ちょっと強引
22.11.2025 16:12 — 👍 22 🔁 4 💬 3 📌 0@kizuna92.bsky.social
葬送のフリーレンという病にかかったアカウントです
ちょっと強引
22.11.2025 16:12 — 👍 22 🔁 4 💬 3 📌 0最近やっとゆっくりツイッター見られるようになったんですが、いやにさみしいなーと思ったら、しらたまさんがおられなかったことに気がついたのですよ……!ということで追いかけてきちゃいました
14.11.2025 12:08 — 👍 1 🔁 0 💬 1 📌 0トルーパー見ますよね…
14.11.2025 08:35 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0過去のしらたまさんのおかげで助かりました!
最近こちらにおられたんですね
は……やらなきゃいけないことまだまだあった……
14.11.2025 04:41 — 👍 1 🔁 0 💬 1 📌 0●年前に描いたマクロスFのランカちゃん
きゅーんきゅーん!!!!
だからどうやって塗ってたの私ー!!
。゚(゚´ω`゚)゚。
今日もフェルンまかせのフリーレン
#frieren
ザイン、初めてちゃんと描いた気がする(ごめんなさい)(描くの楽しかったです)
塩豆さん、お題ありがとうございました!!
そういえば、同じ花が、村のあちこちでも咲いていた。 細長い白い花びらが何枚も放射状に広がった、ひとえの花。すらりと伸びた茎がたおやかだ。 「ヒンメルは言っていたろう。この花を大切にしてほしい、と。それをお前たちは今でも守っている」 「え、ええ。それはもう大切にさせていただいております。村の外に花畑を作らせていただいているのですが、近隣で有名になり、観光客も訪れるようになったのですよ。おかげさまで村に余裕も生まれました」 村長は、何度も頷きながら答えた。両手を広げ、花畑の広さを表そうとしている。 「お前たちは、ヒンメルの願いを叶えた。それを、私が受け取った。だから他の物はいらないよ」 フリーレンは、満足そうにそう言った。それから窓際へ行くと、白い花に優しく手をかかげた。触れるか触れないかの距離で、なでるように。嬉しそうに。 「フリーレン様は、前も人を助けていたの?」 幼い妹が、無邪気に問いかけてきた。村長の話の邪魔をしないようにおとなしくしていたが、そろそろ我慢できなくなってきたのだろう。 「アマナ、フリーレン様はね、80年前に魔王を倒して世界を救った方々のお一人なのよ」 「ええー! すごい!」 「そんなたいしたものじゃないよ」 「フリーレン様、まだお姉ちゃんに見えるのに、実はおばあちゃんなんだ!」 「そっちか……」 おばあちゃん呼ばわりされて、フリーレンの顔が、しょもも、となった。 先ほどは、フェルンたちとは違う時間を見ているように見えていたけれど、こういう顔をするといつもと同じフリーレンだ。何だか安心する。
「おばあちゃんになっても、まだ人を助けているんだね、えらいねぇ」 たは、と笑いながら、フリーレンが頷いた。 「私はエルフだからね、おばあちゃんじゃないんだ。ヒンメルならそうしただろうから、してるだけだよ」 「ヒンメル、って? どの人? お兄ちゃん?」 アマナが、ぐるりと目線をシュタルクに向けた。シュタルクが大慌てで両手を振る。 「ううん。ヒンメルは、もう、いないんだ」 「ヒンメルはもういないの? おじいちゃんになって死んじゃったの?」 マルガレーテが、ぎょっと目を見開いた。 「もういないのにお姉ちゃんは」 そこまで言った妹の口を、大急ぎでふさぐ。けれど、無邪気に発せられた言葉を、かき消すことはできない。 「も、申し訳ありませんフリーレン様!」 「……いいんだよ」 今度こそ土下座をしそうな勢いの村長に、フリーレンは言葉を落とすように返した。 そうして、口をふさがれたままのアマナの前に片膝をつく。 同じ高さで視線が交わる。 「そう、ヒンメルはもういない。でもそれは、いない、っていうだけだ。ヒンメルの願いや他人への思いが消えたわけじゃない。 私は彼がこんな時にどうしたかったのか、をちゃんと覚えている。ヒンメルが世界を守ったこと、そういう人が本当に存在したことが、まだ私の中で息をしてる。 彼が世界を守ることで見えていた世界を私も見たいし、残してくれた世界を守りたい。だから私は、ヒンメルがしただろうことをしているんだよ」 「しょうなの」 もふもふ、とふさがれた口でアマナが言葉を返す。
