めちゃくちゃ面白そうな本買った!
『こわい話』(松田哲夫編/あすなろ書房)
『箪笥』(半村良)まで読んだんですけど、冗談抜きで叫びそうになったし、今も恐ろしさで泣きそう
@kimyonasekai.bsky.social
短篇小説・翻訳小説・怪奇幻想小説大好きアカウントです。ファンタスティックなものが好み。読書ブログ「奇妙な世界の片隅で」をやってます。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。ブックガイド系同人誌も作ってます。#日本怪奇幻想読者クラブを主宰しています。
めちゃくちゃ面白そうな本買った!
『こわい話』(松田哲夫編/あすなろ書房)
『箪笥』(半村良)まで読んだんですけど、冗談抜きで叫びそうになったし、今も恐ろしさで泣きそう
「あなたの幸せな場所」テレンス・テイラー(福間 恵訳)
囚人の再教育プログラムを行う場所で働いていたマーティンは、そこで奴隷労働が行われているのではないかと疑っていました。現場の担当者と知り合いになったマーティンはそこで非人道的な行為が行われていることを知り、それを告発しますが…。
囚人に奴隷労働をさせていることに憤った男性がそれを告発するものの、そこには秘められた事実があった…という物語です。主人公の行動自体がすでに悪夢の中であり、最終的にタイトルの意味が分かるところも含めて非常に怖いお話となっていますね。
「死者の嘆き」リオン・アミルカー・スコット(押野素子訳)
双子の弟ジャマールの死で悲しみに沈むマハードのもとに、疎遠になっていた姉ソライが現れます。ソライはある草稿を渡してきますが、そこには不思議な物語が綴られていました…。
亡くなった弟をめぐって展開されるホラー作品です。非常に不条理で、正直何が起こっているのかは判然としないのですが、そのダークな雰囲気に惹かれます。作中作の「三十人のバラード」は、よみがえった死者をめぐる物語で、こちらも魅力があります。
「世界一最強の女魔術師(オビア・ウーマン)」ナロ・ホプキンソン(今井亮一訳)
悪魔に家族を殺されたイェンデリルは、悪魔に復讐を誓います。魔術師から教わった方法で殺そうとするものの、逆に体に寄生されてしまいます。なんとか体から引き離そうとしますが…。
悪魔に寄生されてしまった女性の物語です。この悪魔が宗教的な存在というよりは、知識を求める「先住者」的な存在で、対話も可能、というところが面白いですね。ただ、その人間とは分かり合えることはできず、どちらが生き残るのか?というサバイバルが描かれていきます。
「ちらつき」L・D・ルイス(坪野圭介訳)
時折視界が暗くなることから、眼科医である兄のジェイに診察を受けた「私」。その直後に世界が突然暗くなり、ところどころで事故が多発していました…。
突然世界中が暗くなる現象をめぐって展開されるホラー作品です。その原因をめぐってSF的な解釈がされるのですが、理屈で説明されてもなお怖いという不条理感が魅力です。
「暗い家」ンネディ・オコラフォー(福間恵訳)
ナイジェリアにルーツを持つ父が亡くなり、故郷で葬儀をすることになります。そこでは精霊アジョーフィアが現れ、死者の魂を連れて行くというのです。しかし娘の「わたし」は悲しみのあまり、その儀式を邪魔してしまいます…。
父の葬儀を邪魔してしまった娘が、現地の精霊に付きまとわれてしまうことになる…という物語。民俗色豊かな話ですが、親子の愛情と悲しみを描いた普遍的な味わいの作品となっています。
「芸術愛好家」ジャスティン・C・キー(ハーン小路恭子訳)
〈芸術作品〉として作られた男の「俺」は、その〈造物主〉の死以来、精神科医ドクター・オチョアの世話となっていました。〈芸術作品〉には癌が発生しやすく、その寿命も短いようなのです。ある日知り合ったサーシャに惹かれるものを感じた「俺」でしたが…。
デザイナーベビーのような形で生み出された人間たちの存在する世界。主人公は理想の女性と出会いますが、それさえもが仕組まれていた…という物語です。
人魚自体の怖さもさることながら、身近な家族が奪われてしまう恐怖が描かれており、戦慄度の高い作品です。
「乗ってきた男」タナナリーヴ・ドゥー(柴田元幸訳)
1960年代、黒人のための政治活動に参加していたプリシラとパットの姉妹は、目的地に向かうバスに乗り込みますが、途中で乗り込んできた男によって運転手の様子がおかしくなってしまったことに気が付きます…。
