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さくらの

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成人・腐向けの字書き 宝石商(リチャ正)・RKRN(土井きり/天きり)・mirm(シチカル・アズイル)・TGCF(花怜) ジャンルは自由気まま https://pixiv.net/users/13217107

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印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「傾国の子」と記載されています。
以下は本文の内容です。

 
【傾国の子】

 五年生の夏休みにその特別実習は行われる。
 対象者は忍術学園卒業後に忍びの道を志す一部の生徒。野外実習や投薬訓練と異なり、家業を継ぐ者や忍び以外の職に就く生徒には特別実習が行われたことすら知らされない。裏々山にある生活拠点となる見張り小屋と訓練場で忍者になる生徒だけに行われる『殺し』の授業である。
 特別実習の日程は十日ほど。初日の午前中は座学、昼食を摂ってすぐに一人目の特別実習に移る。この授業に宛がわれるのは全て死罪の確定した罪人だと、きり丸は座学の終わり際に説明を受けていた。
 最初の実習は酒と博打の金欲しさに老夫婦を殺して長屋に火を付けた中年の男。地下訓練施設の牢に男は座らされていた。手足を縛られ、目を隠され、猿轡で声を封じられ、薬で意識は朦朧としている。喰われると知って逃げ回る猪の方がよほど死に対する危機感があるだろう。
 座学を思い出しながら、きり丸は勢い良く太刀を振り下ろした。薄暗く冷たい牢の中で人の形をしているものの首を落とす。真っ赤な血飛沫が薄暗い地下牢の壁に飛び散った。
 意外と呆気ないもんだな。……これで俺も人殺しだ。
 ゆっくりと血振りして太刀を鞘へ納める。心の臓の音は多少早いが手足に震えはない。
「お疲れ様、きり丸。私の声が聞こえるか?」
「はい。わりと僕、普通です」
「では今の感覚を忘れないうちに二人目だ」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「傾国の子」と記載されています。 以下は本文の内容です。   【傾国の子】  五年生の夏休みにその特別実習は行われる。  対象者は忍術学園卒業後に忍びの道を志す一部の生徒。野外実習や投薬訓練と異なり、家業を継ぐ者や忍び以外の職に就く生徒には特別実習が行われたことすら知らされない。裏々山にある生活拠点となる見張り小屋と訓練場で忍者になる生徒だけに行われる『殺し』の授業である。  特別実習の日程は十日ほど。初日の午前中は座学、昼食を摂ってすぐに一人目の特別実習に移る。この授業に宛がわれるのは全て死罪の確定した罪人だと、きり丸は座学の終わり際に説明を受けていた。  最初の実習は酒と博打の金欲しさに老夫婦を殺して長屋に火を付けた中年の男。地下訓練施設の牢に男は座らされていた。手足を縛られ、目を隠され、猿轡で声を封じられ、薬で意識は朦朧としている。喰われると知って逃げ回る猪の方がよほど死に対する危機感があるだろう。  座学を思い出しながら、きり丸は勢い良く太刀を振り下ろした。薄暗く冷たい牢の中で人の形をしているものの首を落とす。真っ赤な血飛沫が薄暗い地下牢の壁に飛び散った。  意外と呆気ないもんだな。……これで俺も人殺しだ。  ゆっくりと血振りして太刀を鞘へ納める。心の臓の音は多少早いが手足に震えはない。 「お疲れ様、きり丸。私の声が聞こえるか?」 「はい。わりと僕、普通です」 「では今の感覚を忘れないうちに二人目だ」

 口元の返り血を拭ってきり丸は穏やかに笑む半助の隣に並んだ。半助の声は日頃から聞き慣れた教師らしい声音と変わらない。これは授業なのだから当然だと言い聞かせてきり丸は半助の後に続く。
 二回目の実習は娘ばかりを殺した若い男。手足は縛られているが目隠しと猿轡はなく、太刀が降り上げられてもきり丸を睨みつけ、俺は悪くないと自分勝手な主張を繰り返した。
 三回目の実習では三人の罪人が刃物を持つ。男が二人と女が一人。生き残れば無罪放免の上に遊んで暮らせる金が支払われるため、元盗賊団の三人は死に物狂いできり丸を殺しにかかった。向けられた殺意に怯むことなく、きり丸は得意武器の縄鏢で三人を淡々と殺した。五人を殺して、一日目の特別実習は終了する。
 
 陽が落ちる前にきり丸は湯を浴びて身体を清め、食堂のおばちゃんの特性弁当で夕飯を済ませた。寝支度を済ませてから、持ち込みの許可をもらった内職をする。半助と向かい合って黙々と造花を作る夏休みの夜のいつもの風景に、きり丸はここが特別実習のための見張り小屋だということを忘れそうになる。
 チクリときり丸の指先に痛みが走った。鋏の先で指先の皮膚が切れて紅い血が滲むと、昼間の訓練が頭をよぎる。
 刀を振り下ろす際は考えないようにしていた。
 死を目前にして人は何を想うのか。
 死を受け入れたとき人は何を想うのか。
 血を止めるためにきり丸は指を舐めた。体液の温かさに生を感じるのは今日の実習のせいだろう。