「それに、ヒンメルと約束したからね。彼の願いや記憶を未来に連れて行くって」 そう言って。 フリーレンは、瞳を細めてほほ笑んだ。 「だからアマナも、覚えていて。人を助けたりして、ヒンメルの記憶を一緒に未来に連れて行ってくれるかな」 アマナは大きな丸い目で、ヒンメルの瞳を見つめ返して。 こくん、と大きく頷いた。 ◎ 夕刻。 気が付けば姿を消していたフリーレンを、フェルンはずっと探し歩いていた。 やっと見つけたのは、村長が言っていた広い広い花畑の真ん中。 真っ白い花に囲まれて、真っ白な髪を揺らして、座り込んでいた。 言葉もなく、フリーレンの姿を見つめてしまったフェルンに。 視線を向けないまま、彼女が口を開いた。 「フェルン、私は」 「嘘つきかもしれない」 さらさらと風が吹いて。 花が揺れる。 フリーレンの長い髪も、揺れる。 「あの子に話したことは、本当の事だけど。
それだけじゃ、ないんだ。 私はね、ヒンメルのことをよく知らない。けど、ヒンメルがしそうなことを、真似することで……私は、きっと、ヒンメルとつながっていたいんだろう。そうしないと、ヒンメルが離れていきそうな気がして、怖くて。 だって、ヒンメルはもういないから。 ヒンメルの記憶が薄れていったら、自分が立っていることさえできなくなりそうで。 真似をしたところで、ヒンメルには会えないし、いつまでもヒンメルのことはわからないままなんだけどね」 フェルンは身をかがめると、フリーレンを、背後から抱きしめた。 こうしていると、フリーレンが自分よりも幼いかのようだ。 彼女を守りたいような、彼女に甘えたいような、切ない気持ちで胸が満ちる。 「私が、そばにいます、フリーレン様」 「……」 「私が、フリーレン様を、一人にしません」 こてん。 フリーレンが、フェルンの胸に頭をもたれさせた。 「それに、私たちは、オレオールに行くのでしょう。ヒンメル様に会いに行くのでしょう。だから……そんな風に、さみしいことを言わないでください……」 「……そうか。うん、そうだね」 風が吹いた。 夕暮れの空に、フリーレンの髪がさらわれて舞い上がる。 ヒンメルが望んだ白い花が、彼の祈りのようにさざめき、二人の姿を包んでいた。
29.09.2025 22:08 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「ヒンメルはもういないから」、「絆」と記載されています。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Image by shell_ghostcage from Pixabay / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「お兄ちゃん!!」 村の出入り口から、少女が駆け出してきた。 村から出てはいけないと言われながらも、いてもたってもいられなくて、ずっと村の外を見ていたのだろう。その後ろから、年配の男性も数人ついてくる。 少女は、フリーレンの背後に浮かぶ男性に駆け寄った。彼が気絶しているだけで、五体満足なのを見て取ると、安心したように肩の力が抜けて。 ぶわり、と涙があふれ出した。 「まず、中に入ろうか」 そのまま崩れ落ちそうになる少女に、フリーレンは声をかけた。安心させるように、肩をぽんぽんと叩く。 「あ、そう、そうですよね……」 少女は、ぐい、と涙をぬぐうと、フリーレンたち三人を村の中に招いた。その後ろ、フェルンの魔法で運ばれている男性もふわふわと連れられていく。 ところどころに白い花が群れる村の道を進み、着いたのは一番奥。レーテたちの住まう小さな家だった。 フリーレンたちが、村の入口で最初に少女に出会ったのは、数時間前のことだった。 彼女は、外に駆け出そうとしているところを、村の男性たちに引き止められていたのだ。 何か立て込んでいるらしい、どうしようか、と顔を見合わせていたところを少女に見つかった。 「あの、旅の方、ですか……っ」 一緒にいた村人たちが、何を始めるんだと慌てるのを気に留めず、走り寄ると、少女はフリーレンのケープをつかんだ。 「この杖……魔法使いさんですか?」 「レーテ、待ちなさいっ」 「お願い、助けてください……っ」 泣き出しそうなのをこらえた少女に、懇願される。 フリーレンはちらりとフェルンの顔を確認し、それ
からこくり、頷いた。 少女の目が、大きく見開かれた。 「お兄、お兄ちゃんが魔物にさらわれて」 ひゅん レーテの言葉が終わるよりも早く、フリーレンが高く飛び上がった。 「あっちだ」 魔力を探知して指をさすと、その方向にフェルンとシュタルクが駆け出す。フリーレンも空から二人を追った。 「お兄ちゃんをお願い――!」 レーテの悲痛な叫びが、三人の背を追いかけてきた。 少女の兄らしき人物は、すぐに見つかった。血まみれになりながらも魔物からの攻撃を何とかしのいでいた。フリーレンたちが駆けつけて魔物を倒すと、力尽きたように気を失ったのを、魔法で村まで連れて帰ってきたのである。 レーテは家につくと、待ち構えていた僧侶に兄をたくした。それから、村長らしき男性と一緒に、フリーレンたちをリビングに案内してくれた。 いつの間にか、レーテの脇に、さらに幼い女の子が立っていた。妹だろうか。家でレーテたちの帰りを待っていたのだろう。 レーテは妹らしき彼女の手を固く握りしめている。 その手が、ずっと震えていた。 「おに――兄を、ありがとうございました」 改めて、深々と頭を下げる。 聞くと、村の外にある農場で作業中、魔物に襲われたものらしい。彼は妹のレーテ――マルガレーテをかばうと、剣を振り回して魔物を引き付け、森の奥へと走りこんでいったというのだ。 それほど大きくもない村だ、魔物に蹂躙されるとひとたまりもなかっただろう。彼は、妹と村人たちのた
