印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「FF14二次創作 」と記載されています。 以下は本文の内容です。 潮風とオイスター 海洋国家都市リムサ・ロミンサは断崖の上に広がる港町だ。中央の石畳の通りを進めば、潮風に混じって香辛料や魚介の匂いが鼻をくすぐる。リムサの商魂たくましい者たちが軒を連ねる国際商店街通りがある。 左右に並ぶ露店には、色鮮やかな帆布の屋根が張られ、陽射しを和らげながらも客引きの声を反響させている。船乗りたちが好む塩漬け肉や干し魚、香草に漬け込まれたラム酒の瓶、そして見慣れぬ異国の工芸品までもが雑多に並ぶ様子は、まるで港そのものを凝縮したかのよう。それだけではなく武具に宝飾品や細工道具、服飾素材といった品を扱う店も並び、目端の利く冒険者やクラフターたちが、真剣なまなざしで商品を品定めしている。 「ほらほらそこの兄ちゃん! 朝獲れの新鮮な魚だよ! 塩焼きにすりゃ、提督様だって唸るって!」 威勢のいい魚売りの声に、子どもたちの笑い声、そして時折聞こえる酔っぱらいたちの小競り合いまで――それらすべてが、リムサの〝生きている街〟としての息吹を刻んでいる 潮風が吹き抜ける西国際街商通り――喧騒が入り混じった通りの一角。冒険者は防具屋の店先に立っていた。 「客のフリして、市場の価格を調べてこい……か」 手元の調査書に目を落とし、小さく息を吐く。 「いらっしゃい、うちで取り扱う商品はナルディク&ヴィメリー社謹製のまっさらな新品ですよ!!」 朗らかなルガディンの店主が胸を張った。 「中古は扱ってませんから安心してくださいね!」 棚に並んだプレートアーマーに目を走らせる。鍛えられた鋼の輝き。値札もしっかり確認。
「へぇ……質がいいな。結構な値がついてるが、悪くない」 「ええそうとも、冒険者さん! うちの品なら命が三日は延びるって評判でさぁ!」 軽口を交わしつつ、調査書に一行を走らせる。 続いて足を運んだのは、にぎやかな声が響く小さな露店。 「お客ちゃん、いらっしゃい。キョキョルン、しょーばい、たのしいっちゃ!」 キキルン族の商人、キョキョルンが手を振りながら近づいてくる。 「キョキョルン、いっぱいさーびすっちゃ! 新鮮おさかな、やっすいやっすい!」 並べられた品を見渡すと、ラノシア産の魚、野菜、干し肉に香辛料。値は……そこそこしている。 「たのしそうで何よりだな。……おっこいつは」 「買う買う? 特別、きょーだけ大サービスっちゃ!」 露店に並んでいる木箱の中の一つ。潮の香りを含んだ貝がずらりと並んでいた。厚みのある殻の奥からは、わずかにぬめりを帯びた乳白色の身がのぞいている。 「じゃあ、これをくれ」 そう言ってロズリトオイスターをいくつか購入する。これでサンレモンでもあれば生でもいいし、焼いても旨いにちがいない。良い買い物ができたとほくほく顔で最後の店へと向かう。 訪れたのは無機質な雰囲気の道具屋。カウンターの奥にいたゼーヴォルフ族のルガディンがじろりと睨む。 「いらっしゃい、と……見かけない顔だね? あんた、まさか市場調査の覆面調査員じゃないだろうね?」 ギクリとしたが、涼しい顔で返す。 「まさか。たまたま通りかかっただけさ。なにせ、うわさの店って聞いてな」 「……やめてくれよ。うちはおかしな品物なんて扱っちゃいないよ」
疑いの眼差しを感じながらも、道具と値段はしっかり確認してそそくさと立ち去る。全ての調査が終わり。指示にあった場所――通りの外れに行くと一人のルガディンがひっそりと立っていた。彼はベーンシングと名乗った。 「おや、今回はあなたが調査してくれたのかい? どれどれ、市場価格調査書を見せてくれ!」 手渡した書類に目を通しながら、ベーンシングは頷く。 「ふむふむ……あなたの報告によると、今回の価格は波風がなさそうだな。海賊による略奪品が市場に流れ込むと、市場価格が急激に下がったりするからね。こうして日ごろから価格を調べてんのさ!」 「なるほどな。意外と、こういう仕事も侮れないってことだな」 微笑みつつ、ベーンシングから受け取った報酬袋を懐にしまいながら、良いことを思い付いた。仲良くなっておいて損はない。 「ところでこいつで一杯どうだい? さっき旨そうなロズリトオイスターを仕入れてね」 「ほぅ。そりゃあいいな」 ベーンシングが懐から取り出したのは、小さな革の酒瓶だった。海の男らしく、塩気の強そうなラベルが貼られている。 「ロズリト湾のラム酒さ。香草に漬けてあってな、冷やして飲むと、これがまた魚介に合うんだ」 「へぇ、それはちょうどいい」 笑って見せると、ベーンシングも口角を上げた。 「――あっちにあるベンチでどうだい? ここから海も見えるし、潮風が肴になるってもんだ」 市場の喧騒から少し離れた一角。石造りの古びたベンチに腰を下ろすと、目の前には、断崖の下に広がるリムサの港と、碧い海がきらめいていた。 ベーンシングは器用に酒瓶の栓を抜き、小さな木製
のコップを二つ取り出した。中にラム酒を注いで差し出してくる。 「乾杯、ってな」 「……調査員仕事に、乾杯」 二人のコップが軽く鳴った。潮風が香草の匂いを運び、舌にラムの甘さとスパイスの刺激が広がる。 「どうだ、悪くないだろう?」 「悪くない。……確かにこの牡蠣と相性抜群だな!」 口に運んだロズリトオイスターは、海の旨味をぎゅっと閉じ込めていた。酒の芳香が後を追って、味わい深い。 「市場ってのはな、モノとカネのやりとりだけじゃねぇ。〝街の生きざま〟が詰まってるんだ。だから俺たちは、こうして見張ってるのさ」 ベーンシングの言葉に、ふと騒がしい通りの景色を思い出した。売り子の声、子どもの笑い声、そして潮風――それらすべてが、リムサを形作っている。 「悪くないな……この街も、この仕事も」 「だろ?」 どこか満足げなベーンシングの横顔を見ながら、静かにもう一口、ラム酒を喉に流し込んだ。 今日も海を渡って誰かがやってくる。リムサ・ロミンサ――それは、世界と世界をつなぐ港であり、冒険のはじまりの地でもある。 (終)
エオルゼアの食にまつわるエピソード@海都編その1
潮香る国際商店街通りクエストより
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