Rica (le Persan)

日本人に仏語を教えたことはないが、自分の学習過程を振り返ると、カタカナ語はかなり厄介だと思う。仏語の場合母音の種類が多いというのも問題を大きくする。jourと人名のJulesなど、カタカナで考えると同じになる。逆に仏語話者が東工大のある大岡山に行くはずが岡山に行ったというのもさもありなん。

イスラエルがシリアを攻撃した。マイノリティのドゥルーズ派を支援するためだというが。もはや嫌われ者として開き直ったかのようなイスラエルは置くとして、「ドゥルーズ派」?ひょっとしたらガタリ派とかフーコー派とかもいるのかな、とそんなときめきも仏語のソースであっさり消える：les Druzes

ベルギーで根本的なカリキュラムを行ったグループがアドバイザーとして招かれている。定年退職した老教授が自己反省を含め、新しい授業の在り方を伝えるというつもりらしい。私の見るところ、「自分たちがしていることがわかっていない」（ルカ伝）ように見える。スキルを積み重ねれば高度人材が育てられる、そもそも「有用な人材」を作るという見方の妥当性はまったく考えられていない。彼らにとってはあまりにも当然のことなのだろう。

まずは、授業をスキル獲得のためのモジュールとして考えれている。履修後に獲得できるスキルを明示して（先生にのみわかるジャーゴンではなく学生にわかる言葉で）、その過程を成績として評価する。「将来の仕事に役に立つ」というのが暗黙の前提になっている。レゴブロックのようにスキルを積み重ねると高度な能力を持つエクスパートが養成できるという人間観、職能観が無批判に受け入れられている。

私自身は直接的に執行部のメンバーではないが、カリキュラム改革の作業部会にはよく顔を出す。日本語でどういう定訳があるのかわからないがapproche par compétenceという方法論を取り入れることが通達され（議論の余地はない）、実際の授業の編成、評価方法とシラバスに反映させるかという議論が行われている。

まだ会議は残っているものの、授業と採点からは解放されて一段落。Fanny Lederlinの本Crise en critiqueをようやく読むことができる。アーレントと批判理論の今のコンテクストでの読み解きのようなアプローチ。フランクフルト学派が進歩史観の批判をしてからもう80年近く。進歩をもたらすとされる「批判」の位置が第一の問題になる。

Hirohito : épisode du podcast Les envahisseurs AUDIO • Les envahisseurs, épisode : Hirohito. Une série inédite proposée par France Culture. Écoutez Ils ont changé le monde, et découvrez nos podcasts en ligne.

「侵略者たち」という夏の特別番組の初回にヒロヒトを扱っていたので聞いてみたが、時間の無駄だった。ジャーナリストの質問が「オリエンタリズム」から一歩も出ていないし、ゲストの研究者もひどい。というか、研究者自身がオリエンタリズムの再生産をしている。日本出身者を呼んだのは評価に値するが、発言内容はまったくいいところがない。
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中国の大学との提携の件で、人文学部が「学問の自由」の観点から反対の意見表明をしたところ、推進派の学長から懲罰的な扱いを受けることになった。具体的には、学内の教育方針の決定から人文学部を外すとか、一クラスの人数を増やすとか、義務の授業数を減らすとか。中国を推す学長らしいやり方。

ギョーム・エルネールのジョルダン・バルデラを扱ったミニキュメンタリーはかなりおもしろい。高校生の頃から権力志向で、ディベートの訓練をひたすら積み、ル・ペン一族に近づき、SNSや旧来のマスコミも巧みに操る。極右の大統領になるべく、自己鍛錬を欠かさないジュリアン・ソレルといった描かれ方。　www.radiofrance.fr/francecultur...

