、逃走に奔走する羽目になった。

めめエスケープ(忍野、貝木、影縫、臥煙)
若くて青いオカ研時代なら、時には敗走したかもしれないよねという小話。
#物語シリーズ

19.01.2025 08:26 — 👍 1    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「オニーサン、ひとり?」
酔っ払いが酔っ払いらしく、カウンターで酒を楽しんでいた俺に話し掛けてきた。へらへらと何が楽しいのかわからないことで笑い、冬だというのに胸元と太腿をあからさまに晒している服装で、つまりはこのホテルのバーには凡そ相応しくない客層の女性である。恐らくは一人ではなく二人でやってきた、あるいは約束していた人間がいたが、独りになったのだろう。素直に帰宅するには、自分を慰められなかったところか。そして周りを見渡して、連れ合いのいない、年齢が辛うじて近く感じたのだろう俺に目星をつけた。
「よかったらアタシとさあ」
「申し訳ありません、私は既婚者でして」
とある仕事で子持ちの父親役を演じる羽目になり、形ばかりにシルバーリングを嵌めている薬指を見せる。
「問題ナイナイ、アタシ気にしないよ」
俺が気にするんだよ。
さすがは酔っ払いであり、自暴自棄な女性である。そして間違いなく男を見る目がない。だからこその長居は不要で、もうこのバーを利用することはないだろう。へべれけな女性を避けるように立ち、それでいて転ばないようにスツールを添えておいた。転ばなかったことよりも、自分が座ったことに目を丸くしている。
「今宵は既に酔っ払っていらっしゃる、火遊びをするにはまたの日に」
自分でも信じられない声で囁くと、手早く会計を済ませて店を出た。どうして面倒なことを増やそうとするのやら、俺の口は今日も俺の敵だった。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「オニーサン、ひとり?」 酔っ払いが酔っ払いらしく、カウンターで酒を楽しんでいた俺に話し掛けてきた。へらへらと何が楽しいのかわからないことで笑い、冬だというのに胸元と太腿をあからさまに晒している服装で、つまりはこのホテルのバーには凡そ相応しくない客層の女性である。恐らくは一人ではなく二人でやってきた、あるいは約束していた人間がいたが、独りになったのだろう。素直に帰宅するには、自分を慰められなかったところか。そして周りを見渡して、連れ合いのいない、年齢が辛うじて近く感じたのだろう俺に目星をつけた。 「よかったらアタシとさあ」 「申し訳ありません、私は既婚者でして」 とある仕事で子持ちの父親役を演じる羽目になり、形ばかりにシルバーリングを嵌めている薬指を見せる。 「問題ナイナイ、アタシ気にしないよ」 俺が気にするんだよ。 さすがは酔っ払いであり、自暴自棄な女性である。そして間違いなく男を見る目がない。だからこその長居は不要で、もうこのバーを利用することはないだろう。へべれけな女性を避けるように立ち、それでいて転ばないようにスツールを添えておいた。転ばなかったことよりも、自分が座ったことに目を丸くしている。 「今宵は既に酔っ払っていらっしゃる、火遊びをするにはまたの日に」 自分でも信じられない声で囁くと、手早く会計を済ませて店を出た。どうして面倒なことを増やそうとするのやら、俺の口は今日も俺の敵だった。