黒人の権利のための闘争が行われていた時代を背景に、超自然的な現象に巻き込まれた姉妹を描くホラー作品です。怪異現象の脅威と現実的な暴力の脅威、同時に二つの脅威に襲われた姉妹の冒険がサスペンス豊かに描かれています。
「人魚(ラシレン)」エリン・E・アダムズ(ハーン小路恭子訳)
少女の「わたし」にはマリーとラヴリー、二人の姉妹がいました。三人の姉妹は人魚に気をつけろと、母親に教えられていました。ある夜、マリーが姿を消してしまいますが、三年後に再び姿を現します。指には水かきがあり、人間からかけ離れた存在となっていました…。
人魚という民話的なモチーフで書かれた作品です。人魚に囚われ変容してしまった妹を取り返せるのか?というところで、主人公はある取引をすることになります。人魚はロマンチックな対象というよりは恐るべき怪物として描かれていますね。
「片割れ」ヴァイオレット・アレン(ハーン小路恭子訳)
かってつきあっていた男オグルソープにメッセージを送った「あたし」は、オブルソープが今付き合っているらしい女からの返信を受け取ります。言動のおかしさもさることながら、彼女が送ってきたのは、血の滴る本物の心臓の画像でした…。
異常性格者を描いたサイコスリラーかと思っていると、また違った方向へシフトしていくというホラー作品。ハッピーともアンハッピーとも取れる結末も魅力的です。
「ベイビー・スナッチャーの侵略」レズリー・ンネカ・アリマー(柴田元幸訳)
その世界ではエイリアンの侵略が問題となっていました。最初はぎこちなかった擬態が段々と人間に近づいてきていたのです。以前から政府に目を付けられていたオリヴィアを捕獲した「あたし」は妊娠しているという彼女の調査を進めますが…。
エイリアンの侵略が進む世界が舞台のお話です。人間と見分けが付かなくなった擬態を見破る方法はあるのか?という方向に向かうのかと思っていたら思わぬ展開に。生理的な恐怖感が感じられる作品です。
「彷徨う悪魔」キャドウェル・ターンブル(ハーン小路恭子訳)
失踪した祖父や母親と同様、常に別の場所に行きたいという欲望を抱えるフレディは、定期的に仕事や恋愛関係をリセットし、別の場所へと移っていました。しかし恋人となったディラを本当に愛していることに気付いたフレディは自身の衝動と戦い続けていました…。
放浪癖のある男が、本当に愛した恋人との生活よりもその衝動を優先してしまう…という物語。かって出会ったホームレスのような男から予言のような言葉を聞かされており、選択を間違えると恐ろしい目に会う予感を感じている主人公が、それでも駄目な選択をしてしまう、というのが恐ろしいですね。
見る側だった主人公が見られる側に回ってしまう、という後半の展開は怖いですね。息詰まるような雰囲気の幻想小説です。
「〈目〉と〈歯〉」レベッカ・ローンホース(ハーン小路恭子訳)
超自然的な事象を解決して回ることを生業にする姉弟ゼルダとアティカス。今回の依頼で訪れたのは人形作家の老婦人でした。傲岸な本人の態度と孫娘の様子のおかしさに違和感を覚えるものの、心霊的な感性を持つ弟を残して出かけた先に起こったこととは…。
超自然的な事件を解決するゴーストハンターの姉弟を描く作品です。依頼には思わぬ罠があったものの、それを思わぬ手段で切り抜けることになることになります。
「不躾なまなざし」N・K・ジェミシン(押野素子訳)
黒人警官のカールは、パトロールの際に車に異様な「目」を見て取ることがありました。それはヘッドライトの見間違いのようなものではなく、瞬きし、血管が浮かぶ本物の目のようでした。呼び止めた車に乗っていた人物を調べると、麻薬を隠しているなど、問題のある人物であることが大半だったのです。しかし、取り調べの際のやり過ぎが原因でカールは解雇されてしまいます…。
他人を軽蔑する傲岸な男が罰を受ける…という話なのですが、主人公が見る「目」が超自然的なものなのか、精神錯乱的な幻覚なのか、といったあたりも曖昧です。
ジョーダン・ピール編『どこかで叫びが ニュー・ブラック・ホラー作品集』(ハーン小路恭子監訳 今井亮一/押野素子/柴田元幸/坪野圭介/福間恵訳)(フィルムアート社)を読了。『ゲット・アウト』などで知られる映画監督ピールによって編まれたアンソロジーです。黒人作家による全編書き下ろしとなっています。