 口元の返り血を拭ってきり丸は穏やかに笑む半助の隣に並んだ。半助の声は日頃から聞き慣れた教師らしい声音と変わらない。これは授業なのだから当然だと言い聞かせてきり丸は半助の後に続く。  二回目の実習は娘ばかりを殺した若い男。手足は縛られているが目隠しと猿轡はなく、太刀が降り上げられてもきり丸を睨みつけ、俺は悪くないと自分勝手な主張を繰り返した。  三回目の実習では三人の罪人が刃物を持つ。男が二人と女が一人。生き残れば無罪放免の上に遊んで暮らせる金が支払われるため、元盗賊団の三人は死に物狂いできり丸を殺しにかかった。向けられた殺意に怯むことなく、きり丸は得意武器の縄鏢で三人を淡々と殺した。五人を殺して、一日目の特別実習は終了する。    陽が落ちる前にきり丸は湯を浴びて身体を清め、食堂のおばちゃんの特性弁当で夕飯を済ませた。寝支度を済ませてから、持ち込みの許可をもらった内職をする。半助と向かい合って黙々と造花を作る夏休みの夜のいつもの風景に、きり丸はここが特別実習のための見張り小屋だということを忘れそうになる。  チクリときり丸の指先に痛みが走った。鋏の先で指先の皮膚が切れて紅い血が滲むと、昼間の訓練が頭をよぎる。  刀を振り下ろす際は考えないようにしていた。  死を目前にして人は何を想うのか。  死を受け入れたとき人は何を想うのか。  血を止めるためにきり丸は指を舐めた。体液の温かさに生を感じるのは今日の実習のせいだろう。

「きり丸、手を切ったなら薬を塗りなさい」
「大丈夫っすよ、これぐらい」
 半助に指の腹を見せて傷薬が勿体ないと笑うが、口の中に広がる苦い鉄の味が隠せない。眉を寄せた半助が口を開く前に、きり丸はねぇ先生と目の前の男を見た。
「僕以外の誰がこの実習を受けるんですか?」
「それは言えないなぁ」
「そりゃそうですよね~」
 造花作りの手を止めずに困ったように笑う半助にきり丸は小さく自嘲した。いずれ分かることとは言え、夏休み明けに誰が人殺しになっているかなど教師の口から言えるはずもない。
 家業を継ぐしんべヱたちはこの授業の対象外。
 風魔一族の忍者の喜三太や佐竹鉄砲隊の頭領となる虎若は殺しの実習を受けるのだろうか。不意にきり丸の脳裏に親友の顔が浮かぶ。一年生の頃から一流の忍者になることを夢見て、努力してきた乱太郎は人を殺すのだろうか。
八重に咲く偽物の花弁を撫でながら、首を振って悲観的な思考を振り払った。
 乱太郎は保健委員会に属し、命に対してきり丸とは別の価値観を持っている。手を施しても助からない怪我人の痛みを取り除き、安らかに逝かせてあげることも薬の役割の一つなのだと言いながら朝顔を摘んでいた。いつも誰かのために一生懸命な親友が穢れてしまう寂しさを覚えながら、きり丸は大丈夫と声にせずに呟いた。誰が人殺しになっても共に競い合って学んだ仲間たちとの日々が偽りになることはない。
 灯明皿の焔が月見草の香りがする風に揺れた。咲き終わって地に落ちた花を夜に狩りをする動物

「きり丸、手を切ったなら薬を塗りなさい」 「大丈夫っすよ、これぐらい」  半助に指の腹を見せて傷薬が勿体ないと笑うが、口の中に広がる苦い鉄の味が隠せない。眉を寄せた半助が口を開く前に、きり丸はねぇ先生と目の前の男を見た。 「僕以外の誰がこの実習を受けるんですか?」 「それは言えないなぁ」 「そりゃそうですよね~」  造花作りの手を止めずに困ったように笑う半助にきり丸は小さく自嘲した。いずれ分かることとは言え、夏休み明けに誰が人殺しになっているかなど教師の口から言えるはずもない。  家業を継ぐしんべヱたちはこの授業の対象外。  風魔一族の忍者の喜三太や佐竹鉄砲隊の頭領となる虎若は殺しの実習を受けるのだろうか。不意にきり丸の脳裏に親友の顔が浮かぶ。一年生の頃から一流の忍者になることを夢見て、努力してきた乱太郎は人を殺すのだろうか。 八重に咲く偽物の花弁を撫でながら、首を振って悲観的な思考を振り払った。  乱太郎は保健委員会に属し、命に対してきり丸とは別の価値観を持っている。手を施しても助からない怪我人の痛みを取り除き、安らかに逝かせてあげることも薬の役割の一つなのだと言いながら朝顔を摘んでいた。いつも誰かのために一生懸命な親友が穢れてしまう寂しさを覚えながら、きり丸は大丈夫と声にせずに呟いた。誰が人殺しになっても共に競い合って学んだ仲間たちとの日々が偽りになることはない。  灯明皿の焔が月見草の香りがする風に揺れた。咲き終わって地に落ちた花を夜に狩りをする動物

たちが踏み付ける音がする。
「土井先生は他の生徒のこの実習も受け持つの?」
「教師として最初の一人目の見届けはする。この実習は生徒の御家族や親しい大人、対象生徒に恋人や許嫁がいればその人たちの協力を仰ぐことも多い。……こんなに傍にいるのはお前だけだよ」
 半助は表情を恋人の笑みに変えて、長い黒髪に指を伸ばした。褥の中で見惚れる男の艶に頬を染めながら、きり丸は髪に触れる指に自分の指先を重ねた。
「僕だけ特別なの、……嬉しい」
 笑みを浮かべるきり丸の細い腰を抱き寄せて半助は顔を近付ける。きり丸が目を閉じるのと同時に半助は恋人の唇を塞いだ。丁寧に唇を重ね合わせて、舌先を絡め合う。きり丸の腕が男の首の後ろに回った。
「……好き、だ、きり丸」
「ぅんっ、ッ、僕も……」
 吐息を濡らしながら想いを確かめ合う口吸いにきり丸の睛が蕩ける。体が密着して、夏の夜に汗ばんだ肌が熱い。
人殺しになっても半助と恋仲であることは変わらない。力を抜いてきり丸から唇を離した。優しい睛にそっと見つめられただけで、深追いはない。広い胸元に体を預けたままきり丸は半助の顔を見上げた。