でいしゅうイリュージョン(貝木泥舟)
恋物語の詐欺師の働きを全部見たいんだ、私は。

14.01.2025 14:43 — 👍 2    🔁 1    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「もしもし詐欺師」
「確かに俺は詐欺師だが、第一声がそれはどうかと思うぞ人として」
「人の風上にも置けない職業のあなたに言われるのは業腹だけれども、そうね、なら貝にいちゃん」
「トップスピードで気色悪いな」
「あらあら何よ、かつて私が呼んでいた頃にはどうしたんだひたっぴと呼んでくれたのに」
「戦場ヶ原、お前が相当の苦労を積んでいることを、俺はかなり甘く見ていたらしい。ついには無かった記憶も語り出すとはな、悪かった。病院に行け」
「こんな時にだけ簡単に謝るんじゃないわよ、私は五体満足で頭も完璧なのだから」
「完璧にどうかしてるという意味でかな」
「はぁ、まったく。あなたのために呼び方を変えてあげたのにこの仕打ちとは、本当にどうしようもない男ね」
「その、どうしようもない男に頼らないと助からないことは覚えておけ──いや、すぐに忘れろよ」
「ええ、ええ、忘れないわ。あなたのおかげで助かる命であること、私は絶対に忘れてあげないんだから」
「やれやれ、これだから困ったちゃんだな、ひたっぴは」
「げほごほっ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「もしもし詐欺師」 「確かに俺は詐欺師だが、第一声がそれはどうかと思うぞ人として」 「人の風上にも置けない職業のあなたに言われるのは業腹だけれども、そうね、なら貝にいちゃん」 「トップスピードで気色悪いな」 「あらあら何よ、かつて私が呼んでいた頃にはどうしたんだひたっぴと呼んでくれたのに」 「戦場ヶ原、お前が相当の苦労を積んでいることを、俺はかなり甘く見ていたらしい。ついには無かった記憶も語り出すとはな、悪かった。病院に行け」 「こんな時にだけ簡単に謝るんじゃないわよ、私は五体満足で頭も完璧なのだから」 「完璧にどうかしてるという意味でかな」 「はぁ、まったく。あなたのために呼び方を変えてあげたのにこの仕打ちとは、本当にどうしようもない男ね」 「その、どうしようもない男に頼らないと助からないことは覚えておけ──いや、すぐに忘れろよ」 「ええ、ええ、忘れないわ。あなたのおかげで助かる命であること、私は絶対に忘れてあげないんだから」 「やれやれ、これだから困ったちゃんだな、ひたっぴは」 「げほごほっ」

もしもしテレフォン(貝ひた)
恋物語の、電話は、永遠に見たいのです。
何度でも、何度でも。

12.01.2025 11:36 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

斧乃木余接は人形だ。
死体という肩書きの付いた、式神として使役する、人形である。それまでの生を問わず、これからの性は人形としての人形生である。そして人形は、常に人形として扱われなければならない。◯◯の代わりという、身代わり人形として扱うのならば、そのとおりに生きていくしかなくなる。それが誰かの願いだとしても、斧乃木余接を構成する人間はひとりではない。
「僕は人形で、抱き枕ではないよ」
そう口に出せた筈なのだけれども、斧乃木余接は抱き締められていた。その抱き締める人物が、影縫余弦であることから、最初は技をかけられるのかとも思考したが、そうではなかった。影縫余弦が、斧乃木余接を一番に人形らしく扱ってきた。
だからこそ、この扱いはイレギュラーで、初めてだった。正しく距離を保ち、正しく接してきたお姉ちゃんが、らしくないことをしている。口数も少なく、ただ余接を抱き締める。そんな姿を知らなかったし、僕は知ってはならなかったのではないかとも思ってしまう。しかし、斧乃木余接は人形だ。
「おやすみ、お姉ちゃん。あなたの夢路を、僕が守れますように」
ならばせめて人形らしく、持ち主の幸福を願うのみ。
斧乃木余接は、人形である。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 斧乃木余接は人形だ。 死体という肩書きの付いた、式神として使役する、人形である。それまでの生を問わず、これからの性は人形としての人形生である。そして人形は、常に人形として扱われなければならない。◯◯の代わりという、身代わり人形として扱うのならば、そのとおりに生きていくしかなくなる。それが誰かの願いだとしても、斧乃木余接を構成する人間はひとりではない。 「僕は人形で、抱き枕ではないよ」 そう口に出せた筈なのだけれども、斧乃木余接は抱き締められていた。その抱き締める人物が、影縫余弦であることから、最初は技をかけられるのかとも思考したが、そうではなかった。影縫余弦が、斧乃木余接を一番に人形らしく扱ってきた。 だからこそ、この扱いはイレギュラーで、初めてだった。正しく距離を保ち、正しく接してきたお姉ちゃんが、らしくないことをしている。口数も少なく、ただ余接を抱き締める。そんな姿を知らなかったし、僕は知ってはならなかったのではないかとも思ってしまう。しかし、斧乃木余接は人形だ。 「おやすみ、お姉ちゃん。あなたの夢路を、僕が守れますように」 ならばせめて人形らしく、持ち主の幸福を願うのみ。 斧乃木余接は、人形である。

よつぎウィッシュ(影縫余弦と斧乃木余接)
いつか接物語が出たら終わりです(終わりの始まり)