コンセプトから想像させるような、黒人の受難の歴史や差別をテーマにした作品もあれば、もっと普遍的な恐怖を描いた作品もありと、様々な作品が楽しめるアンソロジーです。収録作が19篇もあるので全部は紹介しきれませんが、面白かったものを以下、紹介したいと思います。
蛙坂須美『こどもの頃のこわい話 きみのわるい話』(竹書房怪談文庫) マリアーナ・エンリケス/宮崎真紀 訳『秘儀(上・下)』(新潮文庫)
本日の購入本。蛙坂さんの2冊目の単著をやっとお迎えできました!エンリケスの長編もヤバそうで楽しみ!ホラーの機運高まるハロウィンシーズンにぴったりな読書になりそうです👻
05.10.2025 09:49 — 👍 19 🔁 1 💬 0 📌 1「実話」というには創作味が強いのですが、そこが逆に魅力となっているように思います。著者の文学的教養が反映されているだろう部分も感じられて、例えば「西向きのホムンクルス」などは、澁澤龍彦の幻想小説を思わせます。
05.10.2025 08:06 — 👍 8 🔁 0 💬 0 📌 0なぜか一緒に暮らして若いカップルと共に行ったこっくりさんの記憶を描く「家族こっくりさん」、子供が描く絵の異常性がひどくなっていくという「別れる理由」、人によって見える幽霊が異なるという「三人ゆうれい」、電車の中で異様なものを目撃していた当の駅に降りることになった体験を描く「ツジノクルビキ」、ホムンクルスを研究していた叔父の死後、隠し部屋に入り込んだ少年の体験をめぐる「西向きのホムンクルス」などを面白く読みました。
05.10.2025 08:06 — 👍 8 🔁 0 💬 1 📌 0蛙坂須美『こどもの頃のこわい話 きみのわるい話』(竹書房怪談文庫)を読了。子供のころの体験や記憶をモチーフにした実話怪談集です。
人によって見えたり聞こえたりと感覚が異なる怪異をめぐる「猿なし猿まわし」、病院に現れた不思議な獣をめぐる「病院獣」、幽霊が出るというトイレでの奇怪な体験を語る「血だらけ」、眠った父親から出てきたあるものの話「鼻中人」、新興宗教に入信していると噂される同級生の家での異様な風景を語る「くびぞろえ」、女性講師から渡された奇怪なDVDをめぐる「北見先生のDVD」、不気味な男に監禁生活を強要されるという「鴉岩」、
三話目の「へしむれる」では、その影響で水族館の生物たちが異形に変容していく…という展開も気味が悪いですね。
全体にダークな雰囲気の作品で、登場人物がことごとく不幸になっていきます。ただ、人魚と絡むことになった人間たちも善人ではなく、そこに歪んだ欲望や暴力性を秘めていたことが分かるなど、人間たちの暗い情念が明らかになっていくというのも面白いところです。
不老不死になれるという伝説の人魚の肉や血が登場するのですが、それを手に入れた人間も幸福になれるわけではなく、当人ばかりか周囲の人間たちも暗い運命に巻き込まれていく…というところで、非常にダークな手触りの作品となっています。
エピソードが進むにしたがって、人魚の肉(血)についての真相が段々と判明していくのもミステリアス。人魚自身も登場し、その生涯が明かされていく部分には伝奇的な味わいもありますね。
人魚にその形は似ていながらも、また異なる異形の存在「へしむれる」の存在もユニークで、その正体は人魚自身にも分からない…という本当に奇怪な存在です。
水嶋はある日、秘密を「僕」に明かします。幼いころに重病にかかっていた彼女は、家族から何らかの血を飲んだことで丈夫になり、顔の作りが美しくなったというのです。しかも以前から働いていた美しい容姿の家政婦がそれ以来、姿を消していることも。水嶋に魅了された「僕」は、彼女の行動を追うことになりますが…。
人魚伝説をめぐる連作ホラー小説です。上記のあらすじは一篇目の「あぶくの娘」についてのもの。他のエピソードでも人魚をめぐってお話が展開されますが、共通するのは人間の暗い情念です。
綿原芹『うたかたの娘』(KADOKAWA)を読了。人魚をめぐる連作ホラー作品です。
道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」は、相手の女性と雑談をしているうちに故郷のことを話し始めることになります。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があったのです。
