もこもこもっこうばら

私は誰にも買わなかった。

月に一度は東京に戻る人が買ってくれた東京土産って、好意そのものだったんだな

全ての筋肉がしなり、連動し、力強く、ライオンに抱かれてるみたいだった。

いけないことしてるみたいで美味しいと話すと、俺にもくれ、と言われたので両手が塞がった彼の口元までタルトを運んでやった。二人で甘いな〜美味いな〜と笑った。彼は白昼の東大路通で、こういう事が一緒に出来る人だった。

時間が無くて、道端で箱を開けて手掴みでタルトを食べた。歩きながら繊細な甘さにかぶり付く背徳感！

こういう時にこういう事を言える人だったから、私は彼と良い関係を築くことが出来たのだと思う。

「恋人と別れたばかりだったし」「え、そうだったの、そういうので落ち込む印象無かった」「支えになる人がいたからね」

さみしくなる、さみしい、と言われて貴方ってそういう気持ちになる人なんだ、動じない人かと思ってた、と返すと、「なるよ。表に出てこないだけ」

やっぱり思いを伝えるって大事だし、セックスは文脈が乗ってなんぼ。

思っていた以上にお互いを大切な存在にしていた。が、そういう関係も終わりにしなければならない、という状況での触れ合いがとても甘く、甘くなり、少し寂しいが、寂しくなるだけの付き合いが出来ていたのか……と思った。

もう春がそこに来ているのかと驚く気持ちでいっぱいだ

数年前好きだった人と久しぶりに連れ立って遊びに行った。以前のような心の動きはなくて、人の心は移ろい変わりゆくものだと実感した。

そのジャケットかわいいね、でこの人が浅葱色を好きだったことを思い出した

別れ際、「また遊びに行きましょう、植物園とか」でふたりの声が重なった