10.01.2025 12:01 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「こんにちは、千石」
「こ、こんにちは、暦お兄ちゃん!」
「…………」
「…………あ、えっと、あのね」
「ああ、なんだ千石。なんでも話してくれ。僕はお前の話を聞くのが大好きだからな」
「えっと、えっと」
「うんうん」
「……暦お兄ちゃん、撫子のこと、好き?」
「もちろん。僕は千石撫子のことが大好きだよ」
「…………うん、そっか。ありがとう、暦お兄ちゃん」
「どういたしまして、千石」
ずっとずっと、やりたかったこと。理想の暦お兄ちゃんを描いたら、暦お兄ちゃんは空っぽになってしまいました。私の夢、私のことが大好きで堪らない暦お兄ちゃんなのに。紙の中に戻した暦お兄ちゃんは、にこにこと微笑んでいます。でも撫子は、こんな風に笑うお兄ちゃんを知らないんだ。こんな風に笑いかけていたのは、撫子にではないから。撫子の知らない暦お兄ちゃんを、撫子が描けることはないのです。分かっていた、分かっていたけれど。
「いつになったら、撫子は乗り越えられるの?」
その答えは、紙の中にはありません。
その答えを、撫子はまだわかりません。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「こんにちは、千石」 「こ、こんにちは、暦お兄ちゃん!」 「…………」 「…………あ、えっと、あのね」 「ああ、なんだ千石。なんでも話してくれ。僕はお前の話を聞くのが大好きだからな」 「えっと、えっと」 「うんうん」 「……暦お兄ちゃん、撫子のこと、好き?」 「もちろん。僕は千石撫子のことが大好きだよ」 「…………うん、そっか。ありがとう、暦お兄ちゃん」 「どういたしまして、千石」 ずっとずっと、やりたかったこと。理想の暦お兄ちゃんを描いたら、暦お兄ちゃんは空っぽになってしまいました。私の夢、私のことが大好きで堪らない暦お兄ちゃんなのに。紙の中に戻した暦お兄ちゃんは、にこにこと微笑んでいます。でも撫子は、こんな風に笑うお兄ちゃんを知らないんだ。こんな風に笑いかけていたのは、撫子にではないから。撫子の知らない暦お兄ちゃんを、撫子が描けることはないのです。分かっていた、分かっていたけれど。 「いつになったら、撫子は乗り越えられるの?」 その答えは、紙の中にはありません。 その答えを、撫子はまだわかりません。

なでこウォーリー(おと撫子と阿良々木暦)
いつかきっとは、いつなのかな。

10.01.2025 08:45 — 👍 5    🔁 2    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

「ねえ、触れてもいいかしら」
そんなことを聞かれたら、まず真っ先に断るだろうこの俺に対して、それでも問うてきたのは戦場ヶ原の緊張に他ならなかった。気軽な言葉のやりとりではなく、居心地の悪さすら覚える。だが、それこそが変化だ。加害者と被害者ではない、世間で云うところの恋人同士である。どうしてそんな関係に陥ってしまったのかは、この際説明は不要だった。
ソファの二人掛け、隙間は空いている。
沈黙しているのは、俺の口が否定を選ばなかった奇跡であり、それを承知と受け取るのがそれなりの付き合いだった。
さて、戦場ヶ原は何処から触れるのだろう。ある程度の予想を立てていた俺は、およそ腕や手だと考えていたのだけれども、戦場ヶ原はそれを裏切った。
「……やっぱり見た目通り、すべすべしてる」
「顔は予想外だな」
「いや?」
「気分はよくないぞ」
赤の他人に顔を触られることを、心地良いとは言えない。素直に伝えたところ、戦場ヶ原の手は顔ではなく頭へと移った。普段のポマードはない、洗い髪だから触れているのだろう。頭を撫でられるというのは、過去の記憶に無い。あるいは、あったとして

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 「ねえ、触れてもいいかしら」 そんなことを聞かれたら、まず真っ先に断るだろうこの俺に対して、それでも問うてきたのは戦場ヶ原の緊張に他ならなかった。気軽な言葉のやりとりではなく、居心地の悪さすら覚える。だが、それこそが変化だ。加害者と被害者ではない、世間で云うところの恋人同士である。どうしてそんな関係に陥ってしまったのかは、この際説明は不要だった。 ソファの二人掛け、隙間は空いている。 沈黙しているのは、俺の口が否定を選ばなかった奇跡であり、それを承知と受け取るのがそれなりの付き合いだった。 さて、戦場ヶ原は何処から触れるのだろう。ある程度の予想を立てていた俺は、およそ腕や手だと考えていたのだけれども、戦場ヶ原はそれを裏切った。 「……やっぱり見た目通り、すべすべしてる」 「顔は予想外だな」 「いや?」 「気分はよくないぞ」 赤の他人に顔を触られることを、心地良いとは言えない。素直に伝えたところ、戦場ヶ原の手は顔ではなく頭へと移った。普段のポマードはない、洗い髪だから触れているのだろう。頭を撫でられるというのは、過去の記憶に無い。あるいは、あったとして

