佐々木。

地獄でも天国でない場所に留め置かれる。私のことを覚えている人がいる限りその人の記憶の中で私は生きている扱いになるから。私が忘れ去られて死が確定するまでこの中途半端な場所に放置されるのだそうだよ。周りを見渡すと何人もの人がぼんやり立ちすくんでいる。みな著名な人でその人の生み出した哲学や文学やら科学やらが誰かの記憶にあるうちは生きてる扱いになるそうで。そうであるうちは皆どこへも行く事ができない。生きてる誰かが思い出したり著作を見たり読んだり聞いたりされるとピカピカと明るくなる。忘れ去られつつあると暗く苔むす。古あ人はギリシャ時代からの人もいるそうだよ。

「君の為にパイを作ったよ」と彼女が差し出したのは魚の身がパイ生地から飛び出してるヤツ。スターゲイジーだ。
「違うよ。これはマッドゲイジーパイ。尻尾しか飛び出てないだろう？二人の囚人のうち一人は星を見ただろう？君は泥しか見てないから。さあ見た目だけじゃなく本物の泥の味を楽しみ給え」

口の中に突っ込まれた匙の上の泥は　口の中で星よりも重い味がする。無表情の彼女の瞳に夜空の星は一片も映らない。

顔はめパネルがあったら犬の顔をはめることにしている。

犬を　うるかす。

小林製薬からよく効く胃薬が発売される。

永遠に続く不快な胃もたれ　すぐ消したい！小林製薬の『不死殺し その前に』
（イメージキャラクター佐藤B作）
「1000年の胃もたれも30分でサッと解消」
「イモータリンの働きを止めて不死をリセット」
「胃もたれケアから人生ケアへ」

佐藤B作
（※満面の笑顔でお腹を押さえながら）「スッキリした！もう生きなくていいや！」とコメント

不死者の胃粘膜に特殊なタンパク質「Immortalin（イモータリン）」を発見。

イモータリンは胃もたれ時に過剰分泌され細胞死（アポトーシス）を抑制。

データ: イモータリン濃度（ng/mL）と不死性の相関係数 = 0.95（p<0.001）

対照群ではイモータリン検出されず　胃凭れは単なる消化不良。

疫学的観察
不死者の90%が「胃凭れを愛している」と回答。

データ例: 「胃凭れを感じない日は不死者としてのアイデンティティが揺らぐ」（被験者A 年齢不明）

この医療データから「胃凭れ＝不死の源泉」説を裏付ける証拠が揃っている。胃がモータル状態である事がイモータルである事の証左である

不死者イモータルは胃が凭れるから胃モータルな訳でしょう？胃凭れなかったらイモータラナイな訳じゃないですか。つまり不死者の不死の源泉は胃凭れにある。
こんな医療データがある。

サンプルサイズ: 100人の「自称不死者」（イモータル）と対照群として100人の「普通の胃を持つ人間」。
条件: 不死者は「1000年以上生きている」と主張し　かつ「胃もたれを頻繁に感じる」と報告。
測定項目:
胃もたれの頻度（1日何回感じるか）
胃酸分泌量（ml/時間）
消化酵素の活性（ペプシン トリプシン リパーゼなど）
不死性の指標（例：細胞のテロメア長 再生速度 DNA修復効率）

ヒトヒトリに寄生された人は食事を取らなくなるからすぐにわかる。劇しい光や熱に吸い寄せられるからすぐにわかる。眉毛が蛾の触覚のように美しくなるから　すぐにわかる。

暗闇を走る自動車のヘッドライトに吸い寄せられるように飛び込んだり　お盆の迎え火に頭を突っ込んでじっくり炙られ続けたりする。

美しい眉毛を意味する「䖸（び）」という漢字からヒトヒトリに寄生された人を「䖸」と呼ぶこともあるとかないとか。
中には故意に人を「䖸」に変える行為や儀式をする者もいると言われている。