たちが踏み付ける音がする。 「土井先生は他の生徒のこの実習も受け持つの?」 「教師として最初の一人目の見届けはする。この実習は生徒の御家族や親しい大人、対象生徒に恋人や許嫁がいればその人たちの協力を仰ぐことも多い。……こんなに傍にいるのはお前だけだよ」  半助は表情を恋人の笑みに変えて、長い黒髪に指を伸ばした。褥の中で見惚れる男の艶に頬を染めながら、きり丸は髪に触れる指に自分の指先を重ねた。 「僕だけ特別なの、……嬉しい」  笑みを浮かべるきり丸の細い腰を抱き寄せて半助は顔を近付ける。きり丸が目を閉じるのと同時に半助は恋人の唇を塞いだ。丁寧に唇を重ね合わせて、舌先を絡め合う。きり丸の腕が男の首の後ろに回った。 「……好き、だ、きり丸」 「ぅんっ、ッ、僕も……」  吐息を濡らしながら想いを確かめ合う口吸いにきり丸の睛が蕩ける。体が密着して、夏の夜に汗ばんだ肌が熱い。 人殺しになっても半助と恋仲であることは変わらない。力を抜いてきり丸から唇を離した。優しい睛にそっと見つめられただけで、深追いはない。広い胸元に体を預けたままきり丸は半助の顔を見上げた。

【傾国の子】R-18
土きり・天きりSS
きり5年生成長IF・土井せの体に天キさんもいる二重人格設定・土きり・天きりは恋人同士 
殺伐系です
支部に全文アップしてます✨

19.07.2025 23:10 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0

わー!!こそっと上げてたの、気付いてくれてありがとうございます✨✨
三人娘のずっと仲良しでいて欲しいです!!!!!

21.06.2025 12:55 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0
 猫猫は昔の、不思議な夢を見ること……子翠が言い終わらないうちに、タタタとこちらに向かって駆けて来る足音が大きくなる。
「おまたせー!やっと終わったー!!ねぇ、二人でなんの話してたの?」
 補習授業を終えた小蘭は疲れた顔をしているが、今日もがんばって勉強したんだよと誇らしげだ。三人でつるむようになって、勉強が苦手だった小蘭の成績は少しずつ良くなっている。今日の補習も復習のために自ら参加希望していた。一学年下の妹のような存在の頭を撫でると心が和む。
「猫猫がDランド行こうって」
「Dランド!!!えー!!いつ行くの?」
「雪が降ったらね」
 本を閉じて帰り支度をしながら答えると、小蘭がえー?なんで?と大きな声を上げた。図書員会の男子学生に睨まれる。
「ほら帰るよ、下校時刻過ぎてるから」
「そうだね、帰ろうか」
 子翠が学校指定の揃いのバッグを持って立ち上がった。夕陽は既に落ちかけて、天は淡紫に染まっている。
「ねぇ、アイス食べて帰ろうよ。今日から期間限定のフルーツミックスミルクがでるんだ~!三人で食べるの、ずっとずっと楽しみにしてたんだ」
 小蘭の一言に息を飲む。小蘭も遠い昔の夢を見たことがあるのかもしれない。でも、それは聞くことじゃない。
「寒い日のアイスも乙だよねぇ~!生クリームトッピングしちゃおうかな~」
 生クリームトッピングに小蘭が目を輝かせる。猫猫も早く行こうと二人に促されて紺のダッフル

 猫猫は昔の、不思議な夢を見ること……子翠が言い終わらないうちに、タタタとこちらに向かって駆けて来る足音が大きくなる。 「おまたせー!やっと終わったー!!ねぇ、二人でなんの話してたの?」  補習授業を終えた小蘭は疲れた顔をしているが、今日もがんばって勉強したんだよと誇らしげだ。三人でつるむようになって、勉強が苦手だった小蘭の成績は少しずつ良くなっている。今日の補習も復習のために自ら参加希望していた。一学年下の妹のような存在の頭を撫でると心が和む。 「猫猫がDランド行こうって」 「Dランド!!!えー!!いつ行くの?」 「雪が降ったらね」  本を閉じて帰り支度をしながら答えると、小蘭がえー?なんで?と大きな声を上げた。図書員会の男子学生に睨まれる。 「ほら帰るよ、下校時刻過ぎてるから」 「そうだね、帰ろうか」  子翠が学校指定の揃いのバッグを持って立ち上がった。夕陽は既に落ちかけて、天は淡紫に染まっている。 「ねぇ、アイス食べて帰ろうよ。今日から期間限定のフルーツミックスミルクがでるんだ~!三人で食べるの、ずっとずっと楽しみにしてたんだ」  小蘭の一言に息を飲む。小蘭も遠い昔の夢を見たことがあるのかもしれない。でも、それは聞くことじゃない。 「寒い日のアイスも乙だよねぇ~!生クリームトッピングしちゃおうかな~」  生クリームトッピングに小蘭が目を輝かせる。猫猫も早く行こうと二人に促されて紺のダッフル

コートを着込んだ。ふとスマートフォンの天気予報を見る。来週の日曜日に雪が降る予想がされていた。
 
『雪が降ったら』 桜乃

コートを着込んだ。ふとスマートフォンの天気予報を見る。来週の日曜日に雪が降る予想がされていた。   『雪が降ったら』 桜乃

20.06.2025 22:00 — 👍 0    🔁 0    💬 1    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「雪が降ったら」と記載されています。
以下は本文の内容です。

