🥳(や)まだまる。

みに魈重

望舒旅館に戻って一番に重雲の寝顔を眺める。
美しい宝石のような薄氷色は閉ざされ、白い肌が月光のせいでなお白く輝いている。
ほう、と息をつき、肩の力を抜く。
いつからだろう。この少年を手放せなくなったのは。
重雲。唇だけで呟いて額に唇を寄せる。
全ては恋人の息災を願って。

みに魈重

夜になると妖魔が出る。
夜になると魈さまが降魔に行ってしまう。
夜になるとひとり部屋で眠ることになる。
番っていても同じ夜を過ごせる時間は少ない。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
行かないでを閉じ込めて笑って手を振る。
今夜も額へのキスをお守りに夢へと沈む。

みに魈重

太陽のような匂い。獣の匂い。それから香木の匂い。
魈さまに抱きしめられるといろんな匂いが鼻腔を満たす。
少し高い体温と離さないと告げるような腕の力。
「……重雲」
あまくかすれた声で呼ばれるぼくの名前。
首筋に感じる髪のくすぐったさ。
ぼくはこの瞬間が一番好きだ。

みに魈重

方士は取るに足らない。
その言葉に怒りを覚えたのも事実。
けれど、あなたの背負うものを考えれば当然の言葉だと今なら分かる。
敬愛は恋慕に融け、この心にあるのは魈さまへの愛だけ。
取るに足らなくてもいい。愛する人の苦痛を僅かにでも取り除けるのならどんな言葉も受け入れよう。

みに魈重
どんなに深く愛してもあなたの一番にはなれない。
降魔大聖の名と使命は国を守るためのものだから。
「魈さま」
「ん、どうかしたのか」
それでも愛して止まないのはあなたの声が優しくて、触れる指先が温かくて、瞳が愛に蕩けているから。
「大好きです」
「ああ、我も」
それだけで十分だ。

みに魈重

魈さまの傍にいると何故か純陽が暴走しない。
暑くなっても、辛いものを食べてもぼくのままでいられる。
それを告げたら酷く複雑そうな顔をされた。
「業障のせいだろう」
たった一言。それで表情の理由を知る。黙り込めば魈さまが笑った。
「お前の役に立てているのなら悪くない」

みに魈重

清心の花が好き。その香りは恋人を思い起こさせるから。
太陽に透かした石珀が好き。その色は好きな人の瞳の色に似ているから。
甘い杏仁豆腐が好き。愛する人が愛する料理だから。
「魈さま、お慕いしております」
魈さまが好き。それはぼくの全てを捧げてもいいくらい愛しているひと。

If you look closely, you'll see Yun who wants to go on land and Xiao who forbids him.🥺
How cute🥺🥺♥🥺♥🥺🥺

みに魈重

本当は好きだと言いたかった。
この気持ちは尊敬だけでは成り立ってなくて、確かな恋慕が混ざっているのだと気付いてしまった。
それでも口にしてしまえばきっとあなたは困るだろうから。
「降魔大聖、こんばんは」
「ああ」
恋心に鍵をかけたまま、あなたと言葉を交わせる幸福に縋る。

みに魈重

アオギリの葉で蝶を作るように重雲への想いを丁寧に伝えてきた。
名前で呼んでもらえるまでにおよそ一年。
愛されているのだと自惚れさせるまでにおよそ三年。
「番になってほしい」
「はい……！」
共に生きると誓うまでにおよそ五年。
契約書代わりのくちづけはただただ甘い。

みに魈重

「ちょううん」
舌足らずな声。弱く引かれる裾。
清々しい朝へと飛び出そうとした重雲を止めたのは魈だった。
願われるままに温もりの元へと戻り、番と体温を分け合う。
くふ、と喜びの吐息が零れる。
降魔大聖の無防備を堪能できるのは番の特権だ。
（愛おしいとはこういうことだ）

みに魈重

熱に晒されることは許されない。
純陽に生まれた者の宿命だ。
けれど冬の空気は容赦ない。
「うー、寒い」
「凡人は難儀だな」
そう言って抱き締めてくれる恋人に擦り寄り、身体を震わせる。
「あったかい……」
その体温に安堵する。
この熱だけがぼくに唯一許されたぬくもりだ。

みに魈重

翼があれば共に飛べたでしょうか？
仙人に生まれれば互いに支えられたでしょうか？
だけど、ぼくは今のままが良い。
あなたの苦痛を癒やす力を持ち、寄り添うことのできる時代に生まれて、
「魈さま」
あなたを示す名前が呼べる、あなたを愛し、愛される。
そんなぼくが一等好きだ。

みに魈重

愛している、なんて言われたこともない。
お前だけがいればいい、なんて聞いたこともない。
けれど、魈さまは言葉を求めるぼくを抱きしめて美しい歌を囀る。
知ってますよ、魈さま。
それがあなたの「愛している」で、「お前だけがいればいい」なんですよね。
（ぼくも愛しています）