めに自分の命を投げ出そうとしたのだった。 「兄がいなければ、二人きりになるところでした……本当に、ありがとう、ございました」 フェルンが、マルガレーテの震える手に、そっと自分の手を重ねた。 「勇敢なお兄様なのですね……」 暖かなフェルンの声に、マルガレーテの瞳からぼろぼろと涙が溢れだす。 「大好きな、おにいちゃん、です……」 「……助けられて、よかった」 シュタルクが、優しいやさしい目をして頷いた。少しその声が潤んでいるのは、気のせいではないだろう。 マルガレーテの隣に座る村長も、深く礼をした。それから、ところで、と口を開く。 「魔法使いさまは……勇者様一行の魔法使い、フリーレン様、ではありませんか」 ぴくん、と長い耳が動いた。 「そうだよ」 「フリーレン様をご存じなのですか?」 「父が幼い頃、同じように村の近くで魔物を倒してくださったことがあったでしょう。その時、父が皆さんの絵を描いたのを覚えてますか?」 「もちろん」 「絵姿ですか、珍しいですね」 「その頃、魔物のせいで村はひどく貧しかったのです。お礼に銅像を建てることも、何かを差し上げることもできなかったのですが、ヒンメル様が、父に四人の絵を描いてもらいたいとおっしゃって。 絵姿なんて立派なものじゃありません、幼子の落書きに過ぎないのですが、ヒンメル様はイケメンに描けてると喜んでくださったとお聞きしています」 「それを、見たことがあるの?」 「ありますとも。集会所の壁に飾らせていただいて、日々拝ませていただいております。フリーレン様が、
絵のそばに添えるように咲かせてくださった白い花も、同じく大切にさせていただいております。私たちの村は、ヒンメル様やフリーレン様が守ってくださったことを片時も忘れたことなどございません」 そういうと、村長は自分の目をこすった。 「アマナも見たことある―、あれがこのお姉ちゃんなの?」 「フリーレン様が、伝説の魔法使い……本当に?」 女の子が、瞳をキラキラさせて手を合わせた。マルガレーテは驚きで目を見開いている。 「時を超えて、フリーレン様のご尊顔を拝むことができるなんて、まこと、ありがたい気持ちでいっぱいでございます」 村長は、どうやら感涙しているらしい。 フェルンがフリーレンの横顔を盗み見ると、彼女は軽く肩をすくめて見せた。 「そしてまた、村をお救いいただけたなんて、もう、どれだけ感謝すればいいのかわかりませぬ……!」 村長は、その勢いで土下座までしかねなかった。 フリーレンが両手を挙げ、膝をつく彼をたたせる。 「感謝をありがとう。もらっておくね」 「もちろん感謝だけではございませぬ、今度こそ、しっかりとした報酬もおくらせていただきたく」 「それは、いらない」 え、とフェルンが口を開いた。 誰かを助けたら、報酬をもらう。「必ず報酬をもらうのは、貸し借りなしにしたいから」とヒンメルが言っていたから必ずもらうようにしている、フリーレンは以前そう話していたはずだ。 フェルンの声が聞こえたのだろう、フリーレンはフェルンに笑顔を送ってから、リビングの中をぐるりと見まわした。 窓際に、白い花が咲いていた。
29.09.2025 22:08 — 👍 0 🔁 0 💬 1 📌 0
その夜は、天候が悪くなることが予想されるとのことで、領主館の客室に招かれた。部屋の外から鍵がかかる部屋を客室と呼んでいいのなら。 フリーレンが、よいせ、とソファに腰を下ろすと、ことりはやっと彼女の肩から離れ、テーブルの上に移った。 「死んでしまうの、お前」 るりり、とことりが鳴いた。黒くまんまるな目で、フリーレンを見つめ返す。 知らないわけではなかった。この青い鳥の寿命は、三年ほど。フリーレンにとっては一瞬にも満たない短さだ。そして、最も濃い青になるのは三年目。寿命が尽きる直前が、一番に美しい。 「鳥籠に入れて守られたいかい、お前」 フリーレンが、もう一つ、別の質問を口にした。 ことりは小さく鳴くと、首を傾げてみせた。それから、ちょんちょん、とフリーレンの指に近づくと、軽く頭を擦り寄らせてきた。人さし指を伸ばしてやると、ちょん、とその上に乗ってくれた。 あの領主の悪名は聞いたことがある。美しいものが大好きなコレクターで、狙ったものを手に入れるためなら金に糸目をつけない、どころか、手段をも問わないと。フリーレンが断ったとしても、どんな手を使ってでもことりを手に入れたい、そんな目をしていた。 はく製にする、だって。 フリーレンは、空につながる窓を開けようとした。けれど、窓には固く封印がほどこされており、彼女とことりを閉じ込めていた。 むぅ、と口を尖らせたが、これくらいは想定内だ。フリーレンの魔法で封印を破壊することなど造作もないが、それでもめごとになるのは面倒くさい。改めて部屋を見渡すと、家具の影に、目立たないように換気用の小窓があるのを見つける。