 放課後の図書室の一番端の席、ここは照明も薄暗く空調の利きも悪いためほとんどの生徒が寄り付かない。だからどうでも良い話をしながら人を待つにはぴったりの場所でもある。
 下校を促すチャイムが鳴って夕陽の朱色が世界を包んだ。冬の日暮れは早く、長く伸びた机と椅子の影が不規則な格子模様を作る。
「それでね、クロカタゾウムシの防御力は昆虫界最強なんだよって、猫猫……、聞いてる?」
「まぁ聞いてるよ」
 本を捲る手を止めて顔を上げる。子翠は唇を尖らせながら分厚い昆虫図鑑を音を立てて閉じた。
 二人で話をしていると言っても、薬や毒のこと、虫のことをお互いに思い付いて言いたいことを言い合っているだけなので会話として成立しているのかどうかは怪しい。毒虫についてはお互いの趣味が重なるため大いに盛り上がるが。
「小欄、暗くなる前に戻って来てくれないかな。ちょっと寒い」
「大丈夫?猫猫、寒いの苦手そうだもんね」
「炬燵があれば嫌いじゃないけど」
「炬燵に蜜柑に雪見大福があれば最高だねぇ。……あ、でも雪はあんまり好きじゃないかな」
 真っ白な雪に向かって真っ先にダイブするタイプだと思っていたけど違うのか。雪合戦は強そうだし、雪うさぎも似合いそうなのに。
「寒いから?」
「寒いのもあるけど……、子供の頃から雪が降ると怖い夢見るんだよね」
 子翠がゆっくりと目を伏せた。長い睫毛が震えて、淡いピンクのリップを塗った唇だけが小さく笑う。

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「雪が降ったら」と記載されています。 以下は本文の内容です。  放課後の図書室の一番端の席、ここは照明も薄暗く空調の利きも悪いためほとんどの生徒が寄り付かない。だからどうでも良い話をしながら人を待つにはぴったりの場所でもある。  下校を促すチャイムが鳴って夕陽の朱色が世界を包んだ。冬の日暮れは早く、長く伸びた机と椅子の影が不規則な格子模様を作る。 「それでね、クロカタゾウムシの防御力は昆虫界最強なんだよって、猫猫……、聞いてる?」 「まぁ聞いてるよ」  本を捲る手を止めて顔を上げる。子翠は唇を尖らせながら分厚い昆虫図鑑を音を立てて閉じた。  二人で話をしていると言っても、薬や毒のこと、虫のことをお互いに思い付いて言いたいことを言い合っているだけなので会話として成立しているのかどうかは怪しい。毒虫についてはお互いの趣味が重なるため大いに盛り上がるが。 「小欄、暗くなる前に戻って来てくれないかな。ちょっと寒い」 「大丈夫?猫猫、寒いの苦手そうだもんね」 「炬燵があれば嫌いじゃないけど」 「炬燵に蜜柑に雪見大福があれば最高だねぇ。……あ、でも雪はあんまり好きじゃないかな」  真っ白な雪に向かって真っ先にダイブするタイプだと思っていたけど違うのか。雪合戦は強そうだし、雪うさぎも似合いそうなのに。 「寒いから?」 「寒いのもあるけど……、子供の頃から雪が降ると怖い夢見るんだよね」  子翠がゆっくりと目を伏せた。長い睫毛が震えて、淡いピンクのリップを塗った唇だけが小さく笑う。

「綺麗なお姫様みたいな服を着ている女の子が雪の降る中でくるくる踊ってるの。笑いながら踊っている間にバーンって銃で撃たれて、崖から落ちちゃうんだ」
此方に向けた指で銃の形を作って胸元を撃つ。片目を瞑って子供が遊ぶような子翠の仕草に妙に胸が騒いだ。煤の付いた顔で笑う、子翠に良く似た誰かが脳裏に過る。
「……夢だよね?」
「夢だよ。私は生きてるし、ほら足もあるでしょ」
 タータンチェックのスカートから伸びた足を上げて、子翠は大袈裟に足を組んだ。白のソックスには学校指定のマークが入っている。同じ制服を着て、同じ学校の図書館にいるが子翠が何年生のどこのクラスかは知らない。本人から一学年上とは聞いているが全校生徒で行う体育祭や芸術鑑賞では姿を見たことがない。
 学校と言うものは規律正しいようで杜撰だ。同じ年頃の女生徒が同じ制服で校内を歩いていれば、その存在は特異として扱われない。悪戯や何かの目的で潜り込んだ他校の生徒か、はたまた本当に幽霊なのか。どちらだったとしても、小欄を交えた三人で噂話をする時間は貴重な心地良い空間であるのは間違いない。
「人が死ぬ夢は逆夢で吉夢なんじゃなかった?」
「うーん、どうだろう。夢に見るあの女の子、死ぬのを覚悟してたんだと思う。笑ってるけど目は潤んでて、全てを諦めたような、でも、何かに縋りつくような顔をしてた」