も忘却している。
「楽しいのか」
「ええ、撫でてみたかったもの」
中年男性の頭を撫でることに何の楽しみがあるのか、さっぱりわからない。だが、戦場ヶ原は嘘を吐いている様子は見られなかった。機嫌の良さを隠さずに、綻んだ表情を間近で見ている。それこそ、これまでには見ることのなかった顔だ。
「え、っ……!」
「……なんだ、俺が触れるのは嫌か?」
自分は良くても、他人は悪い。
その気持ちは非常によく理解することが可能なのだが、戦場ヶ原は言葉ではなくぎこちない左右の首振りで応えた。頭、そして頬を撫でる。驚くほど瑞々しい肌であり、つくづく俺との違いを知らしめる。
戦場ヶ原は瞳を閉ざして、自分の手を重ね合わせてから俺の手に擦り寄せてみせた。愛しげに見える、と判断する俺はどうやら甘さにやられていて、ソファの隙間はもう無くなっていた。

も忘却している。 「楽しいのか」 「ええ、撫でてみたかったもの」 中年男性の頭を撫でることに何の楽しみがあるのか、さっぱりわからない。だが、戦場ヶ原は嘘を吐いている様子は見られなかった。機嫌の良さを隠さずに、綻んだ表情を間近で見ている。それこそ、これまでには見ることのなかった顔だ。 「え、っ……!」 「……なんだ、俺が触れるのは嫌か?」 自分は良くても、他人は悪い。 その気持ちは非常によく理解することが可能なのだが、戦場ヶ原は言葉ではなくぎこちない左右の首振りで応えた。頭、そして頬を撫でる。驚くほど瑞々しい肌であり、つくづく俺との違いを知らしめる。 戦場ヶ原は瞳を閉ざして、自分の手を重ね合わせてから俺の手に擦り寄せてみせた。愛しげに見える、と判断する俺はどうやら甘さにやられていて、ソファの隙間はもう無くなっていた。

でいしゅうスイート(貝ひた)
辛抱堪らないのでラブといちゃのふたり。
初期貝ひたも何回も見たいので。

09.01.2025 08:09 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

貝木泥舟は濫読家だ。
フィクションもノンフィクションも、文学も図鑑も、雑誌も絵本も、本という体裁を保つ書物ならば何でも目を通す。通院に付き添うとき、喫茶店に置かれた本、哲学書を読んでいたかと思えば、下世話なゴシップ誌も読んでいる。
「面白いの?」
「面白いと思えばな」
のらりくらりとした言葉である。いかなる書物であれ、それが真実だろうが偽物だろうが、全ての文書には書き手の人柄が表れる。それを糧にしているのだと、やはり嘘か誠かわからないことを言っていた。
「戦場ヶ原さんは、読書家なんだね」
果たして誰に言われたのか、顔も名前も覚えていない誰かに言われて、私は自分を省みた。
最初は小説だった。病院に暮らしていたと言っても過言ではなかった私は、幼いころから他人より多くの小説を読んで

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 貝木泥舟は濫読家だ。 フィクションもノンフィクションも、文学も図鑑も、雑誌も絵本も、本という体裁を保つ書物ならば何でも目を通す。通院に付き添うとき、喫茶店に置かれた本、哲学書を読んでいたかと思えば、下世話なゴシップ誌も読んでいる。 「面白いの?」 「面白いと思えばな」 のらりくらりとした言葉である。いかなる書物であれ、それが真実だろうが偽物だろうが、全ての文書には書き手の人柄が表れる。それを糧にしているのだと、やはり嘘か誠かわからないことを言っていた。 「戦場ヶ原さんは、読書家なんだね」 果たして誰に言われたのか、顔も名前も覚えていない誰かに言われて、私は自分を省みた。 最初は小説だった。病院に暮らしていたと言っても過言ではなかった私は、幼いころから他人より多くの小説を読んで

いた。中学生に上がり一時期は読書と離れていたが、再び読み直しては新しく開拓していった。けれども、私は気が付くと小説だけでは留まらなかった。幻想物語に夢を馳せるだけではなく、手当たり次第に読んでいた。図書室にある、書物にはほとんど目を通しただろう。
特に中身を気にしたことはないのだ。ただ、読書している体裁さえあれば、他人との関わりを断つことが可能であったから。案の定、私はクラスメートを覚えていないし、会話を繋げた記憶もない。
それでも私は、あの頃は必死に、あの男が読んでいた本を選んで読んでいた。少しでも、あの男との会話を増やしたかった。完全に断絶したあとにも、あの男が何を読み取っていたのかを確かめたかった。
私には、さっぱりわからなかったけれど。