親指のサイズほどの小窓だ。ことりの身体ですら通り抜けられそうにない。だからこそ、見逃されていたのだろう、封印されている様子がなかった。 問題ない。フリーレンが口の中で小さく呪文を唱えると、ことりの身体がしゅるしゅると縮んだ。およそ元の半分ほどに。目くらましとして、光が通過したように見える魔法も重ねて。 ことりを手に乗せて、頬を寄せた。小さな小さなぬくもりを感じる。 「お逃げ」 きょるる。ことりが鳴いた。指から飛び立たない。 「私が心配? 問題ない。魔法使いだからね。小さくなる魔法は三〇分ほどで解けるから、早く行くんだ」 諭すように言っても、ことりはまだ行きたがらなかった。すりすりと身を寄せてくる。 フリーレンは、物を空中に浮かせる魔法でことりを包んだ。グッグッと非難するように鳴かれるが、無理やり小窓から空へ追い出す。ことりの姿を目で追えば心配が溢れだしそうになるから、手元に視線を落としたまま。 領主館からかなり離れたところまで魔法で追いやって、解放した。 ことりの姿がなくなったことに、領主はすぐ気がついたようだった。フリーレンを閉じ込めた部屋を訪れ、ぐるりと見回してから、忌々しげに舌打ちをしてみせる。 急げと部下に捜索を命じた後、フリーレンを見下ろしてきた。 「外は今夜から冷え込むようですよ、旅の方」 フリーレンは、領主を無視した。 「あの青い小鳥は、冬は暖かい地域に渡って越冬する種族です。もともと寒い季節にこのあたりにいるはずのない鳥だ、凍え死んでも知りませんぞ」
ちらり。今度はの言葉には、少し視線を動かした。領主はそれに満足した様子で、鼻を鳴らした。 「あなたには一週間ほど滞在していただく。小鳥が帰ってくるかもしれませんし。小鳥のことが心配なら、あなたも小鳥の行方を捜すのですな」 領主の言葉通り、その夜から吹雪くようになった。ことりのことが心配にはなったけれど、大丈夫だろう。頭のいい子だ。きっと暖かい地方に逃げてくれるに違いない。 一週間、閉じ込められるくらいなんて何の苦でもない。幸い、食事も出るし寝台もある。吹雪いている外に追い出されるより全然良い。持ち歩いていた魔導書を繰り返し読み、新しい魔法の検証をして過ごした。 そんな、数日目の晩。 夜半に、窓の外からコツ……と音がした。風で石でも飛んできたのだろうと思ったけれど、しばらくしてまたコツ……と小さく鳴る。 まさかとカーテンを開けると、窓の手すりにことりがとまっていた。美しかった風切りばねがばさばさになり、窓ガラスにもたれかかっている。 パリン。 ことりの側のガラスが、大きく割れた。フリーレンの手がことりを抱き上げ、あたたかな室内に連れて入る。 「どうして、お前」 ククク……とささやくように、ことりが鳴く。自分の身体を支える力がないのか、柔らかな腹部が手のひらを暖めていた。そのくちばしから、ぱさり、花が彼女の手に落ちた。 青い、花。 この地域では何百年も前に見られなくなった、はずの、花だ。フリーレンとて、自分が魔法で作る以外で、この花を見たのは、今までで一度だけ。
「ことり……?」 すりすり、と甘えるように、ことりはフリーレンの指に頭を寄せて。 まぶたを閉じて。 動きがとまった。 ――ひぅ。フリーレンが息をのんだ。 「お前……まさか」 フリーレンは、顔のすぐそばに、手を持ってきた。きれいな綺麗な青色の翼は、けれど、もう動かない。はばたかない。 そっと、そっと、両方の手でことりを包んだ。 音もなく、客室の壁が外側に向かって爆発した。土煙の中を貫いて、まっすぐに、フリーレンの姿が浮かび上がる。 領主館の人々が騒いでいるが、フリーレンの耳にはもう何も届かない。 高みへ、はるかはるか高みへと。まるで一筋の流れ星が空へ帰るかのように。 フリーレンの気持ちも、ことりの気持ちも飲み込んで、ただ夜の空だけが広がっていた。
#フリーレンSS
青いことりとフリーレンのお話です
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「鳥になった少年の唄」、「絆」と記載されています。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Image by ぱんじ / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 君は青い鳥。