 父の死に様も母の企ての慣れの果ても見届けて、彼女は全てを終わらせるために雪花の中を舞う。

「綺麗なお姫様みたいな服を着ている女の子が雪の降る中でくるくる踊ってるの。笑いながら踊っている間にバーンって銃で撃たれて、崖から落ちちゃうんだ」 此方に向けた指で銃の形を作って胸元を撃つ。片目を瞑って子供が遊ぶような子翠の仕草に妙に胸が騒いだ。煤の付いた顔で笑う、子翠に良く似た誰かが脳裏に過る。 「……夢だよね?」 「夢だよ。私は生きてるし、ほら足もあるでしょ」  タータンチェックのスカートから伸びた足を上げて、子翠は大袈裟に足を組んだ。白のソックスには学校指定のマークが入っている。同じ制服を着て、同じ学校の図書館にいるが子翠が何年生のどこのクラスかは知らない。本人から一学年上とは聞いているが全校生徒で行う体育祭や芸術鑑賞では姿を見たことがない。  学校と言うものは規律正しいようで杜撰だ。同じ年頃の女生徒が同じ制服で校内を歩いていれば、その存在は特異として扱われない。悪戯や何かの目的で潜り込んだ他校の生徒か、はたまた本当に幽霊なのか。どちらだったとしても、小欄を交えた三人で噂話をする時間は貴重な心地良い空間であるのは間違いない。 「人が死ぬ夢は逆夢で吉夢なんじゃなかった?」 「うーん、どうだろう。夢に見るあの女の子、死ぬのを覚悟してたんだと思う。笑ってるけど目は潤んでて、全てを諦めたような、でも、何かに縋りつくような顔をしてた」  父の死に様も母の企ての慣れの果ても見届けて、彼女は全てを終わらせるために雪花の中を舞う。

姉は尊い血筋故に死罪を免れるだろう。守るべき子供たちは信頼する友達に託した。大団円でなくとも悪くない終わり方のはずだ。
 だから泣かないでよ、猫猫。泣き顔なんてらしくないよ。死人が美化されないように傷痕を残して行くね。私がいなくなっても猫猫は生きてるから、たまに私を思い出して胸を痛めて。
 また三人で一緒に氷菓子食べたいね。
 黒い髪が宙を舞う。彼女は撃たれた痛みも熱も感じない。
 幼い頃に悟った名持の女の生き様と覚悟。もっと生きていたいと言う一人の娘としての生への未練。楼蘭と子翠の相反する想い。混濁する感情の全てを飲み込んで彼女はその身に銃弾を受ける。泣きながら笑って、憎しみはしないけれど、未練は残して砦から身を投げた。
 国に反逆を企てた一族の悪女として。
冬に鳴く虫の声がした。火薬の匂いもしない、若くして后になることもない世界が眩しくて、子翠はそっと目を細める。

 雪の日に見る夢を思い出して大人びた表情になった子翠がどこか遠くに行ってしまいそうで、咄嗟に手を掴む。驚く子翠と視線が合った。今度は振りほどかれたくなくて、無理矢理に指を絡める。
「子翠、Dランド行こうか」
「へ?何急に?」
「今度、雪が降ったらDランド行こう」
「なんで?」
 スマートフォンで検索して、雪の日のDランドのパーク内の写真を見せる。白銀に染まった古城

姉は尊い血筋故に死罪を免れるだろう。守るべき子供たちは信頼する友達に託した。大団円でなくとも悪くない終わり方のはずだ。  だから泣かないでよ、猫猫。泣き顔なんてらしくないよ。死人が美化されないように傷痕を残して行くね。私がいなくなっても猫猫は生きてるから、たまに私を思い出して胸を痛めて。  また三人で一緒に氷菓子食べたいね。  黒い髪が宙を舞う。彼女は撃たれた痛みも熱も感じない。  幼い頃に悟った名持の女の生き様と覚悟。もっと生きていたいと言う一人の娘としての生への未練。楼蘭と子翠の相反する想い。混濁する感情の全てを飲み込んで彼女はその身に銃弾を受ける。泣きながら笑って、憎しみはしないけれど、未練は残して砦から身を投げた。  国に反逆を企てた一族の悪女として。 冬に鳴く虫の声がした。火薬の匂いもしない、若くして后になることもない世界が眩しくて、子翠はそっと目を細める。  雪の日に見る夢を思い出して大人びた表情になった子翠がどこか遠くに行ってしまいそうで、咄嗟に手を掴む。驚く子翠と視線が合った。今度は振りほどかれたくなくて、無理矢理に指を絡める。 「子翠、Dランド行こうか」 「へ?何急に?」 「今度、雪が降ったらDランド行こう」 「なんで?」  スマートフォンで検索して、雪の日のDランドのパーク内の写真を見せる。白銀に染まった古城

は美しく、昼からライトアップされた噴水は幻想的で異国に迷い込んだようだ。
「雪の日のDランドって滅茶苦茶に大変なんだ。映画のワンシーンみたいって騒いでる女の子もいたけど、傘を差しても上着が雪だらけになるし、すごい寒いし、風も冷たいし、凍結して入れない場所ばっかりだし、パレードは中止だし、外にあるアトラクションはほとんど止まって乗れないし、閉園時間も早まる」
 事実を矢次に伝えると、子翠がふーんと僅かに唇を尖らせた。
「……良く知ってるね。彼氏君と行ったの?」
「小学校の卒業旅行が大雪のDランドだった。……この間、まぁ、一緒に行ったときも大雪だったけど」
 子翠の言う彼氏君とは恋人のお付き合いをしている。彼に向ける感情が恋愛なのか、まだ自覚は薄くて、彼氏と言われても実感がない。ただ、彼が優しく大切にしてくれるのは確かだ。敢えて名前は言わないが、二週間ほど前に彼氏君とDランドに行った日もロマンティックな雰囲気なんて吹き飛ぶぐらいの大雪だった。おかげで耳を付けた写真なんて一枚もない。
「でも、なんで急にDランド?」
「雪の日にDランドに行ったら本当に大変だから、雪の悪い夢なんて忘れるよ」
 悪い夢をもっと悪い雪の日の思い出で塗り変えてしまえば良い。寒さで手がかじかんで、ブーツもスカートも濡れて、アトラクションにも乗れなくて、テーマパークで遊ぶには最悪だ。でも、きっと寒いって言いながら笑って、三人で冷たい手を繋いで、忘れられない一日になる。