いた。中学生に上がり一時期は読書と離れていたが、再び読み直しては新しく開拓していった。けれども、私は気が付くと小説だけでは留まらなかった。幻想物語に夢を馳せるだけではなく、手当たり次第に読んでいた。図書室にある、書物にはほとんど目を通しただろう。 特に中身を気にしたことはないのだ。ただ、読書している体裁さえあれば、他人との関わりを断つことが可能であったから。案の定、私はクラスメートを覚えていないし、会話を繋げた記憶もない。 それでも私は、あの頃は必死に、あの男が読んでいた本を選んで読んでいた。少しでも、あの男との会話を増やしたかった。完全に断絶したあとにも、あの男が何を読み取っていたのかを確かめたかった。 私には、さっぱりわからなかったけれど。

ひたぎリーディング(貝木泥舟と戦場ヶ原ひたぎ)
詐欺師は己の仕事のため、女子高生は何のため。
#物語シリーズ

09.01.2025 03:03 — 👍 3    🔁 2    💬 0    📌 0
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貝木泥舟の手は美しい。
その事実を、貝木泥舟こと俺はよく知っている。人間は外見で判断されるが、その一つに手も重要である。何をするにも、口が促したあとに動くのはこの手だからだ。時と場合にもよるが、単調に話すよりも、身振り手振りを付けるほうが人の目を惹きつける。男性はそれほどでもないが、女性は殊更に手を重視しているらしい。なので俺は、手のケアを重視する。男なのにという風潮は、今でこそ廃れてきているが、一昔前にはよく笑われたものだ。それも構わず、ハンドクリームを塗り込んでは保湿をしてきた。ささくれもないように、肌のキメを滑らかに保つ。
「とても美しいですね」
「ありがとうございます」
およそリップサービスだろうが、わざわざ否定することもない。その視線には手のみならず、俺の記載した文字にも注がれる。文字の練習もしておいたのは、それが他人からの信頼度に役立つからだ。文字の綺麗さは、何故かその人物の信頼と信用に通ずるものである。むしろ、賢い人間ほど文字が追い付かずに乱雑になるとも言われているが、真実は藪の中である。どちらにせよ、あとは勝手に騙されてくれるので、手と文字を綺麗にして損することはない。
貝木泥舟の手は美しい。
こうして記載する文字も、当然ながら美しい。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 貝木泥舟の手は美しい。 その事実を、貝木泥舟こと俺はよく知っている。人間は外見で判断されるが、その一つに手も重要である。何をするにも、口が促したあとに動くのはこの手だからだ。時と場合にもよるが、単調に話すよりも、身振り手振りを付けるほうが人の目を惹きつける。男性はそれほどでもないが、女性は殊更に手を重視しているらしい。なので俺は、手のケアを重視する。男なのにという風潮は、今でこそ廃れてきているが、一昔前にはよく笑われたものだ。それも構わず、ハンドクリームを塗り込んでは保湿をしてきた。ささくれもないように、肌のキメを滑らかに保つ。 「とても美しいですね」 「ありがとうございます」 およそリップサービスだろうが、わざわざ否定することもない。その視線には手のみならず、俺の記載した文字にも注がれる。文字の練習もしておいたのは、それが他人からの信頼度に役立つからだ。文字の綺麗さは、何故かその人物の信頼と信用に通ずるものである。むしろ、賢い人間ほど文字が追い付かずに乱雑になるとも言われているが、真実は藪の中である。どちらにせよ、あとは勝手に騙されてくれるので、手と文字を綺麗にして損することはない。 貝木泥舟の手は美しい。 こうして記載する文字も、当然ながら美しい。

でいしゅうハンド(貝木泥舟)
詐欺師として真面目な男なんだと信じてる。

07.01.2025 16:25 — 👍 3    🔁 1    💬 0    📌 1
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。

ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。
一際熱心に祈り感謝を捧げる信者の名前は、戦場ヶ原。何とも物騒な名前だが、信者自身は大人しく従順である。なんでも方方に手を尽くし、藁にも縋るつもりで娘の大病を根治すべく入信して、めでたく娘は元気になった。水や塩、清めの祈りが効いたのだと本気で思っているのだから、否が応でも信仰心は極められる。生真面目とはいえ献金も潮時だろうから、手っ取り早く中身を売り飛ばすか借金に沈めるか。
その時に食指が動いたのは、後生大切そうに眺めていた写真。その娘、名を戦場ヶ原ひたぎ。此方を向いて笑いこそ浮かべていないが、花も恥じらう年頃の美少女である。これは喰わずにいるには勿体ない。
ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。
全く酷い目に遭った。あれほど熱心な信者の娘なのだから、同じ志を抱くかと思いきやまるで聞き分けのない餓鬼だった。男を知らぬ生娘らしく、怯え震えるのならば優しくしてやろうかと思ったのに、よりにもよって歯向かうとは論外である。スパイクで殴打されるなんざ予測もしていなかった。慰謝料は高く払わせるとしても、このままで終わらせるつもりはない。寧ろ、二度と歯向かえないように教え込んでやらねばならない。そうでなければ、あの信者も娘も不幸になるのだから。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。以下は本文の内容です。 ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。 一際熱心に祈り感謝を捧げる信者の名前は、戦場ヶ原。何とも物騒な名前だが、信者自身は大人しく従順である。なんでも方方に手を尽くし、藁にも縋るつもりで娘の大病を根治すべく入信して、めでたく娘は元気になった。水や塩、清めの祈りが効いたのだと本気で思っているのだから、否が応でも信仰心は極められる。生真面目とはいえ献金も潮時だろうから、手っ取り早く中身を売り飛ばすか借金に沈めるか。 その時に食指が動いたのは、後生大切そうに眺めていた写真。その娘、名を戦場ヶ原ひたぎ。此方を向いて笑いこそ浮かべていないが、花も恥じらう年頃の美少女である。これは喰わずにいるには勿体ない。 ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。 全く酷い目に遭った。あれほど熱心な信者の娘なのだから、同じ志を抱くかと思いきやまるで聞き分けのない餓鬼だった。男を知らぬ生娘らしく、怯え震えるのならば優しくしてやろうかと思ったのに、よりにもよって歯向かうとは論外である。スパイクで殴打されるなんざ予測もしていなかった。慰謝料は高く払わせるとしても、このままで終わらせるつもりはない。寧ろ、二度と歯向かえないように教え込んでやらねばならない。そうでなければ、あの信者も娘も不幸になるのだから。

ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。
「──なるほど、よくわかった」
目の前が急に開けると、俺はどうしてか薄暗い照明のバーカウンターに座っていた。行きつけのバーカウンターでもないのだが、隣に座っていた黒服の男が勝手に支払いを済ませてしまった。奢られたらしい。何故。誰だ、コイツ。
「何、俺は興味深い話には金を払うだけだよ。──車には気をつけることだな」
俺の疑問に答えるように、低い声が囀った。
鴉が嗤うかのような表情の男は、そのまま去って行った。
何が何やらわからないのだが、どうやら飲み過ぎたらしい。二日酔いの前から頭が鈍く、身体が重い。まるで覚えてはいないが、意気投合でもしたのだろうか。初対面で奢られた気味の悪さはあるが、タダ酒なら悪くない。これも日頃の行いだろう。
ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。
俺はそうして、夜道を帰る途中で──。

ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。 「──なるほど、よくわかった」 目の前が急に開けると、俺はどうしてか薄暗い照明のバーカウンターに座っていた。行きつけのバーカウンターでもないのだが、隣に座っていた黒服の男が勝手に支払いを済ませてしまった。奢られたらしい。何故。誰だ、コイツ。 「何、俺は興味深い話には金を払うだけだよ。──車には気をつけることだな」 俺の疑問に答えるように、低い声が囀った。 鴉が嗤うかのような表情の男は、そのまま去って行った。 何が何やらわからないのだが、どうやら飲み過ぎたらしい。二日酔いの前から頭が鈍く、身体が重い。まるで覚えてはいないが、意気投合でもしたのだろうか。初対面で奢られた気味の悪さはあるが、タダ酒なら悪くない。これも日頃の行いだろう。 ありがたやありがたや、これもすべては□□様の思し召し。 俺はそうして、夜道を帰る途中で──。

かいきフィニッシュ(貝木泥舟)
「あの宗教団体の幹部がどうなったのかなんて、俺は何も知らないな」
何も知らないのか何か知っているのか、真実は詐欺師のみ知る。
#物語シリーズ

04.01.2025 14:19 — 👍 4    🔁 1    💬 0    📌 0

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