フリーレンは、ベンチに座ってもふもふとパンを食べていた。焼きたてコーナーに並んでいたパンは、店主のお薦めだけあって、噛めば噛むほど旨味が出てくる。ぱり、と薄くて硬めの皮の中はふわふわもっちりとしていて、ほんのりと甘かった。 魔導書を読みながらもどんどん食べ進んで、ふと気がつくと、手元がパン粉だらけになっていた。 これはいけない。 フリーレンは、読みかけのページにこぼれたパン粉をぱっぱと払うと、栞をはさんで本を閉じた。 それから改めて、むし、とパンを噛みちぎる。口の中いっぱいにパンをほおばると、むふーと笑って顔を上げた。視線の先に広がるのは空だ。今はおとぎ話になってしまった人を思い出す、優しくて穏やかな空色。 こうやっていると、今でも一緒においしいものを食べている気がしてくる。命を懸けた冒険の合間、彼が大切にしていたひととき。 彼女が腰かけるベンチを包むように、風がそよぐ。 ふと、すぐかたわらから生き物の声が聞こえた。視線を下すと、ベンチの周りに散らばったパンくずを小さな鳥がついばんでいる。涼やかな空色と脇の黄色い色合いが鮮やかに目を引いた。 「おいしい?」 ちょうど彼と食事をしている気分だったからだろう、ぴこぴこと動く羽が彼を思い出させた。 フリーレンがかけた声に、ことりがくり、と瞳を上げた。黒くて真ん丸な目が愛らしい。 「そうか、おいしいか」 フリーレンは、太ももの脇に、パンくずをぱらぱらと散らしてみた。ことりは羽を広げると、ちょんちょん、とベンチの上に登ってくる。フリーレンが動いても逃げる様子も見せず、せっせとパンをついばむ姿を見ていると、知らないうちに笑みが浮かんできた。
その日の昼食は、結局、最後までことりと一緒に過ごした。 フリーレンが再度魔導書を開いてからも、ことりは飛び去る様子もなく、ベンチの周りをとんとんと飛び回ったり地面をつついたりして遊んでいた。 魔導書を読み終わり、さて、と立ち上がると、顔を上げてフリーレンを見上げてくる。 「じゃあね」 そのまま足り去りがたい気持ちになって、声をかけると、ことりがばっと飛び立った。くるり、空を小さく回ってから、フリーレンの肩にとまる。 「ん? もうパンないよ」 目を丸くしたフリーレンに、ちるる、ことりが小さく鳴き返した。 「一緒に来る? いいよ」 そこから、一人と一羽の旅が始まった。 フリーレンが気まぐれに歩む道を、前を飛び、後を飛び、ことりがいつまでもついてくる。 大魔法使いや勇者たちの墓参りに行った。降り積もった木の葉を一緒に除き、花冠をささげた。ことりが透き通った声で歌ってくれた。 勇者像の確認も回った。街の真ん中で崇敬を集めている像もあれば、滅ぼされた村の奥、草生した姿で打ち捨てられている像もあった。勇者増があっても、人類が今あるのは過去に彼らがいたからであること忘れた街もあった。すべての像の足元に花畑を作って回った。 時に魔導書を求めて辺境まで行った。暑い日は小川で涼を取った。水浴びをする時だけことりは姿を消したけれど、すぐに戻ってきた。風の強いときや寒いときはコートの襟もとにことりが忍び込んできた。小さな小さな、けれど確実なぬくもりを持つ命がこそばゆかった。
幸せを呼ぶ青い鳥を連れているのね、うらやましいわ。そう言ってくれる人がいた。だけどそういうんじゃないんだよ。 空色のことりの歌声に包まれてのんびりと夏を超え、秋が過ぎた。 季節が巡るごとに、ことりがゆるやかに色を増していった。柔らかな空色だった羽に夜が混ざり、深みのある瑠璃色へ。 冬が近づいてきていた。 どんよりと雲が降りたようにけぶる町を訪れた時、フリーレンとことりは突然領主館に呼び出された。 領主の部屋は、センスの良い青いインテリアでまとめられていた。大きく作られた窓の上部、蒼で彩られたステンドグラスが目をひいた。これらの青たちは、領主のコレクターとのことだった。 挨拶も早々に、領主がのたまった。 「あなたの青い小鳥を私にくれませんか?」 曰く、その子はとても美しい青をしていらっしゃる。我が家で飼って、目の保養にしたい。鳴き声も美しい。 その品種の鳥が、そんなにも美しく青くなってからは、もう長くは生きられません。もって二、三カ月……その間、寒い場所を旅するのは哀れです。我が家でなら暖かく過ごさせることができます。大きな鳥籠を作らせましょう。ふかふかのクッションも用意しましょう。死んだあとにははく製にして、いつまでも美しい姿でいてもらいたいと考えています。 いかがでしょうか、と。 「この子は、私のものじゃないよ」 フリーレンは、頭を横に振った。領主の言い方には、正直、胸がもやもやした。 「この子が着いてきてくれるだけだ。共に暮らしたいなら、貴方がこの子に頼むといい」 クケ、クケ、フリーレンの肩に乗った小鳥が鳴いた。
#フリーレンSS
青いことりとフリーレンのお話です
見たくないですよね……
子どもたちが怒りのパワーで未来をひっくり返してほしいのですが、無理なのかなぁ…( ;∀;)
ザインという予測外分子によって、首切られても生き返る、とかないですか……
17.09.2025 14:43 — 👍 0 🔁 0 💬 1 📌 0夢を他の人と共有できるなら
実はアンシレーシエラで列席してましたよね……!