学歴インフレについて付言すれば、ハルトムート・ロザが言っていることだが、同程度の社会的地位を維持するのにより多くの学歴が必要になっている。それは学力・能力の向上を意味しない。常に新たな希少性を生み出す資本主義の必然と分析することもできようが、高等教育の民主化が活かされることなく、ただの権威付けに使われるのは嘆かわしい。

「日本の低学歴化」が止まらない…その「ヤバすぎる実態」（小熊 英二） なぜ日本は停滞からなかなか抜け出せないのか？　その背景には、日本社会を支配する「慣習」があったーー。社会学者・小熊英二さんが、硬直化した日本社会の原因を鋭く分析します。※本記事は小熊英二『日本社会のしくみ』（講談社現代新書、2019年）から抜粋・編集したものです。

学部しか出ていないから「低学歴」と考えるのはいかがなものか。ヨーロッパの学歴インフレの実態を知らないのだろうか。例えばフランスでBac+5を日本の（有名校の）修士と比較しても意味がない。ENSでも田舎の大学でも同じ学位とされるが実質は全く異なるし、それを真に受ける人もいない。

Eduardo Viveiros de Castroが近所に公演に来るということだが（フランス語が堪能なのを知らなかった）、どうしようかな？このところシャルボニエやステパノフに直接会いに行ってかなりがっかりした経験が尾を引いて、一般向けの講演会に行っても時間の無駄なのではないかと思ってしまう。

フランスには「批判精神」があるかと言えば、これもまた危うい。少なくとも学内政治を見るに、日和見主義と事なかれ主義、自己保身が「無関心」を装って専制を黙認する。正直あまり頭のよくない人が権力を持つ嫌いがあるように見える。なぜだろう。

極端な指導者が現れたときのアメリカの脆弱性を思い知らされた。マッカーシーなど過去の特殊な状況だと考えるのは間違いだ。マッカーシーは元々は再選が危うい冴えない地方議員だったが反共産主義から知識人を攻撃したところ思いのほかうまくいき、そのまま担ぎ上げられて大弾圧の首領にされてしまったという。

Pourquoi Donald Trump détruit-il la science américaine ? Aux États-Unis, la science est sous pression. Licenciements, coupes budgétaires, censure : chercheurs et institutions sont confrontés à une offensive sans précédent par l’administration Trump.

コロンビア大学への助成金を止めたという話は聞いていたが、トランプ政権が人文科学はおろか自然科学にまで弾圧を加えるという前代未聞の事態を知って驚いた。反知性主義をここまで露骨に表されても抵抗を示さないアメリカの大学人にも失望した。番組の参加者の一人が、若手はともかく盤石の地位にある退職間際の大学教授が声を上げないのは理解しがたいと言っているがその通りだ。
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学生がヨーロッパ議会の議員を招いて講演をしてもらう企画を準備していたら、大学本部から待ったがかかった。「政治的な内容を学内に持ち込んではいけない」と言うのが理由。本来の目的にそぐわないと言っている。いつから政治的なものが教育機関と相容れないものになったのか。中国のことを悪くは言えない。

Ces derniers temps, je prends des cafés non pas pour les goûter, mais pour m'injecter de la caféine. J'ai beau critiquer le culte de la performance et le productivisme, j'y suis pleinement plongé.

Les naufragés du téléphérique François et Marie habitent à la montagne et ont été coincés pendant plusieurs heures dans un téléphérique. Sauf que Marie souffre de vertige et François est employé par la société qui gère le téléphér...

Sonia Kronlundが自戒を込めて、AIが作ったいかにもLes Pieds sur terreにありそうな話を、センチメンタルな要素を入れつつ、いい話にまとめようとする自分たちの番組の作り方自体のカリカチュアと言っていたのが興味深かった。パターン化しているからこそ、それっぽいものができてしまう。

Les naufragés du téléphérique François et Marie habitent à la montagne et ont été coincés pendant plusieurs heures dans un téléphérique. Sauf que Marie souffre de vertige et François est employé par la société qui gère le téléphér...

France CultureのAI特別週の一環でLes Pieds sur terreの体験談をすべてAIに作らせるという企画には仰天した。物語も声もAIによるものと言うが、リクールの言う「語りが作る自分」なんていうものがあっさりと崩壊する感覚。存在しない人間の顔写真も驚きというか、複雑な気持ちになったが、もはや「偽物」がなくなるのではないかと言う不安がよぎる
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公正であろうとする同僚の中には「どうして中国ばかり危険視するのか」という反論もあった。例えばイスラエルとの共同研究で、軍やモサドなどから利用されうる技術や情報などもあるが、あまり考えないで提携が調印される。アメリカももちろん信用できない。（その点、日本は優等生的な立ち位置）

