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あんことみたらし。照り焼きとタルタル。ディナーのメニューひとつとっても、ひとつだけを即決できないわたしを、彼はいつも嬉しそうに見ている。「うーん、いっぱい待たせちゃったからかな。オマエのことを待つの好きなんだよね」と笑う彼と、選べなかった結果を半分ずつ分け合う。二人で二つ分の幸せを選んでいく。

彼の冷蔵庫に食べ物が増えている。野菜や牛乳、調味料の数も増えていた。「ゴメン、ケーキ入るかな？最近買い物行ったばっかりだったこと忘れてたよ」と慌てて整頓する彼は、慣れた手つきで。目を離したら不規則な生活と共に眠りつづけてしまいそうだった彼はもういないんだと、わたしはようやく安心できた気がした。

「オレと一緒に祈っててくれる？」と期待してもらえるのがうれしい　祈りたい　この人の幸せを　守られることはもうない　守りたい　わたしが

ああもう好き　大好き　本当に好きだ　彼のことを好きだと思って涙が出ることがこんなに嬉しい　受けた傷なんて少しも痛くない　彼の消えない傷跡も全部守りたい

幼馴染が誰にどんなふうに好意を伝えたとしても、わたしが彼の特別だということはなにひとつ変わらないはずなのに、ファンに愛を囁く彼を目の当たりにすると、不安になって連絡したくなってしまう。気づかれないように目を背けて、彼がくれたわたしだけの言葉をひとつずつ思い出し、必死で胸を温めている。

夕焼けが赤くない日があるみたいに、夜が真っ暗でなくてもいい。幼馴染が「そうでなければならない」と思う何かで縛られてしまわないように、わたしは「大丈夫」を繰り返していく。

そばにいられるなら、もう何もいらない。そんなふうに、どこか縋るようにわたしを抱きしめる幼馴染の手は、わたしから離してあげないといけない。彼が自分を見失わないように、ただ優しく繋ぐだけにとどまらないといけない。ほんの少しだけ、嬉しくなってしまうわたしを、彼に気づかれてはいけない。

幼馴染は毎年、ホワイトデーではなく、バレンタインに贈り物を用意する。いつだったかどうしてと尋ねたとき、「くれたから返すんじゃなくて、あげたいからあげるの方がオレは好き」と言って笑った彼のことが、わたしはずっと、たまらなく好きだと思っている。

何かにつけて「オマエみたいでかわいい」と笑う幼馴染に照れて、なんでもかんでもわたしみたいって言うんだから、と言ったことがある。「本当に全部オマエで出来た世界になればいいって思ってるんだけど、オマエしかいなくなったら皆がオマエを見つけて好きになっちゃうからちょっと困るね」、なんて、彼は笑っていた。

それまで主にピアノを弾いていた幼馴染が、初めて歌にハマった日を知っている。その瞬間を知っている。それは駅前の路上ではなく、カラオケの部屋ではなく、マイクの前ですらなく。音楽教室の休み時間に「みんなで遊ぼう」と誘い集めた彼が、ピアノの数が足りないからオレは歌うよと歌い出し、それを聞いたみんなが、一緒になって歌い出したり、手を叩いたりした、そんな一瞬の出来事だと。「みんなで一緒に遊べたんだ」と彼が笑った、あの日からだと、わたしは知っている。

幼馴染が幸せに飽きたとき、「オマエのせいだよ」と言われてしまうくらい、彼にとっての幸せをあげ続けたい。

「甘いとしょっぱいを繰り返すことで飽きがこないようになるみたいに、人生も幸せと不幸を繰り返していくものなのかな。だとしたらオレは今幸せなのが怖くて仕方ないよ」深く深く酔い潰れる寸前に幼馴染が溢した言葉は、何と言って否定してあげたらいいんだろう。

そばにいないと嘆いた日は何日分も何年分もあるけれど、そばにいることを感謝する日が一日ずつ増えて、いつか必ず嘆いた日の数を超えていく。その事実がただ事実として幼馴染の中にありますように。

わたしが幼馴染の寝顔を見るのが好きなのと同じように、幼馴染もわたしの寝顔を見るのが好きなのだと気づく。気づいたときには電車は本来の降りる予定の駅を3つも4つも過ぎていて、隣でただわたしの寝顔を見ていた幼馴染は「今日は帰らないでいようよ」と、まだ頭の回らないわたしの頬に口付けた。

ことさんかわいい　キツめの粉を吸いたいときにオススメだよ

ドライブデートの途中、サービスエリアのガチャガチャでデザイン揃いのアクセサリーを手に入れた。わたしは指輪、幼馴染はネックレス。世に蔓延るランダム文化を結構楽しんで生きている幼馴染は運試しが好きで、何が当たっても楽しそうにするけれど。今回はちょっとだけ、「オレもオマエとお揃いの指輪がいいよ」なんて、真剣な顔をしていた。

度重なる強風でセットした前髪がめちゃくちゃになっても、花粉症で止まらない涙にアイシャドウが全部落ちても、お気に入りのアクセサリーを玄関に忘れてきても、一番可愛いわたしじゃなくても絶対大丈夫って信じられるから、幼馴染ってすごい。

眠る前にわたしのピアノを聞きたいと言いだす幼馴染に子守唄を歌う。拙いピアノでも幼馴染が喜んでくれることはわかっているけど、わたしはもうピアノに何年も触れていない。彼の聞きたい音色が過去にしかいない事実に少しだけ後悔して、彼がこうして望んでくれるなら、今度こっそり練習しようと誓う。

方向音痴でよく道に迷うのに、わたしのことを目的地まで連れていってくれようとする幼馴染がおもしろくて、わたしたちは度々一緒になって道に迷う。迷った先で彼がイライラしないことを知っているので、わたしは安心して彼のいく先について行く。迷った末に申し訳なさそうにする彼がちょっと可愛いと思っていることは、内緒だ。

目が覚めたとき一番嬉しいのはわたしを抱いて眠っている幼馴染が同じ温度でいること　その次はわたしが目を覚ましても起きないほどすっかり眠りこけていること　同じ速さで心臓が動いていること　一番難しいのは彼の肩や腕や背中が冷えているとき眠りの浅い彼を決して起こさないように温めること

鳥の巣みたいに乱れた髪も唾液ですっかり乾いてしまった唇もお昼まで寝ていた朝の布団の中で少し汗ばんだ体も幼馴染は綺麗だと言うから、愛されることを許してしまう

みぞれが降ってくる音で起きた幼馴染が開ききってない口で「屋根が拍手してるみたい…」って言うのが可愛い。天気予報はつけないで、もうすぐやむことは彼には秘密にしていようと思う。

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うわああ