まいた世界のゼンゼさん
#フリーレンFA #ゼンゼ #Sense #frierenfanart
艦これ界隈だとまだまだ多い印象ですが、うちのまわりだけなんかな…あと、お誕生日とかにもお祝いイラストやりとりしてる
こういう文化が好きなのでつい乗っちゃう(●´ω`●)
おはごザインます
#1日1ザイン
そろそろ秋っぽい絵を描きたいなと思いつつも、自分が感じる季節がまだ夏なので躊躇しちゃいます…
爽やかな風を感じる季節が待ち遠しいです☺️
明日…というか今夜は本誌で葬フリですね✨
普段は22時には寝ちゃうので仮眠とって備えます!
#フリーレンFA #ザイン
ハイターはダメな日だぞ。 | 猫仙人 kanyata #pixiv
#ヒンフリ
#軟禁もどき
確定です。
www.pixiv.net/novel/show.p...
きれいな塗り……!
おめでとうございます
うきゃぁぁ💜
可愛すぎますっっ
うさフェルン🦋
来週はケモ耳POPUPいくぞー!💕
楽しみで仕方ない!!
#FrierenBeyondJourneysEnd
#fern
流れてこない……(笑)(笑)(笑)
04.09.2025 01:37 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0本日発売サンデーに最新話掲載です
02.09.2025 15:11 — 👍 545 🔁 94 💬 0 📌 1に行動する以上は守ってください」 「そ、そうだよ、フリーレン。朝はちゃんと起きた方が良い」 「えー」 しょぼ、という目でフリーレンがぼやいた。普段はピン、と立っている耳が、力なく垂れていく。 「やだなぁ……」 「フリーレン!」 ハイターが、更に厳しい声をあげると。 フリーレンは、すっと立ち上がった。くるんと踵を返し、廊下へ向けて歩いていく。 「ふ、フリーレン、どこへ」 「森に帰る」 慌てて呼び止めたヒンメルに、平坦な声で答えて、食堂を出て行ってしまう。 「待つんだフリーレン! アイゼンすまない、ハイターを頼む」 髪の毛の周りに雷を宿したようなハイターをアイゼンに押し付けて、ヒンメルはフリーレンの後を追って駆けだした。 彼女が部屋に入る前に、何とか追いついたヒンメルは、フリーレンの前に回り込んで部屋へのルートを遮断した。 「何、ヒンメル」 「待つんだ」 「帰るよ」 冷たい視線をヒンメルに送り、フリーレンは無表情に答える。 「私、やっぱり無理」 「そんなこと言うんじゃない」 「集団行動は無理だ。挨拶と礼儀だっけ? できる魔法使いを、別で探すんだね」 つん、と顎をあげて言い捨てると、ヒンメルのわき
をすり抜けて部屋に向かおうとした。 そのフリーレンの肩を、ヒンメルは捕まえた。 「いいのかい、それで。僕たちと会えなくなるんだよ」 「勝手にしなよ」 「僕たちの旅には、君が必要なのに」 「他を探して」 「……森に帰ったら、もう、プリンは食べられないよ」 ヒンメルの手を振り払おうとしたフリーレンが、ぴた、と固まった。 「フリーレンが町に来てから食べたものは、森の中では食べられない」 「それが、なんだって」 「……それでも、いいの?」 「――」 フリーレンの下唇が、ぎゅ、と突き出された。 両手がギュッと握りしめられ、ピンと立った耳がぶるぶると震える。その耳が、ちょっとずつ、ちょっとずつ下がってきて。 「でも……私、朝起きられない……」 小さく頼りない呟きになった。 しゅん、と両肩を落としたフリーレンに、ヒンメルはやっと一息ついた。目線より少し低いところにある頭を、ぽんぽんと叩く。 「今まで、一人で暮らしてたからね、仕方ないよ」 「撫でないでよ。前、家族や先生と暮らしてた時も、駄目だったんだよ」 「ちょっとずつ、できていけばいいさ。僕たちも協力するから。僕たちと一緒にいることに、少しずつ慣れていけばいい」 「……ちゃんと起きたら、プリン、食べていいかな……」
しょぼん、とした顔から、少し恥ずかし気な色をにじませて、フリーレンがそういうので。 ヒンメルの頬に、知らない内に微笑みが浮かんでいた。 なんだか、かわいい。小動物のようだ。 「たまにはね」 「…………考えておく」 フリーレンは、ふらり、と動いて。 風のように、部屋に入って。 30秒ほど経ってから、いつもの顔に戻って出てきた。 「お昼食べよう。行くよ、ヒンメル」 廊下に立つ彼の前をさっさと通り過ぎると、食堂へ向かう。 ヒンメルは、胸の中にポカポカしたものを暖めながら、不器用な少女のあとを追いかけた。 今後10年間ずっとフリーレンは朝弱いままで、毎朝のようにハイターは雷を落とすし、ヒンメルが「協力する」と言った手前何度もフリーレンを起こしに行くはめになったのは、また別のお話。