ハリガネムシに寄生されると水に飛び込みたくなるってな話は皆さんご存知の事。じゃあ火に飛び込みたくなるタイプの寄生虫もいるのでは？と思われた方はご明察。居る。

飛んで火に入る夏の虫とはよく言うけれども　この火に入る夏の虫の事だよ。ヒトリガと呼ばれる蛾の一種だ。光に群がる性質が強く結果火中へと投身する。

中でも　ヒトリガの一種のヒトヒトリは灯りをつけて明るくしたまま寝てる人の部屋に飛び入り寝ている人の口鼻耳の穴に卵を産みつける。甘い物を食べる夢や心地よい音楽を聴く夢を見てる時は　寝ている間に知らぬ間に　ヒトヒトリにびっしりと卵を産み付けられているよ。

10年くらい前の犬。

美味しいものを食べる時は目を瞑る。その方が味に集中できておいしく感じるから。美味しく食べる時は耳を塞ぎ鼻を潰し皮膚を剥ぐ。五感を味覚だけに集中できるから五倍おいしい。さらに口を二つ増やして十倍美味しい。二倍の咀嚼力と三倍のストロークで六十倍おいしい。いつもの四倍のジャンプ力と六倍の回転で千四百四十倍美味しい。筈なのに味覚以外を潰したら君の苦悶する顔も見えない絶叫も聴こえない　絶望も諦念も祈りも味わえない　君の肉の味しか感じられないから　君の肉が美味しくない。

（誰もいない空室で見つかった　どの怪異が美味しいか座談会の録音データ内容です）

くねくねはコラーゲンの塊だから湯掻いて酢味噌が美味しいだの 天狗の鼻の氷頭ナマスがコリコリで食感が面白かった だの嘂囂の噩嚢を炙ると皮がパリパリで中の汁が　だの さも食べた事があるていで楽しく会話しひと段落。

「でも。やっぱり一番美味しいのは人間なのかもしれませんね…」

と。その場にいる誰のでもない声が発言して　その後は延々と何かの咀嚼音だけが流れ続けて　やがて終わる。

不気味の谷にはブキミントロールと呼ばれる妖精の様なものが棲んでいる。ブキミントロールのブキミンは何か不自然。彼の目は少し焦点が合わず。笑うと歯が不揃いに見える。不気味の谷はどこか歪んだ雰囲気を持つ。木々は不自然にねじれ川の水はまるで鏡のように静かで。住民達には感情が存在しない。ブキミントロールは　とても物知り。何か問われると少し上を向いて白目をむいて考えて。それからとても流暢に立板に水に訊かれた事について返答する。尤もらしい事をさも正しげに断言する。間違った事も嘘っぱちも全部正しいみてえな顔をして人を騙す。自らをも騙してるかもしれない。
ブキミントロールは人の声真似をする鳥のような口調で喋る。

違います お巡りさん。私は怪しい者ではありません。ただ歩いていただけです…はい。こんな所を。そうですよね。実は変な人を見かけてしまって。違和感を覚えたものですから。追跡して。ええ。女の人なんですが。いやいや。決して やましい事など。いや。だってね。その女の人。変な匂いがして。ええ。いや。自ら嗅ぎにいった訳ではなく。風にたなびいてきたんです。その人から。妙な匂いが。ええそうです。何だかわからないけれども。とても懐かしい。子供の頃を思い出すような。ああ。あれです。墨汁とかの。お習字セットの匂いですよ。そんな匂いをさせた女の人が歩いたら追跡しま…ええ？そんな人はいない？私は1人で？深夜の墓地を周回？

ああ。あれは太宰治虫ですね　と彼女は云う。

平家の怨霊が平家蟹と化すように。太宰治の霊が虫と化してもおかしくはないでしょう？それは玉川上水の近辺にだけ見られるカマドウマの仲間です。寄生されてるハリガネムシの影響か水の流れに飛び込みます。何故か雌雄一対で入水することが多いのだとか。