は美しく、昼からライトアップされた噴水は幻想的で異国に迷い込んだようだ。 「雪の日のDランドって滅茶苦茶に大変なんだ。映画のワンシーンみたいって騒いでる女の子もいたけど、傘を差しても上着が雪だらけになるし、すごい寒いし、風も冷たいし、凍結して入れない場所ばっかりだし、パレードは中止だし、外にあるアトラクションはほとんど止まって乗れないし、閉園時間も早まる」  事実を矢次に伝えると、子翠がふーんと僅かに唇を尖らせた。 「……良く知ってるね。彼氏君と行ったの?」 「小学校の卒業旅行が大雪のDランドだった。……この間、まぁ、一緒に行ったときも大雪だったけど」  子翠の言う彼氏君とは恋人のお付き合いをしている。彼に向ける感情が恋愛なのか、まだ自覚は薄くて、彼氏と言われても実感がない。ただ、彼が優しく大切にしてくれるのは確かだ。敢えて名前は言わないが、二週間ほど前に彼氏君とDランドに行った日もロマンティックな雰囲気なんて吹き飛ぶぐらいの大雪だった。おかげで耳を付けた写真なんて一枚もない。 「でも、なんで急にDランド?」 「雪の日にDランドに行ったら本当に大変だから、雪の悪い夢なんて忘れるよ」  悪い夢をもっと悪い雪の日の思い出で塗り変えてしまえば良い。寒さで手がかじかんで、ブーツもスカートも濡れて、アトラクションにも乗れなくて、テーマパークで遊ぶには最悪だ。でも、きっと寒いって言いながら笑って、三人で冷たい手を繋いで、忘れられない一日になる。

『雪が降ったら』 薬屋 ・壬猫前提の三人娘SSです。転生パロ(薄く前世の記憶あり)全6ページ 大好きなしすいへの愛を込めて


20.06.2025 22:00 — 👍 3    🔁 1    💬 1    📌 0
Skyblur 伏せていない投稿を参照する。

宝石商14巻

天官脳なので、リチャ氏のセリフ「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」にギュンッときまして

18.06.2025 09:34 — 👍 8    🔁 2    💬 0    📌 0
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#バビデビお知らせ
★サークル告知シートです。
各SNSでご自由にお使いください。
※使用は任意です

SNSでの投稿にはこちらのタグをご利用ください。
#バビデビ9参加

・色の変更やデザインなどの改変OKです。
ウォーターマーク等もご自由に入れられてください。

31.05.2025 14:55 — 👍 10    🔁 10    💬 0    📌 0
Preview
pictSQUARE - オンライン即売会サービス はじめにこのイベントは忍たま・落乱 「天鬼×きり丸」の二次創作作品を頒布・展示する目的のWEB同人即売会・同人イベントです。個人主催の非公式ファンイベントとなっておりますので、出版社・アニメ公式・原作...

◤ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥
  天きりWebオンリー
   サークル参加
    募集開始!!
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サークル参加の募集を開始いたしました!
イベント告知ページの一番下「サークル参加申し込み」ボタンからお申し込みください。(満了時拡大予定)
#天きりWEBオンリー2025
pictsquare.net/oj9wjqa7w5k8...

31.05.2025 12:53 — 👍 4    🔁 4    💬 0    📌 0

@kjta.bsky.social
初めまして。さくらのと申します。
いつもぴくしぶの方で作品を拝見させていただいています。
かじゃ様の描かれる黒髪の美しい愛らしいきりちゃと、きりちゃが大好きな土井せと天キさんと、勢いのある言葉のセンス、(特にプレイボーイ師匠のネーミングセンス)が大好きです✨✨
フォロバありがとうございました。これからも作品を楽しみにさせて頂きます。

26.05.2025 11:50 — 👍 1    🔁 0    💬 1    📌 0
Preview
[R-18] #1 【夢路の迷子】 | 夢路の迷子 - 桜乃の小説シリーズ - pixiv 軍師後。土井先生に片想い中のきり丸が、二人で逃げて恋仲になった天鬼ときり丸がいる世界に迷い込んでしまう物語。 土井が迎えに来るハピエンに続く予定です。2510の性描写、天鬼×きり丸+きり丸の3P、きり丸×きり丸の百合表現、きり丸の自慰描写があります。(3Pですが幸せHです)

土井きりSSを投稿したから、支部で書いた土井きり・天きりSSもあげてみる!

www.pixiv.net/novel/show.p...

24.05.2025 15:10 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「夕暮れを歩く私と子供」と記載されています。
以下は本文の内容です。


 アルバイトを終えたきり丸と町の茶屋で合流する。こうして約束をしておかないと、きり丸は日が暮れるまで家に帰って来ない。約束をしても残業になっちゃって~と銭のために約束を破ることもある。茶屋で待ち合わせをすれば奢りのお団子に惹かれてきり丸の帰りが多少でも早くなり、アルバイトで疲れた子供を休ませる口実になって都合が良い。
 今日もきり丸は三食団子を美味しそうに食べ終えた。朝から新聞配達、ご近所の洗濯、子守り、ペットの散歩、神社の掃除、うどん屋の給仕、荷運びを当たり前のように熟しているきり丸の腹が減らない訳がない。
「先生、夕飯用の雑草取りながら帰りたいんですけど」
「雑草は勘弁してくれ……。ほら、野菜と魚を買って帰ろう」
「魚は贅沢です」
 倹約家らしく言い切ったきり丸は繋いでいた私の手を離して歩き出した。夏の昼は長く、夕暮れにはまだ早い。
 畦道では手を繋いでくれるのに、町の薄暗い路地が見えるときり丸は決まって私の手を離す。それに気付いたのは一緒に暮らし始めて、一週間ほどたった頃だった。
きり丸が私の手を離す、その視線の先には筵を抱えた孤児がいた。やせ細った体に汚れた着物を着て、裏路地の軒先で雨露を凌ぐ。大切なものを失った子供の目は虚ろでただ空を見つめていた。
 どうして、俺を残してみんな死んじゃったの?
 どうして、わたしは一人ぼっちなんだろう?