25.08.2025 10:49 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「プリンと朝寝坊」、「絆」と記載されています。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Antique public domain images / フォント:しっぽりアンチック 以下は本文の内容です。 「これは……何?」 ふるふるとふるえる黄色を目の前にして、フリーレンは目を丸くした。 「メルクーアプリンだよ」 「ぷりん?」 「知りませんか? 卵を加工したデザートです」 「メルク―アプリンが誕生したのは、最近のことだからな」 「甘いにおいがする……」 勇者のパーティが4人になって、初めて町を訪れた日。 一行は、安くてうまいという評判のお店をリサーチして、晩御飯にきていた。 数百年ぶりに入った食堂は、知らないメニューばかりだ、とぼやいたフリーレンに、ヒンメルが面白がってあれもこれもと注文をしてしまった。 おかげでテーブルの上はいっぱいで。 ヒンメルが、少しずつでも味見してみるといいよ、残りは僕たちが食べるからね、と盛り付けてくれたフリーレン専用皿もいっぱいで。 「こんなに食べられないと思うけど」 「試してごらん」 「お酒も美味しいですよ、軽いの飲んでみませんか」 「人間の飯はうまい」 男性陣が口々に言ってくるので、仕方なく口に入れた。 ぱくん。 ジューシーな脂の甘味が、口の中に広がった。 もぐ。 丁寧に火を通された野菜は、仄かに甘くなっていた。 ごくん。 塩コショウ以外に不思議と深みのあるスープが、程よい余韻を残して。
気がつけば、お皿が空になっていた。 「美味しかっただろ」 自分のお店でもないのに、ヒンメルが得意げに言う。 「たくさん食べた」 フリーレンは目を丸くし、スプーンの先を自分の唇に当ててつぶやいた。 「すごい勢いでしたね」 「もっと食べられる気がする」 フリーレンが、お腹を抑えた。 いい感じに丸まってきている。 ヒンメルとハイターがうれしそうに吹き出した。 「食べさせておいてなんだけど、それくらいにしておくんだ、フリーレン」 「まだ、デザートも残っていますからね」 そう言って、ハイターが差し出してきたのが、メルクーアプリンだった。 つん、とスプーンでつつくと、ふるんとふるえる。 こんなにぷるぷるしている食べ物は、1000年前も500年前も見たことがない。かけられているベリーソースがとろんと揺れた。 吸い込まれるようにスプーンが入っていく。掬い取ると、とぉるん、とふるえて滑らかに千切れた。天井の照明を反映しててらてらと光っている。 意を決して、口の中に入れた。 濃厚な甘みが口の中に広がった。 「――!!」 フリーレンの表情を観察する三人の前で。 翡翠色の目が、大きく見開かれた。 銀色の髪の毛の先がふるふると揺れて。 ほのかに色づいた空気が、ふわ、と髪をふくらませた。まるで薄紅色の花びらを紡ぐ魔法のように。
言葉より雄弁なその瞳に、ヒンメルが満足そうに笑みを見せた。 「気にいったみたいだね」 フリーレンは、ちらりとヒンメルを見上げたけれど、すぐに顔をプリンに戻した。おそるおそる、確かめるようにもう一口。 その後は止まらなくて、瞬く間にプリンカップが空っぽになった。 それでも余韻を味わうように、スプーンを綺麗に舐めて。 「……おいしい、って」 ため息のように、口を開いた。 「こういうことを、言うんだね……」 幸せそうに、目を細めて。 「……もう一つ、食べてもいい?」 今度は、アイゼンまでも声をあげて笑ってしまった。 フリーレンは集団行動が苦手である。 苦手、というか、ほとんどやる気がない。 何百年も一人で過ごしていて、他人に自分の行動をそろえるとか、例えば早起きなんて習慣が身についているはずもない。 フランメと一緒に暮らしていたころは、朝に出発する用事がある日には早く起きるように言われはしたものの、基本的に二人とも宵っ張りの朝寝坊。気がつけばそろってお昼まで寝ていた、というのもざらであった。 子どもの頃から集団生活をしていたハイターと、合わないことこの上ない。 野営の時はまだ雑魚寝だから叩き起こしやすかったけれど、町に入ってからのこの数日、問題が大きくなってきた。 今日も時計とにらめっこするハイターの顔がどんど
ん険しくなっていって、その後ろでヒンメルとアイゼンがひそひそと「怖いね」「今日もやばいな」と話している。 それでもさすがに、十代(見た目は)の女の子の寝室に入って起こすことはできなくて。 宿の食堂で顔を突き合わせて、じりじりとイライラとエルフが出てくるのを待っている。 ひょこん、とエルフが廊下から顔を出して。 てくてくと歩いてきて、三人と同じテーブルについた。 「おなか、すいたね。皆ご飯食べた?」 ハイターの顔に、悪い奴のように影がうまれた。 「……その前に、言う事が、ありませんか」 「何」 フリーレンは、まだ寝ぼけ眼をごしごしこすりながら、聞き返す。 ハイターの眉が、真ん中でくっつきそうなくらいしかめられた。 「起きてきたら、『おはよう』、寝坊したら、『待たせてごめんなさい』でしょう」 怒鳴るとまではいかないが、空気にピリリと静電気を発生させそうな声が、威圧を持って放たれる。 「何それ」 フリーレンの目が、細められた。 「挨拶と礼儀、です」 「めんどう」 「~~~!」 怒りのあまり、ハイターが立ち上がった。 慌てたヒンメルになだめられて、座り直す。 「集団行動で大切な事です。あなたも、私たちと一緒