そしてク○スタのフィルター、白の部分が結構暗くなっちゃうんやね🥹

画質がよろしくないですねぇ🥹ww

Xにアップしたやつの文字無し版ですん🤗

みに魈重

泣きたくて仕方がないとき、いつも魈さまを思い浮かべる。
今の自分を見てどう思う？
何を言う？
現実なら抱きしめてくれるだろう。
けれど、ぼくの中の魈さまはいつもぼくを叱咤激励する。
（はい。そうですよね、魈さま）
ぐっと奥歯を噛み締めて前を向けば世界がクリアになった。

みに魈重

最近の重雲からはあまい匂いがする。
砂糖、ミルクに蜂蜜、林檎。
日々、魈のもとにやってきてはあまいお菓子を献上する。
「今日のは自信作なんです！」
ひとつつまんで重雲へ差し出す。
「へ？」
きょとんとする恋人に微笑み告げる。
「まずはお前が食べて笑った顔が見たいのだ」

みに魈重

甘さが鼻腔をくすぐる。差し出された恋人の好物に視線を上げれば魈は何も言わずに向かいに座った。
目の前には杏仁豆腐がふたつ。
「お前が何を好むのか分からなかった」
言葉の裏の不器用さに頬が緩む。
「嬉しいです」
魈の好きなものを二人で食べる時間はどんな甘味より甘い時間だ。

みに魈重

「行ってらっしゃいませ」
背中を見送ると途端に寂しくなってしまう。降魔は魈の責務。途絶えることはない。
知っている。知っていても胸の穴は塞がらない。
「どうか、ご無事で」
祈ることしかできないけれど、それでも彼を愛しているから。
（明日もおかえりを言えますように）

みに魈重

手を伸ばせば指先が絡む。身体を寄せれば腕の鳥籠に囚われる。愛を囁けば唇ごと言葉を食べられる。
ぼくの恋人は言葉より行動のほうが雄弁だ。
「重雲」
とろりと蕩けた蜂蜜の瞳に見つめられるだけでぼくはすべてを許してしまう。
ぼくを求める瞳はこんなにもあまい。

みに魈重

「魈さまなんて嫌いです！」
大人げなく喧嘩をした。投げつけられた言葉。胸の痛み。
「……我はお前を愛しているが」
苦痛に愛をこぼせば薄氷色が丸くなり、バツが悪そうに逸らされる。
「……ぼくだって魈さまのこと好きですよ」
何も言わずに抱き締めれば、頬を寄せられた。

みに魈重

恋など錯覚だと思っていた。凡人しか持ち得ぬ俗な感情だと。
ならばこの胸の中で脈打つ熱は何なのだろう。
純陽の方士の顔が脳裏を過るのは何故だ？
自問自答を繰り返し、気付いたときには育ちきった恋の花を当人に差し出す。
「重雲、お前を愛している。番になってはくれまいか」

みに魈重

それが恋慕か敬愛かなんてあのときのぼくには分からなかった。ただ魈さまが好きだった。
分かっているのは告白を繰り返すたびに好きが強くなっていったこと。それから今ぼくは魈さまに愛されていることだけ。
自惚れるほどに夜叉の愛は深く甘い。
（知っているのはぼくだけだ）

みに魈重

純陽なんて嫌いだ。ぼくから全部を奪っていく。
あなたに出会うまではそう思う日もありました。
けれどあなたと会ってからはこの体質で良かったと心から思います。
魈さま、あなたはぼくの救世主で大好きなひとです。
あなたにとってのぼくも同じならこれ以上の幸福はありません。

しょちょちゃん逢瀬て言葉似合い過ぎる🥲💓

みに魈重

久しく空を飛んでいないことを思い出し、絶雲の間に飛ぶ。翼を現し、飛行すれば遠く眼下に薄氷色を見つけた。
鍛錬の最中らしい。邪魔をせぬよう大きく円を描き、それを見守る。
ふと、重雲が顔を上げた。丸くなる瞳。その表情にふっと笑うと恋人との逢瀬のため、高度をぐっと下げた。

みに魈重

血で汚れた方士服にため息を漏らす。これでは魈に会いにいけない。目の前で息絶える魔物が憎らしかった。
「魈さまに、会いたかったな」
一陣の風。目を瞬く。そこには重雲の恋人がいた。
「怪我をしたのか？」
首を振る。ならば、と引き寄せられた瞬間、そこは恋人の部屋だった。

みに魈重

「重雲」
微睡みの中で呼ぶ声が聞こえる。
「重雲」
大好きなひとの声が聞こえる。
けれど、もう少し眠っていたい。
触れられ、浮き上がる感覚。足音と一緒に世界が揺れる。柔らかい場所に下ろされて、温かいものに包まれる。
額にひとつ柔らかいものを与えられて思わず口元が緩んだ。