玉川上水沿いの家では　風呂場に現れた太宰治虫が二匹連れ立って浴槽に落ちるのが不吉の兆しとされる。
太宰治虫は翅もなくて鳴くこともできないが　秋の夜に泣き言を云う。
二匹揃って水に飛び込むが　よく失敗して雄の方だけ　生き残る。

「つい先だつてよ。彼は『僕のジャケッツを預かつてくれたまえ』だなんて云つて　私に上着を持たせて駆け出していつてしまつたわ。その上着の模様がいやに立体的に見えてね。いえ模様じゃないわ。何ががモザイク状にびつしりとみつしりとしてゐてね。オナモミの類かしら藪の中を漕いできたのかしら。と思つたけれどもよ。よく見たらよ。クビキリギリスの生首がよ。干からびてカラカラのやつから体液が滴る新鮮なやつまでピンキリによ。びつしりと。上着全部を覆尽くすよに　噛み付いてゐたのよ」

「たぬき。こけし。かけす。稲垣足穂。これらのイラストがヒントだろう。意味不明な文字の羅列に見えるこのメッセージだが『た』を抜き 『こ』を消し『か』を消して。『い』と『な』を欠した所に『ほ』を足してあげると正しいメッセージ。真犯人の名が浮かび上がる」

「しかし警部。瀕死の被害者が自らの流血で。こんな長いダイイングメッセージとタヌキとコケシとカケスと稲垣足穂の肖像画なんて描けるもんですかね？」

ありがとうございます。栄養になります。

勤め人を辞めたので給与から自動的に引かれてた税金関係を自主的に納めねばならない為に金額が可視化されてる。でかい。こんなにも。などと思っていると筋肉質のタンクトップ男が現れ　云う。

「みんなの税金体操です。まずは国民健康保険から。財布の紐を緩めて逆さまに！イチ！ニ！サン！シ！もっと大きく！無い袖を振って！イチ！ニ！サン！シ！もっと！頑張って！辛くても！苦しくても！最後の一滴まで！もう一回！はい！辛い！苦しい！楽しいーッ！　どうです？税金の喜ぶ声が聞こえてきましたか？税金は納税者を裏切らない。納税者も税金を裏切ってはならない。呼吸を整えたら次は国民年金です。複数ある通帳を広げて残金を確認！」

［仔犬仔猫を棄てるな！］
困ってます！棄てても誰も拾いません！棄てられた仔犬仔猫はその日の内にカラスやカラス人に食われ死にます！棄てたお前が殺した！

犬の散歩中。そんな事が荒々しい書体で書かれた看板が立っていてるのを見てしまってですよ。ああ。捨て犬捨て猫に困っているんだろうなあと看板を見ながら立ちすくむ僕と犬を。近所の人と思われる老人が。白目のない黒々とした目を見開いた老人が。カァ　カアと啼きながら僕と犬を見ている。

目が醒めると　私と彼女は家具ひとつもない見知らぬ部屋の中に閉じ込められている。

此処は何処で　何故私たちは閉じ込められているのです？と思っていると　私たちの頭の中に語りかける声があり。

〈ここは　善男善女は出られるが悪人悪女は犬になる部屋　の　中です　あなたは悪人なので犬になりますが　あなたのお連れは善女なので　部屋から出られます〉

たちまちのうちに私は縮んで小さな犬になり　彼女は人のままなので　部屋から出られる　はずなのに　けれども　彼女は私を抱きしめうずくまり　部屋から出ない。

その内　彼女も　部屋の中で罪を犯して　犬になる。

俺のフリースを寝床にする犬よ
。

誰にも相手されずに　しょんぼりの犬。

引っ越し荷造り中で身の置き場がない犬を見てください。

この犬　種まみれすぎる。

お岩木山と犬の耳。

やる気！元気！Mt.岩木！

雪をパクパク食べる犬よ。

白子のムニエルと前沢牛のシチューをいただいてます。美味え。

雪道でもぐいぐい進むよ。