プリン🍮の日なので、再掲です✨
#フリーレンSS
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「あなたの声のように」、「絆」と記載されています。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Photo by shell_ghostcage on pixabay / フォント:しっぽりアンチック 以下は本文の内容です。 最後の数か月は、二人きりで過ごした。 寝台から起き上がることがほとんどなくなった彼女のそばにいたり、薬草を集めたり、魔法の練習をしたり。時折思い出を語り、時折魔法の話をした。 彼女は枕元に分厚い書を置き、毎日少しずつ魔法を書き留めていた。 いつかお前の役に立つかもしれないからね。 お前が一生飽きないくらいの魔法を残してやろう。 そう笑って、少しずつ。 彼女はいつも笑っていた。 そしてある朝、目を覚まさなくなった。 身体は冷たくて。 鼓動は感じられなくて。 目は開かなくて。 笑わなくて。 ああ、もう彼女の笑顔は見えないんだな。 ああ、もう彼女の声は私を呼ばないんだな。 最初はそれだけのことだと思った。 しばらく、彼女の遺体と生活をしていた。 けれど、遺体というものは想像していたよりも変質しやすくて、ほろほろと崩れ出して。 それに気がついてから、近くの丘に穴を掘った。 人の身体より一回り大きく、深い穴の中に、彼女の身体を横たえた。自分の遺体は魔物に狙われるかもしれないから、と彼女が言っていたから、うんと深い穴にした。 二度と目を覚まさない彼女の上に、一掴みずつ土を落とし、土をならし。 もう、そこに穴があった事なんてわからなくなった後に。 自分だけの目印として、白い花を一輪咲かせた。
〇 彼女が遺したのは、幾冊かの書物と、彼女の師匠に対する遺言状だけ。 書物は、帝国の宮廷魔法使いたちが引き取りに来た。それが彼女の希望だった。 そのあと、遺言状を、ゼーリエに届けた。 彼女を育てたゼーリエなら、教えてくれるかもしれないと思っていた。 彼女を失った自分は、どういう気持ちを感じているのか。 胸にある空虚の名前は何なのか。 どういう名前をつければいいのか。 「悲しくないの?」 そう聞くと。 「気まぐれに育てた弟子だ」 ゼーリエは、変わらない薄笑いを浮かべて答えた。 遺言状を散り散りにした後、彼女の思い出をゼーリエは語ってくれたけれど。 自分の中にある気持ちの名前は、わからなかった。 ゼーリエの気持ちも、わからなかった。 〇 ゼーリエを訪れた後、彼女の墓に戻った。 白い花は、旅の間に枯れてしまったから、もう一度花を咲かせた。 一輪。 しばらくしてから、気まぐれにもう一輪。 さらに時がたち、彼女の願いをやっと思い出して、花畑になるくらいたくさん。 花が増えると、彼女の笑顔が聞こえるような気がし
て、花を増やした。 そのうちなぜか、自分が咲かせるよりも多くの花が咲くことがあった。 先に咲かせた花から種が零れたのかと思ったけれど、すぐに違うとわかった。その花が咲かない季節だったから。 咲かないはずの花が。 咲くとしたら。 それは、魔法だ。 自分の魔法でないなら。 それは。 気まぐれだ、と笑ったエルフの声が花と一緒に揺れている気がした。 〇 数百年後。幻影鬼と対峙した時に姿を見せたのは、彼女だった。両親ではなく、エルフの里の仲間でもなく。 彼女の懐かしい声で、笑顔で。 もちろん、だまされたりはしなかったけれど。 それでも。 彼女に対する自分の気持ちに、名前を付けることができそうな気がした。 さらに数百年後。 はじめて。 フリーレンは、人を見送り、泣いた。 亡くしてしまったこと。 もう二度と会えないこと。 彼女が消えたて、あたたかさを無くしてしまった時
のように、彼とももう会えないと知って、つらくて、泣いた。 やっと、気がついたのだ。 彼女を失って、自分は。 悲しかった。 ずっとずっと、悲しかった。 思い出すのをやめてしまうくらい、悲しかった。 ヒンメルの葬儀の後、フリーレンはまっすぐに、自分だけが知っている彼女の墓へ戻った。 もちろん、その肉体はとうに朽ち、大地に還っているけれど。 彼女が静かに、最期の時を自分と過ごし、そして眠りについた場所。 何百年も訪れることができなかったその場所に向かい、一人で泣いた。 〇 彼女が遺した幾百の魔法を集めながら。 フリーレンは。 静かに願っていることがある。 誰も倒さなくていい。 少しあたたかくて。 少しやさしくて。 少しきれいで。 そんな魔法だけが、この地上に満ちる日が来ればいいと思う。 それはまるでフランメが私を呼ぶ声のように。
一周忌なので。
再掲です。
今でもあの人の声を聞いている。