学部の一つは教授会で計画に参加しない意向を示し、学生の自治会は独自のレポートをまとめ、否定的な立場を表明した。このレポートを発表したことで、学生自治会は中国人の学生から、学生の総意かのように中国に否定的な資料を発表することを激しく攻撃するメールを何通か受け取った。ただ奇妙なのは学生個人として思うことを言うというより、背後に中国の組織があるような文面だった。習近平など要人が来仏する際中国人の学生を動員するが、同じようなネットワークが学内にも浸透したとしても不思議ではない。

学内の議論の中で、想像以上に中国脅威論、と言うより露骨な嫌中の立場表明が多いことに驚いた。「言論統制など不自由な面もあるけど、どうせ費用は向こう持ちだし、やってみたら」というような人は中国人の先生を除いて誰もいない。打診してきた中国の大学が軍に近いということも危険視する大きな理由だが、中国に対する不信感は、ロシアに裏切られたこともあって、高まっているように見えた。

少し時間がたったので、時効と言うことで記しておく。中国の某大学がうちの大学校と、提携というより、うちの教育システムをそのまま中国に移して分校を作る計画を提案してきた。フランスの大学校ではすでに数校が中国に分校を持っている。費用はすべて中国持ち。ただで国際的な知名度を得られ、優秀な中国の学生を獲得でき、さらに研究施設なども手に入るというのが学長以下この計画に前向きな人たちの論点。

La guerre des sexes est-elle à nouveau déclarée ? Le Haut Conseil à l'Egalité a constaté une "polarisation" croissante entre les femmes et les hommes. Des hommes plus masculinistes et de femmes plus féministes. La guerre des sexes est-elle à nouveau ...

ジェンダーの問題が社会に浸透したことへの反発なのかもしれないが、最近私の目から見て「保守的」な若者が多くなっている気がする。ユニセックスや中性的な行動規範が後退し、「男らしさ」「女らしさ」を求める行動・言説が広がっていることをこの番組は確認させてくれた。
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レポート添削中。AIの浸食が無視できなくなってきた。AI使用の診断ツールは今のところあまりあてにならないが、文法ミスが全くなく、構文がきちんとしていて、なおかつ内容が説明的で思考の展開がない文章ばかり。文献の引用はやたらと英語からのものが多いのも特徴。しかしどうやってそれなりの分量（15ページほど）のレポートを書かせているのだろう。読んでいてつまらないとは思わないのだろうか。

ピエール・シャルボニエのVers l'écologie de guerreは全く期待外れだった。Sciences Poでの授業を本にした感じ。『潤沢と自由』の切れはまったくなく（一応この本の道筋をさらに展開することにはなっているが）、「化石燃料に頼った共存共栄」とエコロジーという相容れない原理から国際秩序をどう再構成するかという平凡な論考 www.editionsladecouverte.fr/vers_l_ecolo...

ただ疑問も残る。一つは、体格によって生活レベルを比較するのは、複数の現実性を超える物質的な共通世界を想定しているのではないかということ。デスコラがいう自然主義を抜きにしては比較自体不可能になる。トナカイを単なる食肉としてしか考慮しなかった共産主義（生産至上主義のアバター）と本質的に同じではないのか。

Réseaux étalésとかréseaux dansesとかの概念を日本語で簡潔に言おうとすると言語の壁にぶつかる。もっともフランス語でもこれらの言葉だけでは何の特別な意味もないが。ミルトン・フリードマン的に世界中の人、モノ（あるいはモノ化した動植物や生態系）が自発的に動員されて便利な社会ができるという世界観、歴史観を覆す。

ローマ帝国崩壊後、実は食生活が改善し、体格がよくなったということも言われている。広域でものを流通させ遠隔地から生活に必要な物資を調達する仕組みは、身体を使って直接移動できる生活圏で人、動植物、モノと高度に象徴的な関係性を作っていく仕組みに対して優位性を持つというのは、すでに前者の中にいる人々の視点でしかないと。

ロシア人の同僚の何人かにシベリアの植民地化について話を向けると口をそろえて「欧米と違いロシアは植民地化したわけではなく自然にロシアの中に組み入れた」と答えられる。ステパノフが語るシベリアの民族の共産化とソ連崩壊に伴う自然との共生への回帰は、今の文明が崩壊した後どうなるのかを考える点で示唆に富む。