印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 画像情報:generated by 新書ページメーカー / Photo by Jeremy Thomas on Unsplash / フォント:源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 夜。それは、忍者にとってのゴールデンタイム。 「おや、めずらし。委員長達がこんな時間に部屋にいるなんて」 がらり、忍たま長屋の一室の障子を開いたのは、居てはならないはずの、女。 その部屋の住人―…食満留三郎と善法寺伊作は、驚いたように目を見開いていた。そんなの、気にもしていないというように、女は部屋へと足を踏み入れる。 「わ、また……」 「てめっ……!」 ガタっと音を立てて立ち上がったのは、食満だった。食満は、ドタドタと彼女の方へと近づくと、肩と、顎をつかんで上を向かせた。自身の方へ…… 「…………」 「…………」 しばし、女と食満は見つめ合っていた。が、すぐに食満が口を開く。 「無事か」 「愚問」 ニヤリと、女は笑った。 食満は、大きな溜め息をつくと、ようやっと女の顎と肩から手を離した。そして身体の向きを変えて、部屋の中へと戻ると、また同じ場所にドカリと座る。 それを見た女は、一つ笑むと開けた時とは反対に障
子を静かに閉め、スルリと中へと入った。そして、スッと食満と伊作のそばに座す。 「入る前は、声ぐらいかけろ」 「んふふ。二人なら、気づいてるなぁと、思いまして」 「相変わらずだなぁ」 苦笑いしながら言う伊作に、女はまたニコリと笑った。 「食満。委員会はどう?」 「あ? ああ。一昨日、壁が壊れたから補修した」 「文次郎? それとも、小平太?」 何も言わなくなって顔をしかめた食満に、女はクスリと笑いを漏らすと、前者かと、ポツリと呟いた。 「子供達は?」 そう言った女に、食満はさらに顔を険しくした。だが女は、何も気にした様子はなく、静かに言葉の返事を待っている。先に折れたのは、食満の方。 「はぁ……下級生達も、変わらない。お前がいないことを淋しがっている」 「そう」 女は、用具委員だ。くのたまにしては珍しく、一年の時から委員会に所属している。 そんな彼女は、下級生のことを何故か、『子供達』というのだ。 「明日の委員会には顔を出すよ」 「そうしてくれ」
そう言った食満に、彼女も、黙々と薬草を煮詰めながら二人の様子を窺っていた伊作も、薄く笑みを溢していた。 「それじゃあ、部屋に戻るとしよう」 静かに、音もなく立ち上がると、食満も伊作も手を止めて、彼女の方を見た。 「また明日。おやすみ」 「あ、そうだそうだ」 「うん?」 伊作に呼び止められ、彼女は障子にかけた手を止めて、ゆっくりと振り向いた。そんな彼女に、伊作はニッコリと笑いながら、口を開いた。 「実習、お疲れ様」 「ありがとう、伊作」 伊作に返された微笑み。 「食満も、ありがとう」 そう言って、彼女はまた音もなく、部屋から出て行ってしまった。 「……ありがとうだって、留」 「…………聞こえた」 無愛想に言った食満に、苦笑いを溢した伊作だった。 彼女はいつも、長期短期に関わらず、実習が終わればこの部屋を訪れる。実習のことを話すではなく、た
だ、自身がいない間の学園内の様子を尋ねる。 食満も伊作も、彼女に何も聞くことはない。 ただ、話してやる。 そして満足すれば、彼女は部屋へと帰っていく。 それが、常だ。 「でもさ、あんな確認の仕方は、ないと思うけどな」 「顎引っつかんでも、たじろぎもしないのは、あいつぐらいだろ」 「六年のくのたまなら、そんなものじゃないの?」 「他の奴には試したことないからわからん」 「もしやってたら、命はないかもね……」 「怖い事を言うのはやめろ」 無事な姿を見せて。 ただそれだけで満足だから。
こちらがひさびさすぎて
06.02.2025 13:40 — 👍 0 🔁 0 💬 0 📌 0