「僕」は、高校時代に並外れた美しさで目立っていた水嶋藍子という女子生徒のことを回想します。その美しさで評判になってはいるものの、癖のある性格ゆえ彼女を嫌うものも多くいたのです。
作品自体に大枠が設定されていて、昔見たCMで目撃して以来、目の前に女性の霊のようなものが見えるようになってしまった男性が語り手です。自身の霊現象を解決したく、「悪魔情報」の存在を探している…という設定で、その内容は「スレ7:悪魔情報ってやつ来てくれ」で展開されます。こちらも抱腹絶倒なのですが、他の「スレ」との関係が突然出てくるなど、芸が細かくて感心します。
本当にネット掲示板の実況を観ているような感覚があり、これは楽しいです。毎回、ホラーやオカルト現象が発生はするのですが、テンションがコメディ調なので、楽しく読めるところも良いですね。
「スレ5:私は鑑賞されています」は、自身を映した動画を鑑賞されるたびに、それが身体的に分かってしまうという男性の話、「スレ6:思い出の一発屋芸人」は、当時流行った芸人の記憶を誰も持っていないことに気づいた人物がその記憶を思い出させようとする、という話です。
「悪魔情報」が、オカルトに関する該博な知識を持ちながらも、超自然的な存在感は全くなく、飽くまで普通の人間っぽいのが楽しいです。そのノリも他の人間と変わりなく、調子に乗ってふざけたりするところが面白いですね。
実況している人物の投稿に、さまざまな人が反応していく様がめちゃくちゃ面白いです。皆の発言は本当にネット掲示板のよう。ギャグすれすれの展開なのですが、起こっている超自然現象は結構深刻です。オカルトの達人「悪魔情報」もノリが軽い…という、ホラーとしてもフェイクドキュメンタリーとしても、見たことがないタイプの作品ですね。
どの「スレ」も奇想天外です。例えば「スレ3:どうしよう。ぼったくりバーに来てしまったかもしれん」は、ぼったくりバーに来た男性がバーの女性に一目ぼれして話しているうちに、その建物が人食い建物であることわ分かるという話、
城戸『悪魔情報』(KADOKAWA)を読了。
匿名掲示板を模したフェイクドキュメンタリー作品です。掲示板で異常な事態が報告されているうちに、やたらオカルトに詳しい「悪魔情報」なる人物が現れ、その真実を書き込んでくる…という形で話が進みます。
最初の一篇が「スレ1:知らない人の家のベッドの下に隠れてるけど質問ある?」で、部屋を間違えて入った修理工が、住人が帰ってきたことに驚き、慌ててベッドの下に隠れ、それを実況しているという趣向です。帰ってきた住人の女性が、なぜか長時間、奇妙な椅子を作り続けていることに違和感を抱いていると、思わぬオカルト現象が発生します。
というスタンスも面白いものでした。アスランの姿には明らかにキリスト教的な寓意が感じられるのですが、そうした宗教的なものがファンタジーとして昇華されている感じが良いですね。
これは子供の頃に読んでいたら、ものすごく影響を受けたのだろうなあ、とも思いましたが、大人になってから読んでからこそ味わえる部分も、やはりあるのかなと思います。
ちなみに個人的に一番好きだった巻は、『ドーン・トレッダー号の航海』。不思議な出来事が起こる島々への冒険譚で、幻想味がたっぷりなところが魅力でした。
一巻一巻がそれぞれ趣向の違った物語となっており、どれも面白い、というのもすごいですね。各巻、時代がそれぞれのナルニアが描かれており、現実世界から往還する子供たちが、そのナルニアの歴史そのものを目の当たりにすることになる…というのも、物語としての厚みがあります。
シリーズを通して、ナルニアの神ともいえる存在アスランが登場しますが、事件や戦争が起こっても、彼が直接解決することは少なく、あくまで住人達、そして入り込んだ子供たちによって解決されなければならない…
C・S・ルイス『ナルニア国物語』シリーズ全七巻、光文社古典新訳文庫版で読み終わりました。子供のころから気になるシリーズではあったものの、読む機会がなく、今回が初読となりました。
異世界ナルニアに入り込んだ子供たちの活躍を描く、いわゆる異世界ファンタジーなのではありますが、その別世界が願望充足的なユートピアではなく、現実世界とはまた異なった困難が存在し、そこに戦乱もあり血も流される、というところで、複雑な世界観の物語でした。