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「夕暮れを歩く私と子供」と記載されています。 以下は本文の内容です。  アルバイトを終えたきり丸と町の茶屋で合流する。こうして約束をしておかないと、きり丸は日が暮れるまで家に帰って来ない。約束をしても残業になっちゃって~と銭のために約束を破ることもある。茶屋で待ち合わせをすれば奢りのお団子に惹かれてきり丸の帰りが多少でも早くなり、アルバイトで疲れた子供を休ませる口実になって都合が良い。  今日もきり丸は三食団子を美味しそうに食べ終えた。朝から新聞配達、ご近所の洗濯、子守り、ペットの散歩、神社の掃除、うどん屋の給仕、荷運びを当たり前のように熟しているきり丸の腹が減らない訳がない。 「先生、夕飯用の雑草取りながら帰りたいんですけど」 「雑草は勘弁してくれ……。ほら、野菜と魚を買って帰ろう」 「魚は贅沢です」  倹約家らしく言い切ったきり丸は繋いでいた私の手を離して歩き出した。夏の昼は長く、夕暮れにはまだ早い。  畦道では手を繋いでくれるのに、町の薄暗い路地が見えるときり丸は決まって私の手を離す。それに気付いたのは一緒に暮らし始めて、一週間ほどたった頃だった。 きり丸が私の手を離す、その視線の先には筵を抱えた孤児がいた。やせ細った体に汚れた着物を着て、裏路地の軒先で雨露を凌ぐ。大切なものを失った子供の目は虚ろでただ空を見つめていた。  どうして、俺を残してみんな死んじゃったの?  どうして、わたしは一人ぼっちなんだろう?

 さみしい、お腹が空いた。父ちゃんと母ちゃんに会いたい。
 なんで、わたしの家族だけ死んじゃったの?
 どうして、あの子が俺で、俺があの子じゃないんだろう。
 きり丸は戦に巻き込まれた子供たちの痛みを身をもって知っている。だから、孤児のいる通リの近くになると敢えて私の手を離して少しだけ前を歩く。
 子供らしくない子供の配慮に奥歯を噛んだ。歩く度に跳ねる黒髪に触れていると気付かれないぐらいそっと手を伸ばす。
 きり丸は父母に愛される乱太郎を、裕福な家に生まれたしんべヱを羨ましがったり、妬んだりしない。己の身に降りかかった不幸を嘆くだけでなく、必死に前を向いて逞しく生きる。
 心ない大人たちから理不尽な扱いを受け、騙され、数えきれないほどその身を危険に晒してきた。日銭を握りしめて泣いて、奪われたものを諦めて、薄汚れて、腹を空かせて、泥を啜ってもきり丸は忍術学園に辿り着いた。きり丸が私の隣にいるのは、きり丸の努力の結果だ。
 同じ境遇の子供たちを気遣う優しさを失わないままで、きり丸には胸を張って欲しい。
 懸命に生きた日々があるからこそ、穏やかに暮らす今があるのだと。蹲る孤児たちに引け目など追わないで良い。抱きしめて調子に乗るほどに褒めてあげたい。良く頑張って生きて来た、きり丸は偉い子なんだと。
 きり丸がとことんまで野菜を値切っている間に魚を買う。買ってしまえば食べない訳にはいかないだろう。

 さみしい、お腹が空いた。父ちゃんと母ちゃんに会いたい。  なんで、わたしの家族だけ死んじゃったの?  どうして、あの子が俺で、俺があの子じゃないんだろう。  きり丸は戦に巻き込まれた子供たちの痛みを身をもって知っている。だから、孤児のいる通リの近くになると敢えて私の手を離して少しだけ前を歩く。  子供らしくない子供の配慮に奥歯を噛んだ。歩く度に跳ねる黒髪に触れていると気付かれないぐらいそっと手を伸ばす。  きり丸は父母に愛される乱太郎を、裕福な家に生まれたしんべヱを羨ましがったり、妬んだりしない。己の身に降りかかった不幸を嘆くだけでなく、必死に前を向いて逞しく生きる。  心ない大人たちから理不尽な扱いを受け、騙され、数えきれないほどその身を危険に晒してきた。日銭を握りしめて泣いて、奪われたものを諦めて、薄汚れて、腹を空かせて、泥を啜ってもきり丸は忍術学園に辿り着いた。きり丸が私の隣にいるのは、きり丸の努力の結果だ。  同じ境遇の子供たちを気遣う優しさを失わないままで、きり丸には胸を張って欲しい。  懸命に生きた日々があるからこそ、穏やかに暮らす今があるのだと。蹲る孤児たちに引け目など追わないで良い。抱きしめて調子に乗るほどに褒めてあげたい。良く頑張って生きて来た、きり丸は偉い子なんだと。  きり丸がとことんまで野菜を値切っている間に魚を買う。買ってしまえば食べない訳にはいかないだろう。

「あー!!なんで魚まで買ってるんすか!?」
「夏の盛りなんだ。ちゃんと食べずに暑さに負けたら、余計な医者代がかかるぞ」
「ううっ……、余計な銭は払いたくない~」
 唇を尖らせるきり丸の横に並んで拗ねた顔を覗き込む。目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らすのが愛らしい。店の並ぶ大通りを抜けると、日は暮れ始めて茜色の雲が空を包む。暗くなって来たから早く帰りましょーときり丸が歩調を早めた。
「急ぐと転ぶから、……ほら」
 長屋が近付いて、そっときり丸の手を取った。小さな手を強く握れば、一瞬だけ目が見開かれて、ゆっくりとはにかんだ笑みに変わる。
 戸惑いがちに握り返してくれる小さな手の温かさに自然と笑みが零れた。
 逞しく優しいこの子の行く末が幸福でありますように。きり丸を幸福にするのが私でありまるようにと一番星に祈りながら手を握る指に力を込めた。

「あー!!なんで魚まで買ってるんすか!?」 「夏の盛りなんだ。ちゃんと食べずに暑さに負けたら、余計な医者代がかかるぞ」 「ううっ……、余計な銭は払いたくない~」  唇を尖らせるきり丸の横に並んで拗ねた顔を覗き込む。目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らすのが愛らしい。店の並ぶ大通りを抜けると、日は暮れ始めて茜色の雲が空を包む。暗くなって来たから早く帰りましょーときり丸が歩調を早めた。 「急ぐと転ぶから、……ほら」  長屋が近付いて、そっときり丸の手を取った。小さな手を強く握れば、一瞬だけ目が見開かれて、ゆっくりとはにかんだ笑みに変わる。  戸惑いがちに握り返してくれる小さな手の温かさに自然と笑みが零れた。  逞しく優しいこの子の行く末が幸福でありますように。きり丸を幸福にするのが私でありまるようにと一番星に祈りながら手を握る指に力を込めた。

RKRN 土井きり(2510)
土井せの片想い風味。
二人で暮らし始めた頃のあるあるSSです。きりちゃんを幸せにするのが土井せでありますように!!

25.05.2025 00:04 — 👍 3    🔁 0    💬 0    📌 0
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植木鉢の夜桜
小さいからこその風情もある

13.04.2025 12:53 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
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#リチャ正 エトランゼの少女 / 銀水晶のうさぎ - 桜乃の小説 - pixiv 【エトランゼの少女】 赤いソファーに座ったお客様にお茶を出す。数年前にアルバイトとしてエトランジェに勤め始めて色々とあったが、今日がスリランカに発つ前の最後の勤務になる。 いつになく緊張していると始業前にリチャードに肩の力を抜きなさいと諭された。あなたにとっては旅立ち前の最後の勤...

リチャ正ssアップしました!2部直前のせぎくん片想い風。
とき〇きトゥナイトとセー〇ームーンが好きな方向け!!

www.pixiv.net/novel/show.p...

02.01.2025 12:35 — 👍 4    🔁 0    💬 0    📌 0
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[R-18] #シチカル 息を殺してキスをした - 桜乃の小説 - pixiv バビデビ1220開催おめでとうございます。期間限定SSです。 勝手にフラれたり、別れられると思い込んでますがハピエンです。 【息を殺してキスをした】学生時代 両片想いシチカル  【僕の愛した長く美しい髪を切った理由】新任時代 恋人設定のシチカル

祝!四期✨✨祝!バビデビ1220✨✨
mirmのWEBオンリー初参加のシチカルSSです!!
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20.12.2024 15:19 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0

mirmのWEBオンリー申し込みしちゃった✨✨
久しぶりにサークル名も変えてみた!なんか新鮮だな!!!

07.12.2024 13:21 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0

無言フォロー失礼しましたm(_ _)m
こちらこそ、よろしくお願いしますm(_ _)m

23.11.2024 11:39 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
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💎商リチャ正で「恋人の顔」①
もう少し続きます

12.11.2024 11:43 — 👍 16    🔁 2    💬 0    📌 1
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古い祠を壊したとある青年の話 お前、あの祠壊したのか……っ――をテーマにリチャ正を書いたらどうなるか?まつくま、まりも、さくらの、BN、瞳子の五人によるリチャ正パラレル伝奇アンソロジーです。

【古い祠を壊したとある青年の話】
リチャ正アンソロジー通販始まりました~!!
怖くない祠壊したんかSS書いてます✨✨

ec.toranoana.jp/joshi_r/ec/i...

20.11.2024 11:52 — 👍 4    🔁 1    💬 0    📌 0

4期も決まったし、いつかシチカル本出したいなー☺️
タイトルも内容も決まってるんだよね!
あとはスペース取って書くだけなんたよねー!!

17.11.2024 13:14 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0

魔入間4期おめでとうございます🎉✨✨🎉 
音楽祭、アクドル、月越し、心臓破りまでやってほしいー!!!

17.11.2024 12:59 — 👍 2    🔁 0    💬 0    📌 0
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【映像も公開】人気アニメ「魔入りました!入間くん」第4シリーズ制作決定!
news.livedoor.com/article/deta...
ティザービジュアルには、夕暮れの屋上で誰かを探す鈴木入間の姿が描かれている。また、ついに姿を現した問題児(アブノーマル)クラスの最後の悪魔、プルソン・ソイも登場している。

17.11.2024 12:04 — 👍 60    🔁 19    💬 0    📌 2

こちらこそ、よろしくお願いします✨こちらでもminさんと繋がれてめっちゃ嬉しいです☺️

15.11.2024 23:35 — 👍 1    🔁 0    💬 0    📌 0
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最高なミルクチョコレート✨ 
ホットチョコレートにして優勝してやった✨✨

14.11.2024 09:02 — 👍 3    🔁 0    💬 0    📌 0

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